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INTERVIEW

『ナナマル サンバツ』完結記念特別対談 杉基イクラ×伊沢拓司インタビュー(PART3)

負けた後に「クイズを観る」という行為は、自分の負けを受け入れること(伊沢)

伊沢 観戦で思い出したのが、2011年の夏に、青木が初めて『abc』で優勝したんですけど。あの時に僕、決勝の途中で観るのをやめて、会場を出てっちゃってるんですよ。
杉基 それはどんな感情で?
伊沢 もう感情的に無理で。青木が勝つことが受け入れられなくて。一番下の後輩で、ずっと一緒にクイズをやってきたし。で、この年の『abc』は震災があって3月に開催される予定だったのが8月に延期されたんですけど、3月の時点では僕が青木より強かったんです、多分だけど(笑)。でも、青木がその半年で強くなってて、『abc』というタイトルを中3という肩書(実際は高1だが、延期のため中3相当という扱い)で手に入れようとしている、みたいなことがもう受け入れられなくなってしまって。
杉基 あぁ……。
伊沢 で、観戦をやめるんですよね。そしたら同期の岡崎という僕のライバルと、あと大美賀(祐貴)さん。その2年前の『abc』のチャンピオンである大美賀さんも同じタイミングで外に出てきて。大美賀さんとは何の示し合わせもなく、同じところで観るのをやめてるというのはすごいリアルなんですけど。あの「クイズを観る」という行為は、自分が負けたあと、徐々に負けを受け入れていく時間でもあるんですよ。だから観戦シーンってすごく大事ですね。漫画の中でも、赤河田の新名さんとかが観ている中で負けを受け入れていくシーンとか、すごくちゃんと描かれていて。
杉基 観戦シーンといえば、それこそ神南の花房君。
伊沢 あっ、最後に元気づけに行くシーン。
杉基 それとか、観戦席で「やりてえー!」って言いながら観ている感じ(笑)。
伊沢 いやあ、そうです、そうです。あれ、ホント似てますからね。神南はずっと明るい役どころなわけじゃないですか。そんな中で、ちょっと湿っぽくなるシーンというか。元気づけに行って、お互いに悔しさを共有していくというのはすごく良かったですね。実際に負けても明るい人っているわけで。負けても明るい人が悔しさを滲ませるところとかは、クイズですごくいいところなんですよね。それが僕がやっていてリアルに感じたことだったし。観戦シーン、とっても好きですねえ。ずっと僕が好きなところばかり話しまくってますね(苦笑)。
杉基 私、伊沢君の、青木君とかライバルに対する意外とドロドロした感情というのを、今初めて知った感じがして。『ナナサン』はちょっと爽やか路線に行き過ぎて、あんまりそんなにドロドロ描かなかったんですよ。なので、「もうちょっとドロドロと回していったら面白かったのかなあ」とちょっと思いました(笑)。なんか識は、御来屋とかにも負けてもずっとファン目線なんですよ。
伊沢 そう、御来屋へのファン目線は常にありましたね!
杉基 そうそう! 強くって、あんまり嫉妬できなかったんですよね。だから……。
伊沢 はい、そこには忠実だったわけですよね。
杉基 だから、そこまでドロドロできなかったんだと思いますけど、多分これからもっと強くなってくるとそんな感情もやっぱり来るんだろうなあと。
伊沢 そうかもしれないですね。

――帝山はけっこうバチバチでしたよね。
伊沢 はいはい。帝山の部活の様子とかは……そうですよねえ、という(笑)。上位で固まってきちゃうと、やっぱりああいうことになるんですよねえ。一人ちょっと斜に構えたスタンスの奴が出たりとか。僕が始めた頃の早稲田クイ研とかはめちゃくちゃ強い人が集まっていたので、そういう強い人ばっかりだったが故の大変さみたいなのがあって。
――なるほど。「高クイで誰と組むか?」とかそういうのもありましたか?
伊沢 あっ、そうですね。チームの組み方みたいなのも。結局、開成も揉めはしましたし。「誰とチーム組むんだ?」みたいな。何チームも出られるので。で、意外と普段やる気なさそうな奴が「いや、頑張りたい」みたいなことを言ったり。
杉基 部内対決で決める、みたいなことはあったんですか?
伊沢 そうですね……それこそ『EQIDEN』とかは部内予選で決めるので、ピリつきはしましたよね。『高校生クイズ』の時は僕は根回し、根回しでやってたんで大丈夫でしたけど。
杉基 本に書いてましたね(笑)。
伊沢 そうなんです。1年前から根回ししてたんで組みましたけど。でも、気はすごく使いました!
――なるほど、リアル帝山だったわけですね(笑)。
伊沢 そう、開成もリアル帝山でしたね。だからそこで負の感情が入る部分もあったし。それこそ負けたけどファン目線みたいなのもあって。例えば大美賀さんとクイズをして負けても「ああ、やっぱり永遠にヒーローだな」と思う部分はありますし。そういう人がいっぱいいるので、僕としては識の気持ちもわかりますね。そこはドロドロし切れない相手もいるわけですよ。あと、これは『ナナサン』解説生放送とかでめっちゃ話をしたと思うんですけど、識と井上が地区予選前に揉めるシーンもすごく好きなんですよねえ。
杉基 あー、井上絡むとだいたいエモくなるんですね(笑)。
伊沢 あー、そうですね。クイズはどうしてもアンダードック、負け犬が生まれてしまうので。(QuizKnockの)河村(拓哉)さんも「あそこが一番好き」って言っていたな。あれがあったからこそ、全国で井上がどんどん格好良くなっていく。で、最終的に会長になるわけじゃないですか。それがいい!
杉基 一番のコミュ力の持ち主で(笑)。

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