次号はこちらです。 pic.twitter.com/LXCTvyox2f
— 小学館『幼稚園』編集部 (@youchien_hensyu) September 28, 2021
子供向け雑誌『幼稚園』の次号ふろくがウルトラハットという、9月末に世間を騒がせたこのツイート。『ナナマル サンバツ』を思い浮かべながらリプライや引用ツイートを眺めていたら、QUIZ JAPAN編集長から「取材頼む」の連絡が。思わず「『ウルトラクイズ』見たことないんですけど大丈夫ですか?」と確認した。逆にそれがいいらしい。
ということで今回は、『ウルトラクイズ』を見たことがなかった1997年生まれのライターによるウルトラハット担当者インタビューをお届けします。
ウルトラハットは、かつて放送されていた視聴者参加型クイズ番組『アメリカ横断ウルトラクイズ』と『幼稚園』のコラボふろく。番組内で使われていた早押しハットと台が再現されている。
1977~1992ねんと 1998ねんに ほうそうされた でんせつの クイズばんぐみ。クイズでたたかいながら、ニューヨークを めざす。
告知ツイートのRT数はなんと1.4万超え(引用ツイート含む・記事公開時点)。「欲しい!」「見てた!」な反応が多い中、「親世代も知らないのでは?」という意見もまあまあ目に入る。確かにそうだ。
\おうちの ひとに きいて みよう!/
試しに自分の親に「ウルトラクイズ見とった?」とウルトラハット情報を添えて聞いてみたところ、家族みんなで見ていたという母(70年生まれ)からは「なんで幼稚園の付録なんや。若い親世代は意味不明やろ(汗」と突っ込まれた。
10日ぶりのLINEがこれ。後日送った「このやり取り、記事に載せていい?」という確認もあわせていい会話のきっかけになった。
なぜこれが子供向け雑誌に……?
『ウルトラクイズ』ってそもそも、その世代の人ならみんな見ているものなのか……?
調べれば調べるほど、いろいろなことが気になってくる。当時の空気感については編集長に聞けばいくらでも教えてくれそうだが、せっかくの機会なのでウルトラハット担当者にそのあたりもお聞きしてみたい。
翌日、小学館広報室に「ぜひ取材させてください」と企画書を送り、約2時間後。
さっそくメールが届いた。
お世話になっております。小学館大泉です。
「幼稚園」という雑誌でふろく担当をしている者です。この度は弊社広報室へ、取材のご依頼をありがとうございました。
喜んで受けさせていただきます。
この大泉さんという方がウルトラハットを含む『幼稚園』のふろくを担当しているのだそう。しかも快諾!? まだ2時間しか経っていない。話が早すぎる!!(ありがたい)
最初に返信をもらった段階では日テレさんサイドの許可待ちだったが、無事にOKをいただき、取材決定。10月某日、編集長とともに小学館編集部を訪れた。
こちらがふろく担当の大泉高志さん。
1976年、北海道生まれ。2001年、小学館に入社し『めばえ』ふろく担当に。以降は『小学一年生』など子供向け雑誌を転々とし、2016年に『幼稚園』編集部へ異動。2018年、企業コラボふろくを開始。
「ほんとに楽しみにしてました!」と笑顔で迎えてくださった。ことあるごとに『ウルトラクイズ』再放送時の録画を見返しているそうで、「昨日の夜、ちょっとだけにしようと思ってたんですけど結局ニューヨークまで見ちゃいました(笑)」と熱量がすごい。
編集長とも即意気投合していて、オフ会さながらの雑談からゆるりと取材がスタート。企画実現までの流れはメールでも簡単に教えてくださっていた(そのお気持ちがしっかりと伝わってくる優しい文面には私までニコニコしてしまった)が、改めて……。やはり一番聞きたいのはこれ。
――なぜ『幼稚園』のふろくで『ウルトラクイズ』コラボをやることになったんでしょうか?
大泉さん:ここ数年の『幼稚園』は、お子さんが街でよく見る「触りたいけど触れないもの」をペーパークラフト化して、家で思いっきり遊んでもらおうというコンセプトで企業コラボふろくを作っています。
幼稚園9月号ふろくは「セブン銀行ATM」。モーターユニット内蔵で、お札の出し入れが楽しめます。お札を入れるときは、なるべくまっすぐ入れてください。本物と同じサイズのお札が12枚付き。8月1日ごろ発売です。 pic.twitter.com/9uVRXkV6LN
— 小学館『幼稚園』編集部 (@youchien_hensyu) July 29, 2019
幼稚園5月号ふろくは東芝テックさんとコラボした「セルフレジ」。商品をスキャンすると、価格を喋って、デジタル表示もされます。スキャン音と価格の音声は、本物のレジのもの。価格はランダムで24パターン。東芝テックさんが作った、本物そっくりのレシートも出ます。4月1日ごろ発売。1280円です。 pic.twitter.com/MDtWcaws2V
— 小学館『幼稚園』編集部 (@youchien_hensyu) March 26, 2021
――このATMやセルフレジがそうなんですよね。
大泉さん:はい。最近はクイズブームじゃないですか。お子さんもわからないなりにクイズ番組を見ると思うので、「きっと早押しボタンを押してみたいだろう」というところからボタンをふろくにするところまで決めていたんです。じゃあどのボタンにしようかって悩んだときに、今のクイズ番組で使われているすべてのボタンの始祖がウルトラハットであるということに気づいて、自分が『ウルトラクイズ』ファンだったこともありウルトラハットに決めました。形がかわいいので、これだったら番組を知らないお子さんでもテンションが上がるかな、という思いもあります。そして「形を再現できて、日テレさんから本物の音を借りられるならやってよし」と社内でGOが出まして。決裁権を持っている人たちが『ウルトラクイズ』を知っている世代なので話は通りやすかったです。
――なるほど、もともと『ウルトラクイズ』がお好きだったんですね。
大泉さん:世代的にドンピシャなんですよ。僕が76年生まれで第1回放送が77年なので、1歳のときに第1回が放送されて、みたいな感じでずっと続いていて。物心ついてからは毎回見ていますね。一番古い記憶は第5回のメガネカマキリです。
隣で編集長(74年生まれ)が「うわっ、すごいですね!」と興奮している。いや、メガネカマキリってなんだ。自然豊かな場所でカマキリのコスプレしてクイズやってたのかな。そう思って調べてみたら、第5回で優勝した真木法男さんのニックネームが「メガネカマキリ」だったらしい。
大泉さん:当時はそれこそ僕も幼稚園児だったので問題の答えはほとんどわからないんですけど、野原を駆け回ったりしているのが面白くて見ていたんだと思います。あと、うちの親が結構クイズ好きでして、僕が小学生のときに父親が『アタック25』に出たことがあるんです。優勝はできなかったんですけどパネル8枚で2位になって。その影響も少しあるかもしれません。
――そのときはスタジオで観覧されたんですか?
大泉さん:距離があるので観覧には行かなかったんですけど、今思うと本当に行けばよかったなぁと。「児玉清さんがすごく優しかった」という話は聞きましたね。
――企業コラボふろくだと、社内のGOが出ても企業側、今回で言うと日テレさんの協力が不可欠ですよね。
大泉さん:98年に一度だけ『ウルトラクイズ』が復活して、ドーム予選で敗退しましたけど出たんですよ。で、日テレさんに今回のふろくのご相談をしたとき、その窓口の方が僕と同い年で、やっぱり98年の回に出ているんですよ。それはラッキーでしたね。「なんで『幼稚園』なんですか?」っていうことはかなり早々に言われたんですけど(笑)、これまでの企業コラボふろくをお見せしながらそういったお話をしたら納得していただけて。あと、もう一つちょっとした奇跡があって。以前、企業コラボふろくがきっかけで放送作家・藤井青銅さんの番組に出させてもらったことがあるんですけど、その過去回に(『ウルトラクイズ』総合演出の)加藤就一さんが出ていたんです。こういうご縁があったのも奇跡なんですけど、「ウルトラハットをつけたい」と思って番組の方に加藤さんとおつなぎいただいたとき、実は加藤さんが定年で会社をやめられる直前だったんですよ。「あさって定年なんです」くらいの時期で(笑)。ギリギリで滑り込んで担当者を紹介してもらいました。
つまり担当者の『ウルトラクイズ』愛といろいろな奇跡が重なった結果、こんなことに……。ウルトラハットのこだわりポイントはそのリアルさ&大きさ(過去の企業コラボと比べても今回はかなり大きいんだとか)ということで、制作の流れも聞いてみた。
<『幼稚園』企業コラボふろく制作の流れ>
1.ふろく案を描いてコラボ先の企業に提案
2021年7・8月号の山崎製パンコラボ「まてまて!パントラック」のふろく案。
2.ペーパークラフト作家が作成した白ダミーをもとに、より組み立てやすく&より頑丈になるよう調整
3.イラストレーターが作画
4.組み立て手順の番号などをデザイン
組み立てやすいように大泉さんが番号を振り(写真下)、それがデザインとして上がってきたのが写真上。
5.組み立ててみて完成(校了)
はてなマークはデジタル化されていないため、イラストレーターが“目コピ”で再現。
簡単にまとめるとこんな感じ。
大泉さん:日テレさんから、現存している赤のハットと台の写真と、だいたいの寸法を送っていただいて、それをもとに再現しました。実はハットって真上から見ると縦長の楕円形なんですよ。僕も今回のやり取りをするまで知らなくて、テレビで見ている限りは正円だと思っていたんですよね。お手元に届いて組み立ててこの事実に気づく人たちがいるんじゃないかなと思うと楽しみです。はじめは台をつけることによって紙の量が倍増するのでハットだけにしようっていう話もあったんですけど、「台とセットなのが様式美なんですよ! あるのとないのとでは違うんです!」と話して納得してもらいました。台の上には一応早押しボタンの絵を。これも実物をつけられたらよかったんですけどね。
1枚目の写真左が白ダミー、写真右が完成品。早押しボタンをスライドさせてはめる仕様もイラストでリアルに再現。余計なコストをかけない=パーツを減らすため、台の下部についていたバーをなくす代わりに上部のバーをより強固なものにして一本化。
――音も本物のデータをお借りしたと。
大泉さん:データをいただいて自分のパソコンで再生したときは震えました。もう、何十回と再生してしまって(笑)。やっぱり音が鳴るものってお子さんが喜ぶので、コストに余裕があればこういうICユニットをもう1台つけてピンポンとブーも鳴らせるようにしたかったんですけど、世界的な半導体不足という状況で(笑)。お値段がしてしまうので泣く泣く諦めました。
ボタンユニット(実物)とこれに至るまでの改良案。ふろくは厚さ3cm以内にしなければいけないためそこに腐心しつつ、はてなマークが垂直に立ち上がることと高低差にこだわったそう。「押したときにちょっと震えるのがいいですね。かぶった人に話を聞くと、自分のはてなが上がったときはその振動で“自分だ”ってわかるらしいんですよ」と言う編集長に大泉さんも「ああ、ガチャッっていうからわかるんだ! へー!」と声のトーンが上がる。
――社内でのリアクションってどうでした?
大泉さん:やっぱり40代以上の人は「おぉ!」ってなりますよね。若い人たちも『ウルトラクイズ』のことはよく知らないけど、このボタンの音ってDNAレベルに刻まれている音なので、押すと「あー!」と。自分のノスタルジーだけで「『ウルトラクイズ』はすごい」と思っているんじゃないか、という葛藤もあったんですけど、ほかの部署の人もウルトラハットのすごさをわかってくれて、思い出補正ではないことがわかりました。やっぱり始祖にして最高傑作だと。実際、撮影で年長さんのモデルの子に押してもらうと、やっぱり喜ぶんですよ。
――この子が。
大泉さん:そう、この予告ページの女の子です。単純に、ボタンを押す、音が出る、立ち上がるっていう、その動きだけで楽しいので、クイズに興味がないお子さんでもある程度は楽しんでもらえるという保証もあってウルトラハットにしました。
――ちなみにこの「13 新井」という名札も大泉さんの発案なんですか?
大泉さん:はい。予告ページも僕が担当していて。番組でウルトラハットが出てくる段階になると全員に名札がついているじゃないですか。この名札はマニアにはわかってほしいポイントです(笑)。
12・1月合併号なので12+1で13にしたそう。「新井」はそのままモデル(新井笑琳ちゃん)の名字から。ふろくに名札パーツはついていないため、「自分で白い紙に好きな番号と名字を書いてください(笑)」ということになった。
――ネットでの反響はいかがでしたか?
大泉さん:ある程度来るだろうなと思いましたけど、思った以上にいただいて。「親世代ですらわからなくね?」みたいな辛辣なコメントもあって、僕も「確かにそうだよね」と思っていたんですけど、最初にお話ししたとおり「子供が早押しボタンを押したかろう」っていうちゃんとした理由があったので、辛口コメントは怖くなかったです。
――私が今24歳なんですけど、ウルトラハットの情報を見てまず親に「ウルトラクイズ見てた?」という連絡を入れました(笑)。
大泉さん:ですよね(笑)。ここからコミュニケーションが生まれて盛り上がってくれたらそれはそれで嬉しいなと。クイズ界隈じゃない人からするとキワモノみたいな企画に思われるかもしれないですけど、子供も喜ぶし、『ウルトラ』世代も喜ぶし、いい企画だなぁと自分では思っています(笑)。僕の世代はロゴを見るだけでもたまらないですし、自分で作ったものですけど、かわいくてデスクに飾っちゃってますもん。ずっと眺めていたい。あと巻末に、これも僕が作っているんですけど、読み上げ問題を64問つけていて。切り取るとカードになるようにしたので、トメさんの気分が味わえます。
大泉さんには「QUIZ JAPAN」vol.1とvol.13を差し上げました。最近のクイズブームについておうかがいすると、「ブームになっているのは普通に嬉しいんですけど、競技クイズには正直ちょっとノれていないんですよ。問題が難しくて、あとみんな押しが早いから答えられないんです(笑)」と苦笑い。
“トメさん気分が味わえる問題カードつき”という新情報にうちの編集長も大喜びですありがとうございます。大泉さんと編集長による熱のこもったやり取りを見ていると、番組が終わってから生まれた自分でもそれだけ『ウルトラクイズ』は偉大なんだなぁと感じる。
(ちなみに、取材用に第13回の録画を見せてもらってはいて、感想は「私もこの時代に生まれて参加してみたかった」に尽きる。新聞で第1問の○×クイズが発表されて、参加者たちのお宅や新聞争奪戦の現場をテレビカメラが突撃するところから始まるのだけど、ネットが今ほど普及していないのでどこも大騒ぎ&公衆電話で知識人を頼る。その光景さえ新鮮で面白い。ドームでの○×クイズも超楽しそう。そんな感じで、なぜだか見ているだけでニヤケが止まらないので「顔が疲れる」という理由で15分に1回ぐらい休憩を挟んだ。)
――このウルトラハット、新しいクイズプレイヤーを生み出す原動力にもなりそうですね。
大泉さん:そう! なってくれると。小学生ぐらいのお子さんがうちの雑誌を読んでくれても全然いいんですよ。
――2030年あたりのクイズ番組で、「これがきっかけで始めました」みたいな子が出てくるかもしれないですよ。思い出の品としてウルトラハットを持参して。
大泉さん:ボロボロになったやつを持ってきてね(笑)。「クイズを始めたきっかけは子供のときに買ってもらった『幼稚園』のウルトラハットです」なんて言っていたら僕は泣いちゃいますね。いや、今回声をかけていただいて嬉しかったですよ。だって自分の好きなものについてこんなに喋れる機会ってないので。仕事中にここまでクイズの話をしていいのかなって思ってしまうぐらい、楽しさしかありませんでした。今って当時『ウルトラクイズ』を見ていた世代がいろいろ動かせる歳になってきているじゃないですか。「好きだったな、『ウルトラ』」っていう人が、それこそウルトラハットのおもちゃを出してくれてもいいし、旅行やイベントを企画してくれてもいいし、このふろくをきっかけに何回目かの火をつけられたら嬉しいですね。僕ができる100%のことはやったので、あとは違う人が頑張ってくれたら(笑)。プレミアムバンダイさんあたりが商品化してくれるんじゃないかとちょっと期待しています。
編集長:4色セットで10万円とかでも買いますよね。
大泉さん:買いますよね!
編集長:買っちゃうんです、おじさんは。
大泉さん:もうね、並べているだけでうっとりするんですよ。この『幼稚園』12・1月号に関しては追加生産がもうできないので、確実に欲しい方はぜひリアル書店で手に入れてください。
10万まじかよ……。
というわけで以上、大泉さんにウルトラハット制作の裏側をお聞きしてきました。熱がスゴかった。大泉さんと編集長が『ウルトラクイズ』の思い出を語り合う未公開シーンを含むインタビュー完全版は、2022年春に発売予定の「QUIZ JAPAN vol.14」に掲載します。『クイズ王最強決定戦~THE OPEN~』に衝撃を受けて“クイズを作る側”に注目するようになったというお話や、実は『着信御礼!ケータイ大喜利』でレジェンドオオギリーガーだったお話などなど、大ボリュームになる予定です。そちらもご期待ください。
ウルトラハット&台がふろくの『幼稚園』12・1月号はいよいよ2021年11月16日頃発売です。税込み1280円。
単4電池2本のご用意をお忘れなく!!
【速報】『幼稚園』12・1月号付録は「アメリカ横断ウルトラクイズコラボ ウルトラハット」 | 『幼稚園』