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INTERVIEW

『ナナマル サンバツ』完結記念特別対談 杉基イクラ×伊沢拓司インタビュー(PART3)

後半は識が「笹島離れ」をする物語だった(杉基)

杉基 一つ思ったのは、クイズって人前でやるものじゃないですか。それでいて自分たちで会を催して、司会進行したりするじゃないですか。だから、内向的な子もクイズをやっていくうちに社交的になって、コミュニケーション能力が備わってきたりとかするんですか?
伊沢 そうだと思います。やっぱり立場上、話さざるえない、みたいな。だから、みんな下手なりにやるわけですよね。それがいい実践の場にはなりますし。僕は短文クイズサークル「A」というサークルにいますけど、必ず例会の最初に自己紹介の時間があるんですよ。みんな知ってんのに(笑)。やっぱりそういう場で近況報告とかをするからこそ、そのあとのクイズに繋がっていって。それこそ世界が一つに繋がる話になりますけど。「あっ、この人、今こういうことやってるんだ。じゃあ、この話題で行ってみよう」とかにもなりますし。みんな自分が極めている領域とか好きな領域を持っている人が多いので、たとえ最初は内向的だったとしても、クイズを通して「あっ、この人と気が合いそうだな」とか、オープンワールドに連れていってもらえる感じはしますよね。
杉基 なるほど。
伊沢 高校の頃だと、識が文化祭の司会をやってめっちゃしゃべるみたいに、例会で司会をやって「あっ、この人、こんなしゃべるんだ!」って知るみたいなことは実際ありますね。
――最終回のシーンですね。
伊沢 あそこで笹島のポジションに識が入って、しかも笹島を意識して「ニューヨークに行きたいか!」と言う。あのシーンはホントに良かったですね。しかも、そこまでの過程が必ずしも完全に笹島と同じではないわけですよね。
杉基 あの「ニューヨークに行きたいか!」は識たちの台本には全然なかったんで。笹島を見て思わず出てきた。
伊沢 笹島の姿を見て、アドリブが出ちゃってという。識たちは識たちのやり方をずっとしてたじゃないですか。
杉基 はい。「自分たちで独り立ちしよう」という行動範囲で。
伊沢 そう、笹島にも電話しないし。あれがいいですね。
杉基 「笹島断ちをしよう」という。大会の後半ぐらいからずっと「笹島離れをさせよう」という物語になったので。

伊沢 笹島と言えば、多答クイズの時に笹島が色鉛筆の問題でヘタをこいたりする場面。あそこは「漫画を作る上での問題のチョイスが上手いな」と思いました、あれは。
杉基 笹島みたいなキャラを誤答させるのは難しいですよね。
伊沢 読者は想定してないでしょうね(笑)。
杉基 自信満々にドヤ顔で誤答する姿は描けて良かったなと(笑)。
伊沢 ちょっとライトな誤答にもなってますし、「国盗り」で笹島が燃えていくところとかも「いいな」と思って。「全国大会っぽいなあ」っていう。大会の時だけ全然テンションが違う人とかいますからね。戦略を立ててる時だけ人格変わる人とかいるから(笑)。
――笹島は最終回のセンターカラーで、近畿クイズ愛好会に行って、文蔵に立ちはだかるところで終わるじゃないですか。あれは熱い展開ですね。
杉基 あそこは王道ですよね。2年目で、かつての師とかライバルとまた当たるっていう。
伊沢 あー、だから比古清十郎か。
――あー、なるほど。
杉基 ただ、みんな読者の方は「帝山に行くのかな?」みたいな予想をしてたみたいですけど。私はあのエンディングで一番見て欲しいのは「天満兄弟が分かれた!」というところなんですよね(笑)。
伊沢 そうですね! 兄は近クイで出て、弟は帝山のまま。
杉基 そうですね。なので、1年目で弟は初めて兄離れをし(笑)。
伊沢 コピーキャットだったのが、コピーではない自分になっていくわけですよね。
杉基 そうです、そうです。で、兄貴は兄貴でずーっと自由奔放。自分のやりたい戦い、クイズを追求している。なので、あの2年目の虎壱は描きたいですね(笑)。
伊沢 それはちょっと見てみたいですねえ!
杉基 そうですね。あとはちゃんと引退もせずにまた参加している南とか(笑)。
伊沢 うんうん。すごいな、普通にいましたからね。他の漫画で例えて恐縮ですけど、笹島って『キャプテン翼』のロベルト本郷感が最初からずっとあって。
――あー、なるほど。
伊沢 やっぱり師であると共に要所要所で戦わなきゃいけない相手でもあるし。で、「味方だ」と思ったら突き放すし、みたいな。笹島のその距離感の取り方が面白いですね!

杉基 でも、笹島も難しいキャラでしたよ。最初に京都で楽しいクイズをやってて、「もっと楽しいクイズやりたい」と思って開城に行ったら、なんかすごい競技の世界で。でも最初はこの勝てる競技にちょっとハマってくんだけど、なんかどんどん競技してく人たちの中に揉まれてても「クイズで競技するってなんだろう?」みたいな感じで。誠司の一件もあったりして。で、それでまた別のクイズを求めて文蔵に行って、みたいな。そんなにホイホイ転校できないのはさておき(笑)。
一同 (爆笑)
伊沢 笹島の中での葛藤もありつつ、でも常に俯瞰で見よう見ようとしているところはやっぱりカッコいいですよね。それこそ南と識君が多答クイズで戦う時とかも、ちょっと識を突き放したりするところもあるじゃないですか。多答でラグビーのポジションが答えられなかった時は「あっ、こんなこと言うんだ!」とか思ったりとかして。
杉基 「そもそも知識がないのが敗因だ」みたいな(笑)。
伊沢 そう。しっかりと怒る。でも「あっ、逆にこれは識が認められたというところなのかな」と思いました。笹島と他人の距離感みたいなのは読んでいて常に面白かったところですね。
杉基 描いていくうちにどんどん笹島の保護者感が増してきちゃって(笑)。
伊沢 でもプレイヤーなわけですからねえ。予選の最後ですけど、井上と笹島が絡むところとかもいいですね。笹島がボディランゲージを取るシーンとかあんまりないので。井上の頭をなでるように、というか。あれも好きですねえ。

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