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INTERVIEW

いま話題のクイズ小説がどのようにして生まれたのか――『君のクイズ』小川哲&『首里の馬』高山羽根子&徳久倫康が語る執筆の裏側

まさか「ママ.クリーニング小野寺よ」が小説に使われるとは(徳久)

――話を戻しますが、徳久さんは『君のクイズ』を無邪気に読んでいたとはいえ、それなりに指摘やアドバイスもされたんですよね?
徳久 小川さんにいろいろお話ししたんですけど、かなり細かいエピソードも使っていただいているような気がしていて。例えば、席につく前にちょっと礼をするとか、早押しで相手がボタンを押した後に考えていたら「こんなものもわからないのか?」という顔を作ってプレッシャーを与えるとか(笑)。
小川 「席につく前に礼をする」は、たしか僕の発想で書いたんですよ。そうしたら、徳久君から「あ、これ僕も実際にします」って言われたんですよね。
――想像で書いたことと、実際のことが一致していたと。
小川 はい。で、「『こんなのもわからないのか?』って顔をする」というのは、徳久君に「相手がボタンを押したあとにできる最大限のことは何?」って聞いたら、「顔でプレッシャーかけるぐらいじゃないですか?」ということだったので、「なるほど!」と思って(笑)。
徳久 ただ、こんなことを考えているのは少数派かもしれませんね……。山上大喜君(元QuizKnockメンバー)には「こんなことするやついませんよねぇ?」と言われました(笑)。
小川 まぁ、クイズプレイヤーにもいろんな人がいますからね。
徳久 山上君は僕よりピュアなクイズ好きなんで。
高山 徳久さんよりも、もっとピュアな人がいるんですか?
徳久 いるんですよ。「顔でプレッシャーかけるなんて、そんな人いないでしょう」「いや、俺です。ごめんごめん」みたいな(笑)。
小川 あと、冒頭に出てくる「ママ.クリーニング小野寺よ」(『Q-1グランプリ』の決勝戦で、本庄がゼロ文字押しで正解した問題の答え)も、徳久君が実際に体験した問題として教えてくれて。
徳久 これは読んだときに衝撃を受けました。まさか「ママ.クリーニング小野寺よ」が小説に使われるとは。
小川 しかもいちばん重要なところで(笑)。実はタイトルも『ママ.クリーニング小野寺よ』にしようか最後まで悩んでたんです。インパクトがあるから。
徳久 「そんな店は存在しない」と思う人が多いらしく、「実在するんですか?」ってよく聞かれますよ。
小川 この小説で出題されている問題は一応、「小説TRIPPER」に掲載された時点ではすべて成立しています。
徳久 読んでいて超リアルでした。心理描写もディティールが細かいし。

小川 クイズプレイヤーと自分を一緒にするのもあれですけど、自分が受験勉強をしていたとき、小説を書いているとき、サッカーをやっているときに考えていることをクイズのフォーマットの中で書けば、クイズプレイヤーにとって普遍的なものになるんじゃないか、みたいなところはありました。でも、それが書けたのは本当に徳久君と田村君がバックにいてくれたからですね。徳久君に「ウーロン茶の話を出したいから、ウーロン茶に関係するクイズを考えてもらえますか?」って言うと、5問ぐらいばーっと届くんですよ(笑)。しかも、各問題について「普通のクイズプレイヤーだったらここでわかる」というポイントとか「理論上そこでわかってもおかしくないポイント」を聞いたら、それもちゃんと教えてくれて。
高山 ちゃんとお礼はしたんですか?
小川 もちろん!
高山 よかった(笑)。でも、そんなことまでしてもらったなら、最初に「T氏へ捧ぐ」ぐらいのことを書かなきゃいけないのでは。
小川 本の中にも書いてるけど、徳久君たちがいなかったら『君のクイズ』は書けませんでした。「なんでここでわかるのか?」「普通だったらここで押すのはなんで?」「この問題はひょっとしたらこういう捉え方もあるかもしれません」といった、そういう補足みたいなのもめちゃくちゃ教えてくれたし……。
高山 それはクイズプレイヤーたるもの、わかっていて当然な要素なんですね。
徳久 わかっていて当然というか、誰もが言語化できるわけじゃないかもしれせんが、なんとなくは共有されている認識だと思います。僕はたまたまそういうことについてよく考えていたので、聞かれたら説明できますね。
高山 というか、そもそも話なんですけど、クイズプレイヤーの方ってのは、問題も作るものなんですか?
徳久 作る人も多いですね。そもそもクイズは、誰かが問題を出してくれないと成立しないわけですよ。テレビ番組なら別ですが、プロが問題を出してくれるわけではないので。
小川 SFコン(日本SF大会)みたいなものですよね。
徳久 そうそう。クイズ大会って基本的に同人イベントなんです。
高山 みんなで一品持ち寄って花見をするのに近いんですかね。
徳久 そういうのもありますね。会議室みたいなところを借りて、作ってきた問題を順番に50問ずつ読むとか。そのとき、「みんなで料理を持ち寄っているのに、自分だけ手ぶらで来ました」だとやりにくいので、自然と作問もできるようになることが多いです。ただ、「作問のノウハウを共有し合う」みたいな親切なことは全然ないので、各々が勝手に勉強して身につけていくという。
高山 はぁ、なるほど。

小川 作問の作法とかルールもいろいろだよね。「答えがひとつに確定しなきゃいけない」っていうのは大前提として、徳久君は他にもいろいろ解説をしてくれたから。
徳久 1行の質問に対して30行ぐらい解説を書いちゃったり。
小川 おすすめの本を聞かれて早口で10冊紹介するみたいな感じで、徳久君は前のめりに教えてくれるし……。
高山 すごい……。
小川 だから、徳久君はほんとにクイズのオタクなのよ。
徳久 間違いないですね。
小川 逆に言うと、徳久君のプレイヤー心理ってあんまりアテにならないんですよ。クイズが好きすぎて人間味がないというか、俺からすると理解が不可能で。田村君からも彼なりのプレイヤー心理について教えてもらったけど、そっちの方が分かるというか……。
徳久 そうですか?(笑)
高山 私はサンプル数が少ないので、徳久さんがクイズ界のスタンダードな人だと思っていて。なので、「クイズの世界」というのは徳久さんみたいな人がいっぱいいて、みんなで集まって楽しそうにしてるんだろうな、っていうイメージです。
小川 世の中にはオープン大会という、クイズプレイヤーが主催してクイズプレイヤーが参加するクイズ大会がいっぱいあるんですけど、徳久君はそういうので優勝しまくってるわけです。でも、それって優勝しても何かが貰えるわけじゃなくて、業界内でなんとなく「あいつクイズ強いぞ」って思われるぐらいなんですよ。にもかかわらず、徳久君たちはわざわざ地方まで行って参加したりしている……。いわば「地方の『SASUKE』好きたちが主催する『SASUKE』みたいな大会で優勝しまくってる、知る人ぞ知る存在」みたいなもんですよね(笑)。でも、本家の『SASUKE』にはそこまで興味がない、みたいな。
高山 でも、それは徳久さんがちょっと特殊だとも思うんですよ。クイズをやる人って、プライドとかお金とか名誉とか、それぞれいろんなモチベーションや目標があってやってると思うけど、徳久さんほど純粋にクイズが好きな人は……。
徳久 いやいや、僕も認められたいし賞金は欲しいですよ(笑)。
小川 もちろん、徳久君にもクイズプレイヤーとしてそういう気持ちもあるんだろうけど……。でも、基本的にはクイズがほんと好きな人。
高山 それは共通見解ですね。多分、地方の大会とかで優勝したりすると、そこの人たちと「わー」ってなるんですよね。そういうのも楽しいと思います。
徳久 そうですね。そのあとみんなで飲みに行くのがハッピーなわけです(笑)。今回の2作についても、まったく違うクイズ小説というか、同じ「クイズ」を題材にしながら、なぜこんなに違うものが出てくるのかというぐらい全然違うんですけど、それぞれクイズというものが持っている機能や核心を作品の本質的な構造にからめて書いていただいているのが嬉しいです。先程、高山さんが小川さんに対し「徳久さんにお礼しなきゃ」っておっしゃってましたけど、無邪気なクイズ好きとしては、この2作が存在している時点で十分、お返しをいただいています。100%満足です。
高山 1行の質問に何十行もの返答メールを書いて、それが1円にならなかったとしても、こうやって作品になることによって満足していただけたってことですか?
徳久 そうなんですよ。この飛びきりおもしろい作品の中に、僕の思っていること・伝えたいことを取り入れていただけたことが、何よりも嬉しいです。
高山 最強プレイヤーの徳久さんの想いがこもった『君のクイズ』、クイズプレイヤーはマストバイですから。
徳久 そうですね(笑)。『首里の馬』ともどもクイズをやっていない人にもぜひ読んでいただき、クイズというもののもつ不思議な魅力や役割に触れていただけたらと思ってます。

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