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INTERVIEW

『SASUKE』の演出家が素人参加のクイズ番組を手がける理由 乾雅人インタビュー(後編)

おびただしい数の照明を浴びながら、死力を尽くして戦う挑戦者たち。乾雅人によるこのエモーショナルな演出は、TBSの看板番組『SASUKE』を日本を代表するコンテンツへと押し上げた。そんな稀代のテレビマンである乾が取り組む、もう1つのライフワークがクイズ番組だ。

歴代クイズ王が集結した一夜限りの伝説の特番『ワールド・クイズ・クラシック』(TBS・2011年)、格闘技のリングで最強のクイズ王を決める『Knock Out~競技クイズ日本一決定戦~』(ファミリー劇場・2016~2018年)、そして一流企業のサラリーマンたちが企業の名誉を賭けて3人1組で戦う『Q&Aリーグ~企業対抗クイズ選手権~』(Hulu・2019年)。

地上波からCS、さらには動画配信と、媒体こそ違えど、共通するのは全て「素人参加者」が主役であることだ。なぜ乾は「素人参加者」にこだわり続けるのか。長年かけてたどり着いた乾のテレビマンとしての哲学を、『Knock Out』以来、乾が手掛けるクイズ番組の企画・監修を担ってきた大門(「QUIZ JAPAN」編集長)が聞いた。
(2019年5月15日収録 聞き手:大門弘樹 撮影:辺見真也)

プロフィール
乾雅人(いぬいまさと) 1964年、岐阜県生まれ。テレビ朝日でアルバイト後、1990年にライターズオフィスに入社。2004年に有限会社フォルコムを設立。『SASUKE』は第1回から総合演出を担当。その他の代表作に『クイズ100人に聞きました』『スポーツマンNo.1決定戦』『筋肉番付』『DOORS』『Dynamite!!』『K-1 WORLD MAX』『世界卓球』『ワールド・クイズ・クラシック』『リアル脱出ゲームTV』『ゼウス』など。

都市対抗野球のクイズ版
『Q&Aリーグ』誕生秘話

――では、最新作である『Q&Aリーグ~企業対抗クイズ選手権~』の話をお伺いしたいのですが。
乾 大門さんは収録の現場なんかで「最近はこういう動きをしている」「こういうことを考えている」みたいなことを、ちょいちょい僕にお話されるじゃないですか? そういう話が、のちのち形になっていくことが結構多くて。確か『ニュース・博識甲子園』の原宿の会場の下見の時だと思うんですけど、大門さんが「乾さん、企業対抗というのはどう思います?」っておっしゃったんですよ。

――去年(2018年)の8月頃ですよね。
乾 で、僕は「それってあれですよね? 都市対抗野球のことですよね?」なんて言って。だから、「そうか、都市対抗野球をクイズでやるのか」って思いながら『甲子園』を収録していたんですよ。まぁ、その時は「やると決まったら、一緒にお願いできますか?」って話だけで、企画がどこまで進んでいたのかは、その段階では伺ってなかったんですけど。

――その時点では、まだ企画書というか、アイデアがあるだけだったんですよ。で、乾さんには「どこか持って行き先ないですかね?」っていうご相談させていただいて……。
乾 あっ、そうか! 「どこに持って行きましょうか」って話をしてましたね。……でも、それが8月ですよね? そのあと「通りました」っていう話をいただいたのは年末あたりでしたよね。でも、「企業対抗のクイズ番組」というコンセプトは、確かに地上波にはできないし、「BSでもどうかなぁ?」っていう感じだし。そうなると「CSかなぁ?」っていう話になるけど。今回はHuluになりましたけどね。僕、12月にご連絡いただいた時は『SASUKE』の真っ最中で。だから、その時は「じゃあ、年明けたらお話しましょう」って感じで終わったんですよね。

――そうですね。1月から乾さんが合流される予定だったのが、乾さんがインフルエンザにかかられて……。
乾 (指を鳴らしながら)そうですよ!

――で、たしか乾さんが倒れている間に、参加していただける企業を探していました。ちなみに、乾さんは「企業対抗のクイズ」をやるということに対して、どの辺りに面白さを感じられました?
乾 実は、蓋を開けてみたら、ちょっと違ってたんですけど……。

――事前に思っていたことと、実際の収録では全然違っていたということですか?
乾 はい。実は僕、この企画って「クイズができない人たちがいっぱい集まってくるんだろうな」なんて思っていたんですよ。珍解答がいっぱい出て、出場者たちが「こんなんわかるかぁ!」なんてドタバタする、みたいな感じで。だから、問題の方もゴリゴリのクイズじゃなくて、視聴者のほうが答えられるようなイメージだと思ってて。

――なるほど。
乾 さっき都市対抗野球の話をしましたけど、あれはセミプロみたいな人たちがやっているんですごくレベルが高いじゃないですか。でも、僕がイメージしていたのはあそこまのレベルにはない、町工場レベルの野球部の試合というか。「内野ゴロを打ったので走っていたら、一塁に辿り着く前にアキレス腱を切っちゃった」レベルの人たちがクイズをやる、なんかホンワカしたクイズ番組のイメージをしてたんですよ。だから、最初に大門さんから話を聞いた時は「なんでクイズ番組に出ようと思ったの?」っていうぐらいの人たちが集まってきて、グダグタな展開になるだろうから、そういう人たちに合わせたレベルのものをちゃんと作って。で、その中からスターになる企業が出ると面白いなあ、っていう話だと思っていたわけです。ところが会議で集まってきたメンバーを見た時に「あっ、何人かガチクイズがいるんだな」って。

――クイズ王的な人がメンバーに入っている企業がいくつかあったんですよね。
乾 だから、最初の会議では「クイズ王みたいな人がいる企業が決勝戦に残って、早押しでガンガンやって、他のチームは誰もついていけない」っていうような番組にしちゃうのはイヤだなぁ、なんて思って。

――おそらく、かつての『ウルトラクイズ』のスタッフもそんな感じだったと思うんですよ。クイズ研究会の人がそのまま決勝に残って、ゴリゴリに優勝しちゃったら、「『ウルトラクイズ』とはなんぞや?」という定義から違ってきちゃうというか……。だから結果として機内予選1位が優勝するかもしれないけれども、そうなるにしても苦戦の末に優勝して欲しい。なんだったら、そういう優勝候補の大本命が準々決勝ぐらいで負ける大波乱もある。そういうのが『ウルトラクイズ』の魅力だったと思うのですけど、それと印象が被りました。
乾 なるほど。でも、確かにおっしゃる通りですよね。あと、呼んでいただいた企業さんなんですけど、「こことここ、あとはこの企業に声をかけてます」みたいな話を最初に聞いた時、一流の企業にご参加いただけるということで驚いたんですよ。そこは経済系の番組もやってらっしゃるPDネットワークさんの強みですよね。だから、「こんなすごい企業が集まるなら、もう全然成立するな」と思って。だから「せっかくナショナルスポンサークラスの企業さんに参加していただけるなら、ちゃんとした場所を作らないといけないな」と。

――そこで乾さんのスイッチが入ったと。
乾 今までやってきた『WQC』や『Knock Out』のフィールドとはちょっと違う、新しくできた『Q&Aリーグ』のフィールドっていうのを作らなきゃいけない。しかもテレビクイズだから、ガチなセットを作らないといけないなと思って。そこで呼んだのが、いつもの連中ですよね。『Knock Out』や『SASUKE』で一緒にやってるスタッフさんに「やりたいことはこれだ」っていうのをお伝えして。そのおかげで、いいセットを作ることができたんですよね。だって、収録の現場にプレイヤーの皆さんが入ってきた時に「うおーっ!」ってなったじゃないですか。「俺たち、テレビクイズに来たんだ!」みたいな。あの「うおーっ!」が聞きたかったんですよ。今回の番組はHuluということで、もしかしたら「ネットの番組だし、あんまりお金掛かってないのかなあ」と思っていた出場者の方もいると思うんです。でも、ガチなクイズのセットだったから皆さん、驚いていたでしょ? そういうセットを作るということができてよかったなぁ、というのがまず一つ目。

ⒸHJホールディングス

――まさに乾さん流のサプライズ演出ですよね。
乾 で、次はクイズの形式なんですけど……。キャスティングの会議が終わったあとで、僕と矢野君と大門さんの3人だけ会議室に残って、「どんなクイズやりましょうか?」ってホワイトボードに書いていったじゃないですか。そうしたら、「最初にこれをやりましょう」「次はこれやりましょう」「最後はこれにしましょう」って、特に揉めることもなく。

――スルッと決まりましたね。
乾 ねぇ(笑)。あの感じっていうのはたぶん大門さん・矢野君と長いことご一緒させていただいて、普段から「あの番組ではこうだ」「この番組ではこうだ」っていうのを話し合ってきた成果というか。だって、「ああ、あれね」「そう、それです」「これってどんなやつなんですか?」「こんなんですよ」「あー、面白いやん!」っていう感じで、ものの30分ぐらいで全部でき上がっちゃいましたもんね。あれって、初顔合わせだったら絶対にできない構成ですよ。「あぁ、矢野君はそんなのが好きなのね」「大門さんはそんなのが好みなんや」「乾さんはそんなのが好きなんですね」ということが積み重なったクイズの構成だったので、あっという間に決まって。だから、クイズの構成に関して「ああでもない、こうでもない」というのは全くなかったですよね。それって、なかなかないですよね?

――普通は二転三転するというか、2~3回はミーティングを繰り返しますよね。
乾 ですよね。あんなにあっさり決まることはめったにない。まあ、そういうところも「ちょっと面白いなあ」って思ったんですよ。

――クイズの形式のお話が出たところで、そこをちょっと掘り下げたいんですけど……。今回の『Q&Aリーグ』でやったクイズって、乾さんがこれまで作ってこられたクイズ番組が濃密に込められているような気がするんですよ。
乾 あぁ、そうですねぇ。……僕、会議の時にまず「最初のクイズステージで『ア・ラ・カルト』をやらせてもらえませんか?」って言ったじゃないですか?

――そうでしたね。『WQC』の第1ラウンドの形式を、再び最初のラウンドにもってこようと。
乾 僕、「『ア・ラ・カルト』をどっかでやってもらえませんか? ぜひパクってください」って申し上げてたんですけど、誰もやってくれなかったんで(苦笑)。

――一度だけ、TBSで17年に放送された『全国小学生 No.1超頭脳決定戦!』という番組でスタジオで再現されていることがありましたけど、それ以外は見ないですね。やはり「ア・ラ・カルト」は乾さんの演出あっての企画なんだと思います。先ほどもおっしゃってましたが、「ア・ラ・カルト」は出場者のキャラクターを印象づけるのに最適な形式で、視聴者参加番組の導入としてはこれ以上ないですよね。
乾 はい。この形式は限られた時間、『Q&Aリーグ』の場合は3分でしたけど、参加者の皆さんはその時間の中で色んなジャンルのクイズが出されて、頭の中がグチャグチャになって、「え、なになになに?」ってなっていくわけです。で、皆さんのそういう姿を見せることによって「このチームはこの人がメインで引っ張っていくチームです」「ここは3人ともグタグタです」「このチームは3人ともいいバランスで答えていくんです」っていう感じで、各企業の雰囲気を視聴者に伝えることできる。「それぞれのチームどんな感じなのか」を教えることについては、とてもいいクイズ形式だということですね。あとはやっぱり、「早押し合戦をやってランキングを決めるところからスタートしたくないなあ」という『WQC』の考え方を踏襲したというか。あの時は個人、今回の『Q&Aリーグ』は企業チームという違いはありますけど、そういう個々のものにスポットを当てるなら、いろんなジャンルのいろんな問題に挑戦する「ア・ラ・カルト」っぽい形式でフューチャーしていくのが大事なんじゃないかなって。なので「ステージ1はぜひ『ア・ラ・カルト』にさせてください」とお願いしたという感じです。で、『WQC』の時の「ア・ラ・カルト」は「プレイヤーが移動しながらクイズに答えていく」という形式でしたけど、今回は「移動しないでやる『ア・ラ・カルト』はどうでしょう?」「今回は3人1チームだから、相談してもいいという形式ならどうだろうか?」と。

――今回は失格を無くしたり、わからなくても時間をかければヒントが出て、次の問題にいけるようにしたりと、みんなでいろいろ工夫をしましたものね。ハードルの低い「ア・ラ・カルト」に生まれ変わったというか。
乾 そうですね。『WQC』の時に自分が作ったのとは少し違う、参加者にとって親しみやすく、視聴者の方も答えやすいクイズの形式になっていましたよね。で、「ア・ラ・カルト」のほかにもうひとつお願いしたのがアンケートクイズ……というか、『クイズ100人に聞きました』をやらせてくださいと(笑)。

――そうでしたね。この形式をやろうと思ったきっかけは?
乾 『100人に聞きました』っていうのは自分のルーツともいえるクイズ番組なんですけど、放送されていたのはほぼほぼ30年前です。30年経ってますので、今はどこの局でもやってないわけですよ。でも、「主婦・高校生・OL・サラリーマンといった人たちが、今の世相の中でどうアンケートに答えていくのか?」っていうのは、まさに今の企業向けのクイズの形式じゃないですか? だって、ナショナルクラスの企業というもののリサーチ力・マーケティング力の優秀さを示すには非常にいいクイズの形式なわけですから。なので「『クイズ100人聞きました』もぜひ、やらせてください」と。あの形式を実際に見て、どう思われました?

――まず僕がシビれたのは、LEDの縦長のパネルにランキングが表示されるビジュアルですね。「昭和のあの番組を、21世紀仕様でやるとこうなるのか」っていう驚きがありましたし、ルール自体も今やっても全然色あせてない。目からウロコでしたね。
乾 なるほど。確かに昔の『クイズ100人に聞きました』のパネルはイラストでしたから、そりゃ雰囲気が違いますよね(笑)。しかもジョン・カビラさんの司会の仕方も非常に面白くて。

ⒸHJホールディングス

――で、それに呼応するかのように客席のリアクションがまた……。
乾 そう。自分が「これは入っているだろう」「これが多数派だろう」って思っていた答えが入っていない時の驚きと、「えっ、じゃあなんだろう?」って時の反応ですよね。でも、こういう面白さこそが『クイズ100人に聞きました』の持ち味だったんで。……で、これは放送をご覧になった方はわかると思うんですけど、「男子高校生100人に聞きました。『春の』に続く言葉といったら何でしょう?」という問題があったじゃないですか? これ、1位が「パン祭り」だったんですけど、それを正解できたのがクイズ王としてゲストに来ていた奥畑薫さん(『Knock Out』初代優勝者)だけだったという。

――あの問題は面白かったですよね。実際、アンケートの結果を会議で見た時はスタッフも全員驚いてましたもんね。
乾 アンケートをとる前に「『パン祭り』が1位だったら面白いけどなあ」って言ってたら、ホントに1位になっちゃって(笑)。あれを答えられなかった企業さんも面白いし、こんな高校生のアンケートまで当ててしまう奥畑さんも面白かった。企業さんは勝ち負けがかかっている以上、なかなか「パン祭り」にいけないだろうし、ゲストの奥畑さんはちゃんと「あれ、こういうアンケートだとこういうことかな?」っていうのを読んでいて。あの1問は「ホントにいいクイズの問題だったなぁ」って、編集している時も思いましたね。……で、もし次回があればですけど、『ヒントでピント』の「16分割早押し」をやってみたくて。

――おお、これも乾さんのルーツにあたる番組ですね!
乾 そう。自分のルーツを辿っていく感じで(笑)。でも、もしやれるなら今回と同じようにCGを使って、LEDを一個ずつ開けていって「答えは何でしょう?」って。「16分割」っていう形式は、非常にいい問題を作れますし。実は4×4のパネルってけっこうお金かかるんですけど、LEDだったら、予算的に大丈夫じゃないかな(笑)。

クイズ番組初挑戦の出場者が
クイズ王と互角に渡り合う3人1組の妙

――実際の結果は配信を見ていただきたいのですが、収録を見ていると意外な試合展開に驚かされましたよね。例えば有名なクイズ王を擁したチームもいる中で、クイズ番組初挑戦者だけのチームが大活躍されたり。素人のクイズの団体戦を実際に演出されてみて、いかがでしたか?
乾 クイズ王がいる企業の場合はやはり、クイズ王がチームを引っ張っていっているんですけど……。編集していて特に思ったのは「3人1組というのがかなり妙だな」ということで。

――個人戦じゃないというのは大きかったですよね。
乾 そう。例えば「3人でひとつずつ、順番に答えてください」っていう形式の時に、クイズ王がいるチームは「簡単なやつを答えてちょうだい。残りのちょっと難易度の高い問題は俺とコイツで答えるから」ってことで女子社員を一人目に送り出すわけです。そうしたら、いきなり間違えて「アーッ!」ってなっちゃったり。収録前に「クイズ王だけが目立つ展開にならないといいな」と思っていたんですけど、その通りになったので、あまりスタッフを褒めるのもアレですけど、あれは素晴らしいクイズ形式だったなぁと。

――いやー、予想を超える展開でした。
乾 これはツイッターにも書いたのかな? 僕、あるクイズ王の方が負けちゃったあとの休憩中に、トイレの前ですれ違ったんですけど、その時に「なんと素晴らしいゲームバランスなんでしょう。テレビのクイズの方は、こういうバランスのものを作り出すんですね。おみそれしました」って言っていただいたんですよ。

――クイズ王からすると「少なくとも優勝戦線には絡めるだろう」と思っていたのに……。
乾 ですよね。だから、彼らが「まさか僕たちが決勝に進めないなんて」っておっしゃったのがとても印象的で。このチームに限らず、テレビで活躍したクイズ王がいたチームは当然「我々が勝てるだろう」みたいな意気込みで来たわけじゃないですか。それなのに決勝にすら進めなかった。でも、それは我々がクイズ王を貶めようとすることをしたからではないですから。3人1組のチームであることと、形式がクイズ王だからといって有利になっていなかったからそうなった。あれは「ホントによくできていたなあ」と思いましたね。そんなの、なかなかできないですから。

――一方で、クイズ王のいないチームについてはどうご覧になりましたか?
乾 「クイズの番組に出たこともないし、町場のクイズ大会に参加したこともないけど、録画したクイズ番組を観て自分も答えるのが趣味」っていう、新生銀行さんの女性の参加者の方がいらっしゃったじゃないですか? この方が銀行内の予選会を勝ち抜き、出場権を得て、チームのリーダー的存在でご出場されたわけですけど、彼女がチームを引っ張っていく姿というのが素晴らしくて。「ア・ラ・カルト」でも、見ていたゲストの皆さんが「うわっ、この人すごいな!」って驚いてましたもんね。あとマイナビチームの奮闘。あのチームは別にクイズが得意なわけじゃないのに、物怖じせずに非常に前のめりでクイズに向かっていく姿が面白くて。たぶんあの場所に行くと「答えてやろう」「ポイントを取ってやろう」という気持ちが出るんでしょうね。あのスタイルには「『Q&Aリーグ』は非常に面白いコンセプトで作られているんだな」っていうのが如実に現れたな、と感じました。

ⒸHJホールディングス

――なるほど。
乾 今回、「クイズを趣味にする人」というのは、「実際に番組に参加したり、イベントに参加している人」以外にも、「視聴者としてクイズを解いて楽しんでいる人」もいたのに、そういう人たちは隠れていたことがわかったわけじゃないですか? そういった方が表舞台に立って、クイズ王と同じ場で戦いを繰り広げていくというのは非常に面白かったですよね。正直、「私、クイズ番組が好きなんです」っていう一視聴者が、クイズ王と戦うなんていうのはありえないことだと思っていたので。それだけに『Q&Aリーグ』での彼女たちとクイズ王の戦いというのを見てて、「うわー、新しいなあ」って感じましたね。

――今回、森永製菓チームに小林聖司さん(『史上最強のクイズ王決定戦』優勝のクイズ王)がいらっしゃいました。実は小林さんは『WQC』にも参加されていたので、「ア・ラ・カルト」2回目の挑戦となります。
乾 今回の出場選手を決める時に、いわゆるレジェンドの方々で、有名企業にお勤めの方をピックアップして、「参加していただけないでしょうか?」って大門さんからお声掛けをしてもらったわけですけど、その中に小林聖司さんもいらっしゃったんですよ。小林さんは『WQC』でゼッケン1番を背負っていただいた方なんですけど。

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――ちなみに『WQC』の時に、小林さんをトップバッターに選んだ理由というのは?
乾 僕でも覚えているクイズ王で、お顔も肩書も充分で、お子さんが会場にいらっしゃって……。なので「この方にスタートを切ってもらいたい」と、小林さんを選ばせていただきました。僕が『WQC』を始めるにあたって、最初に決めたのは「番組の冒頭でスタートするのは小林さんだ」っていうことだったかも、っていうくらいなんですよ。

――そうでしたか! これは是非、小林さんに伝えたいですね。でも、『SASUKE』もそうだと思いますけど、乾さんの番組のゼッケン1を背負うってことは、実は視聴者が思っている以上の意味があるわけですものね。
乾 そうです! 『SASUKE』でも『WQC』でも順番の入れ替えはしない。ゼッケン1番から順番にスタートして、放送もそのまんまやる。「収録では1番だったけど、ダメだったから放送では5番目しちゃう」みたいなことはしない。つまり、1番の人は「ぜひとも視聴者にお届けしたい人」なわけです。なので、小林さんに対するこだわりはすごくあったんですよ。『WQC』のスタートは、小林さんじゃなきゃいけなかった。……で、あの時、小林さんは「クイズ番組には全然参加しておらず久々なので、ちょっと衰えているかもしれないですけど頑張ります」っていうようなコメントでスタートして、結果は「ア・ラ・カルト」で敗退だったわけですけど。でも、その負けっぷりとか、「楽しかった!」っていう表情がとても印象に残っていて。で、今回『Q&Aリーグ』をやることになり、「参加するのはこういうチームです」っていうリストがあがってきた時に、そこに小林聖司さんの名前があって。僕、小林さんが森永にいるのを知らなかったのでビックリしたんですよ。で、大門さんに「小林さんって、あの小林さんですか?」って聞いたら「そうですよ」って言うから、「うわーっ、もう一度会えるんだ!」って思って。で、ちょうどその頃がクイズの構成を決めるタイミングで、森永チームの中に小林さんがいらっしゃるということで「もう一度『ア・ラ・カルト』をやっていただけるっていうのは、ものすごく思い出に残るんじゃないかなぁ」と思って。

――ああ、なるほど!
乾 で、収録前にスタジオの廊下で小林さんと再会した時に「小林さん、ご無沙汰です!」「あーっ、どうも! 今回はクリアできるよう頑張りますよ」「今日、娘さんは?」「来てますよ」なんてお話できて……。『WQC』はダメでしたけど、この『Q&Aリーグ』の森永チームに小林さんに入っていただき、「ア・ラ・カルト」に挑戦している姿をもう一度見られたことで、いろいろと回収できた気はしましたねえ。まぁ、ご縁というのは面白いなあというか。

――実は事前に小林さんにお話を伺った時、「『WQC』以降もあまりクイズはやっていない」とおっしゃってたんです。なので、今回この番組に出ることに逡巡をされたかもしれないですけど、最終的に出ていただけることになって、『WQC』から時を超えて繋がった気がしますね。
乾 今回の『Q&Aリーグ』が小林さんにとってどういう想い出になったかはわかんないですけど、『WQC』と今回の両方にご参加いただいたことで、僕にとってはすごく大きな想い出になりましたね。

動画配信のクイズ番組だからこそ
地上波ではできないことにトライする

――あと『WQC』で言えば、あの時には皆さんにスーツだったりとか、フォーマルな格好で参加してもらったじゃないですか? ところが、今回は企業が思い思いの法被だったり、ユニフォームだったりを着用してきた。雰囲気がガラっと変わってましたね。
乾 実は今回、最初はPDネットワークさんは「皆さん、スーツにしましょうか?」っておっしゃっていたんですよ。

――最初はそんな話もありましたね。
乾 クイズっていうのは、町場のイベント会場とかレストランでやるんだったら「スーツのほうがいいのかな?」と思うんです。でも、テレビのガチセットで、けっこうな照明で飾って、ビームまで出して……っていうところでスーツとかタキシードを着ちゃうのは、「そりゃ違うだろう」と思うんですよ。

――あれ? そうすると『WQC』でスーツを着せた意味というのは……。
乾 あれは逆コンセプトです。『WQC』ではいわゆる「クイズプレイヤーはカッコ悪い」というイメージ、例えば眼鏡をかけて、チェックのシャツを着て、なんかイケてないTシャツを着て……みたいのを払拭したいということで、「皆さん、正装で来てください!」とお願いしたわけです。でも『Q&Aリーグ』の場合は逆で、ガチなクイズのセットで照明をゴリゴリにやって、そこに「カッコ悪い」人たちが登場する、というところをやりたかった。

――「カッコ悪い」というのはコテコテの服装をした人たちということですね。
乾 はい。これ、今の地上波ではできないことなんですけど、オープニングで10チームがそれぞれステージの真ん中に登場して、「頑張るぞー!」って板付くってことをやりたかったわけですよ。最近ありがちな、番組開始時点で全チームが解答ボックスに入っていて、そこに司会者がやってきて「さあ、始まりました」っていうような感じでスタートするのではなくて。出場者たちがセットの裏でディレクターから「さあ、どうぞ」って言われて、ステージに出てきて、客がいて、応援団がいて、照明がバカーンって当たって、カメラもいっぱい並んでて、そこで「頑張るぞ!」って言わされる。これこそがテレビクイズ、これこそが素人クイズ番組ですよ(笑)。で、そういう瞬間を味あわせてあげたい、っていうのが、この番組のそもそものコンセプトで。

――それこそ『100人に聞きました』の頃の素人参加型クイズ番組の王道のオープニングですよね。
乾 そう。だから、登場シーンというのはどうしても必要だったんですけど、そこに3分くらいかけているんですよね。実は今の地上波の1時間とか2時間の番組って、オープニングに3分も使っちゃダメなんですよ。例えば最近のテレビクイズだったら、番組が始まったと同時に司会者が「第1問」っていうところからスタートさせるじゃないですか? で、人の紹介は第3問が終わったくらいから。「さあ、今日お越しいただいて○○チームですけども、3問終わってまだ無得点」なんて感じで。それが今の地上波のクイズですよ。

――確かに、そんな感じですね。
乾 でも、僕が知っている素人参加番組っていうのは、オープニングで全然知らない素人が登場して「頑張るぞー!」って言って、ステージに板付いて、最後に司会者に出てきて「というわけで」とか言ってコンセプトを紹介する。で、こういうのこそが、晴れがましいところに来た人たちをお迎えする場所だと思うんです。……まぁ、プレイヤーにとってはちょっと迷惑な話かもしれないですけどね。緊張するし(笑)。でも、「私があなたをこの番組にお招きしました。では、皆さんの前にご登場お願い致します」というのが、僕が習った素人番組だから。だからそういう場に、年に何回かしか着ないようなタキシードやスーツで登場するのはやめてほしかった。カッコいいセットに、普段自分たちが営業やイベントで着るような法被なんかを身につけて、「私はこの会社の人です」とわかるカッコ悪い形で登場してください、と。そういうところに、最初の登場シーンに3分かけなきゃいけなかった理由がある、っていうことですかねえ。

―配信だと、それができるというのが良かったですねぇ。
乾 そうです。この番組の成り立ちとかチャンネルとか含めて考えると、地上波じゃできないことをやりたい、やらなきゃいけないということだったので。しかも、企業さんのカラーを出すというのはとても大事なことなので、それを冒頭で見せてあげたい。「こんな番組、ありえないでしょ?」っていうことをしてあげるためには、あれが必要だったということですね。オープニングにあれをやることの意義とか意味というのは、実はすごくあったんですよ。

――なるほど。
乾 だから、♯1のオープニングに3分もかけてることの無駄と意義と意味っていうのは……なんて言ったらいいんだろうなぁ。まぁ、HuluとかNetflixっていうのは最先端なわけじゃないですか? 何時に観てもいいし、お金払えば好きなだけ観れるしっていう、従来になかったスタイルなわけで。でも、その最先端なものが、昭和に戻るタイミングを作ってくれたということの意義はあると思って。最先端だから画質がいい、スタイルが格好いい、地上波でやってることを洗練させてやれる……っていうような、当たり前の手法とは別のやり口が『Q&Aリーグ』のコンセプトとしてあったのかな、という感じですかね。

――Paraviでは今年も『JQSグランプリシリーズ』と『ニュース・博識甲子園』を配信しますし、『Q&Aリーグ』も可能であればシーズン2をやりたいところですが、乾さんとしては今後、やってみたいクイズ番組のイメージなどはあったりしますか?
乾 これは『WQC』の話ですけど、実は収録を2日間にしようとしてたんですよ。

――以前、おっしゃってましたね。
乾 最初に考えたのは、『ウルトラクイズ』でもありましたけど、例えば移動の段階、つまり会場に向かってくるバスの中でいきなりクイズが始まる。で、でかいセットでもクイズをやる。夜に収録が終わったあとで、レストランでもクイズをやる。ホテルでもクイズをやる。朝起きたら中継されている。朝飯の時にもクイズをやる。もう一回クイズの会場に行って収録する。で、最後に決勝みたいな、2日間の物語みたいなことができないかなと。

――それは見てみたかったですね!
乾 そういうふうに「クイズ以外のドキュメントも含めてクイズ番組を作れたらなあ」っていうのは、今でもちょっと思ってますね。企業さん相手でも、素人さん相手でもいいんですけど、2~3日かけて、連チャンでずーっと延々ドキュメントとして追っかけるクイズ番組っていうのをやれたら面白いなあ、って。『ウルトラクイズ』が面白かったのだって、やはりそこのドキュメント性とかクイズ旅行の部分じゃないですか。

――はい、その通りですね。
乾 あのドキュメントって、すごくよく出来ていたと思うんですけど、今の地上波だと「一週間旅行に行くかもしれない」っていうことで休み取ってスーツケースを持って……なんて番組はもうできないじゃないですか。でも、もしCSやネットでできるなら、新しい形のクイズドキュメントのスタイルとしてやれたらいいなあって思いますね。……あと、これは全然余談なんですけど、ドキュメント性で言うなら『テラスハウス』的なクイズ番組。自室に籠ってクイズを解き、食堂でクイズを解き……。で、クイズを解いていくことによって恋愛や友情が生まれるか、みたいな(笑)。

――でも、確かに『ウルトラクイズ』のツアーって、1か月の中で、それこそ親友になった人が帰っていく時に号泣したりするシーンとかありましたからねぇ。『テラスハウス』を先どってますよね。
乾 ですよね。そういうドキュメント性って、絶対面白いと思うんです。クイズ番組って、そういうドラマみたいなものが無いと思われがちだけど、実は僕ら『ウルトラクイズ』を観てた時って、そういう見方をしてたじゃないですか? 「来週はどうなるんだろう?」みたいな感じで……。あのロードムービー的な感じって、子供心にすごいワクワクしたから。もしどこか配信の会社で予算組んでもらえるなら、ぜひ一度ロードムービークイズ特番をやりたいですね。

――いつかぜひ実現させましょう! 本日はありがとうございました!

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