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INTERVIEW

いま話題のクイズ小説がどのようにして生まれたのか――『君のクイズ』小川哲&『首里の馬』高山羽根子&徳久倫康が語る執筆の裏側

間違っていたら徳久君と田村君が教えてくれるので、その安心感の中で僕の思ったものを書くことができました(小川)

小川 徳久君や田村君と定期的に会ったりZoomで話をしたりして、「こういう感じで書きたいと考えてるんだけど、どう?」とか、いろいろ相談させてもらいました。徳久君には、作中で出されている問題もけっこう見てもらいましたよね。徳久君が作ってくれたものをそのまま使った問題もあります。あと、僕が作った問題をチェックしてもらって「こういう表現のほうがいいですよ」とか「この問題の確定ポイントはここです」とか……。
徳久 「この問題文だと、どこで押されるか教えて」って聞かれましたもん。
小川 最初はほぼ徳久君に問題を考えてもらっていたんですけど、書き進めていくうちに、ストーリーの事情で出さなきゃいけない問題が決まってきて。そうなると全部聞いているわけにもいかなくなったので、いろんな本を読んで作問の仕方を勉強しました。
徳久 僕からもいろいろ意見は出させてもらいましたけど、それ以外に参考にされたものはありますか?
小川 伊沢(拓司)君が書いた『クイズ思考の解体』という本が去年出たんですけど、あれはよかったですね。クイズの歴史だけじゃなく、クイズプレイヤーの心理や問題の構造なんかもまとまっていて。
――あの分厚い本を全部読まれたんですか?
小川 はい。伊沢くん本人にも話したんですけど、あれって「昭和天皇が第二次世界大戦について書いている」みたいな、すごい奇妙な本なんですよね(笑)。
徳久 そうですね。あと、「QUIZ JAPAN」も全号購入されたと聞きました。
小川 買いました。14号まで全部持ってますね。「QUIZ JAPAN」で一番参考になったのは、「この問題では、誰がどこで押して正解した」みたいな記録が載っているところすね。
高山 それは野球でいう「スコアブック」みたいな、単純な「競技の記録」ってことですか? 
小川 いや、単なる記録ではないですね。見ていた人の観戦記だったり、クイズプレイヤー本人が振り返ってたり……。あれは実際の臨場感みたいなのがわかるので、すごく参考になりました。どう参考になったかというと「クイズプレイヤーも人間なんだな」というのがよく分かったというか(笑)。
高山 まぁ、人間がやるから面白いわけですし。
小川 そうそう。結局、プレイヤーも人間である以上、想像する余地があるというか。人間じゃないなら、僕が想像しても無駄なんですよ(笑)。

高山 でも、どうなんでしょう? 今後AlphaGo(2017年に人間の世界王者を下した囲碁のAI)みたいに、クイズが強いAIが出てくるんですかね?
小川 「音声認識がちゃんとできる」という前提のもとですけど、単純に徳久君の知識をコンピュータに移しただけでもめちゃくちゃ強そうですよね。というのは、徳久君は人間であるが故に思い出せなかったりとか、正確な期待値で押せなかったりすると思うけど、AIの場合は例えば「3文字目まででこういう問題が読まれた場合、この答えである確率が何%、この答えである確率が何%で、今の得点状況がこうだから……」というのを一瞬で計算して押せるので。
徳久 日本語でそこまでやろうと思う開発者がいるかは疑問ですが、もし実現すればものすごく強くはなるはずです。
小川 そういうAIに人間が勝つ余地があるとしたら、おそらく「この出題者ならスポーツの問題が多い」とか「決勝戦だから、簡単な答えの問題を出すわけがない」みたいなメタ推理で勝負するしかない。そういう意味では、根性があるプレイヤーならひょっとしたらAIに勝てるかもしれないですね。
徳久 そうですね。特に早押しの場合、メタ要素を考慮しないと押せないんです。だから問題文が終わってない段階で押そうと思ったら、「この人はこれを聞きそう」とか「テレビ番組なんだからこれは聞かないだろう」といった周辺情報が重要になってきます。なにもかもが機械的にランダムに出題されると、途端に早押しはできなくなる。僕たちはそういうことを考えながらクイズをやっているんですけど、小川さんはそれをすごく正確に理解されていて、『君のクイズ』にも反映されているなと感じました。そこは「おぉ、すごい」と。
小川 クイズっていうものに対して、現代のクイズプレイヤーが見てる景色とか、クイズを好きな人が見てる景色とか、クイズに興味がない人が見てる景色とか、そういった「クイズってどういうことなんだろう」みたいなものを広い視点で書きたかったんです。なので、いろんな本を読んだり、あるいは徳久君や田村君に話を聞いたりしたんですけど、もしクイズプレイヤーの考えがうまく作品に反映されているなら、そのおかげですね。あと、二人が原稿を読んでチェックしてくれたんですよね。僕にとっては、それがめちゃくちゃ幸運でした。間違っていたら二人が教えてくれるので、その安心感の中で僕の思ったものを書くことができました。もしそれがなかったら、「これで合ってるのかな?」「こういうこと書いたら全然違うかな?」と思って何も書けなかったかもしれない。

徳久 僕はクイズの描写について意見を言って、田村君は小説そのものに意見を言う感じでしたね(笑)。といっても、クイズ描写ははじめからかなり正確だったので、そこまで指摘は多くなかったです。
小川 例えば、今回の作品に出てくる本庄絆(クイズ番組『Q-1グランプリ』の決勝戦における、主人公・三島玲央の対戦相手)はかなり偏ったクイズ観を持っている人なんですけど、田村君からは「本庄を悪として断罪するような作品にはしないでください」「ああいうのも認められるべきなんです」みたいなことをめちゃくちゃ言われましたね。一方で徳久君は、ただただ「クイズの小説書いてくれて嬉しい!」みたいな(笑)。
高山 無邪気(笑)。
小川 あはは(笑)。無邪気といえば、主人公の三島も基本的に無邪気なんですよね。金にもならないのに、ただひたすら本庄のゼロ文字押し」について調べ続けたり……。僕からすると、最初は「これだと、ちょっと動機として弱いかな?」という気持ちもあったんですよ。「ひたすら調査をつづけるなら、『お金が欲しい』ぐらいの動機がないとだめなんじゃないのかな?」と思ってたんですけど、「徳久君だったらきっとこれぐらいするだろうな」みたいな(笑)。

――「一般人が読んだら違和感あるかもしれないけど、現実にこういうやつがいるんだから大丈夫だろう」と(笑)。ちなみに、高山さんは『君のクイズ』は読まれましたか?
高山 小川さんからは「読まなくていい」って言われたんですけど、一応、読みました。そういうクイズプレイヤーの勝負は野球を見るのと同じで、神々の遊びを見ているような感覚ですよね。……ちょっと質問なんですけど、小川さん自身は人生の中で、「クイズをやりたい!」って思ったことはなかったんですか?
小川 ないですね。
徳久 そうなんですか?
小川 というか「無理」って思ってました。例えば僕は将棋を見るのが好きで、最低限の定石は知ってるし、盤面見ればどっちが優勢なのかわかるけど、実際にやるってなったら全然勝てないと思うんですよ。で、クイズもそれに近いというか……。まあ、高山さんとだったら勝てる気はするけど(笑)。
高山 「中日ドラゴンズの中継ぎを5人答えろ」とかだったら、たぶん私のほうが早いですよ(笑)。
徳久 いや、それは僕とやっても高山さんのほうが絶対強い(笑)。高山さんこそクイズしようと思ったことはないんですか?
高山 やらないです。「クイズをしろ」って言われたこともないので(笑)。あと、もしお呼ばれするとしても、クイズ番組よりは『SASUKE』のほうが……。
小川 でも、高山さんって最初のパッパッパッパってやつ(※クワッドステップス)できるの? 高山さんっていつも時速2キロぐらいで歩いてるから、あれを突破できるイメージがわかないんだけど。
一同 (笑)

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