今年3月、惜しまれつつ終了したバラエティ番組『勇者ああああ』にはゲームの面白さを伝えるべく体を張る芸人たちに混じって名だたるクイズ王たちもたびたび出演していたことをご存じだろうか? 番組から溢れていた、演出家・板川侑右のお笑いとゲーム、そしてクイズへの愛。板川が語るお笑い理論、そしてクイズ王の「取り扱い方」とは?
(2020年2月17日収録 聞き手:大門弘樹 写真:友安美琴)
<『勇者ああああ』が見出したクイズ王のいじり方 板川侑右インタビュー(前編)>
板川侑右(いたがわゆうすけ) 1985年、千葉県生まれ。明治大学卒業後、2008年にテレビ東京に入社。制作局クリエイティブビジネス部所属。『所さんの学校では教えてくれないそこんトコロ!』『ピラメキーノ』『ゴッドタン』『トーキョーライブ22時』『モヤモヤさまぁ~ず2』。『勇者ああああ~ゲーム知識ゼロでもなんとなく見られるゲーム番組~』『マヂカルクリエイターズ』では演出・プロデューサーを担当。
古川洋平は、クイズ王がやる必要のない
ことを真面目に練習してくれる
――続いて『限界しりとり』のアプリをやった時のお話をお聞かせください。こちらの企画は「工業高校クイズ」とは違い、クイズ王のすごさがストレートに出る企画ですよね。
板川 そうですね。あれはもう「圧倒的な語彙力のある人がやったら面白いゲームだな」と思ったんですよ。なので、さっきの『QMA』と同じで、まずはすごいクイズ王として水上さんを仕込んで。で、そこに対抗する人で「もしかしたら勝てるんじゃねえか」って僕らが思う言葉の達人を5パターンぐらい考えたんですよ。CreepyNutsのR-指定さんだったら「あんだけ即興で韻を踏める人ならいけるだろう」とか、『もじぴったん』というゲームを作った後藤(裕之)さんだったら「あのゲームをひとりで作ったんだから、たくさん言葉を知ってるだろうし、円周率をあれだけ覚えてるなら記憶力もすごいだろう」って。で、「クイズ王にはクイズ王をぶつけたほうがいいだろう」ということで、大オチとして古川さんに出てもらったと。
――なるほど。
板川 あの時、後藤さんに円周率を暗唱してもらったり、R-指定さんにフリースタイルのラップやってもらったりしたじゃないですか? なので古川さんに「出た時になんか一ネタ持っていると、『なんでお前がやってんだよ!』っていうボケになるのですけど……」と相談したんですよ。そうしたら「堂本剛のモノマネできます」というので「じゃあ、それをお願いします」と(笑)。
――あれはそういう流れだったのですね(笑)。
板川 その時は「そこがウケれば、あとどうでもいいんで」と言ったんですよ(笑)。でも、あの時から古川さんで「クイズまったく関係ねえじゃん」っていうツッコミ待ちのイジりをやり始めるようになりましたね。
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――番組における古川君のキャラクターが確立されるきっかけになったと。ちなみに、「限界しりとり」というゲーム自体はどうでしたか?
板川 基本的なルールがしりとりだから、誰が見ても一瞬でルールがわかるじゃないですか。あのゲームは「そこがデカいな」と思いますね。しかもあれ、タダで遊べるじゃないですか? それが驚きですよね。そういうものが紹介できたのはよかったなと思います。
――この番組の中で、ああいう無料のアプリゲームを紹介することって珍しいですよね?
板川 他にはないですね。
――このゲームを取り上げようと思ったきっかけは?
板川 スタッフのみんなでやってみて、「これ、相当面白いぞ」ってなったんです。みんなが一発でルールを理解できて、かつそれぞれの戦い方の癖が出る。そこが面白いんですよ。
――あのゲームは古川君がものすごく強いですよね。
板川 強いですね。しかも、収録の際にめちゃくちゃ準備してきてくれるんですよ。あの人、歌の練習とかもしてくるし、トークも用意してくるし、しりとりのワードも全部入れてくるし……。だから僕、あの人のことをめちゃくちゃ信頼してるんですよ。バラエティの撮れ高を完全に理解した上でイジられているわけですから、けっこう恐ろしい人間ですよね。どう考えても素人ではないです(苦笑)。
――古川君は何でここまでテレビに適応できるのでしょう?
板川 テレビが好きなんでしょうね。そこで僕らとシンパシーが合うんだと思います。だって、何の疑問も持たずに半沢直樹のリハとかやりますからね(笑)。
――キンタロー。の中野渡頭取のモノマネにかぶせた回ですね(笑)。「クイズ王」って、普通は知識だけを求められるのですが、古川君はそれ以外のスキルも相当あるのでしょうね。
板川 そうなんですよ。しかも、やってくればくるほど面白いというか……。そもそも、「セリフを覚えてください」なんて、本来はクイズ王がやる仕事ではないじゃないですか? だから、さっきの話に戻っちゃうんですけど「関係ない人が、関係ないことをやる」というのが一番面白いんですよ。だって「なんでお前がやっているんだよ!」っていうだけでボケになりますし。
――たしかに。
板川 しかも、古川さんはそこをわかっている上で、めちゃくちゃ真面目に練習してくるんですよ。僕は「やる必要のないことを真面目に練習してくる」っていうのは最大のボケだと思っているのですけど、それをやってくる。だって、芸人でもないクイズ王が、深夜にやっているよくわかんない番組のために園山真希絵とのデュエットの練習をさせられるんですから。
――でも、この古川君の面白さに気づいているのって、板川さんだけですよね?
板川 ……どうなんですかねえ? でも、あの人のクイズ王としてのスキルを全く使わないのはうちだけですからね(笑)。
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――古川君って、例えば『しゃべくり007』にも出てたじゃないですか? でも、あの番組で求められていたことと、『勇者ああああ』で求めていることは全然違いますよね?
板川 そうですね。多分、僕の中には「あなたはおしゃべりの人じゃないですよ」っていう理屈がまずあるんですよ。というのは、古川さんは芸人さんじゃないので。芸人さんだったらその場で上手いこと言ったり、しゃべったりしたら面白いんですけど、クイズ王はそういう役割の人ではないじゃないですか?
――板川さんからすると、古川君に求めているのはトークスキルではないと。
板川 はい。で、「クイズ王はお笑いの人でもないし、タレントでもない」という考え方からすると、むしろ一般の人寄りな訳です。だったら、「一般の人が悪意のあるスタッフに巻き込まれて、何かよくわかんないことを練習させられている」みたいな感じになった方が、圧倒的な可愛げが生まれる気がするんですよね。
――なるほど!
板川 結局、バラエティってのは可愛げの部分が大事だと思うんですよ。「この人が出てるから応援してあげよう」と思うことも多いと思いますし。だから多分、古川さんがイジられるたびに、「クイズ王に何やらせてんだよ」ってことで僕の好感度は下がっているんですよ。だって、最初こそ本人が得意だという堂本剛のモノマネをやらせましたけど、そのあとは「園山真希絵とデュエット」とか、本人が得意でもないことをやらせてるじゃないですか。しかも、今はもうクイズすらさせてもらえない(笑)。でも視聴者からすると、そういう姿を見るだけで「クイズやらないのに現場に来てくれるんだ」って思う気がするんですよね。それって、可愛げじゃないですか。だって本来なら「それ、僕じゃなくて良くないっすか?」って言ったっていい仕事だから。
――NGを出されてもおかしくないですよね。
板川 半沢直樹のリハだって、演技経験もないのに2時間ぐらいやってますからね。で、「セリフ覚えてきてください」って言われたから覚えてきたのに、来たら来たでほぼキンタロー。さんが踊ってるのを横で見てるだけだし(笑)。あれを観た人はみんな多分、「クイズ王いらねえだろ!」って思ったはずなんです。でも、その「いらねえだろ」っていう現場に来てくれる可愛げというか、ありがたさみたいなのが「ほかの番組とは違うのかな」という気がするんですよね。
――確かにほかの番組だと、「ウンチクを言ってください」とか、クイズ王に本来求められている役割をこなしているんですよね。
板川 ですよね。でも、僕はどっちかというと、その人の中にある人間の部分が見たいというか。だって、クイズ王はクイズができて頭がいいことなんて、もう他の番組でわかってるから。なので「そんなことは今さら聞かなくていいな」っていう気がするんですよね。それよりは、水上君がノコギリで木を切っている姿とか、伊沢さんがはんだ付けをしてる姿を見たいし。そういう意味では芸人さんと一緒で、クイズ王がうちの番組に来てくれた時には「あっ、意外とジョークが通じる人なんだ」とか「こんなくだらないものなのに一生懸命やってくれるんだ」みたいな可愛げな部分を引き出すのが、僕らの仕事なんですよ。それがバラエティなりのもてなしな気がします。で、そういう姿を流すことで「クイズ王も人間なんだな」とか「面白いものが好きなんだな」と視聴者に思ってもらえたら、「いい仕事をしたな」と思いますね。