9月13日、『第3回ニュース・博識甲子園』の全国大会が開催された。『ニュース・博識甲子園』とは、一般社団法人日本クイズ協会が、全国のクイズ部やクイズ好きの高校生にとってテレビ以外で目標となる公的な大会として、2018年に創設。第1回・第2回大会では、全国8か所の予選会場でペーパークイズを行い、上位8校が東京で行われる全国大会へと招待された(3人1組でチームを組み、全国大会への出場資格を得られるのは1つの学校から1チームのみ)。
ところが、今年は新型コロナウイルスの影響のため、従来の形での開催が不可能となり、完全オンラインの大会として開催されることとなった。予選から全国大会まで、全て自宅からリモートで参加できるため、これまで地理的なハンディキャップから予選参加できなかった四国や北陸、山陰地方の高校からの参加者も多く、昨年の573名を上回る631名の高校生がスマホやパソコンを通してしのぎを削った。
第1次予選は、3人のメンバーが同時刻に別々に用意された異なる50問のクイズ問題をわずか8分で解答する「全国一斉ウェブ試験」。その合計点で選抜された32校が、第2次予選に進出し、オンライン会議アプリ「zoom」を介して、2日間かけて先鋒戦・副将戦・大将戦を行った。第1回優勝校・栄東高校(埼玉)や、第2回優勝校・大阪星光学院高校(大阪府)も敗れる熾烈な戦いとなった第2次予選を突破したのは、この8校。
全国大会出場8校のうち、過去に『ニュース・博識甲子園』出場経験があるのは慶應義塾高校のみ。オンライン開催により、これまで予選会場がなかった新潟や島根からもベスト8進出校が現れた。まさに「NewNormal」の時代の『ニュース・博識甲子園』の幕が切って落とされた。
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短期決戦の慶應義塾、1年生でクイズ歴4年の早稲田
大会を進行するのは、3年連続でMCを務めるクイズ作家の日高大介と、大会サポーターに就任したQuizKnockの山本祥彰。ともに大学時代にクイズ研究会に所属した経験からクイズに励む高校生たちに温かいエールを送る中、1回戦で行われたのは「3文字完成クイズ」。1チームvs1チームの対決形式で、答えが3文字になる問題を大将・副将・先鋒が1文字ずつ解答する。先に3問正解したチームの勝利だ。
つまり、最初から3問連続正解すれば、短期決戦で勝負がつく可能性がある。知識量もさることながら、3人の総合力や、問題の“引き”、自分だけ間違えたあとの気持ちの切り替えも大切だ。
1回戦第1試合は、大阪府・北野高等学校と、神奈川県・慶應義塾高等学校の対決。東の雄と西の雄が早くもぶつかる第1試合、北野高校の先鋒・丹保くんは吹奏楽部で指揮者をしており、慶應義塾高校の先鋒・渡辺くんはチェロを演奏するという、アーティスティックな対決でもあった。
開幕1問目は「昨年は新元号『令和』を発表したことでも話題となった、在職期間が歴代最長となっている現在の内閣官房長官は誰でしょう?」。大会があった9月13日はまだ自民党総裁選が盛り上がっていたころ。時事へのアンテナが試された問題でもあり、両チームとも「菅義偉」で正解。この形式、漢字もしっかり書かねばならない緊張感もあるのだ。
2問目は「ニューヨーク近代美術館が所蔵する、ゴッホがフランスのサン・レミの病院で療養中に見た夜空を描いた絵のタイトルは何でしょう?」。解説のQuizKnock山本も「難問」と語るこの問題に、慶應義塾は「星月夜」を見事正解。ポイント2-1となり、北野は早くもあとがなくなってしまった。
3問目「原子力発言に用いられるウランとプルトニウムの混合酸化物を、アルファベット3文字を用いて“何”燃料というでしょう?」では、両チームとも大将が出した1文字が「M」。2文字は北野が「U」、慶應義塾が「O」を出し、この時点で慶應義塾の3人がガッツポーズ。最後の3人目で「MOX」を揃えた慶應義塾が、ストレートで準決勝行きを決めた。北野の3人は悔しさを滲ませながらも、「慶應に頑張ってほしい」とエールを送る。
1回戦第2試合は東京都・筑波大学附属駒場高等学校と、東京都・早稲田高等学校の「東京対決」。過去に『高校生クイズ』で優勝経験もある筑駒だが、優勝後にクイズ研究会がなくなってしまったため、自分たちで新たにクイズ研究会を立ち上げたという。対する早稲田は1年生チームながら、3人とも中学からクイズ研に所属し、クイズ歴は早くも4年だ。
2問目は両チーム不正解となり、3問目は「福岡県に実在する心霊スポットが舞台となった、今年2月に公開された清水隆監督の映画は何でしょう?」。「犬」「霊」「霊」「故」「村」「峠」という6文字が出され、MCの日高大介から「この6文字怖いですね……」という感想も飛び出した。正解は「犬鳴村」。筑駒は「犬」と「村」が合っていたが、副将・久松くんは4月までアメリカに留学していたこともあり、ちょっと厳しかったか。
4問目「BLM(Black Lives Matter)」は両チーム正解となり、1-2で早稲田がリーチ。5問目「酸素とオゾン、ダイヤモンドと黒鉛のように、同じ元素からなるが、原子の配列や結合が異なる物質を何というでしょう?」は、問題文が読み上げられると同時に、早稲田の副将・二階堂くんがガッツポーズ。その姿を見た筑駒の大将・佐藤くんが肩落とす。
実はこの問題、正解の「同素体」と「同位体」を間違えやすく、2文字目の副将が重要な鍵を握るのだ。「自信があった」という二階堂くんを含め、早稲田は「同素体」を正解。筑駒も正解するが、この時点で筑駒2-3早稲田となり、早稲田が準決勝に駒を進めた。
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先輩後輩の絆、そしてジャイアントキリング
1回戦第3試合は新潟県・高田高等学校と、奈良県・西大和学園高等学校の対決。3年生&2年生の混成チームである高田高校は、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)指定校である理系チーム。男女混成チームである西大和学園は、中学から4年半のクイズ歴を持つ。「4年半もクイズ歴があったらもうベテランですよ!」と驚くMC陣。
1問目は「合掌造りの集落が世界遺産に登録されいている場所は、岐阜県の白川郷と富山県のどこでしょう?」。正解は「五箇山」。西大和学園は副将・豊田くんがしっかり「箇」を押さえて、1ポイントを先取。
2問目「カロン」、3問目「李登輝」は両チーム揃わず膠着状態が続く。4問目「FPS」は高田高校のみ正解し1-1のイーブンに。勝負が動いたのは6問目。「山伏の姿で欧州へ向かう源義経と弁慶が安宅関(あたかのせき)を通過する様子を描いた、歌舞伎十八番のひとつは何でしょう?」。正解は「勧進帳」だが、1文字目を「勘」や「観」に間違えやすい。「歌舞伎十八番はまとめていた」という、西大和学園の大将・釣井くんの備えもあり、西大和学園が2ポイント目。
西大和学園リーチで向けた7問目は、「日経平均株価とは、東京証券取引所の一部上場銘柄から選ばれた、いくつの銘柄の平均株価でしょう?」という数値問題。高田高校は「298」、西大和学園は「225」。果たして正解は……「225」! 西大和学園が3ポイントを先取し1回戦を突破した。「先輩ともうちょっとやりたかった」と悔やむ高田高校の先鋒・中屋くんに、3人の絆を感じるのだった。
1問目「1918年、現在の『夏の甲子園』の前身である第4回全国中等学校優勝野球大会が中止される原因となった出来事は何でしょう?」は、正解の「米騒動」が書けず、両チーム不正解。「米」が書けていた松江高専の大将・佐々木くんは「作問したことがあったのに、他の2人に伝えていなかった……」と悔やむ。
2問目「井口理」は松江高専のみ正解し1-0。4問目「戊辰戦争の際に旧幕臣が結成し、上野の寛永寺に立てこもって新政府と戦った武士団は何でしょう?」は、N高が「彰義隊」を揃えて正解する。白虎隊と勘違いしてしまい、「白」を出した佐々木くんがどんどん画面奥に下がって小さくなる場面も。
5問目「ガガガ(文庫)」は両チーム不正解で、6問目は「フランス語で『溝がある』という意味を持つ、フランス・ボルドー地方の伝統的な焼き菓子は何でしょう?」。N高が「カヌレ」を正解しこれで1-2。「食べたことがある」「作ろうと思って調べた」という経験がポイントに結びついた。
N高のリーチで迎えた7問目。「鉱物の固さを表すモース硬度では『3』の基準となっている、炭酸カルシウムを主成分とする鉱物は何でしょう?」。両チームとも「方」「解」が揃い、勝負は3人目。「オープン!」の声と共に先鋒2人が出したのは、双方とも「石」。正解は「方解石」で、N高が予選1位の松江高専を破るジャイアントキリング!
緊張が解け、思わず涙がこぼれるN高の副将・西塚さん。松江高専の3人は「彰義隊」で大将が、「米騒動」で副将が、「ガガガ」で先鋒が1人のみ不正解だったため、それぞれが「あのとき当てていれば」と悔やんでしまう。……が、暗い空気を察した佐々木くんが「いや!お前らのせいだ!」と叫び、「お前もだろ!」のツッコミと共に全員が笑顔になった。1回戦の最後を盛り上げてくれた松江高専、ここでお別れなのは惜しいが仕方がない……。
これで1回戦の勝者は、慶應義塾、早稲田、西大和学園、N高の4校。振り返ってみれば、全て二次予選でブロック2位のチームばかり! 番狂わせの予感を覚えながら、戦いの場は準決勝に移ります。
(後編へ続く)
【ライタープロフィール】
井上マサキ
路線図マニアでテレビっ子のライター。『99人の壁』でグランドスラム達成(ジャンル「路線図」)。著書に『たのしい路線図』。宮城県出身。二児の父。