様々な業界で活躍するクイズ好きの社会人や、クイズで得た経験を生かしながら夢を追いかける学生を取り上げ、クイズとの出会いやクイズの魅力を語ってもらう新連載「クイズと私。」。第1回は、 メディア向けのクイズ体験会で優勝したことをきっかけにクイズの無限性に惹かれ、現在は社会人クイズサークルの仲間とともに楽しんでいるという、タカハシマコトさん(WEBメディア『Sirabee』『fumumu』編集主幹)にインタビュー。
1975年、東京都出身。一橋大学社会学部卒業後、博報堂でコピーライターとして活躍。2014年に株式会社NEWSYを設立し、現在はWEBメディア『Sirabee』『fumumu』の編集主幹を務める。2018年に『パネルクイズ アタック25』に出場。またジャンル「アゲハ蝶」で出場した『99人の壁』への出演経験も。2018年から社会人クイズサークル「Quizin」に所属。
ネットメディアの皆さんと仲良くなれるんじゃないか
邪な気持ちで体験会に参加したら、たまたま優勝してしまって
――タカハシさんはクイズの前は競技かるたにハマっていたそうですね。まずは競技かるたに興味を持たれたきっかけから教えてください。
タカハシ 40歳のときに、映画『ちはやふる -上の句-』の広告案件を担当したのがきっかけです。当時はすでに今の会社を作っていて、博報堂でクリエイティブディレクターの仕事をしながら『Sirabee』の編集長もやっていた時期なんですが、『ちはやふる』は博報堂の仕事ですね。「広告をご提案するからには作品や競技かるたのことを知っていないといけない」と思って漫画を読んで、競技かるたの体験会に参加してみたら、100首を覚えていない状態だったのにとても面白く感じられて。子供の頃から記憶力はいいほうでしたし、40代の趣味としても面白いかなと思い、かるた会に入会しました。ちなみに、そこから1年くらいでかるたの初段を取りました。人生初の初段でしたね。
――なるほど。お仕事の話も興味深いですね。博報堂でコピーライターとしてお仕事されていたところから『Sirabee』の編集長に。
タカハシ 1997年に入社してからクリエイティブ一筋で博報堂人生を歩んできて、転機が訪れたのは2011年でしたね。テレビCM、新聞広告、ポスターといろいろな媒体の案件を担当する中で、CMの仕事が多くなっていた時期なんですけど、東日本大震災が起きて、テレビCMの放送が止まって。「広告会社ができることって何だろう」と自問自答した結果、東北の日本酒の蔵元さんたちと「自粛ではなくお花見をしよう」と呼びかけるプロジェクトを立ち上げることにしたんです。で、経済を回さないと、地元でなんとか生き残っている産業が大変なことになってしまう、というようなメッセージを発信したらそれがネット上で大きな動きになり、「広告以外の方法でも世の中に影響を与えることができるんだ」「インターネットにはすごい力がある」と。そう感じたのがきっかけで、グループ内のベンチャー制度を使って2014年にネットニュースメディアを運営するための会社を立ち上げました。でも、コピーライターの仕事も好きだったので。僕に依頼が来る限りはCMや広告の仕事も受けようかなと思っていたところに来たのが、先ほどお話しした『ちはやふる』の案件でした。
――『Sirabee』の編集長時代は、具体的にどういうお仕事をされていたんですか?
タカハシ 2022年12月に編集長を当時の副編集長に譲って、それからは「社長業を中心にやります」っていう意味で”編集主幹”を名乗っているんですけど、編集長時代は編集長という名の何でも屋さんでしたね(笑)。今の規模になっても正社員は15人ほど。そこまで大きな会社ではなく、立ち上げた頃なんかもっともっと小さい会社だったので、現場にはたくさん行きますし、メディア全体の運営っていうんでしょうか。例えば「こんな内容の記事がヒットするんじゃないか」「何時ぐらいに記事を出すのがいいんだろうか」みたいなことも私が判断しないといけないんです。だから、システム、取材、撮影、仕組みづくり、広告、と紙媒体の編集長よりも様々なことに関わらなければいけませんでした。当時は『文春オンライン』も『バズフィードジャパン』もなかったので、『Yahoo!ニュース』『J-CAST ニュース』『ねとらぼ』『ロケットニュース24』といった老舗ネットメディアさんの背中を追いかけながら運営していましたね。
▲実際のお仕事風景がこちら。普段は在宅勤務をしており、会社にいるときはこの一人がけのソファが定位置だそう。
――そこから、次のクイズという趣味にはどうつながっていくのでしょうか?
タカハシ 2017年の話なんですけど、メディア向けクイズ体験会の開催情報が、Facebookにフィードされてきたんです。で、主催者のスマートニュース(当時)・松浦シゲキさんをはじめとしたネットメディアの皆さんと仲良くなれるんじゃないか、と非常に邪な気持ちで参加してみたんですよ。クイズなんかまったくやったことがないですし、実はクイズ番組もほとんど見たことがなかったんですけど(笑)。
――オンラインサロンのような交流を期待して参加されたわけですね。
タカハシ はい。だから僕にとっては、それがクイズ体験会じゃなくてもよかったんです。お茶会でも飲み会でも何でもよくて。名刺交換会のつもりで行ってみたら、体験会と言いつつガチのクイズ大会だったんですけど(笑)、僕みたいなクイズ未経験者しかいないのでたまたま優勝してしまって。そこで思ったのが「クイズの問題を聞いて指を反応させるという動きはかるたと似ていて、面白いし僕でもできそうだ」ということでした。かるたで札を取れた瞬間はもちろん気持ちいいんですけど、早押しボタンがピカピカと光るクイズは、押せた瞬間がもっと気持ちよかったですね。会場に入ったときもまず「あ、テレビ番組で使うようなボタンがある! ピカピカ光ってる!」と思いましたし。
――早押しボタンの魅力からハマっていったんですね。
タカハシ ええ。ほかの人よりも早くボタンを押せたら、自分の手元のランプがピカピカ光る。その瞬間の、ブワッとドーパミンが出たような感覚はよく覚えていて、それがすごく癖になりました。『クイズマジックアカデミー』や『Answer×Answer』、『みんなで早押しクイズ』などのクイズゲームは全部クイズを始めたあとに知ったんですけど、そういうオンラインでのクイズゲームを先にやっていたら、実際のクイズにはハマっていなかったかもしれません。
サークルのみんなとレベルアップしていくのが楽しいです
アラフィフで今から強くなろうとしていますからね(笑)
――体験会でクイズと出会い、現在は社会人クイズサークル「Quizin」にも所属されているんですよね。
タカハシ はい。体験会の次のステップとして、まずクイズルームソーダライト(早押しクイズが楽しめる日本初のクイズ専門店)の齊藤喜徳さんによるクラスに参加するようになったんですけど、毎月毎月、新しい問いが何十問、何百問と投げかけられるんです。そこで感じたクイズの無限性というのが非常に面白くて、勝つという経験もできて、かなりハマってしまい。そういうハマり度の高かった人たちが集まってできたのが「Quizin」ですね。
――メンバーはタカハシさんのようなクイズ未経験者ばかりですよね。
タカハシ メディア向け体験会を立ち上げられた松浦さんがリーダーをやっていて、彼はもともと学生時代からのプレイヤーなんですけど、それ以外のメンバーはほぼ未経験です。初めはメディア関係者中心だったのが、今はお医者さんがいたり、気象予報士がいたり、投資家がいたりとメンバーの職業の幅が広がり、それぞれ特定の分野に強いせいか『アタック25』や『99人の壁』に出ている人が多いという、不思議なサークルです。
――番組に呼ばれやすい個性派ぞろいということですね。
タカハシ 皆さんクイズを始めてまだ数年のはずなのに、なぜかテレビのクイズ番組によく出ているんですよね。本当に刺激的なサークルです。あとは皆さん、食べることと飲むことが大好きという共通点もありますね(笑)。メンバーのお宅にお邪魔してクイズをすることが多いんですけど、それぞれが見つけた美味しそうなものを持ち寄るので、ご飯自慢大会みたいになっています。
――クイズ自体も皆さんが専門知識を持ち寄って楽しまれているそうですね。
タカハシ おっしゃる通りです。リアルで集まる例会とオンラインの会を毎月1回ずつ行っているんですが、問題集を読んだり、本やネットで何か調べて問題を作るというよりは、「自分の体験や専門性を生かした知識を問うてみよう」という意識の人が多くて。なので、実はクイズっぽい問題は苦手なサークルです。皆さんクイズの経験がないので、「『なぜ山に登るのか』と聞かれ『そこに山があるから』と答えたエピソードで有名な、イギリスの登山家は誰?」(正解は「ジョージ・マロリー」)といった定番問題も早く押せないという(笑)。
――クイズプレイヤー向けの大会など、サークル以外のクイズの場にも積極的に参加されていますよね。
タカハシ 初めはメディア向けクイズ体験会やソーダライトしか参加経験がなかったんですけど、2018年に初めて日本クイズ協会主催の『JQSグランプリシリーズ』という大会に挑戦してみて、「大会に出るのも楽しいな」と。各地で有志によるクイズ大会が開催されているので、個人でエントリーしては予選のペーパーテストで落ち、一緒に参加したQuizinメンバーとカレーを食べて帰ってきたりしていましたね。そのうち「せっかくサークルがあるんだから、団体戦もやりませんか」なんていう話が出てきて、そこから団体戦にも挑戦するようになりました。初めて団体戦に出たのは確か2021年ですね。最初に参加した『AQL』(日本最大規模の早押しクイズの全国リーグ)は勝ち抜けることはできなかったんですけど、「楽しかったな」「そこそこ頑張れた」という感触で。2022年は『クイズサークル日本一決定戦「天」』という大会のために初めて大阪に遠征しました。そのときも、1回戦で負けはしたんですけど、こんな素人サークルなのにビリじゃなかったんですよ。「みんな1回はボタンに触れてよかったね」という空気で、こういうことを繰り返すうちにだんだん団体戦にもハマってきました。今も「今年はどうする?」「オンラインでももっと練習会をやろうよ」と盛り上がっているところです。
▲現在はマイ早押し機を所有するまでに。
――個人戦と比べて、団体戦のどんなところが面白いですか?
タカハシ 団体戦だと、自分がミスしても意外な方が意外な形で活躍してくれて勝ち抜けることができたりするんです。一人だけが頑張ってもダメで、みんなで力を合わせてみんなでレベルアップしていくことによってようやく勝ち抜けられるところが楽しいですね。あと、大会直前は頻繁にオンラインで練習するんですけど、それぞれ仕事があるのに夜遅くまで一緒に何かをするというのも、子供の頃みたいで楽しいです。アラフィフで今から強くなろうとしていますからね(笑)。この年齢から始められるっていうのはクイズの良さかもしれないです。
――クイズにハマったことで、日常生活や仕事などに変化はありましたか?
タカハシ 僕はクイズの問題=世の中の面白い部分だと思っているんですけど、問題を作る側になって、世の中の不思議なところ、面白いところに気づくようになりました。ものの見方が変わったというか、世の中を「あ、これって問題になるかも」と思いながら眺めるようになったというか……。例えば、少し前に「日本の世界自然遺産で、北海道の知床と東北の白神山地、面積が大きいのはどちらでしょう?」という問題を作ったんですが、答えはシンプル。知床なんですね。なんでこれを問題にしたかというと、面積が知床は7.1万平方キロ、白神山地は1.7万平方キロ、つまり対になっていて、覚えやすいし面白いからなんです。そういうクイズ的なものの覚え方、考え方をするとすごく知識が深く入るので、1回覚えちゃうともう忘れないんですよ。いわゆる「お勉強」は結構大変ですけど、クイズは全然違って、いろんな知識を結びつけながら楽しく覚えることができるので、そこはクイズのいいところだと思いますね。ニュースで見聞きした名前について「こういう名前だからこういう人なんじゃないか」みたいな仮説を立てることもできます。
――なるほど。
タカハシ 「ヘンリー8世の側近だったトマス、イングランド共和国の初代護国卿だったオリバーに共通する、ファーストネームは何でしょう?」(正解は「クロムウェル」)という問題も、イングランド共和国の護国卿だったオリバー・クロムウェルを何代か遡ると、ヘンリー8世の側近であるトマス・クロムウェルがいて、ヘンリー8世はエリザベス1世のお父さんで……という知識がつながっているんですけど、それを昨年のエリザベス2世の訃報を聞いて思い出したりしました。実はクイズ用のメモ帳を持っていて、日常生活の中で面白い知識に出会ったときはメモするようにしています。そういう視点で世の中を見られるようになったのはクイズのおかげですし、場合によっては仕事にも生かせるんですよ。
――記事の執筆にも生かされているんですね。
タカハシ 例えば……日本の球春到来って2月1日なので、立春よりも3日早いんです。2月1日に「いよいよ球春到来、沖縄で各球団が一斉にキャンプイン」っていう記事を公開するなら、「立春に3日先駆けて」なんて書き出しにすることもできますよね。これってクイズ的な面白さのある知識だから、きっと読者にとっても面白いと思うんです。クイズ的な視点にはとてもお世話になっているというか、本当にありがたいです。
クイズ的なものの見方をすると、ダイナミックに世界が動き出す
ぜひこれを体験してもらいたいです
――今後について、目標はありますか?
タカハシ ちょっと大きな夢なんですけど。優勝できなくてもいいし、決勝に残れなくてもいいんですけど、「残れないことが悔しい」って思いたいです。これまでペーパーを抜けられなくて早押しボタンに触れられずに帰ることが何度もあったものですから、ペーパーを抜けられたらもうそれだけで嬉しいですし、「参加することに意義がある」という感覚なんです。でも、これからは、「決勝に残れなかったら悔しい」ぐらいの厳しい視点を持って大会に臨めたらいいなと。それは団体戦も同じで。「大阪に一緒に行けて楽しかったね」「みんなで準備できてよかったね」「勝ち抜けられなかったけど頑張れたね」みたいなところから、みんなの意識が合えば、ではありますが「優勝できなかったから悔しい。だって一人ひとりこんな専門性があるんだもん」って思えるぐらいになれたらいいですね。
――マラソンなんかと同じで、「参加するだけで楽しい」というところから徐々に記録を意識するようになるという、まさに今は切り替えの時期ですね。
タカハシ そうですね。今はまだ参加するだけで楽しいんですけど、今年からは、ペーパーを抜けただけで喜ばず、勝ち抜けられないことをしっかり悔しがれるように(笑)。今は「QuizKnock」だったり「QUIZ JAPAN」だったりさまざまなコンテンツが存在しているので、それを利用して若いうちからクイズに触れられたら、それはものすごくいい体験になるだろうなと感じています。先ほどお話ししたみたいに、クイズ的なものの見方をすると世の中が変わって見えるんですよ。全然関係のない二つの事柄がつながったりとか、すごくダイナミックに世界が動き出すので、ぜひこれを若いうちに体験してもらいたいですね。
――ちなみにタカハシさんのお子さんもクイズはやられているんですか?
タカハシ 何度かソーダライトに子供たちを連れて行っていて、嫌々やっているようではなさそうなので期待しているところです。この間はスタータークラスに息子が一人で参加して、残念ながら結果は最下位だったんですけど、見学していたらボタンを押せたときは嬉しそうな顔をしていましたよ。それと、うちの子たちはあまりゲームには興味がないようなんですが、「これを入れなさい」とアプリの『みんなで早押しクイズ』をインストールさせて(笑)。ちょっとずつやり始めているみたいです。知識の正確性に関して言うと、実は僕をしのぐところもたくさんあるので、僕が偉そうに解説していると子供から「ううん、それは違う」「それは違う人」と言われることもあり、 早く僕を超えてほしいなと。楽しみです。
――頼もしいですね。
タカハシ クイズって若いうちに出会えなかったとしても、何歳からでも気軽に始められますし、本当にいい趣味だなと思います。世の中には「そんなことは別に今さら教えてもらわなくても知ってらあ」っていう知識があると思うんですけど、同じ知識でも、クイズ的な見方をしていくと、もう一度その知識がフレッシュに感じられるんですよ。僕はもともと生き物や歴史が大好きなんですけど、クイズを始めてから何度も「あ、この知識とこの知識ってつながっているんだな」「これとこれってこうなんじゃないかな、だったらこれって問題になるよな」という体験をしているんです。するとやっぱり、今まで好きだったことの知識がまたフレッシュになるんですよね。こういったクイズ的なものの見方、考え方は老若男女みんなにおすすめですし、プレイヤーとしても早押しボタンを押してランプが光るとアドレナリンが出るので、多くの人にクイズを体験してほしいなと思っています。