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INTERVIEW

乾 雅人×斉藤 哲夫インタビュー(PART 2) 「QUIZ JAPAN vol.7」より先行掲載

乾 雅人×斉藤 哲夫インタビュー(PART 2) 「QUIZ JAPAN vol.7」より先行掲載
『ノックアウト~競技クイズ日本一決定戦~』総合演出
乾 雅人 Masato Inui
1964年、岐阜県生まれ。テレビ朝日でアルバイト後、1990年にライターズオフィスに入社。2004年に有限会社フォルコムを設立。『SASUKE』は第1回から総合演出を担当。その他の代表作に『クイズ100人に聞きました』『スポーツマンNo.1決定戦』『筋肉番付』『DOORS』『Dynamite!!』『K-1 WORLD MAX』『世界卓球』『ワールド・クイズ・クラシック』『リアル脱出ゲームTV』『ゼウス』など。
『ノックアウト~競技クイズ日本一決定戦~』演出
斉藤 哲夫 Tetsuo Saito
1971年、青森県生まれ。法政大学を卒業後、1996年にIVSテレビ制作に入社。2013年にフリーのディレクターとして独立。代表作に『特命リサーチ200X』『ネプリーグ』『カートゥンKAT-TUN』『冒険JAPAN!関ジャニ∞MAP』『世界卓球』『SASUKE』『The MASTERS, My Life』など。

『ワールド・クイズ・クラシック』から5年。『SASUKE』を生み出した演出家・乾雅人が再び動き出した。競技クイズの日本一決定戦。地上波では不可能な夢のために男たちが集まったのは、CSという新天地だった!(2016年8月30日収録、取材:大門弘樹、写真:辺見真也)

「誰でも参加できるわかりやすさ」がないことが
競技クイズの弱点

大門 続いては予選会のお話にいきましょう。まず、ここで常世(晶子)さんの登場です。常世さんには予選・本戦と問題読みをお願いしたわけですけど、メチャクチャ素晴らしかったです。常世さんは乾さんのご推薦でしたね。

 彼女は元々、岩手めんこいテレビの女子アナだったんですよ。で、そこで何年かやったあとでフリーになって、その後に『筋肉番付』のインタビュアーとしてきたんですけど。あの番組のインタビュアーって、局アナとかも含めていろんな方がいらっしゃったんですけど、彼女は実力がダンチ(段違い)だったんですね。

大門
 そうなんですね。

 その後、会社を移られたりで、東京を離れたりもしたんですけど、2年くらい前に東京に戻ってきて「また仕事したいです」ってことだったんですね。なので「じゃ、なにか一緒にやりましょうか」っていう話はしていたんです。で、今回の話があった時に、「彼女は適役なんじゃないか」と思ったんですよ。

大門
 それは、どういった点でですか?

 まず、イベントが大好きで、イベントの司会者をたくさんやっているんですよ。僕、だいぶ前に彼女が仕切るイベントを見に行ったことがあるんですけど、まぁ、うまいんですよ。それこそ、おじいちゃんたちが観に来るような歌謡ショーから、企業がやるようなものまで。だから、イベントとして予選を仕切るのには合っているんじゃないかと。あとは、ベテランで経験も豊富だし、クイズの問読みっぽいイメージもあるんで。

大門
 クイズの世界には独特の問題の読み方もあるんですけど、常世さんにはそれとは違う、アナウンサーの王道の読み方をリクエストしました。結果、『ノックアウト』にはそれが本当にハマりましたね。

 彼女はこの番組をやるって決まった時に、YouTubeとかで福澤さんとか、ありとあらゆるクイズの問読みを見たらしいんです。で、いろんな人の問読みを見て、自分なりに咀嚼したみたい。勉強家なんですよね。

大門
 そうだったんですか!

 仕事に対する考え方っていうのは、やっぱすごいですし、ちゃんとしている。打ち合わせもしたがるし、実力あるし、努力家だし……。素晴らしいタレントだと思いますよ。

大門
で、実際に予選会が始まり、ここで本戦に出場する8人が決まったわけですけれども、まずは予選の模様をご覧になった感想を。

斉藤
 そうですね、そもそも僕は予選の時に、全く何も知らなかったんですよ。「何人集まって、そこから何人が選ばれるか」ということも、「どんなクイズが出るのか」ということも知らずに会場に行ったんです。なので、僕の場合は、ただただ「こんなすごいことをやっている人がいるんだなぁ」というところからのスタートでしたね。競技クイズというものに、今まで全く触れてこなかったので。でも予選を見ていて「面白くなりそうだな」っていう印象はありましたね。

大門
 それは、どういった点で?

斉藤
 あそこで残った8人が、それぞれ全然違ってたじゃないですか。それは見た目うんぬんじゃなくて、キャラクターというか、話し方とか答え方といったものが。なので「たまたま決まった8人だけど、面白そうなメンツだなぁ」というのが、あの時の印象ですね。

大門
 競技クイズというのは、初めて見る方にとってはかなり独特に感じられたと思うのですが。

斉藤
 そうですね。言うなれば「普通の地上波のテレビにはなかった」っていう印象です。やっぱり見ていて、やっている内容に僕が全然ついていけない部分もあるんで。申し訳ないですけど、正直言って「何?その問題」っていうのが7割から8割くらい。

大門
 ですよね。

斉藤
 そういうものを、ずーっと見ていて……。で、普通なら多分、そういうのを見続けるとストレスになるんですよ。でも、僕は全然違うベクトルで見ていて。

大門
 違うベクトル、というと?

斉藤
 要は、オリンピックの陸上競技を見るような感じで見ていたんですよ。問題については深く考えず、ただ「このセットでは、誰が生き残るんだろうな?」とか、「あ、この人は面白いな」「あの人は1人だけ正解してスゴイ」みたいな見方を。だから、「クイズを見ていた」ではなく「戦い方を見ていた」っていう感じでしたね。実際に現場で見て、それが楽しめたので、「競技を演出するための舞台さえあれば、番組になるな」って。そういう印象を持ちましたね。

大門
 なるほど。

斉藤
 地上波のクイズ番組だったら、視聴者は問題そのものに興味をもつじゃないですか。だから、話題の新商品の名前とか、知らなきゃ恥ずかしい常識とか、視聴者が知りたくなるような問題がメインになる。それを見て、「あ、なんか聞いたことがある」「え、アレわかんないの? 俺ならわかるのに」みたいになって、答えが出た時に「あぁそうなんだ、初めて知った」とか「ほら見なさいよ、言った通りじゃない」っていう感じで楽しめるわけです。でも、「そういうクイズ番組とは違うものを作らなきゃいけない」っていうことを、予選会に行って初めて知らされたという……。僕にとっては非常に勉強になりました。

大門
 ……実はクイズの世界の人って「自分たちがやっている競技クイズは、なぜ地上波にならないのか?」っていうことを、全然理解できてないのですよ。

斉藤
 あ、わかってないんですね(笑)。

大門
 そうなんです。

斉藤
 競技クイズプレイヤーは、「なんで『ノックアウト』を地上波でやんないの?」って思っていると(苦笑)。

大門
 「『ノックアウト』すげぇ! このまま地上波でできるじゃん!」ってツイートしてくださっている人もいて、それはありがいのですけど……。でも、僕の立場から「そうじゃないんです」って言っておくことも、すごく大事なことだと思っていて。

斉藤
 地上波ではできないという理由は、さっき言ったような難易度の点が大きいですね。競技クイズの世界には、残念ながら「誰でも参加できるわかりやすさ」がないので……。視聴者の理解とか、共感できるレベルを遥かに超えちゃっている、というか。それが多少なりともないと、成立しづらい。見ている人を置いてけぼりにしちゃって、その結果、見てもらえなくなるという現象が起きるので。

大門
 よくわかります。

斉藤
 なので、何かしら多くの視聴者がついていける要素っていうものがないと、視聴率を気にする地上波では、いろいろと難しいのかなぁ、と言う印象ですね。

大門
 乾さんはいかがでしたか?

 まず、競技クイズの会場に行ってちゃんと見るのは5年ぶりだったわけですけど。僕が最初に競技クイズを見たのって、『早押王』でしたっけ?

大門
 そうですね。

 その『早押王』に行った時のインパクトがそのまま残っていたので、「もう一度あれを見ているんだ」っていう、楽しさみたいなものがありましたよね。「そうそう、こうだよなぁ」っていう。で、予選に来た人の中には、『WQC』の時に顔見知りになった方も結構いらっしゃったので、詫びたり、「頑張ってね」って声をかけたり。会場の雰囲気はよかったですよね。で、予選が始まって、ペーパークイズの結果が発表されたら、顔見知りの方、『WQC』の予選を通って本選に進んだ方なんかがけっこう残っていて。で、まず驚いたのは、そういった顔見知りの方が、会場に何人もいらっしゃったことなんですよ。

大門
 え、そうなんですか?

 「この人たち、まだクイズの世界に残っているんだ」って。実は「5年も経っちゃっていると、全然知らない人ばかりになっているかもなぁ」って、どこかで思っていたんです。そうしたら、『WQC』に出ていた方が何人も残っていたので、「すごいんだな、やっぱり」と。それから、奥畑(薫)さんや為季(正幸)……。そういう人たちが、よくぞ残ってくれたなぁという。というのは、触ったことがない人達ばかりが残ると、どうやったら良いのか全くわからないから。

大門
 あぁ、なるほど。

 大門さんには8人の肩書を考えていただいたりしたんですけど、正直、僕にはキャラクターがわからない。だから、『WQC』で活躍した奥畑さんや為季が残ってくれたのは、結構ありがたかった。

大門
 斉藤さんは予選終了後、ネット用に8人の紹介ビデオを撮って、その時に初めて、8人のキャラをご覧になったわけですけど……。

斉藤
 そうですね。僕は全員「初めまして」で何も知らなかったのですが、話を聞きながら「面白そうだな」とは思ったんですよ。とは言っても、地上波のテレビに出て話題になるような、強烈なキャラクターではないですし。それに、もしタレントさんだったら、「こうしてください」って言った時に、こちらの想像以上のことをやってくれたりするんですが、あの8人はそこまで器用な人たちではないという。

大門
 なるほど。

斉藤
 たとえば予選会が終わって、初戦の相手が決まったあとで「相手を倒すにはどうしたら良いか」「これから1ヶ月くらい、どういうことをするのか」ということをインタビューして聞いたんです。でも、その時に「意気込みをどうぞ」って聞いても、なかなか答えてくれなかったり(苦笑)。

大門
 そういうのは、慣れていないかもしれませんね。

斉藤
 その、なんか淡々としている感じが、「不思議だな」って……。たぶん競技クイズの世界にいる人って、クイズをやる時には、負けるのが嫌だと思っているはずなんですよ。で、負けるのが嫌だから、自分たちで問題を作って、それを覚えたりとか、すごく努力しているわけじゃないですか。そうやって努力して、負けず嫌い度がすごく高いはずなのに、その感情が表には全然出てこないんですね。

大門
 はぁー、なるほど。

斉藤
 だから最初、収録の時の台本を作る時に、トークを盛り上げるための質問とかが上手く浮かばなかったんですね。激しさをなかなか見せてくれないから、「この選手にこういうことを言ったら、ちょっとキレて言い返すはずだ」とか「こんなツッコミをしたら、きっと激しい敵対心を燃やすはずだ」っていうのが、すっと思い浮かばなかったんです。でも、「たぶん本番になったら自然発生的にそうなるだろう」と割り切って、やついさんにお任せしようと。リングの上に立って相手に直面したら、プレイヤーは絶対にそういう感情になるはずだから。

大門
 スイッチが入ると。

斉藤
 僕は舞台には上がれないので、それは現場の流れにお任せするしかないなぁ、と。なので、台本にはトークに必要な最低限の情報だけ入れておけば、たぶん盛り上がるんじゃないかなと思っていたんですけど。……それが想像以上だったな、って。

大門
 すごかったですよね。

斉藤
 でも今回、やついさんじゃなくて、違う人を起用していたとしたら、あれだけ盛り上がったのかなぁ、と。そういう意味では、やついさんは素晴らしい進行をしてくれたなぁって思いますね。もちろん8人のプレイヤーも素晴らしかった事が、良い化学反応になったなぁという印象は受けましたね。

関連記事:乾 雅人×斉藤 哲夫インタビュー(PART 1) 「QUIZ JAPAN vol.7」より先行掲載

初めて明かされるやついいちろう起用の真相!

 実は、最初は福澤(朗)さんでやるつもりだったんですよね。

斉藤
 え、そうなんですか?

 イメージとして、「福澤朗が来たら、本物のクイズ番組っぽいんじゃないか」と。……でしょ?

斉藤
 そうですよね。いろんな意味で……。

 しかも僕自身、福澤さんとはけっこう番組をご一緒しているので。なので「ぜひ福澤さんにお願いしたい」っていうのが最初ですよね。

大門
 そうですね。乾さんが番組を快諾してくださって、最初の会議で福澤さんにあたってみようという話になりましたね。

 で、企画書をファミ劇さんに作っていただいて、福澤さん宛てにお送りして、マネージャーさんとお話をしたところ、「8月に舞台がある」と。で、福澤さんは当然、その準備というか稽古をしなきゃいけないので、その期間中は今やっているレギュラー番組以外、特番なんかの仕事は一切受け入れられないっていう話だったんですよ。「せっかくの機会だし、乾さんがやるということもあってお受けしたいんだけど、舞台に出るので無理なんです」というご連絡が来て、福澤さんがダメになった。

斉藤
 それ、何月くらいの話ですか?

 5月くらいですっけ?

大門
 そうですね。結構ギリギリくらいまで…。

 それで、ゼロからやり直しになってね、「どうすんだよ」って。で、その頃は『SASUKE』とかいろいろあったから、メールで人選をいろいろやり取りして。

大門
 しましたね。

 で、何人か候補が上がってたんだけど、そのうちに、寿司屋さんだったかなぁ? たまたま、やついさんとご一緒したんですよ。その時に話をして、「やついさん司会って、面白いかな」って思って会議でご提案したわけです。で、「司会はやついいちろうでどう?」って言ったら、ファミ劇さんと大門さんは「やついさんでは『ノックアウト』を見るお客さんが納得しないんじゃないか?」と心配されるわけですよ。「やついいつろうには、クイズのイメージはないよね?」ということで。

斉藤
 まぁ、無いですよね。

 なので「大丈夫か?」という話になって。

斉藤
 そこでは誰にも賛同してもらえず?

 うん。でも俺は『リアル脱出ゲームTV』の時に、やついさんに「頭がおかしい天才」っていう役を付けてご出演いただいたことがあるから。だから「やついさんがクイズを知らなかったとしても、その時の頭がおかしいイメージなんかをお芝居として演じていただければ良いんじゃないか」と思ったんですよ。なので、その時に「『グラップラー刃牙』の徳川(光成)さんみたいなもんなんですよ」と言って。

斉藤
 あぁ、なるほど(笑)。

 うん。「地下格闘技をやろうとしている」みたいなイメージにして、「やついいちろうがイベントの主宰者なんだ」という体で台本を書けば伝わるんじゃないかと。で、そのあとにもファミ劇さんのスタッフが「やついさんが司会やっているの、見たことないです」っていう話になったりもしたんですけど……。でも、矢野ちゃんが「おもしろいですね」って言ってくれて決定した。だから、もし矢野ちゃんが乗ってくれなかったら……。

斉藤
 成立しなかったと。

 もしかしたら、梶原(しげる)さんとかになっていたかもしれないもんね。

大門
 矢野君は最初、福澤さんのような「ザ・クイズ司会者」路線のイメージでしたよね。

 梶原さん・辻(よしなり)さん、みたいな。

斉藤
 わかりやすい人、ですよね。

 格闘技のイメージもあり、「ザ・司会者」っていう感じの……。

斉藤
 「局アナ出身で、しっかり司会ができる人」みたいな。

 うん。

大門
 で、僕は予算感とか関係なく、「格闘家にやらせたら、格闘技っぽくなるのでは」っていうだけで、勝手に「須藤元気はどうでしょう?」みたいな案をメールで出していたんです。でも、最終的に一番良い形になって。

 僕が「やついさんならやってくれるだろう」と押し切って。まぁ、「やついいちろうでやったら、もしかしたら面白いんじゃないか」っていうくらいの根拠でしたけどね。

斉藤
 確かに、司会やっているのを見たことないですからね。

 実際、司会やったことなかったから。

斉藤
 あ、やっぱり? そうなんですか?

 「無い」って言ってたから。実は放送が終わった後に、やついさんと、やついさんの事務所の社長さんと一緒に食事に行ったんです。社長さんが言うには「クイズの司会をやってくれ」と頼まれたことは聞いていたらしいんです。で、その話を聞いた時に「(やついは)司会やったこと、ないよな?」と思ったって。で、社長さんが言うには「やついには、いわゆる司会業をやらせてもらえる機会は来ないだろうと思っていた」と。

大門
 そうなんですね。

 だから、話を聞いた時には「大丈夫かなぁ?」と思ったらしくて。でも、放送されたものを見たら「すごい良かった」と。「やつい、才能あるなぁ~!」って。それで、やついさんが社長に「俺には司会できないと思ってたんですか?」って聞いたんです。そうしたら、「もし俺がマネージャーだったら、“やついには司会できない”って断っていたかもしれない」って(笑)。

大門
 えぇー(笑)。

 社長さんは以前、やついさんに役者として出てもらった『リアル脱出ゲームTV』のことも気に入ってくださってたんですけど、今回の『ノックアウト』もよかったと。「『リアル脱出ゲームTV』と『ノックアウト』の2つは、やついにとって新しいチャレンジだったけど、新しい可能性を見せてもらえてよかった」っておっしゃってもらえたんです。

大門 それは良かったです。

 で、やついさんにもDVDを見た感想を聞いたんですよ。そうしたら「いやぁ、面白かった! すごいワクワクしました」って。

大門
 おぉ!

 まぁ、せっかく新しく規制がないところなのに、有体の「はいはい、この人司会ね」っていう人を呼んできても、ねぇ……。もしかしたら「はいはい」っていう出来の番組にはなるかもしれないけど、「うわ、すげぇなぁ!」っていうようなのにはならないだろうなぁ、っていうのもあって。

大門 
確かに。

 当然その、さっきも話に出たスタッフさんとチームを組んで作ると、どれくらいのものができるかっていうのは、だいたい想像がつくんで、そこに普通の司会者を起用してもハマらないだろうって。もし、そういう概念とハマらない司会者……例えばみの(もんた)さんだったら、普通に『ミリオネア』みたいなセットにしちゃえばいいじゃん、ってなっちゃうから。そういう司会者のショウにしちゃえばいいじゃん、って。「普通の司会者だと、単なるクイズショウになっちゃうけど、それで良いのかなぁ」っていうのは、すごく思ったんですよ。で、僕は「単なるショウじゃない、イベントだ」と思ったんで、だったらイベント感を出した方が良いだろうと。で、お客さんとのやりとりとか考えると、「煽るのが上手い方が良いだろうな」って。それが、やついさんのイメージだったという。

大門
 なるほど。

 で、まずLINEしたんですよ。やついさんに「7月30日、空いていますか?」って。そしたら「フェスに行かなければ空いています」って。

斉藤
 フェスに行くはずだった(笑)。

 それはつまり「フェスに行こうと思ったくらいなんで、空いています」ということなんですけど。で、「クイズの司会だけど、どう?」「やります」「大丈夫なの?」「是非お願いします」っていう流れで、決まったと。でも、この時点で収録日が決まってたわけじゃないですか。だから、やついさんのスケジュールが空いててよかったなぁ、と。ダメだったら、また違う人を探さなきゃいけないから。

大門
 そうですね。でも、最初にお寿司屋さんで会われた時から、縁があったというか……。

 そうですね。まぁ、「テレビで何かやらせてみたいな」とは思っていたんですよ。コントの人だし、フェスの人だし、で、あんまりテレビのイメージないから……。やついさんって、ちょっとアングラな匂いがするじゃないですか。

大門
 あー、そうですね。

 そういうイメージがあるから、主宰者みたいな役回りを与えれば、なんか地下っぽいイメージになるかなって。ご本人も「僕のこと、テレビで使おうとは思わないでしょ?」っていう人なんですよ。で、そのことを「そんなことないよ」って否定しようとは思わないでしょ?

斉藤
 ですね(笑)。

 本来は「別にいいんですよ、テレビなんか」っていう感じの人だから、「もしかしたら引き受けてくれないかもな」とも思ったんだけど。でも、たまたまお付き合いのある中で、「乾さんがやるなら」ということで、やっていただけたという感じかなぁ、と。

大門
 当日はDJ卓を用意して、本戦の前に実際にプレイしてくださって……。あれ、すごかったですねぇ。

 あれ、会議の時でしたっけ? 「イベントっぽくしたいなぁ」って……。

斉藤
 確か、会議の時に「普通に始めても、観客が盛り上がらないかも」みたいな話になったんですよ。で、乾さんが「なんか前座みたいなことをやらないか?」みたいなことを言い始めて。で、「こないだ『YATSUI FESTIVAL!』見に行ったんだけど、やついさんが皿まわすのはどうだ?」って。

 ……俺が言ったんだっけ?

斉藤
 そうです(苦笑)。

 あ、そうか。……言ったけど、「嫌だ」って言われると思ってたんだ(笑)。

斉藤
 で、「じゃあ、やついさんに聞いてみるわ」って言ったんですよ。

 そうだった。

斉藤
 「でも、客層がねぇ……」なんて話をしてて。

 俺、やついさんは断るんじゃないかと思ったんです。で、ファミ劇さんからは「DJ分のギャラは発生しますか?」みたいなメールが来て。

斉藤
 そっちの心配(笑)?

 それを言ったら「くれ」っていうことになっちゃうよなー、って思って。なので、やついさんになかなか伝えなかったんです。それで、「何とかうまいこと言って、DJをやってもらうロジックないかなぁ?」と思って。単純に「盛り上げるためにDJやりませんか?」って言ったら、「いやぁ、必要ないでしょう」ってなると思うんですよ。で、フェスの主催者として「DJやついいちろう」として出ていくのと、クイズの司会だと思ってきたのに、「皿回せ」って言われるのでは……。僕ですら、お客さんのテンションも含めて、「なんですか、それ?」ってなっちゃうかもしれないと思ったから。なので、なんかこう、うまいこと言う段取りみたいなものがないかな、って思ってたんですよ。で、「マネージャーに1回話そうかな」とも思ったんですけど、マネージャーを通すと「やだね」って帰ってきて終わりじゃないか、とも思って。それで「困ったな」とは思ったんですけど、腹を決めて直接LINEしたんです。「ご相談です。クイズショウの本番前、客入れの後にDJやついによるオープニングをぜひお願いしたく、お力添えをお願いできぬものでしょうか? いったん仕切り直し後、ノックアウト主宰やついいちろう登場・オープニング撮影と言う流れでやりたいです」っていうメッセージを送ったんです。そうしたら、返事が「大丈夫なんですか? 合いますかねぇ?」って。

一同
 (爆笑)

斉藤
 「一応、やるはやるけど」と。

 で、僕が「結構いい客ですよ。実はイベント慣れしている人たちです」って送って。

斉藤
 そこで軽くウソをついたわけですね(笑)。

 で、「タオルマフラー作りました。ぶん回してみません?」って書いて。そうしたら、「全然大丈夫です。ありがとうございます」

斉藤 まさかの展開(笑)。

大門
 押し切られちゃいましたか。

 で、そのあとに一応、「ご多忙中、負担を増やして申し訳ありません」って書いて送ったんですよ。そうしたら、日をまたいで「ラッキーです。DJもやれて、ありがとうございます」って。

大門
 おぉー。

 でも、「これは、まんま受け取っちゃいけねぇなぁ」って思って。だって、普通に考えたら「ラッキーです」じゃねぇよなあ、って。なので、これは一回会って、きちんと話さなきゃいけないよなぁと思ってたんですよ。で、「じゃあ、会おう」ってことで、寿司を食いに行ったんですよ。そうしたら、「機材はどうしましょうか?」って言われて。でも、俺、DJの機材って全然わかんないから、「普段使っている機材を貸してください」って頼んだんです。そうしたら「あぁ、いいですよ」「じゃあ、普段イベントやる時に借りている機材屋さんのやつを当日もってきますよ」って。ところが翌日、やついさんから「すいません、ビクターから借りるはずだったDJ機材が、今日壊れてしまいました」って。

大門
 えぇぇ!

 しょうがないんで、「じゃあ、こっちで借ります。ところで、DJの機材ってどこで借りられますか?」

斉藤 タレントさんに聞く質問じゃないですね、それ(笑)。

 そうしたら、やついさんが「小道具の高津(高津装飾美術)みたいなところが貸してくれると思います」って。次に「機材指定とかあります?」って聞いたんですよ。機材を借りても、「これじゃねぇんだよ」っていうことになるかもしれないから。そうしたら「音が出れば大丈夫です」って。

一同
 (爆笑)

 で、美術さんに、「DJの機材、高津で用意してくれないか?」って言ったら、「高津にはないんじゃないの?」って。「いや、やついさんはあるっていうから」「あるの?」、みたいな話をしたんだけど、実際に聞いてみたら「ある」って。で、機材の写真が送られてきたので、それをやついさんに転送したら「バッチリです」と。

大門
 おぉー!

 ただ、やついさんが言うには「こういうイベントでDJをやるのはどうかと思った」って。で、それは俺もすごく引っかかってて。LINEには「イベント慣れしているから大丈夫です」と書いたものの……。

斉藤
 大丈夫じゃないかも、と(笑)。

 「なんでDJなんかやるんだよ?」っていうようなお客さんだと困るな、と。ただ、僕は『WQC』の前説とか、予選の前説とかやっていて、クイズのお客さんってノリは良いっていうことはわかってたんですよ。でも、基本的には「クイズを楽しもう」って会場に来ているお客さんなので、いきなり「今からDJです」ってなると、ちょっとヤバいかもなって思って。そこが心配だったので、「僕が前説をします」って。で、僕が前説で「タオルぶん回すんだよ」なんて説明したじゃないですか。
b
大門
 しましたね。

 でも、やついさん、あれを楽屋で見て「余計なことをしてくれたな、乾は」って。

一同
 (爆笑)

 「そもそもアウェイなのに、“DJが登場するんで、一緒に盛り上げましょう”なんて前説するなよ」「むしろdisれよ」「これじゃ芸人殺しだよ」って。

斉藤
 言われてみれば、確かにそうですよね。「これから芸人が出ますので、笑ってください」っていうのと同じですから(笑)。

 でも、盛り上がりましたよね。

大門
 盛り上がりましたね。

 あれはすごかったなぁ。とりあえず、B’zさんの曲(『ultra soul』)で盛り上がり、次に自分の曲(『トロピカル源氏』)をかけて。で、高校生たちも煽って……。「DJやってもらってよかったな」って思った。ちなみに、常世はDJやるの、大賛成だったんです。「私も盛り上がりたい!」って。

大門
 なるほど。

乾 でも「お前、出ちゃダメだから」って。

大門 そりゃそうですね(笑)。

 まぁ、みんなチケットを買ってくださっているお客さんじゃないですか。普通、テレビの収録にお金を払って見に来るって、まずないから。

斉藤
 ないですね。

大門
 打ち合わせで、乾さんが「イベントとして、何かプラスアルファがないとツラいよね」とおっしゃってたのを覚えています。

 常世は「やっぱりDJはやった方がいい」って、ずーっと言ってて。で、俺もまぁ、そういう風に思ったんですね。だって、お得じゃないですか?

斉藤
 クイズ大会でDJまで楽しめて。

 あの会場にいた人だけが、楽しめたわけだからね。で、テレビにも映ったし、タオルももらえたし。

斉藤
 結果、タオルは収録的にはそんなに影響なかったですけどね(笑)。

 なかったね。

斉藤
 でも、収録でお土産なんかもらえないですしね。

 やついさんはあれを見て、「ずいぶん金かけているな」って思ったんじゃないですか。あのタオルもよかったですよね。もっとペラペラかと思っていたけど。やっぱり、お客さんに金を払ってもらう、チケットを買ってもらうっていうことですからね。さすがに止め止めのテレビの収録を見て、それだけで満足して帰るっていうのは、まずないでしょうし。だから、楽しんでもらえたかはわからないけど、変わった収録ではありましたね。

大門
 そうですね。

 そういえば、収録の前々日だったかな。やついさんとお会いして、打ち合わせをさせてもらって。で、出場者のアンケートなんかをまとめた資料を見てもらって、「クイズというのはこういうものなんです」というお話をしたんですよ。「クイズを愛しているプレイヤーの方々とお客様、一人ひとりがこんな感じの方です」っていうお話をして。で、「あなたは『グラップラー刃牙』の徳川さんみたいなものですから」って、もう一回念を押したんです。「あなたは主宰者なので、お客さんをいじっていいんだ」「今回は客いじりも含んだテレビクイズなんだ」と。「ここ、もうちょっとツッコんだ方がいいな?」って思ったならやってもいいし、「もうクイズに入っているからヒキでいいな」って思ったら退いてもらっていいし。そんな感じで自由にやってくださいってお願いをして、むこうも「じゃ、好きにやります」って。そういう打ち合わせをやったんです。で、多分それからご本人がいろいろと考えて、思ったところがあったんでしょうね。DJをはじめる前に、やついさんが控室に入って、8人としゃべったんですよ。

大門
 あぁ、確かに。

 本番前に出場者8人としゃべって、なんか仕入れたみたい。だから、その辺はすごいなぁと思って。これを読んでいる方がどれくらい理解しているかわからないけど、普通のテレビ番組で、司会者が一般参加者の人と収録前に話をしてネタを仕込むってことは……。

斉藤
 まぁ、やらないですね。

 普通は現場で起きたことが全てだから。だから「あ、控室でしゃべったんだ」って、ちょっとビックリしましたね。たぶん事前に主宰者として、プレイヤーの方々と1回ちゃんと会って、「私はやついいちろうです。あなたは誰ですか?」っていうのをやった方が良いって感じたんでしょうね。だから「このくらいまでやっても大丈夫」ということを、会話の中で探っていたんでしょうね。

大門
 なるほど。

 正直、やついさんは収録前、ひとりで楽屋にこもりっきりになっちゃうと思っていたんですよ。でも、そうじゃなかったので「ちょっと特殊だな」って思って。そこはビックリしましね。

クレーンカメラ、ムービングライト、電光掲示板。
ありえないものだらけの現場

大門 このインタビューを読んでいる皆さんの中には、実際に決勝大会の会場にお越しくださった方もいると思います。でも、そういう方であっても17時の開場以前のことは知らないので、まずは「どういう風にあのセットが組まれたのか」というところを教えてください。まず、建て込み(鉄骨などの設置)は何時からされたのですか?

斉藤
 10時くらいですかね?

 そうですね、10時くらいに現場入りでした。まず照明さんが入んないといけないんで、その機材を準備して……。

大門
 普通の大型番組って、前日に建て込みをして、次の日の朝から収録開始、みたいなことが多いじゃないですか。

斉藤
 それは美術セットを組む場合、ですね。今回は現場にあるものを飾るだけなんで。

 『WQC』みたいに全セット、ホールに立てちゃうっていうわけでもないですし。

大門
 あぁ、なるほど。

 で、照明さんは、どんな番組でも朝入りなんですよ。だから先に入ってもらって、カメラは照明が終わってからじゃないと入れないんで、そのあとに……って、そういったスケジュールでしたね。

斉藤
 今回はそこまで大袈裟な感じではなかったですよ。こっちで持っていくものも、そんなになかったんで。なので、そんなに大変ではなかったですね。

大門
 全ラウンド、セットは同じですからね。組み替えたりする必要がない。

 リングの上に対戦用の解答席がある。MCの席がある。花道はあんな感じだっていうことが決まっていて、照明はそこに対してスタンバイするっていう。……それくらいじゃないですかねぇ。

大門
 あのセットは、僕はまず、本番の数日前に図面を見させていただいて、その時点で驚きました。そういえば、セッティングの時にクルーの数が多くて、ファミ劇さんも僕もビックリしていたんですけど、何人くらいいらっしゃったんですか? 全部で30人くらいいましたっけ?

斉藤
 全部ひっくるめると、それくらいはいたでしょうね。美術、技術、照明……。

 そうですね……。技術はまぁ、なんとなくいつもの人たちがいた。カメラに関しては、まず下見に行った時に「クレーンのカメラを入れたい」って思って。僕、クレーン大好きなんですよ。クレーンこそが世界観を作るんですよ。で、「どうしてもクレーンを入れないといけない」と思ったんですけど、それには当然、お金が発生するじゃないですか。なので「俺が直接クレーン屋とやりとりする」ということで、技術会社を通さないことにして。

斉藤
 言っておきますけど、これは異常なことですからね。

 普通はありえないですから。業界のルール的に、制作会社の人間が直接クレーンを発注するっていうのは、誰もやったことがないハズなんです。前例がない。普通、バラエティのロケでは、技術さんに対して「これだけ予算でやってください」っていう中で「クレーンを入れてください」って言ったら、「この予算ではムリです」ってなるか、「わかりました」ってなるか、どっちかしかないんですよ。で、今回は技術会社が「いやー、この金じゃクレーンはやれないわ」ってなったんです。でも、どうしても入れたかったので「じゃあ、俺がクレーン屋と直接交渉するわ」って。それで、クレーン屋に「金ねぇんだけど、やってくれる?」って言ったら、「わかった。その代わり、入り時間を遅くしてくれ。弁当食べてから入るから」って。

大門
 なるほど(笑)。

 それで交渉が成立して、やってもらえたわけです。で、当日、いざ現場にデカいクレーンが来たら、照明さんがザワザワしたっていう。クレーンがデカすぎて、「会場に入んないじゃないの?」っていう。

大門
 本来なら、クレーンは最初に入れなきゃならないっていうことですね。

 あと、「この狭いホールの中に、こんな長いクレーンは要らないだろう」って。でも、僕はそのクレーンじゃないとダメだって言ったんですよ。で、そのクレーン屋さんも「天井って何メートルですか?」って聞いてきたんですけど、そのときに「これくらいです」って答えたら「必要ですね」って。だから、クレーンが来ることは僕とクレーン屋さんだけで決めたことで、技術会社を通してないし、照明にも言ってなかったから、実際に来たときに「おーい!」ってなったと。

大門
 そんな大きなクレーンとは聞いてないぞと。

 照明は松本さんがチーフでいて、そのアシスタントに『SASUKE』のチーフがいたんですよ。

大門
 えぇ!

 あれはちょっとビックリしたかなぁ。そりゃ、照明良くなるだろうって。

斉藤
 豪華すぎ(笑)。

 「この2人来ちゃって、会社は大丈夫なの?」って(笑)。まぁ、良いスタッフが集まっていましたよ。あの会場にはプロレスをやるための照明は元々あるんです。花道やリングの上に当てるのは用意されている。でも、それ以外のものは無い。で、照明って普通、天井の鉄骨に吊ってあるんだけど、下見の時に会場の方が「それは触るな」「それ以外の照明は付けるな」とおっしゃっていて。それで、松本さんが「困ったなぁ」と。で、俺が「ムービングライトを入れたい」っていうことを言ったもんだから、「ムービングライトはどこにおくんだ」という話になって。「じゃあ、イントレ(組み立て式の足場)を組もうか?」「でも、イントレだとちょっと違うよなぁ」なんていろいろ考えていた時に、美術が「入場の時に転んだりしないように、リングのロープを外そう」と言ってきたんです。

大門
 そういう話になりましたね。

 それで「ロープを外すなら、コーナーポストに鉄骨をはかせて、それにムービングライトをつければいいんじゃね?」って言ったら「なるほど、それはいいじゃないか」と。で「お金は大丈夫か」「大丈夫」……。

斉藤
 え(笑)!?

 いや、大丈夫じゃないんだけど(笑)。で、鉄骨というのは当然、発注するとお金が発生するんですよ。「1メートル○○円」なんてお値段が決まっていて、それ以上安くならないものなんです。でも、クイズに必要な道具だけでも解答者用のボックス、ピンポン、司会用のテーブル、花道の向こうにある選手の垂れ幕みたいなのなんかがあって、それだけでも予算オーバーだから「鉄骨まで行かねぇなぁ」って思っていたんですよ。ところが、「鉄骨あるよ」っていう話になったから、そこにムービングのライトをつけて、そこから照明のビームを出そうと。……そういうところまで、下見で話したんですよ。

大門
 なるほど。

 ところが当日会場に行ったら、鉄骨はあって、しかもコーナーポストには、1個付けるはずのムービングライトが、各々に3つも付いていたんです。そうすると、全部で4つだと思っていたムービングライトが12個もあると。……もう、完全に予算がおかしいんですよ。

斉藤
 3倍ですよね。

 そう。完全におかしかったから、「大丈夫か?」って聞いたんですよ。そうしたら「大丈夫じゃないけど、お前はこれくらいやらないと怒るだろう」って。

一同
 (爆笑)

 こっちは逆に「やりすぎじゃねぇか」って心配するという(苦笑)。で、そのあとに「オープニングはこうだ」「正解した時はこうだ」「勝者が決まった時はこうだ」っていうような照明の段取りを見せてもらって、「色がちょっと違うな」と調整させてもらって。で、そのあとのリハの時に、1回クレーンでなんとなく画を撮ったんですよね。そしたら松本さんが「武道館だよ、これ」って言うわけですよ。それくらいすごい照明だったから。センターのステージがあったら、武道館のステージみたいな感じするじゃないですか。だから「あー、なるほどなぁ」って思って。

大門
 そのリングのステージはいかがですか?

 斉藤ちゃんと一緒に美術さんと打ち合わせした時に「解答席はありものがあるから、使いまわそう」と言ってたんですよ。ところが、ありものなんで電光掲示板なんかは付いてないから、どうしようか、と。

斉藤
 点数が見えないとお客さん的にもキツイですしね。

 そう。で、大門さんに連絡したら「得点表示の電光掲示板がないとダメだ」とおっしゃって。で、美術さんに「電光掲示板が欲しいんだ」っていったら、「それは金がかかる」と。

斉藤
 「……ですよねぇ」って(笑)。

大門
 すみません、ワガママ言いまして。やはり「クイズ王決定戦」といえば、電光掲示板ですから。

 で、「めくりじゃダメか?」「それじゃダメ。電光掲示板じゃないと」と。でも、電光掲示板を入れるためにクイズの解答ボックスに穴を開けるのは、いずれにしろ難しい、と。それで、美術さんから、「解答席の横に台を用意する。それに電光掲示板をおかせてくれ」と言われて。斉藤ちゃんとは「それなら行けるか」っていう話をした。

斉藤
 まぁ、画的には、ちょっと心配でしたけどね。

 こっちとしては「解答席の横に電光掲示板を置くと、けっこう横に広いサイズになっちゃうけど、まぁしょうがないかなぁ」って思ったんですよ。でも、鉄骨も入れちゃってるし、美術さんも怒っているし、予算のことを考えたらボックスは使いまわしたいし……まぁ、そのくらいは泣かないとね(笑)。そう思っていたんだけど、当日会場に行ったら、なぜか解答席の中に電光掲示板が入っていて。

斉藤
 横にあるはずなのに(笑)。

 「あれ、おかしいなぁ?」と思って「入れたの?」って聞いたら、「入れたよ!」って怒ったように言われて。「じゃあ、ボックス使いまわせなくなっちゃったじゃん」「そうだよ!」と。で、「こっちじゃ買い取れねぇよ?」って言ったら「いいよ!」ってキレちゃって。

一同
 (爆笑)

 でも、こっちとしては「いいって言うなら、まぁいいのか」と(笑)。で、その解答席でちょっと早押しをしてみたら「自分のランプが点いたかわからない」っていう話になって。打ち合わせの時に聞いてたのは「ボタンを押したら解答席の前の方にあるランプが点くようになってて、テーブルにある穴を見れば、自分のランプが点いているかわかる」っていう話だったんですよ。でも、実際に解答席を見てみたら、その穴がすごく小さかったんですね。で、「これじゃ見えねぇよ」「じゃあ穴をデカくするか」なんて話になったんですけど……。そんな話をしているうちに電飾さんが「テーブルのここらへんに、点いたってわかるランプを付けましょうか?」って言ってきて。で、「付けられるのか?」「付けられる」と。それで「発注してないよ?」「いいよ」って言ったんだけど、付けてくれて。

斉藤
 大サービス(笑)。

 あの日はみんな、ちょっとおかしかったですねぇ……。これ、テレビ局のスタジオだったらわかるんですよ。「倉庫にランプあるから持ってきますよ」っていうことができるんで。でも、プロレスの会場に来ちゃってたじゃないですか。普通は「こういうのを持ってきてくれ」って言っていない限りは持って来ないはずなのに、勝手に持ってきていたっていうね。ちょっとビックリした。「よく持ってきたなぁ~」って。

斉藤
 普通は対応できないですからね。

 ないよね、そんなこと。だから、サービスをいっぱいしてくれたなぁ、って。

大門
 あと、ぜひ語っていただきたいのは、クイズの正解・不正解音。この話は『WQC』まで遡るんですよね。

 クイズの正解音、いわゆる「ブーピロ」の音っていうのは、プレイヤーがそれを聞くと「あぁ、俺はテレビクイズに来たんだ」っていう気持ちになるんですよ。「そうだ、俺が見ていた番組って、こういう音がしていたよ」っていう。で、僕はTBS育ちなので、TBSの番組で使ってきた正解音とか不正解音と、そういうのがとても大事だったんです。なので『WQC』のとき、「あの音はあるのか?」って聞いたら「それはない」と。でも、「あれじゃないとダメなんだ」って言ったら、電飾さんが「じゃあ、秋葉原に音源を探しに行く」って言ってくれて。

大門
 え、探してくれたのは電飾さんなんですか?

 うん。秋葉原にジャンク屋みたいなところがいっぱいあるじゃないですか。そこで1個1個、ボタンを押したときの「ピロン」っていう小さい音……。

斉藤
 電子音ですね。

 そうそう、それを探して持ってきてくれたんですよ。もうTBSにも音源が残っていなかったので。それが『WQC』の時の話。クイズ番組って、今はTBSにもないじゃないですか。

斉藤
 早押しのボタンでやっている番組がないし。

 だから、「あれじゃないとダメなんだ」って言った時に、クイズ全盛時代からやっている電飾さんの親玉が「探してくるわ」って言ってくれたんだけど、たぶんあの男じゃないとダメだったでしょうね。

大門
 で、その5年前に探し当てた音が残っていて、『ノックアウト』でも使ったと。

 はい。『WQC』の時にブーピロのボックスを作ってもらっていて。

大門
 残してくださっていたんですね。ありがたいです。あと、花道の後ろにあった垂れ幕と、その下の照明。あれもよかったですね。

 そもそも、垂れ幕は発注していないんですよね。でも、何かあったほうが良いだろうっていうことで……。

斉藤
 下見の時に、あまりに何もないのが気になったんですよね。でも、予算的にセットを作るわけにもいかないんで……ってことを考えた時に、「最小限の予算でイベントっぽく見えて、飾りにできるもの」ということで出てきたアイデアが、あの垂れ幕だったんですね。

 最初、俺があそこに「幕を張れ」っていったんですよ。「ジョーゼット(薄手の絹布)みたいな幕をボヤーっと張って、そこに照明を当ててビロードっぽくしちゃえば、何とかなるんじゃないの?」って。そうしたら、美術さんが「それはカッコ悪い」「それだったら、顔写真と名前を入れた幕を一人ひとり作った方がいい」って勝手に言ったんですよ。で、「金どうすんだ?」っていったら「金はいいからやる」って。

大門
 下見の時にそういう話になってましたね。で、それを受けて松本さんが……。

 「じゃあ、一人ひとりに照明付けた方がいいんじゃねぇか?」って言い出して。だから、あれは美術さんと照明さんが勝手にやりだしたことだから。……つまり、僕はそういうことをやってくれる人たちを呼んでいるっていう。「“お金のことを考えるとこんなもんだろう”ってやるのはカッコ悪い」「金が無くてもやっているんだ」っていう人たちを。

大門
 すごすぎます(笑)。

 美術さんにも照明さんにも「やってもいいけど、俺は金払わないよ」って言ったんです。で、「金は要らないけど、やる」っていうから、「じゃあ、そうしてくれ」と。……良いメンバーですよね?

大門
 良いメンバーですね。

斉藤
 でもまぁ、年に何回もできるもんじゃないですけどね。

 そうですねぇ。だいたい「1回目だけはちゃんとやろう」っていう(笑)。

斉藤
 それが限界(笑)。

 まぁ、みんなお祭りが好きなわけですよ。花火をダーンと打ちあげて、「どうだ、見たかお前ら! すげーだろ、びっくりしただろう!」って。……でも、「2回目もやってくれ」っていったら、2回目はちょっと違うかもなんだけど。

斉藤
 約束が違うだろう、という(笑)。

 毎回毎回、同じのはできないぞ、って(苦笑)。

ただクイズをやるだけならイベントで十分
必要なのは「テレビクイズのニュアンス」

大門 で、その後、出場者の8人が会場に集まってから、紹介VTR用のインサート映像を撮りましたね。

 紹介Vのロケは、最初は斉藤ちゃんにお願いしようと思っていたんです。でも、収録のスタンバイとかいろいろあるんで、他の奴にやらせようってことになって。で、佐藤映像っていう、格闘技の『PRIDE』の煽り映像をやっていた佐藤大輔っていう天才演出家が、フジテレビから独立してつくった会社があって。その佐藤映像さんは、格闘技のVTRだったり、ニコ生の電王戦をやっていらっしゃる……まぁ、「煽りの神様」みたいなところなんですけど、そこに出入りしているフリーのディレクターが、うちの会社にも出入りしてて。なので、撮影はそいつにしてもらおうと。で、ついでに編集までやってもらうはずだったんですけど、ちょうどその後にオリンピックの仕事があったらしくて。僕はそのディレクターに「紹介VTRを仕上げて、斉藤ちゃんに渡せ」って言ったんだけど、彼が「オリンピックがー」「オリンピックがー」ってなって、「編集まではちょっと」って言ってきたので、斉藤ちゃんがキレて「じゃあ要らねぇよ」って……。

斉藤
 「要らねぇよ」とは言ってないです(苦笑)。

 そうだっけ(笑)?

斉藤
 「じゃあ、自分でやるわ」って言ったんですよ(苦笑)。

 まぁ、佐藤映像流の演出がね……独特なんで。それは「普通は撮らないだろ」っていうことを、撮ったりやらせたりするってことでね。例えば春日(誠治)さんが舌をペロリとしたのもそうですけど。

大門
 あれ、スゴかったですね。

 僕は普通、ああいうのはお願いしないんです。だって、そんなことやらせるの、かわいそうじゃないですか。ああいうのって演出過多だから。撮影を担当したディレクターも、本来はノリが良いタイプじゃないんですよ。むしろ実直なんです。実直なんだけど、「舌をペロっとしてください」ってやらせちゃうという……。

大門
 あはは(笑)。

 なんでペロってしなきゃいけないか、その理由は伝えないだろうけど。でも、「口を撮っているんで、ペロってしてもらって良いですか?」って、どんどん言えるタイプの人なんで。それは佐藤大輔がそういうタイプの人なんで。たぶん彼はそれを学んで、やれるようになったんだと思うんだけどね。例えば、奥畑さんのカーディガンなんかも何度も撮ってたけど。

大門
 あれも3回くらい同じことをやらせたってことですよね? 1カメだったので。

斉藤
 僕だったら、例えば石川(貞雄)君に「ただただ叫んでくれ」なんてこと、なかなか言えないですよ。

 「わー!」「わー!」って、何度も何度も別角度でね。

斉藤
 石川君も撮られながら「え、こんなのやっているの、他の人いないですよね?」って言ってましたからね(笑)。「何で僕だけこんな感じで撮るんですか?」って。

一同
 (爆笑)

斉藤
 春日さんはわりと普通に「あ、舌をなめれば良いんですか?」みたいな感じだったんです。でも、石川君はさすがに「大丈夫なんですか、これ?」って。他の人の撮影では叫んでいるのが聞こえなかったから、疑問に思ったんでしょうね。

 まぁ、特徴があったからね。

大門
 8人のキャラクターを吟味した結果、「コイツはこう盛り上げた方が面白い」っていうことだったのでしょうね。まさか、あの撮り方に『PRIDE』の煽りVの演出方法が関わっていたとは。

 そんなわけで、そのディレクターが撮った素材を、斉藤ちゃんが仕上げた。

斉藤
 でもあれ、なかなか難しかったですよ。あの8人を見たことない人に、すごく短いセンテンスで、全員のキャラクターを視聴者に伝える大事なVTRですし。そもそも、撮影したのが僕じゃなかったんで、どういう素材があるのかを確認する作業から始めて。で、それぞれのインタビューもあったので、それらを全部見た上で、「30~40秒くらいで、わかりやすく、8色のカラーを映像で使い分けるにはどうしたら良いんだろう?」と悩んで。結局、構成を考えて編集を仕上げるのだけで、3日くらいかかりましたからね。

 大変だよねぇ。

斉藤
 でもまぁ、良い仕上がりになったなぁと思っていますけど(笑)。

 大事だからね、ああいう映像って。

大門
 あと、忘れてはいけないのがラウンドガール。

 「ラウンドガールを呼ぼう」ってのは、誰が言い出したんだっけ?

大門
 確か、乾さんだったと思うんですけど……。

 俺でしたっけ?

大門
 決まったの、本番の10日くらい前でしたよね? だいぶ押し迫ったタイミングで……。ファミ劇さんが慌ててブッキングしてましたものね。

 俺、適当なことをしゃべっちゃうからなぁ……。その時は「格闘技っぽいっていうなら、ラウンドガールを入れて、プラカードでファミ劇さんの宣伝をしたら良いんじゃねぇか」っていうくらいの考えだったのかなぁ?

大門
 そんな感じでおっしゃっていたと思います。ただ、ファミ劇さんはラウンドガールのアイデアはすごい面白がって乗ってきたんですけど、プラカードに入れる宣伝が無かったという。

 無かったですね。……でも、ラウンドガールがあんな盛り上がるとは思わなかったなぁ。

斉藤
 意外な反応でしたね(笑)。

 斉藤ちゃんがあれを編集で使ってくれたのも良かったし。

斉藤
 あれを使った理由は「イベント感」ですね。

大門
 当日、ラウンドガールが出てきた瞬間に、乾さんが隣で「バカだねぇ!」って絶賛されていたじゃないですか(笑)。

 だって、場違いですもん。解答者の人たちが、ラウンドガールが「ウェーイ」って歓声を浴びながら、横を通っていくのをじーっと待っているっていう。あれはシュールでしたね。

大門
 シュールですよね。

斉藤
 あの画は面白かったですね。お客さんの盛り上がり方も含めて(笑)。

 やっぱ、イベント感なんだろうな。

大門
 市井のクイズ大会では絶対にありえないことですものね。

 まぁ、そうでしょうね。今回の『ノックアウト』って、やることのメインは早押しクイズじゃないですか。その早押しクイズへの段積みっていうことで、いろんなことを乗っけるという仕組みにするしかなかった、ってことかな。

斉藤
 でも結果的に、それが上手くいったという……。

 ただ単純に早押しクイズをやるんだったら、市井のクイズイベントでよかろうと。でも、そうじゃない「テレビクイズのニュアンス」というものをどれくらいの出せるのかっていうこと。それと「競技クイズをストレートに伝える」ということがあいまった、新しいジャンルのものが作り出せるのかということが全てだから。「どこまでが普段のイベントに近いのか」「どこまでが皆さんが出たかったテレビクイズに近いのか」っていうことの探り合いのひとつが、例えば照明だったり、入場シーンだったり、ラウンドガールだったりした、っていうことですよね。

大門
 そういう意味では、チャンピオンベルトもそうですよね。

 あれは誰のアイデアだっけ?

斉藤
 ファミ劇の小柳(大侍。プロデューサー)さんが、「チャンピオンベルトだったら、前に作ったことあります」って言って、作ることに決まったんですよ。

 たしか会議で「優勝者に何もないのって、どうなんですかね?」って話になったんですよね。「賞金も賞品もないけど、それで良いのか?」っていう。

斉藤
 「名誉だけで良いのか?」みたいな。で、「普通の競技クイズの大会だと、名誉だけです」って話だったんだけど「それはちょっと切ないですね」と。それで「何か形が残るものはどう?」ってなって、「リングでやるんだから、チャンピオンベルトなんかどう?」という話になったんですよ。その時に小柳さんから、「足立区のお店で作れます」って話が出て、「じゃあ、お願いします」と。それにしても、あのベルト、仕上がりが最高でしたよね。

 よかったよね。

斉藤
 あんな高級感あふれる感じになるんだなぁ、って。もっとおもちゃみたいのが来るかと思っていたら。

 『仮面ライダー』の変身ベルトみたいな感じになるかと思ってたもん。やっぱり、ああいうのが普通のテレビクイズの良さですものね。『WQC』の時はね、アクリルの板を一人ひとりに持たせたんですよ。それにレーザーで透かし入れて、名前入れて。さらに一人ひとりに紋章も作ったんで、それも入れて。そういう専用のアクリルのボードを作って、それをテーブルにセットすると問題がロードされる……。

斉藤
 っていう番組設定、ですね。

 うん。で、そのアクリル板は優勝しなくても持って帰れると。ただ、第2回大会以降にも出場するなら、またそれを持ってこないといけない。で、何度も出場しているうちに、使い込まれていって段々味が出てくる。あと、優勝した人にはそのアクリルを入れるトロフィーをあげようと。「優勝した人だけが、自分のアクリルをトロフィーに入れて飾ることができる」みたいなことを考えてた。あの時は「テレビクイズって、そういうのじゃん」っていうのがあったんだよね。

斉藤
 番組ならではの豪華感というか。

 で、今回のチャンピオンベルトの話に戻すと、トロフィーじゃない、リングという舞台に相応しいものだったのがよかった。小柳さん、良いアイデアだったよね。(PART3へつづく

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