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INTERVIEW

テーマは「努力が報われる日」――入社9年目、新進気鋭のディレクターが演出を担う『高校生クイズ』企画の裏側とは?/日本テレビ・関口拓インタビュー

クイズ番組に笑いはいらない
とにかく真剣にクイズを解いてほしい

――『高校生クイズ』を1年やられた後は、どんな番組を担当されましたか?
関口 『ZIP!』を2年ぐらいやりましたね。そのあと『超問』に入って、河野さんの下で半年ほどADをやってからディレクターになりました。で、『超問』が終わったと同時に『クイズ!あなたは小学5年生より賢いの?』(以下『小5クイズ』)の演出になって。
――その間に、特番として『頭脳王』を並行してやられているわけですね。
関口 そうですね。特番としては『頭脳王』とか『いざわ・ふくらの解けば解くほど賢くなるクイズ』(以下『賢くなるクイズ』)です。
――では、まずは現在も担当されている『小5クイズ』についてお聞かせください。この番組はどのように生まれたのでしょうか?
関口 最初は2011年に河野さんが『サンバリュ』というお昼の特番枠でやったんですけど、それが良かったので2018年にもう1回企画書を出したら通ったんです。ただ、ちょうどそのタイミングで河野さんが編成に異動することになったと。で、僕はずっと河野さんの下でADをやっていたので、「関口、この番組やっていいよ」と声をかけていただいて。
――河野さんの企画を引き継ぐにあたって、具体的にどのようなことをされたのでしょうか。
関口 僕が担当することになったときも、『サンバリュ』枠の1時間の特番でした。で、その時はアメリカのオリジナル版(『Are You Smarter than a 5th Grader?』)を見ながら、僕なりに変えたりもしたんですけど、正直なところ「小学生の問題を解答して賞金獲るって面白いのかな?」なんて、ちょっと悩みながらやってたところもあって……。ただ、それがそこそこの視聴率だったので、今度はゴールデンの特番をやることになりました。その時に五味さんに監修に入っていただいたんですけど、僕が「賞金100万円」と考えていたところに、五味さんが一言「1000万にしよう!」とドン!とおっしゃって。それで見え方がガラッと変わったんですよね。
――いきなり10倍ですか!
関口 ……実は五味さんは「1億」って言ってたんですけど(笑)。
――1億ですか!?
関口 はい(笑)。そこから「これくらいが現実的なラインかな」ということで1000万円になりました。※通常は300万円。そんな感じで五味さんや、もちろん河野さんにもアドバイスをいただきながらゴールデンの特番を2回やって、レギュラーに昇格したと。
――その頃の関口さんは、まだお若いですよね?
関口 まだ28歳でしたね。ホントによくわからないまま、ゴールデンの演出になりまして……。だからレギュラーになるにあたっては、「もう1回、ちゃんと芯を作ろう」と自分の中で思って。
――「芯」というのは?
関口 特番のオンエア後にSNSをチェックすると、「がんばれ!」とか「賞金獲れ!」みたいに出場者を応援するコメントがたくさんあったんですよ。それで「この番組は賞金をウリにするのではなく、解答者を応援するクイズ番組にしよう」と。なのでレギュラーが始まるときは、そのことを各社のディレクターさんにお伝えしたんです。
――なるほど。
関口 それまでのクイズ番組って、楽しく明るいものが多かったと思うんですよ。でも「賞金を目指してマジな目で一生懸命頑張ってる人のほうが応援はしたくなるよね」ということに行き着いて。なので、収録の途中で芸人さんが自分の一発ギャグをやってくださることもあるんですけど、そういうところは申し訳ないんですけど、編集で落とさせていただいています。

――そこは徹底されているのですね。
関口 はい。真剣なところだけを編集で使用するようになったり。ほかに「応援してもらうためにはどうしたらいいか?」ということで言えば、「人の歴史を掘ってみる」というのもありますね。例えば阿部亮平さんのような若くて頭がよくてイケメンの方が出演するとして、「どうやったら、阿部さんを知らない人も応援してくれるかな?」と考えると、やっぱり大事なのは「人」なんですよね。「15年ぐらい下積みで苦労して、やっとデビューできたんだ」「そのデビューの記念で『小5クイズ』に出てるんだ」というドラマをひとつ乗せる。その背景があることで、より阿部さんが素敵に見える。番組を編集するときには「この人、素敵だなあ」って自分の琴線に触れるポイントを全部入れ込んでいくのですけど、そうするとどんどん解答者のことが好きになっていくんですよ。だから「視聴者にも僕らと同じように、解答者を好きになってもらえるといいな」って思って制作しています。……ただ、それをやると番組は嫌われてしまうんですよ(苦笑)。
――それはどういうことですか?
関口 番組というのは、言うなれば「解答者の敵」なんですよ。だから、敵が出題する難問を解答者が見事クリアすると「○○さん、正解できてカッコいい!」という賞賛になるのですけど、逆に不正解すると「あんな難しい問題を出すなんて…」みたいになる(苦笑)。だから「視聴者にとって敵になってもいいから、解答者の魅力や人の良さを引き出す」、そこだけを考えてますね。
――『小5クイズ』は、かつて放送されていた『クイズ$ミリオネア』(以下『ミリオネア』)と比べ、解答者により感情移入しやすいよう工夫されているように感じました。番組を製作する上で『ミリオネア』は参考にされましたか?
関口 はい。『ミリオネア』は子供の頃から観ていたので、参考にさせていただきました。ただ、(後期の特番時代の『ミリオネア』は)解答者がすごく豪華だったじゃないですか。もちろん、「たまには『小5クイズ』にもそういう豪華な人に出てもらってもいいかな」と思いますけど、中心となるのはそこじゃないなと。例えば完熟フレッシュさんに出てもらったときはナレーションで「家も正直、立派な家ではない」と入れて、その家の映像を見せながら「高1の娘がディズニーランドに行きたいから賞金が欲しい」と。それだと、視聴者の方も「わかるよ」って思うじゃないですか(笑)。
――なるほど、「クイズに真剣に取り組む」ことに対するリアリティが大事になると。
関口 『小5クイズ』って、クイズは毎回同じことをやっているんですけど、解答するタレントさんはみんなそれぞれ魅力があって、毎回違うんですよね。そのちょっとした違いを前面に推し出せば、毎回違ったオンエアになる。そこがこの番組のいいところですし、作業していてすごく楽しいんです。僕、クイズ番組を8年間やっていて、クイズの問題ももちろん好きですし、こだわりもあるんですけど、何よりもクイズを解いてる人が好きなんですよ。クイズでマジで喜んだり、すごく悲しんだりと、天国と地獄で感情がドカーンって露わになる部分。きっと視聴者もクイズを楽しみつつ、その解答者の表情や緊張感も格闘技やスポーツのように楽しんでいるのでしょうね。
――クイズ番組の醍醐味って、バラエティ番組に寄せたワイワイ楽しい部分ももちろんあると思うのですけど、スポーツ的な見応えの部分も大きいと思います。
関口 そうですよね。クイズ番組って、解いている人が本気であればあるほど面白いと思うんですよ。もしクイズ以外で笑いをとれたとしても「そうじゃない」というか(笑)。僕が「笑いは一切いらないから、超真剣にクイズを解いてほしい」と思うのは、スポーツと同じ感覚で観ているからなのかもしれないですね。

クイズ番組で大切なのは
会話が生まれるクイズ問題

――クイズ番組を作る上では、問題の面白さも非常に重要だと思うのですが、問題へのこだわりはいかがですか?
関口 めちゃくちゃ大事ですね。で、番組によってクイズの作り方や選び方も変わるんですけど、日本テレビにはまず大前提として、五味さんが作った「クイズの三原則」というのがあるんですよ。「①考えたくなる」「②誤答が浮かぶ」「③聞いてなるほどと思う」の3つなんですけど。これは五味さんが本にもされているんですけど、日本テレビのディレクターはみんなこれを頭の中に入れていて、番組を作るときは常に「ちゃんと沿ってるよな?」と照らし合わせているんですよ。だから日テレのクイズ番組はハズレが無いんだと思います。
――そこも五味さんの教えなのですね。
関口 で、それを踏まえた上で、『小5クイズ』の場合はクイズより解答者が主になるので、「解答者の魅力を引き出せるクイズにしよう」ということをすごく考えてます。例えば、「筑前煮の筑前とは何が由来でしょう?」というクイズを作家さんが出したとして、それだけだと「解答者が知ってるか、知らないか?」のクイズなんですよ。それだけだと5秒ぐらいで終わっちゃうんですけど、それを「筑前煮の筑前とは何が由来? 次のうちどれ?」「A:筑前和尚というお坊さんの名前」「B:筑前という昔の土地の名前」「C:筑前というお店の名前」みたいにディレクター側で3択に作り変えて、わざと考え代(じろ)を用意すると、解答者が「筑前和尚って人、いそうだね」みたいになって、推理なり会話が生まれる。
――なるほど。
関口 作家さんから出されたクイズは全部、そういう会話が生まれそうな感じに作り変えていますね。それは「解答者が主役の番組だから」ということと、あと「出演者同士の会話が生まれるように、テレビの前でも家族内で会話するきっかけになればうれしいな」という想いがあるからですね。だから「会話が生まれるクイズ」を心がけているんです。

同世代で立ち上げた
『伊沢・ふくらの賢くなるクイズ』

――続いて『賢くなるクイズ』についてうかがいます。この番組は関口さんが企画から作られたそうですね。
関口 最初は単純に「伊沢君・ふくら君と番組をやりたいな」ぐらいの気持ちで企画書を書いたんです。だから、実は企画が通った時は「伊沢君とふくら君がMCをやる」ってこと以外は何も決まってなかったんですよ(苦笑)。
――この2人で番組を作ろうと思ったきっかけは何でしょう?
関口 ふくら君は『頭脳王』にクイズ作家で入っていて、僕もADとディレクターをやっていたので、もともと接点がありました。で、ふくら君の人の良さとか、いい意味でタレントとしての異常性があったりするのが、「なんか面白いなあ」と思っていていたら、そのうちにQuizKnockとかでどんどん人気がついてきたと。そういうのを見て、「同世代の人と一緒に番組を作りたい」と思ったので、まず「伊沢・ふくらでやりたい」と僕から2人に伝えたら、それに編成も乗ってくれて……みたいな流れですね。
――企画の中身はどのようにして作られたのでしょうか?
関口 「伊沢・ふくらでもう少しオリジナリティを出せないですかね?」って会議をしたとき、大楽(和也)さんという演出の方が「早押し解答じゃないけど、早押し出題ってあるのかなあ?」って言われたんですよ。で、「それですね!」って(笑)。それで伊沢君とふくら君が交互に「ちなみに……」と言いながら、早押し解答ならぬ早押し出題をするっていうクイズが生まれたと。
――なるほど、「早押し出題」が決め手になったと。
関口 はい。「天才2人しかできない番組ですね」「オリジナリティもあるし、クイズの質も担保できてるし、いいかも」というのがスタートでした。ただ、事前に番組のシミュレーションをやるんですけど、僕らみたいな全然知識がない人でやると全然面白くないんですよ。もう何も出ないから(苦笑)。なので「早押し出題なんて成立するのかな?」なんて半信半疑だったのですけど、本番では伊沢君・ふくら君のタレントパワーでめちゃくちゃ面白くなったんで、「すごいなぁ」って。

――たしかに、めちゃくちゃ面白かったですね。
関口 僕は高校生の頃から加地(倫三)さんの『アメトーーク!』とか『ロンハー』とかを観てた世代なので、「ディレクターとタレントが一緒に企画を考えると楽しそうだなあ」と思っていたんですよね。なので、2人のおかげで夢が叶ったというか……。ふくら君・伊沢君と3人で番組を作れたのはすごく楽しかったので、またやりたいです。
――テレビ番組でふくら君をMCとして起用されたのは、おそらく関口さんが初めてですよね?
関口 MCはそうかもしれないですね。やっぱり、ふくら君は面白いし、いい人だし……。僕、『ヒルナンデス!』もやってるんですけど、あの番組の「賢くなる旅」にも出てもらってます。ふくら君をどんどんテレビに出そうとしてますね(笑)。
――ふくら君は元々『頭脳王』の作家だったのが、タレントとしてテレビで活躍するようになりました。番組の裏方から出役に転身するというのは珍しいケースですよね?
関口 珍しいと思います。ただ、今までは「ふくら君」と呼んでたので、タレントさんとディレクターでやる時、ちょっと変な感じで。「ふくらさん、すみません。こちらの台本なんですけど……」って(笑)。
――元々はスタッフ同士だったわけですからね。
関口 そうそう。LINEとかで気軽に連絡できたんだけど、いまは「あれ、1回事務所を通さなきゃいけないのかな?」とか(笑)。なんか不思議な感覚ですよね。
――『頭脳王』の時は、ふくら君も問題会議に参加していたのですか?
関口 はい、週2でずっと。実は、ふくら君も「僕は五味っ子です」ってずっと言ってて……。
――それは初耳です!
関口 ふくら君は五味さんリスペクトな人なので、たぶん問題会議で五味さんの話なり発想なりを聞きたかったんだと思います。『頭脳王』の問題会議は長いですけど、すごく楽しいんですよね。「あっ、こういう発想をするんだ」とか「あっ、この問題はこう入れ替えるんだ」とか……。クイズプレイヤーだとすぐに解ける知識の問題もたくさん提出されるんですけど、それを五味さんが自分流に変えるんです。ふくら君もそこで学んでたんだと思いますね。
――QuizKnockがすごいのは、競技クイズをそのまま見せるのではなくて、その要素を解体して、どうすれば面白さが伝わるかを考えて動画に落とし込んでいるところだと思います。特にふくら君は「クイズの型」を崩して面白いものを作るという点で、本当に天才的だと思っていたのですけど、そのベースになっているのは、五味さんから教わったノウハウなのかもしれないですね。
関口 ふくら君から直接聞いたわけではないですけど、僕も同感ですね。たとえば『頭脳王』の会議で「国旗に紫色が使われている国はどこでしょう?(答・ドミニカ国)」っていう知識問題が上がってきたことがあって、「これはクイズが強い人なら答えられる問題です」と。でも、五味さんは「うーん、これだと面白くないなあ」「じゃあ『次の国旗はどこの国でしょう?』という問題にして、紫色からズームアウトしよう」って変えたんです。
――なるほど!
関口 紫色がバーン!とモニターに出された時点で、クイズに強い人は「紫だからあの国だ」と答えられるし、視聴者も「ズームアウトしてないのに、なんで答えられるの?」って驚けるじゃないですか。クイズが解ける人の知識を使って、そこからどう面白い問題に落とし込むかという表現の仕方や発想を、僕は五味さんからめちゃくちゃ習ったし、吸収したから『小5クイズ』もある程度、出せていると思うんですけど、多分ふくら君もそうなんじゃないかなあ。
――QuizKnockの成功の裏に、五味さんの教えがあったというのはすごい発見です!
関口 五味さんの教えは、それこそ各所に広がっているんじゃないですかね。もちろんQuizKnockにはふくら君以外の人もいて、全員がクリエイティブな方だと思うので、それだけじゃないとは思いますけど。でも僕の想像として「五味さんのスピリットも入ってるんじゃないかなぁ」というのは思いますね。
――では、MCとしてのふくら君はいかがでした?
関口 伊沢君とふくら君のコンビはすごく良かったですよね。「動」の伊沢君と「静」のふくら君で、熱すぎる伊沢君をたしなめるふくら君という構図で。伊沢君は本能的に「『熱すぎるキャラ』のほうがテレビ的にウケる」とわかってやってる感じがあります。でも、それを恥ずかしがらず、しかも違和感なくやれてるのが素晴らしいですよね。ふくら君はちょっと冷たいので、そこを「おい!」って盛り上げるみたいな、若いMCならではの熱量もあります。一方のふくら君は、初回は緊張していた印象でしたけど、2回目・3回目はめちゃくちゃ余裕が出てきて、芸人さんをいじれるようにもなってました。やっぱり吸収力がエグいですよね(笑)。
――見ていて「どんどん上手くなっているな」と感じます。
関口 やっぱり、2人ともテレビがすごく好きなんですよ。あと、この番組は「事前に用意したクイズはこちらで6問あります。あとは即興です」っていうやり方なんですけど、ふくら君はさすが元裏方だけあって、「事前に用意したクイズの裏取り資料とかも送ってほしい」ってリクエストしてくるんですよ。あと、収録後には、彼らが即興で出したクイズの裏取りもするんですけど、「その裏取り資料も全部送ってほしい」って。で、その資料を全部確認して「大丈夫でした」みたいなことを連絡してきてくれます。彼を慕っている子供たちは、テレビでふくら君が発言したことを全部正しいと思ってしまいますからね。そこの情報管理をめちゃくちゃしっかりしているのは、意識高いなぁと思います。プロデューサーレベルでしっかりチェックしてるんですよ(笑)。
――「間違った情報がひとり歩きしないように」ということまで考えるMCって、すごいですよね
関口 そうですね。でもふくら君だけでなく伊沢君もそこはすごく気にされてるんですよ。それ自体も「面白いなぁ」と思います。『賢くなるクイズ』でも、タレントさんからの質問に答えられないときは「下手なことは言えません」みたいに言って、「オンエアまでに調べます」みたいな旗を出して、ちゃんと裏を取ってからナレーションブースで正しい情報を言うようにしたのですけど、2人の意識が高いおかげでそういうシステムが生まれたのかなと。
――あの番組は裏側を見せる演出が面白いですよね。「写真の許諾に3万5000円かかりました」とか、めちゃくちゃ笑いました。
関口 伊沢君が「ちなみに」って解説したせいで、追加で映像を出さなきゃいけなくなって、費用が余計にかかったりね(笑)。僕、1年目のときは「あっ、裏取りってこんな大変なのか」とか「えっ、動画の使用料って14万もするの?」とか驚くことがいっぱいあったんですよ。いまはもう当然のように思っていることでも、視聴者がAD1年目の僕と同じだと思ったら全部驚くなと思って。それも情報ですよね。
――あの作り方は、めちゃくちゃ斬新だと思います。
関口 ありがとうございます。

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