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INTERVIEW

対談 藤井健太郎×矢野了平(PART1)

演出家・プロデューサー
藤井 健太郎 Kentaro Fujii
1980年、東京都生まれ。2003年にTBSに入社。『リンカーン』『ひみつの嵐ちゃん!』などの人気番組のディレクターを経て、『クイズ☆タレント名鑑』『クイズ☆スター名鑑』『テベ・コンヒーロ』などを演出・プロデュース。現在は『水曜日のダウンタウン』で演出を手掛ける。また特番として『クイズ☆正解は一年後』『芸人キャノンボール』『人生逆転バトル カイジ』も手がけた。
構成作家
矢野 了平 Ryohei Yano
1977年、埼玉県生まれ。大学時代は東洋大学クイズ研究会に所属し、『アタック25』でも優勝。2001年CAMEYOに入社。放送作家として『高校生クイズ』『くりぃむクイズ ミラクル9』『水曜日のダウンタウン』『林先生が驚く初耳学』『今夜はナゾトレ』『マツコ有吉かりそめ天国』『潜在能力テスト』など数多くの人気番組に携わる。

「これまで観たことがないもの」を生み出し続ける鬼才のテレビマン・藤井健太郎。「悪意とこだわり」に満ちた藤井の企画には、なぜかクイズを絡めた仕掛けが多い。テレビバラエティの最先端を行く藤井が思い描く「クイズの可能性」とは? そこにはクイズ番組に精通した作家・矢野了平との不思議な「共犯関係」があった。(2018年2月1日収録 聞き手:テレビのスキマ 写真:辺見真也)

扱っているものはふざけてたとしても
構造上はしっかり成立させたい

――お二人のそもそもの出会いは?
藤井 たぶん、『クイズ☆タレント名鑑』(※1)をやる時ですよね。
矢野 あの番組のパイロット版の特番って、何回やったんでしたっけ?
藤井 3回かな。昼と夜とゴールデンじゃなかったかなあ。
矢野 その最初の時ですね。
藤井 クイズ番組をやるということになった時に、「そもそもクイズとしてどうなんだ?」という部分をチェックできるような、クイズに詳しい方が欲しいと思って。それで僕と一緒によくやってくれてる作家の興津(豪乃)(※2)さんに紹介していただいたんです。
矢野 そうですね。「芸能人にまつわるクイズ番組だ」っていうことで呼んでいただきました。その後、徐々に方向性が個性的になっていくという(笑)。

――この時点で、矢野さんは藤井さんのことをご存知でしたか?
矢野 いや。僕は正直、存じ上げなかったですね。
藤井 確かお互いそんなによく知らないみたいな感じでしたね。

――そもそも藤井さんって、クイズ番組は観られてたのですか?
藤井 クイズは好きでしたね。今はそんなには観ないですけど、子供の頃はけっこう観てました。『アタック25』とか『アメリカ横断ウルトラクイズ』も好きでしたし。僕、能勢(一幸)さんの回とかミニラ田中の回、すごい覚えています。
矢野 おー、マジっすか?
藤井 あれって何年くらいでしたっけ?
矢野 能勢さんは91年の15回で、田中さんは翌年の16回目ですね。
藤井 あー、じゃあ11~12歳ですね。それぐらいの時って、知識欲みたいなのは結構あったし、好きは好きでした。なんかバラエティ的な『マジカル頭脳パワー』より、競技クイズにちょっと近いような本格派のノリのほうが好きだったかもしれないですね。
矢野 藤井さんって、クイズ強いんですよ。番組の会議で、クイズを絡めた企画の話の中で問題を出してみたりすると、バンバン答えますもん。
藤井 わりと物知りなんですよ(笑)。高校生の時は「『高校生クイズ』に出たらまあまあ行けるんじゃねえか」って思ってましたね。実際に出場するような行動力はなかったですけど。
矢野 藤井さんが「これ、有名でしょ?」って言うと、周りのディレクターが「いやいやいやいや」と(笑)。
藤井 一個だけ僕が解せないのは、「片方だけが強くなっちゃう」みたいなことの例えで、『花の慶次』の岩兵衛を出した時に誰もピンと来なかったことで(苦笑)。
一同 (爆笑)
藤井 なんでみんな知らねえんだよ、と。
矢野 そういうの、何回かありましたよね。「また伝わんなかったか」って(笑)。
藤井 あとはシステムが好きなんです。『タレント名鑑』もそうですけど、扱っているものはふざけてたとしても、構造上はしっかり成立させたい。面白さ優先でモノとしての形が崩れちゃうっていうのは、あんまり好きじゃない。「どこかに向かうモチベーションがちゃんとしている」とか、「なぜこっちを選ぶんだ」みたいな理屈がちゃんとしているやつが好きなんです。だから考え方が“クイズ的”かも。
矢野 そういえば、『水曜日のダウンタウン』で芸人の知力と体力を試したやつ(「頭脳と肉体を兼ね備えたコンビこそ最強説」)があったじゃないですか。「クイズをやっている裏で、実は体力系ゲームが連動している」という。
藤井 はい、はい。
矢野 あの時、本当は体力のほうをメインで見せたかったんだけど、知力のほうのクイズもちゃんとルールから作り込みましたもんね。
藤井 「ココとココが繋がっている」という構造の面白さとか、システムがきちんとしていることが好きなんです。そこがダメだと、ちょっと気になる。あと謎解き系というか、オチが綺麗なやつは、だいたい僕と矢野さんで作ってますね。
矢野 ちゃんと伏線も回収するような問題ですよね。
藤井 そう。「リアル・スラムドッグ$ミリオネア」(※3)の中の、ネタの謎解き部分とか。
矢野 あと、ミックスルールで「素潜りクイズ」をやったじゃないですか。プールの中に『クイズグランプリ』方式で「○○の10」みたいな問題パネルを沈めてやったんですけど……。
藤井 海女さんとクイズ王が対決したやつですね。
矢野 あの時は藤井さんの提案で、深いところにある問題を簡単にしたんです。それがものすごく理にかなっていて、ちょっと感動しました。
藤井 そうですよね。……結果、そんなに面白くはなかったけど(苦笑)。
一同 (爆笑)
藤井 あの企画自体はね。でも、構造は面白いですよね。「大食いクイズ」とかも地味にちゃんとしてましたし。

――僕、「お寿司を食べれば食べるほど問題文が見えていく」というルールに感動したんですよ。一般の視聴者からすると、「クイズマニアの人は、問題を構造から先読みする」みたいなことって、あんまり知られてないじゃないですか。そこをシステムとして可視化してるのはすごいなって。
藤井 そうですね。「問題には確定ポイントがある」っていう。そのこと自体が情報として面白いですもんね。
矢野 そうですね。クイズ王の古川(洋平)は「どこをめくれば先読みできるか?」っていう問題文の構成を熟知しているから、そこを食う。彼は食い方がわかってた(笑)。
藤井 だから、「なんでここでこう?」みたいな疑問が出てきちゃうような、システム的に穴があるのとかは好きじゃないですね。

『逆高校生クイズ』は
人生で作ったクイズの中で一番簡単だった

――『タレント名鑑』では同じ答えを繰り返し使うとか、従来のクイズのフォーマットからズラす感じのことをやってましたが……。
矢野 「自称そっくりさんクイズ」での、織田・織田・小木・織田……みたいなやつですよね(笑)。

――ああいうのは、矢野さんはどう思いました?
矢野 面白いなあと思いました。普通のクイズ番組ではあり得ませんから。
藤井 あの時は、織田信成さんとか小木さんに似てるっていう人がたまたまいっぱい集まっちゃったんですよね。最初は「これ、どうしようかなあ」って思ったけど、「いっぱいあってもいいか」って(笑)。本家のクイズ番組でもね、「問題文が違う切り口から同じ答えに行く」みたいのが出てきても、いいっちゃいいですもんね?
矢野 そうですね。難読漢字を並べて「実はこれ、全部ホトトギスって読むんです」っていうのと、やっていることは一緒で(笑)。
藤井 まあ、ちゃんとクイズっていうきちんとしたものがあるから、その上でふざけられる。『タレント名鑑』の第1回はマット・ガファリ(※4)がオチになったんですけど、「もう1回ああいうオチが欲しいな」と思った時に、ガファリみたいないいのがいなかったんで。なので「2回目もガファリでいいか」ってやったんですけど、その辺が「そんなのもアリだな」と思ったきっかけかもしれないですね。
矢野 「GO!ピロミ」(※5)とかもそうですよね。「予約制」にもなりましたもんね(笑)。
藤井 うん。「面白ければ何回でもいいんじゃないの」という。でも、「クイズとしてのシステム上の破綻はない」というのは、一貫して大事にしているところかもしれないです。
矢野 マット・ガファリの話に戻しますけど、僕はガファリを番組の会議で知ったんですよ。それこそ特番の時に呼んでいただいて、「いいとも」の友達の輪の穴埋めクイズとか……。
藤井 あー、あれはオンエアしてないですけどね(笑)。
矢野 でも、シミュレーションでやってて面白かったんですよね。で、その会議の中で、マット・ガファリという人を初めて知ったんですよ。でも、興津さんとか大井(洋一)(※6)さん、藤井さんの中では「マット・ガファリ、超面白い!」みたいなノリになってて(笑)。
藤井 格闘技まわりでは有名な、おもろい負け方をした人なんですよ。総合格闘技の過渡期の中で「とにかく肩書あったら呼んじゃえ!」「銀メダリストだし、OK!」みたいなノリで試合して(笑)。
矢野 僕はそこで初めて、クイズ番組の会議なのに自分がまったく知らないゼロ知識のテーマに出会ったんです(笑)。それまでの会議では、絶対に「何かしら聞いたことがある」「触れたことがある」みたいなジャンルの話しかなかったんで。ガファリのこと、家に帰ってから検索しましたもん。
藤井 そうですね。今でも会議では部分的にマニアックな話が出ますもんね。格闘技・プロレスの話が多いけど(笑)。あとは、昔の「週刊少年ジャンプ」の話。『男塾』とか『キン肉マン』とか、えらい頻度で出てきますね(笑)。
矢野 『男塾』も僕、全然読んでないんですよ。だから、鉄塔の話とかされても……。
藤井 鉄塔は『ジョジョ』です。
矢野 その辺がごっちゃになるんですよね(苦笑)。でも、意外に拾えるものがあるんだな、って。
藤井 そうですね。あと、矢野さんは「これは矢野さんが知っているからOK」とか、問題の難易度の基準になる。「知ってます?」「ああ、これは知ってます」「ああ、なるほどなるほど」って(笑)。
矢野 「知らなかったら難しすぎるんじゃないか」とか、そういう基準にはなってますね。
藤井 でも、確かにクイズモノは多いですね。今の『水曜日のダウンタウン』でも、まあまあの頻度で出てきますもんね。
矢野 そうですね。まぁ、他のクイズ番組のスタッフは、『水曜日のダウンタウン』のクイズ系の企画を、あくまでもバラエティとして観てるんですけど。……ただ、「逆高校生クイズ」(「ゆとり世代の学力、ヤバ過ぎる説」)をやった時は、『高校生クイズ』のスタッフがざわっとしました。
藤井 ああ、ありましたねえ(笑)。
矢野 「何やるんですか?」って、すごい聞かれましたもん。で、蓋を開けてみたら、ああいうおバカショーでしたから(笑)。そういえば、あの「逆高校生クイズ」の時に問題の採用基準になってたADの古川(彩乃)さんが、今『東大王』のチーフADやっているんですよ。
藤井 ものすごいバカ……っていうか、不思議な……。
矢野 だから、ものすごい心配なんです(笑)。彼女って一般常識に触れることなく生きてきた感じの子ですよね。あのときは、分科会で問題を考える時に、古川さんに出してみて……。
藤井 できなかったら採用(笑)。
矢野 「二束三文」って四字熟語を読ませて、「にひがしさんぶん」「よし、採用!」みたいな(笑)。で、その古川さんにいろいろと出した結果、一番底辺な問題だったのが「手にある五本の指を答えろ」。
一同 (爆笑)
矢野 彼女が「薬指」で詰まったときは「マジか~」と思って(笑)。
藤井 でも、オンエアでも高校生が詰まってましたもんね。
矢野 あれは素晴らしいシミュレーションでした。あの問題、ちょっと衝撃でしたね。
藤井 違うシチュエーションで出たら、なんか裏があると思われますもんね。「そんなわけないだろ」と(笑)。
矢野 あれは多分、俺が人生で作ったクイズの中で一番簡単ですよ(笑)。こんなの、絶対に問われたことないですもん。……それが出来なかった人が『東大王』なんて、大丈夫なんですかね?
一同 (爆笑)

――あと、超能力者に○×の泥んこクイズをやらせる(「FBI透視捜査官だったら、『アメリカ横断ウルトラクイズ』の○×にダイブするヤツ問題がわからなくても泥まみれにならない説」)というのもすごかったですね。
藤井 『安来節』とかを聴かせて、どこの地方の音楽なのかとか(笑)。
矢野 そうですね、「これは鳥取県の歌である。○か×か」って。あれ、よく作りましたよね。
藤井 「まずはこちらをお聞きください……」みたいにちゃんとやることで、「外国人にわかるわけねえだろ」っていうバカバカしさが際立つというか。
矢野 藤井さんに聞きたいんですけど、演出の方から見ると、クイズって「泥んこクイズ」のパネルのように記号的なものが多いんですかね? 僕はこの仕事をやっていて、たまに「クイズって記号的なものが多いなあ」と思うことがあるんです。
藤井 記号的なもの?
矢野 「誰が見てもわかりやすい」というか……。たとえば「泥んこクイズ」の「○か×かに飛び込む」とかって、すごい記号化されているじゃないですか。『ウルトラクイズ』を観たことない人でも、なんとなく知っている。
藤井 なるほどね。まぁ、クイズって、基本はその場で動かないでやる。でも、それだと画は動かないし、テレビ的にいうとちょっと退屈になる部分もあるから、画面構成上は身体を動かさないまでも、ものは動かしてったほうが観やすい。その中でパネルだとか、飛び込むのもそうですけど、見た目が工夫されていったんじゃないですかね。
矢野 パロディにしやすいというのもありますよね。
藤井 バラマキクイズみたいなものもなんかでやろうって案は出ましたよね。まだ、使ってないですけど。

『カイジ』は
10年前に編成に出した企画だった

――矢野さん発案の企画で、特に印象に残っているものはありますか?
矢野 うーん、なんだろう……。
藤井 あれじゃない? 「ギリギリ有名人が逃走中」(※7)
矢野 ああ! 確かにそうですね。あれはもう、企画の段階からそのままああいう形でしたね。
藤井 うん。タイトルもそのまんま。
矢野 はいはい。『逃走中』パロディは、ずっとやりたいなと思ってて。あれも仕組みはよくできてましたよね。
藤井 ゲーム性は高いですよね(笑)。やってみたいですね、自分で。
矢野 僕もやってみたいです。
藤井 ただ、朝集合した時に、資料と違う顔になっている人もいっぱいいて、誰が誰だかわかんなくて(笑)。その人ピンポイントに声をかけられないから、「○○さん、こちらでーす」って全体に大声で呼びかけたり。
矢野 タレントさんだから、人違いをして傷つけられないですし。
藤井 そう。スタッフが間違えるのはまずいから全員に呼びかけて、「あ、ここにいた!」みたいな(笑)。
一同 (爆笑)
矢野 あれはスタッフにとって、人を当てるクイズになってますよね(笑)。実は、僕はなかなか現場には行けないんで、『タレント名鑑』の頃からいろんなロケの「現場どうだったか話」を聞いているんです。で、それがすごい面白いんですよ。
藤井 「ミスター押忍(※8)が痛風だった」とかね(笑)。
矢野 分科会でその話を担当ディレクターの田村(裕之)さんに聞いた時は衝撃でしたね。
藤井 想定してないオチですからね。
矢野 ロケの報告で最近衝撃だったのは、その痛風の話と、『カイジ』の水口(健司)(※9)ディレクターからの報告。僕は「多数決カード」(※10)の担当だったので「どんなメンバーが揃いました?」って水口さんに聞いたんですよ。そうしたら、「矢野さん、鉄骨渡れる奴はバカしかいないですよ」って。
一同 (爆笑)
矢野 あれは大発見でしたよね、ホントに。
藤井 バカという言い方はアレだけど、ホントにちょっとネジが外れてないと……。
矢野 無心というかね(笑)。
藤井 そこはもう、いろいろ考えちゃう人はダメなんですよ。バカと煙はなんとやらが図らずも立証されてしまいました(笑)。

――そもそも『カイジ』を実際にやろうという発想はどこから?
藤井 ホントに10年ぐらい前なんですよ。企画書を見たら、最初は08年1月に企画を出してた。なんか違う会議で出た話をきっかけに「ああ、『カイジ』だったら番組になるな」みたいなことを思ったんですよ。発想としてはそんなに難しいことではないじゃないですか。でも「あれ、意外と漫画原作のバラエティってないんじゃないかなあ。これ、発見なんじゃないか?」と思って企画書を出して。その時は引っ掛かんなかったんですけど、自分的には絶対アリだと思ってたんで、編成の体制が入れ替わったりしてジャッジする人が替わるたびに「一応こんなのもあるんですけど」って出し続けてて。それで今回ようやく通ったって感じですね。
矢野 ただ、ペリカ札は以前に別の企画で作ってましたもんね。
藤井 好きだから、ちょこちょこ出てくるんですよね(笑)。

――今は視聴者参加番組って少ないですけど、ああいう形にしようというのは?
藤井 「ビッグダディみたいな芸能人を集めてくか」っていうやり方も、ないわけではなかったんです。さすがになんにもない人はダメですけど「芸能人でも、ちゃんと困っている感じがする人だったらアリかなあ」とは思ったんです。ところが、視聴者を募集してみたら、けっこうハードな人がいっぱい出てくる。そこに芸能人が並ぶと、やっぱりタッチが変わっちゃうかなあということで、素人に揃えた。「揃えるならそっちだろ」って。……まあ、出れなかったけどハードな人はいっぱいましたね。父親がヤクザで、その父親を母と姉が殺そうとして殺人未遂で捕まって……とか。

――壮絶ですね……。
藤井 その話だけで30分観れるぞ、みたいな人がけっこういたんですけど。なんだかんだダメになったのも多くて(苦笑)。本名を出すのが嫌だったりとか。「マジかよ!?」っていうくらい面白いの、いっぱいあったんですけど。
矢野 あの資料はすごいですよね。『ザ・ノンフィクション』のスタッフに渡したら、全部作れます。
藤井 ホームレスの風俗嬢とか、出したかったんですけど(笑)。

――「出せる・出せない」のラインはどの辺りなのですか?
藤井 どの辺ですかね……。まあ、肩書というか、持っている要素が面白い人を、まず僕が全部ピックアップして。で、オーディションをしてディレクターたちに話を聞いてもらって。そのときの喋り方とか人柄を含めて「なんかいいんじゃないの?」っていうのをみんなで見ながら、そこから一色にはならないように、いろんな事情の人を揃えた感じですね。
矢野 でも、ホントに漫画みたいなキャラクターのばらけ方になりましたよね。
藤井 「ちょっと賢そうな人」「ダメな人」「ダメじゃないけど不遇な人」なんて感じで、パターンは付けたつもりです。

――ゲームの組み立て方もぜひ聞きたいです。最初は原作にもある「鉄骨渡り」で、その先はオリジナルのゲームになっていきますね。
藤井 テレビ的にはやっぱり鉄骨が一番派手なんで、頭に持ってきました。あと、見てわかりやすいのは鉄骨だし。「多数決カード」のような心理モノの渋いやつだと、視聴者をつかみにくいんですよ。あと、鉄骨は原作の象徴でもあるから絶対に入れたかった。まあ、あの危険さとかを、どうやって上手く成立させるかということは考えましたけどね。なので、まず鉄骨があって、あとはオンエアの尺が2時間になるのか3時間になるのかでも違ってきたんですけど、結果、2時間になったんで、ああいう組合せになったと。
矢野 原作の『カイジ』を「どんなゲームやってたっけ?」って振り返ってみると、意外とゲームの数が少ないんですよね。
藤井 うん。一個一個が長いし(笑)。あと本家って、動きが派手なのが意外と少ないんですよね。で、「限定ジャンケン」は面白いけど、ルールがややこしすぎるからちょっと地上波でやるには難しいし。「Eカード」とか、あとティッシュのくじのやつとかも。
矢野 で、オリジナルのゲームですけど、「ペリカ双六」(※11)のシミュレーションは楽しかったですよね。シミュレーションといっても、毎回会議で双六をやるというだけですけど(笑)。
藤井 最後は接戦になるように、マス目の数とかサイコロの目の数だとかを何回かシミュレーションをやって調整して。結果、ちゃんと後半に固まって、最後に「誰が勝つんだ?」っていう状況にはなりましたもんね。
矢野 そうですね。ものすごいシンプルなゲームですけど、一から作っていくのは面白かったですよね。
藤井 「スタートまで戻す」を後半に置き過ぎると、もう絶望的すぎるとか(笑)。
矢野 最初それなりに考えながら並べたつもりでも、やってみたらわかったこととかもけっこう多かったですよね。
藤井 シミュレーションで何も掛かってない状況でやっても、「ここで戻されるくらいだったら、手持ちの全額払いますね」ってなったりとか。
矢野 そうですね。やっぱゴールしなきゃ意味がないから。
藤井 その辺は、やってわかることもいっぱいありましたね。
矢野 そういえば、水を飲むやつ(※12)もシミュレーションでやったんでしたっけ?
藤井 いや、あの段階ではやってないですね(笑)。採用を決めた後からスタッフでやりましたけど。でも、本番のあの状況だったら、もっと飲めると思ってました。あれは舐めてましたね(苦笑)。
矢野 はいはい(笑)。
藤井 舐めてたというか、過信していたというか……。念のため(2リットルのペットボトルを)3本準備しておいたんだけど、1本で無理だった。
矢野 はははは。でも、その『カイジ』の水だったり、あとは『水曜日のダウンタウン』のアメとムチ(「アメとムチならムチの方が力出る説」)とか、やっぱりやってみてわかることはけっこうありますね。

――賞金がもらえる「アメ」より、落ちたらそのまま罰ゲーム(バンジージャンプ)になる「ムチ」の方が、記録が出ませんでしたね。
藤井 あの検証結果は僕、すごい興味深くて好きで。やっぱり極度の緊張感の中では、ベストなパフォーマンスは出ないっていう(笑)。
矢野 そうですね。「“火事場のバカ力”的なことは絶対無いんだ!」っていう。
藤井 絶対そう。あれを綱無しで「自分のベストタイムを塗り替えなかったら死ぬ」ってやったら、たぶん死にますよね。
矢野 身体がいうこと聞かないでしょうしね。
藤井 うん。心拍数とか普通じゃなくなったり、手に汗がすごく出ちゃったりとか、色んな悪い要素があるんですよね。……でも、みんなあんなにはっきり失敗に寄るとはね。人によってアメがよかったり、ムチがよかったりするかと思ったんですけど(笑)。
矢野 やってみると、いろんな発見がありますね(笑)。
藤井 うん。

――『カイジ』の収録では、そういう想定外のことはありましたか?
藤井 鉄骨に関しては、誰も相手を押さなかったのとか。そこはシミュレーションとは逆になりましたね。落とすのはちょっと見たかったなあと思ったんですけど。下が見えなかったんで、それが悪かったのかな。「これ、押しちゃったらやべえんじゃねえかな」っていう(笑)。
矢野 下手したら殺人ですもんね(笑)。
藤井 その辺の状況がわからないままスタートしているんで、押し辛かったのかなとは思いました。さっきのアメとムチの話じゃないですけど、「いざとなっても、そうはならないんだなあ」って。まあ、たとえ想定通りいかなくても、リアルの面白さがあるので、それはそれでいいとは思うんですけど。

――あと、「多数決カード」では孤立してしまった山根君がいなかったら、全員一緒になる可能性もけっこう高かったと思うのですけど……。
藤井 その場合は延長です。実はシミュレーションのとき、延長になることは何度もあったんですよ。で、何回か延長をやれば、そのうち決することはわかっていたので。……でも、あの人がねえ、あんなこと(相手のカードの覗き見)をするから(苦笑)。
矢野 ああいうことが起こるとは思わなかったですよね。何回かシミュレーションやってみたんですけど、あのゲームでは「嫌われないようにする」というのが普通なんですよ。だって、出る杭は打たれるじゃないですか。でも、いろいろ考えた結果、ああなっちゃうんだなっていう。
藤井 不思議ですよねえ……。あれをやって、たとえ成功してカードを見れたところで、そこから逆境になるわけじゃないですか。そこのデメリットには、あんまり頭がいってないのかなぁっていう(笑)。
矢野 そうですね。ホント極限だと、ああいうことになっちゃうのかって。しかも結果、「見れない」という(笑)。
藤井 他にも面白いくだり、結構あったんですよ。山根君が全員のカードを把握した状態になって、それを戸根川さんとかに「あなた赤ですね」みたいにささやくという場面があって。で、「なんで個別に言うの?」と言われて、「他の人には知られないように気を使って、あなただけに言ってるんです」みたいなことを言ったら、他の人が「いや、全部聞こえてたよ」って。で、ナレーションで「山根筒抜け」みたいな(笑)。
一同 (爆笑)
藤井 でも、尺的には「多数決カード」のところを一番切っちゃったんですよねえ。

――敗者復活を話し合いにしたのは、どういう意図だったのですか?
藤井 原作でも、ガラスの向こうから「助けてくれ!」って懇願する場面とかあるじゃないですか。ああいうエグ味の感じが出ればいいかなあ、と思って。
矢野 あれ、現場もっと壮絶だったんじゃないですか?
藤井 けっこう壮絶でしたね。ホストはすごく嫌われる感じの言い回しだったし。あと、きららさんの「宇宙遊泳」(※13)とかね。
矢野 はははは、宇宙遊泳(笑)。
藤井 ちょっと残酷な目線ですけど、必死にもがく様子とか、「なんとかして!」って懇願する様子が面白くなるのかなあ、っていう。そういう番組です(笑)。
矢野 でも、なかなかない視聴者参加の番組だったんで、痺れましたよね。
藤井 ねえ。面白かったですよね。で、最後はちょっといい話になったから、良かったなあと思って。
矢野 いや、そうですね。
藤井 あれはホントに偶然というか、こっちではコントロールできない部分ですけど。
矢野 僕がやってる『高校生クイズ』とかもそうなんですけど、優勝する人って、必ず、途中で表情が変わっていくんですよ。
藤井 ほおー、なるほどねえ。
矢野 僕はオンエアを普通に家で観てたんですけど、優勝したニートチャーハンは、まさに途中から表情が変わっていったから。それは優勝する人の共通点だなって思いましたね。まぁ、結果を知っていて観たからなのかもわかんないですけど……。
藤井 でも、その感じはありましたね。ホントにあの地下生活のあとで、全然変わってましたから。全部終わったあとに話したら、もうクズ感はどこへやらって感じで、「ただのいい奴じゃねえか」みたいな(笑)。「もう親も歳なんで、自分が面倒見なきゃいけないんで」って。
矢野 まぁ、人生の中で、同時にあれだけいろんなクズを見ることもないでしょうしね。
藤井 そういう人たちの中に入って、やっぱり思うとこがあったんでしょうね。彼の場合、普段から圧倒的に人との接触が少なかったみたいなんで。あと、終わった後はみんなLINEグループで「また地下に戻りたい」「すげえ楽しかった」みたいなこと書いてたらしいです(笑)。

――出場者全員に後日談がありましたけど、あれは最初から決めたんですか?
藤井 最初からです。むしろ、あれがメインみたいなところもありました。出場者のビフォーアフターをすごいやりたくて。この番組って、あんまり見たことない「ゲームバラエティとドキュメントの組み合わせ」ってところがいいところだから。で、後日談っていうのは、普通のゲームバラエティだったらあんまりやらないとこじゃないですか。やっぱりその人の「なぜ、ここに至っているのか?」というビフォーを描く以上、アフターも絶対入れたいなとは思っていたんですよね。そこが他と違うカラーだ、と。

――出場している理由(ビフォー)については、『クイズ悪魔のささやき』(※14)や『クイズ$ミリオネア』辺りから描くようになってきましたね。
藤井 『悪魔のささやき』はいいですよね。あれも構造が上手くできているので好きです。賛同を得られた人の数が、そのまま賞金になるっていう。
矢野 そうですね。……逆にどんなクイズをやってたかは、いまいち覚えてないですけど(苦笑)。あの番組も確かに人間ショーとして観てましたね。確か番組の後半は、クイズの部分はもうダイジェストになっていましたし。

――ホントに出場者が背負うドラマの必要性みたいなのが年々増えてきてて。『カイジ』はもう最終形態じゃないですか。
矢野 いや、そうですね。それこそ昔の『ウルトラクイズ』でいえば、挑戦者が絞られていく中で人間性がちょっとずつ見えてきて、それが応援したい人に繋がっていったわけですけど。でも、今はそこまで時間を掛けられる番組がなかなかないから。
藤井 ネットでは『バチェラー』(※15)みたいに、シーズンで切って何本かに渡ってやる番組が多いじゃないですか。ホントは『カイジ』も、そういうのに向いてるんじゃないかなと思ったりします。
矢野 Netflixとかのネット系では、まだそういうスタイルのクイズ番組はないですよね?
藤井 あー、確かにそうですね。海外ではあるんですか?
矢野 そこを融合しているクイズは、たぶんないですね。それこそ日本で『ウルトラクイズ』みたいなスタイルで、とかはできそうですけど……。
藤井 できそうですよねえ。『ウルトラクイズ』って、放送は何時間でした?
矢野 一番多かったときは、『木曜スペシャル』の一時間半枠で4週とか5週とかですね。
藤井 そうなんだ。けっこう何週にもまたがっていたんですね。
矢野 そうですね。トータル7時間半ぐらいの中でドラマを描いていくという。
藤井 それくらいやるとなると、シーズンものにすると尺的にはちょうど合いそうですね。
矢野 そうですね。最初に何万人もいる中から絞っていくところから描いてますからね。
藤井 いいですよねえ。
矢野 番組の裏では意外と『カイジ』の山根君みたいに、「こいつやべえぞ」となるケースもあるみたいですけどね。「どうする? 残っちゃったぞ」みたいな(笑)。そういう意味では、素人を扱う番組の難しさってありますよね。合間に他の参加者と一緒にいる時の立ち振舞いがものすごく影響を及ぼしちゃう。例えば、他の人のダメージになっちゃうことを勝手にやりだす人とかもたまにいますからね。

※注釈
(※1)  2010年から12年にかけて放送された、藤井健太郎による「日本一下世話なクイズ&バラエティ」。司会はロンドンブーツ1号2号の田村淳。解答者のほとんどがお笑い芸人で、その答えには逮捕歴があったり、スキャンダルを起こした人物の名前が頻出していた。2016年10月に『クイズ☆スター名鑑』としてまさかの復活を果たすも、わずか半年で打ち切りとなった。

(※2)  『ロンドンハーツ』『いきなり!黄金伝説』『家、ついて行ってイイですか?』など数多くの番組を手がける作放送家。『リンカーン』『クイズ☆タレント名鑑』『水曜日のダウンタウン』など、藤井が演出した番組のほとんどで構成に参加している。

(※3) 映画『スラムドッグ$ミリオネア』のパロディ企画。ニセ番組の収録で呼び出された3人が、過去1週間に経験したことから出題されるクイズに挑戦した。

(※4) アトランタオリンピックのレスリング・グレコローマンスタイル130kg級銀メダリスト。2002年に総合格闘技イベント「UFO LEGEND」で小川直也と対戦。小川に一発パンチをもらっただけで戦意喪失しダウンすると、そのままパンチを打たれ続けTKO負け。試合後に「コンタクトレンズがずれた」と敗因を語った。彼を描いたイラストが『タレント名鑑』シリーズのマスコットとして使われた。

(※5) 郷ひろみのものまね芸人。イントロで背中を向けて激しく踊り、歌い出しで振り向くのがオチ。「モノマネ芸人いる?いない?クイズ」で毎回出題された。そのため解答者は「いる」のがわかっているにもかかわらず、有吉チームが「予約制」と称して最後に指名するのが“お約束”になっていた。最終的には、途中から突然サスペンスドラマになる「GO!ピロミ殺人事件」がつくられた。

(※6) アマチュア総合格闘技大会「THE OUTSIDER」にも参戦する「戦う放送作家」。『極楽とんぼのとび蹴りゴッデス』でキャリアをスタートさせ、『SMAP×SMAP』『水曜日のダウンタウン』『家、ついて行ってイイですか?』『BAZOOKA!!!』などの構成を担当。

(※7) フジテレビの『逃走中』のパロディ企画。一般人のエキストラに紛れ込んだ、テレビであまり見なくなった“ギリギリ有名人”を遊園地の中で「ハンター」となった解答者が探す。確保したあとでそのタレントのフルネームを答えることができればポイント獲得となる。

(※8) 『水曜日のダウンタウン』にたびたび登場する、どんな会話でも「押忍」で押し通す空手家・和田和三のこと。

(※9) 制作会社「シオプロ」所属のディレクター。『水曜日のダウンタウン』『クイズ☆スター名鑑』『芸人キャノンボール』『カイジ』『クイズ☆正解は一年後』『とんぱちオードリー』『勇者ああああ』などを担当。オードリーの春日と仲が良く、『オードリーのオールナイトニッポン』ではたびたび彼とのエピソードが語られる。

(※10) 出場者それぞれに「赤」か「青」のカードが配布され、1時間後に多かった色を持っている人たちが勝ち抜けというゲーム。1時間の間、ゲーム上の通貨「ペリカ」を使ってカードの色を変えることができる。また、他のメンバーと話し合ったり、カードを見せ合うことも可能。そのため単なる運否天賦ではなく、いかに多くの相手のカードを知ることができるかの駆け引きが重要となる。

(※11) 止まったマス目によって「ペリカ」が増減したり、様々なミッションが課せられたりする双六。優勝者は賞金200万に加え、残った「ペリカ」に応じた金額が加算される。マス目には「誰か1人をスタートに戻す」などがあり、スタートに戻されないようペリカを使って交渉することもできる。

(※12) 最終ステージの「ペリカ双六」において、制限時間の1分以内に水を飲んだ量に応じてペリカが与えられるというルールのマス目。100ccで10万ペリカ、2リットルなら200万ペリカを獲得。優勝者のニートチャーハンこと福田剛佳は2リットルを飲みほした。

(※13) 「きらら」とは大浦忠明の芸名で、38歳で地下アイドルを始めたという異色の経歴を持つ男性参加者。勝者5人が、敗者の中から1人だけ指名して復活させるというルールだったため、指名してもらいたい参加者による必死のアピール合戦となり、その中で急に「宇宙遊泳」と称して、グルグル回り出した。

(※14) 1994年から96年にかけてTBSで放送された視聴者参加のクイズ番組。司会は古舘伊知郎と和田アキ子。出場者は、まず「自分がどうしてお金が必要なのか?」をプレゼン、「それを支持した観客の人数×1万円」が第1ステップの賞金となる。第1ステップではクイズが出題され、それに正解すると賞金を獲得するとともに第2ステップ挑戦の権利が与えられる。第2ステップに挑戦しない場合は、第1ステップの賞金を全額持ち帰り。第2ステップに挑戦し成功すると賞金100万円を獲得、失敗した場合は第1ステップの賞金は没収され0円となる。

(※15) 誰もが羨むハイスペックな独身男性(バチェラー)を巡って、一般応募で集まった多数の女性が競い合う内容の恋愛リアリティ番組。2002年から全米で放送され、瞬く間に国民的人気番組となった。2017年2月からは日本版『バチェラー・ジャパン』がAmazonプライム・ビデオで放送され大きな反響を呼んだ。

PART2に続く)


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