伊沢 それこそ僕が全般的に好きなのは誤答のシーンですね。
杉基 あー、難しいんですよ、誤答って! 読者さんって、キャラが誤答するイメージがないみたいで。「こんな強キャラがいったい何に対して誤答するんだ?」みたいな(笑)。
伊沢 うんうん。なっちゃうんですよね。
杉基 なんか「正解できて当たり前」みたいな。だから、理由をつけて誤答させるのがすごく難しくって。特にクイズをやってない読者さんは、何が難しい問題で簡単な問題かの判別もつかないし。なので、少ないながらもなんとか誤答シーンを入れたんです。
――伊沢さんが特に好きな誤答シーンはどこですか?
伊沢 やっぱり早押しの誤答になりますけど、真理ちゃんとかが誤答してどんどんヘコんでいくわけですよね。あれがすごいリアルというか(笑)。『abc』で優勝する人でも、だいたい誤答率10~20%はあるので、クイズプレイヤーは長い目で見ると不可避に誤答するんですよね。強い人でも誤答する。その日一番勝った人ですら10問に2問は間違えているわけで。となった時に「誤答というところこそリアルなクイズ感が出る」と思うんです。多感な高校生が誤答で崩れるケースを僕もたくさん見てきたし。一回の誤答で不安とか負の感情がバーッと押し寄せてきちゃって、ヘコんで問題も聞こえなかったりとか。で、そこから何かがきっかけで立ち直る、みたいな部分って本当にあることなんですよね。僕は逆に高校時代立ち直れなくて負けるみたいなことも経験しましたし。なので、特に予選の早押しのシーンになるんですかね。「ぷらねっと」とやった試合は特に印象的ですけど、ああやって追い詰められていった時のシーンはすごく好きですね。
杉基 ほんとですか? うれしいです。
伊沢 あれこそが「リアルだなぁ」と思いますね。「正解は描きやすいけど、誤答は描きづらいな」というのはホントにずっと思っているところで。僕も自伝を書いている時、誤答シーンをどう表現していいのかわからないというか。ずっと自信満々スタンスなのに「ココ、誤答はしたんだけど依然、自信満々なのって、スタンスとして伝わるのかな?」みたいなのはあったりして。
杉基 正解したというとよりも誤答したことのほうが説明が多くなりますよね。
伊沢 そうですよね。
杉基 どうして誤答したかの説明がすごく多くなっちゃう。
伊沢 ホントに「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」で。負ける理由は必ずあるんですね。特に全国編はエンチャンルールが多いじゃないですか。となると、どうしても誤答が出てきちゃいますよね。でも、それがちゃんと丁寧に描かれていて。
伊沢 はい。また予選の話になっちゃいますけど、宇都宮蛭子とかがそのエンチャンルールを上手に活用して、クイズの勉強をガッチリしてきたわけじゃないんだけど戦っていく。で、「他人の誤答もヒントだよ」みたいなところが基軸になって進んでいくのは「ここまでストーリーに盛り込んでいるのか!」と驚きました。とても好きなシーンです。あそこで、誤答観みたいなものが作品の中で示されるんですね。逆に言えば、あれによって「誤答も手段だ」みたいなところが示されますし、戦略性を語る上での一つの肝になっていて、とてもいいですね。
杉基 逆に、みなさんが普段やっている例会では、エンチャンルールはあまりやらないみたいですね。
伊沢 ないですねえ。「俺、いい問題作ってきたから誤答がもったいないな」みたいな時はエンチャンにしますけど。なんででしょうね?
杉基 「きっと盛り上がるのに」とか思うんですけど(笑)。
伊沢 誤答したあとに「ガタガタガタ!」ってボタンを連打するのが、みんなそんなに好きじゃないのかもしれないですね。
杉基 ボタンが壊れちゃうからですか?
伊沢 そういう機械的な事情は大きいと思いますね。
――テレビのキノコボタンだったら、みんなやりたいんですけどね。
伊沢 あー、そうですね。キノコだとどこもエンチャンですね。『東大王』もエンチャン形式になってるので。誤答のあとに正解を司会者が読み上げるのと、ほかのキャラクターが読み上げるのだったら、また変わってくるんじゃないですか?
杉基 舞台の時にも脚本の中でクイズのシーンがあったんですけど、最初は漫画で描いた通りに誤答はスルーになったんですけど、そこは提案したんですよ。舞台の中で誤答してスルーしても、なんにも盛り上がらないから(笑)。
――展開が進んでないわけですからね。
杉基 そうそう。進まないんで、「これはエンチャンルールにしたほうがいいんじゃないか」と。
伊沢 その提案が出るのがすごいですね。
杉基 なんか「もったいないな」と思って。問題を作ってる人たちの努力もあるから。
伊沢 そうですね。
杉基 問題潰しとかそういうのもちょっと話題になったりするじゃないですか。問題潰しがいいのか悪いのか、みたいな。
伊沢 毎年出ますね!
杉基 なので、そこを考えちゃうと「エンチャンのほうが作問者に優しいのでは」とか。
伊沢 はい。ストーリー的にも「とっても良かったな」と思います。
(PART3に続く)
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©杉基イクラ/KADOKAWA