Subscribe / Share

Toggle

INTERVIEW

『ナナマル サンバツ』完結記念特別対談 杉基イクラ×伊沢拓司インタビュー(PART2)

開成高校の文化祭を観た瞬間に最終回が決まった(杉基)

――先日発売された20巻では、夏の全国大会「SQUARE」の結末が描かれました。主人公である越山識たちの文蔵高校は準決勝で敗れましたが、あの結果というのは当初から想定されていたのでしょうか?
杉基 まず私としては「競技クイズっていう世界があるんだよ」っていうところからスタートして、例会というのがあって。で、クイズサークルみたいなものもあって、みたいな順番を追ってクイズのイロハをこう描いていって、最後は大会になったんですけど。大会では、クイズの多様性の部分で例会とはまた違う、ちょっとバラエティ要素もあったり、謎解き要素もあったりというところと、ようやくそのキャラ同士の思いだったりとか、クイズに対する思いだとかを描けて。それが「一通り描けたところで終わっていい」と思っていたんですよ。ただ、キャラがたくさんいるので、その「お当番回」みたいなのもやっていくうちにこう何話も何話も費やして……。でも、描きたいところまで描き切ったら、あそこまで行ったという感じですね。
――なるほど。
杉基 ホントに最初から文蔵が優勝というのは全然念頭になくて。もう描きたいところまで、識たちの成長が描き切れたら「そこで終えていい」とは思ったんです。取材をすればするほど思ったんですけど、クイズってビギナーズラックで頂点立てるような競技じゃ絶対ないじゃないですか!
伊沢 あははは。そうですね(笑)。それは「観れば観るほどそうなるかな」と思います。
杉基 だから、もう嘘は描けなくなってるんですよ(笑)。例えば「文蔵がせめて決勝まで上がってもいいじゃないか」という声もあるかもしれないんですけど、識はクイズを笹島から教わって知ってばっかりで。元々、クイズが好きで「SQUARE」の舞台に憧れてきた子ではないじゃないですか。
伊沢 そうですね。
杉基 その時、聞きかじった「決勝は7○3×なんだ」とか「『SQUARE』という大きな大会の頂点に立てるようにみんな頑張ってるんだ」みたいな状態で初めて参加して、いきなり決勝っていうのは、あまりにも現実味がなくて。だから、主人公のいない決勝戦もわりとちゃんと描いたんですけど。あそこは「主人公が決勝戦をちゃんと観る」というシーンなんですよ。そこでようやくクイズプレイヤー越山識のスタートなんですよ。
伊沢 なるほど!
杉基 それがあって初めて次の一年後の大会では同じ『SQUARE』の頂点を目指しているライバルたちと、ようやく同じ熱量で戦えるんですね。それが最終回のセンターカラーのラストにつながるんです。
伊沢 センターカラーの識君は、それまでの識君とは全然違うたたずまいをしてますよね。
杉基 1年目をちゃんと見て、取り組んできたという姿なので。だから、「1年目で決勝に立つような子じゃないし、それは『ナナサン』での物語じゃない」と思ったんですよ。
伊沢 僕自身はすっかり入っちゃってたんで、「あっ、決勝行かないの?」って驚いて(笑)。逆に「漫画のほうが、僕の考えよりリアルだったな」という感じでしたね。
杉基 そうですか(笑)。
伊沢 でも、ホントに「観る」というのは、ある種クイズの在り方としてはとっても大切な、ウェイトをもった部分で。自分が行けなかった決勝戦と向き合う時の感情とか、実はすごく大きいですね。クイズってあれだけの人数がいて、最後に勝つのは一人なわけで。ほかはずっと観戦しているわけですよね。しかも、朝10時に集まって、夜19時とかに終わる大会があったとして、その実、大半の時間は観戦じゃないですか(笑)。あれが負けてるとメンタル的につらいんですよ。もちろん観て楽しい要素はたくさんあるんだけど、心のどこかには悔しさを抱えている。だから、実際に主人公が負けた状態で描くというのはすごいな、そういえばこれもクイズのリアルだよなと思いました。
杉基 だから「多分、得るものもすごく多いんだろうなあ」と思ってて。
伊沢 そうですね、観る側で、というのは。

杉基 で、わりと伏線みたいに、ほかのライバルキャラ同士の、主人公とは違うところの物語もちょいちょい試合中とか休憩時間中に勃発させているんですけど。そこも全部きれいには回収してないんですけど、それはエンディングでちゃんと「2年目にそこの因縁もまたこう回ってくんだよ」という。結局、1年目で全部終わらせちゃったら、2年目の楽しみもなくなるじゃないですか。
伊沢 そうですね。
杉基 なので、思惑としては『ナナサン』を読み終わったら「続きが読みたい!」と思われるような終わり方で終わろう、と思っていました。
伊沢 なるほど! 「ここ、どうなるんだ?」というのはまだ残っていましたね。
杉基 そう。「『この2年目見せろよ!』と言われながら終わりたい」と思って描いたんです。あと、これはホントに「伊沢君に感謝しよう」と思っていることなんですが……。
伊沢 あっ、はい、ありがとうございます。
杉基 多分、10年前の当時のままのクイズ界だったら、『ナナサン』が終わったら、漫画の物語だけの話で終わっちゃうんですけど、今、伊沢君がクイズ界を盛り上げてくれるじゃないですか。だから、『ナナサン』が終わったあとも、識たちの未来が想像しやすくなってるんですよね。
伊沢 それは僕以外にもホントに多くの人があってこそですけど、昔に比べると遥かにそうかもしれないですね!
杉基 はい。だから、もしかしたら識も「クイズで自伝を出したりするようになるのかな」とか、深見兄は「イケメンクイズプレイヤーとしてテレビで活躍するようになるのかな」とか(笑)。
伊沢 はははは!(爆笑)
杉基 なんかそういう妄想とかしてもらえたら楽しいじゃないですか。「それが可能になったな」というところがすごく安心して終えられた理由ですね。
伊沢 美しい。そういう意味ではホントに美しい終わり方ですね。
杉基 だから、「すごく時代とか人に恵まれて描けたなあ」と思います。

Return Top