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INTERVIEW

『ナナマル サンバツ』完結記念特別対談 杉基イクラ×伊沢拓司インタビュー(PART2)

伊沢 それこそ「その時代を先生と作品が作ってくださっていた」と思いますし。観戦で終わること以外にも、印象的なのは最後の二話ですよね。文化祭と勧誘会というクイズ研究会の内部における二大イベントですよ。そこで識たちがちゃんと勧誘して。
杉基 あ、文化祭に関しては、だいぶ初期の頃に開成の文化祭に行ったじゃないですか。
伊沢 はい、来ていただきましたね。
杉基 あの時に『高校生クイズ』に出てた近隣の高校の子たちを呼んで、エキシビジョンマッチみたいなのをやってたじゃないですか? まさにあれを!
伊沢 やってました、やってました。まさにあれです!
杉基 「これ、エンディングだな!」ってそこで思っちゃったんですよ!
伊沢 もう10年前の段階で?
杉基 そう! もうだから初期の初期ですよね。「これを最終回にしよう!」と思って。
伊沢 たしかに『高校生クイズ』で戦ってきた……。
杉基 大会の打ち上げですよね。
伊沢 打ち上げですね、まさに! 『高校生クイズ』の一か月後にみんなが集まって、応援してくれた皆様の前でもう一回同じような試合を、テレビで切り落とされてしまった部分とか、表じゃ見せられない間柄なんかをコミコミでやって。勝っても負けてもワアワアじゃないですか。で、そのあとみんなで集まって、部活の展示ブースとかでお話をするわけで。そう考えると、全然そんな意識したことなかったですけど、あれはたしかに最終回っぽさがありますね。全然意識してなかったなー。
杉基 だから、ホントに最終回は初期の頃から決まっていたんです(笑)。
――なるほど!
伊沢 すげえなあ! そういう外部の目線みたいなのが入ってこなかった世界なので、今言われて気づきました。あの文化祭はたしかに最終回っぽかったですね。そもそも高校の頃にそういう「いい思い」ができる人って、各年代に10~20人とかしかいない時代だったので、もう全然俯瞰で見られてなかったわけですよね。そこに先生が入ってきてくださって、初めて俯瞰の視点が入ったという。

杉基 で、文化祭のあのクイズ大会ってエンディングでもあるんですけど、例えばヒロイン深見真理にとっては始まりの場所でもあるじゃないですか。
伊沢 そうですね。
杉基 そこで初めて「エクレア」を答えてクイズに目覚めた場所で。あれも「文化祭ってクイズに触れてない一般の人たちが身近に感じられる最初の入口だったりもするのかな」と思って。
伊沢 そうですね。それこそリアルな話として高校のクイズ研に入ってきてくれる子とかも「文化祭で早押し初めてやって『面白いな』と思ったんで入りました」みたいな子がいるので。だから最終回がまた新たな物語のスタートになってますよね。
杉基 そうなんです。だから、あの時の文化祭で、始めと終わりを全部見せてもらったんです。なので、そこは安心して描けましたね。だから、あとは「そこに向かうまでの物語を描いていこう」という。
――最終回の流れであと一つ鳥肌が立ったのが「なぜ山」という競技クイズの記号みたいなベタ問が、最後に「なぜクイズをするのか?」というテーマに繋がった瞬間でした。
杉基 あー。あれはなんか話の流れでそうなってきましたね(笑)。別に最初から決めてたという感じでもないですけど。「そこにクイズはあるから」だと、なんかこう……お約束な感じじゃないですか。
伊沢 そうですよね。
杉基 だから、そこに「キャラなりの理屈をちゃんと詰め込んであけよう」と思って。で、その理由ってキャラごとに違ってて全然いいわけですから。
伊沢 そうですよね。僕たちが「何の理由があってクイズをやっているんだろう?」と問われるとなかなか答えられないですから。もちろん「なにかのため」が全てではないにせよ、何かしら最初に惹かれた理由みたいなのがあるはずで。でも、それはもう思い出せなくなっていて、「楽しいからやってるな」って感じで丸くなっている部分というのはやっぱりあって。その「楽しい」は真実だとしても、背景にはみんな各人の、「楽しい」よりは鮮明な物語があるわけですから。
杉基 「SQUARE」のあの全国大会を描いている中で、キャラクターたちの一人ひとりに質問したら、おそらく南君や天満兄弟は全然違う答えを言うだろうし。そういうことも思いながら描いてましたね。
伊沢 高校の頃だとリアルに多感なので、多分、みんな別々のことを言うと思うんですね。大学生になると逆に似てくるんですけど(笑)。高校生だと、みんな自分の感情がすごく入るので。
杉基 そうなんですよね。社会人サークルの大人の人たちは、勝ち負けにそこまでガツガツしてないじゃないですか。「クイズの競技性の部分にガツガツするよりも、もっとクイズを楽しみたい」っていうふうになるまでに、大人の人たちも高校生たちの青臭いところを経験してきてるわけじゃないですか。
伊沢 概ねそうですね。
杉基 だから、高校生の物語を描くんだから「その青臭いところをしっかり描いたほうがいいんじゃないか」って思いましたね。
伊沢 ホントに僕が、今改めて振り返ると、自分たちの高校時代はほんとに青臭かったですよ。感情がむき出しになっていた感じがしましたね。僕は作品を追ってきて、ある時以降、おそらくは大学入学後しばらくしてから、作品の中にいたはずの自分が成長しちゃっていることへの驚きと戸惑いみたいなのがずっとあったんですね。リアルに青臭い頃に作品が始まったので、その感情のままに生きているつもりが、あるところから僕がちょっとそのクイズに対して冷めてしまったとか。
――なるほど、大人になって作品を追い越してしまったと。
伊沢 はい。いわゆる「大人」のスタンスになってしまったので。「あれ、俺、成長しちゃってる」「知らぬ間に薄まっちゃってるな」という感覚に。こんなことプレイヤーとして言いたくはないんですけど、羨ましいですよね。特に大学を卒業して1年ぐらいは羨ましかったですね。大学生の頃はまだ『abc』に出場できたので(※『abc』は大学4年生までが対象の大会)、『ナナサン』の「SQUARE」にぶつけるような気持ちを追体験できてたのが、卒業してから1年ぐらいはそういうのがまったくなかったので。逆に完結までの最後の半年ぐらいは「あっ、高校生たちを後ろで見ている大人の側にちょっと自分、立ってしまっている」と思いましたね、読んでいて。「まだまだプレイヤーでいたい」と思ったので、焦りも感じましたね。
――作品を通じて、自分の立ち位置の変化に気づかされたわけですね。
伊沢 はい。識君と同じ歳でスタートした自分としては、10年という月日が流れて、「あっ、自分いつのまにか真ん中じゃないな、端っこの方に移動してるな」と気づかされて、驚きと戸惑いを感じましたね。そういうものを感じる要素も全部漫画の中にあるということもすごいですよね。
杉基 もう伊沢君はプロデューサー的なところですよね。
伊沢 現実問題、そうなっちゃってますね。
杉基 あっ、でも高校生だけでなく、大人の人たちにも取材に行ったりしましたね。クイズの大会のスタッフの仲間に入れさせてもらって。
伊沢 一緒にやらせていただきましたね。
杉基 大会を立ち上げるところから開催するまで、一部始終を見させてもらったりとかして。
伊沢 そこまでディープに入り込んでいただけるなんて、プレイヤー冥利に尽きます。
杉基 あははは(笑)。で、問題を作って選定して、ルールを考えて……というところから参加して、「やっぱりすごいなあ」と思いました。漫画を描いていても、一つのクイズ大会を主催しているみたいな感じなんですよ。だから、けっこう大変で。
伊沢 そうですよね!

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