――『ナナマル サンバツ』のキャラクターには、そういう「あるある」が詰まっているんですね。
杉基 なので、「このキャラは誰」っていうモデルは全然作ってはいないんですけど、いろんな素養の一つ一つをミックスさせてもらったり、そこにオリジナルの漫画的な脚色も加えてとか入れたりとかして。でも、やっぱり人数が多いので、パリエーションをどうやって作るかというのが課題だったので。
伊沢 実際のクイズの世界にもいろんな奴らがいるわけですからね。だから「それをよくぞ見ていただいたな」という。僕も読み手として、リアルな世界とどうしても対比するわけじゃないですか。でも「ここに俺がいる」じゃなくて、「あっ、自分という存在もこの作品の中で千千に散らばっているな」って感じました。「あっ、このキャラクターのここ、わかるわあ」とか、「あーっ、こっちもこうだよな!」みたいな。そういう印象は読んでてずっと感じてましたね。
杉基 だから『abc』とか大会に行っても、試合を観てるというよりは試合で一喜一憂している子たちを観てる、って感じですよね。涙を流している子とか、負けちゃって決勝戦を観てる子とか。そうい人間観察をしているほうが楽しかったですね。
伊沢 そうですよね。『abc』て本当に、映像だけじゃ伝わりづらい部分がどうしてもでてきてしまうんですよね。「みんなあんなに叫ぶんだ」というか。応援の声が入るじゃないですか?
杉基 そうです、そうです。
伊沢 なかなかああいうことってないんでよすね。僕は声を出している側なんですけど。中学生の頃は舞台上とか舞台袖とかを観ていて「あっ、マジで泣くんだ!」と思ったし、実際自分がプレイヤーになったら、実際に涙が出てきましたし。あれは一見「マジ!?そこまで?」というか、ともするとリアルじゃないようにすら見えるんですけど、実は本当のリアルというか。「マジで泣いちゃう」みたいなのがリアルなんですよね。
――伊沢さんも、漫画のような感情の爆発を本当に体験してきたわけですね。
杉基 だから、ただ涙を描いても全然リアルさが伝わらない。その涙を流すためにキャラのバックグラウンドはちゃんと考えて、描いていかないと。
伊沢 そこもホントに丁寧に綿密に描かれていますよね。
杉基 「どんなことがあったのかな?」というのは完全に妄想ですけどね(笑)。
伊沢 出口と入口がすごいしっかりしているからこそ「あっ、こういうことあったなあ」というか。例えば南君が勝たなければいけない呪いみたいな話がありますけど。あれはホントに僕はリアルに感じていて。
杉基 そうなんですね。
伊沢 高校でのポジションはそんなに同じではないですけど、やっぱり当時感じていたプレッシャーなんかは同じでしたね。でも、その勝たなきゃいけない呪いにかかっているからこそ、最初はちょっとヘラヘラしている部分みたいなのもあって。高校名で遊ぶ、みたいなのもその一端だったのかな。そういった「呪い」に抗いたい自分もいるし。で、クイズになると、「勝つことがすべてだな」と僕はずっと思っていたので。あのあたりのアンビバレントな感じとかは本当に共感できましたね。
杉基 うれしいです。なんかすごい答え合わせをしているみたいですけど(笑)。
(PART2に続く)
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©杉基イクラ/KADOKAWA