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『第39回高校生クイズ』レビュー
「知識だけでは解けないクイズに、クイズ番組の原点を見た」

今年もクイズを愛する高校生たちの夏が終わった。各地の高校のクイズ研究会では、3年生が引退し、新たな世代がまた来年の夏に向けて決意表明していることだろう。

先ごろ放送された『第39回高校生クイズ』は昨年同様、「知識だけでは解けない地頭力を必要とするクイズ」をテーマに放送され、楽しく拝見させていただいた。

「物を動かす」といった目で見てわかるお題に対し創意工夫して挑む『ロボコン』的なシチュエーションはテレビ番組としては鉄板で、「知識だけでは解けないクイズ」というのも、考えてみれば、昭和の頃からNHKが得意としてきたクイズの王道だ。ある意味で、視聴者が楽しむクイズ番組の原点回帰を果たしたとも言えるのかもしれない。

また『高校生クイズ』といえば魅力的な高校生たちが話題になるが、今年も笑いあり涙あり、かわいらしい方言ありと、楽しまさせてもらった。高校生が高校名を背負って、仲間とチームを組んで切磋琢磨する。『高校生クイズ』が周期的に路線を変えつつも、このフォーマットだけは守り続けているところに、長年番組が続いている秘訣があるのだろう。

クイズは個人競技の要素が強いが、団体戦としても大変魅力的だ。もちろん『高校生クイズ』の3人1組が有名だが、古くは『クイズグランプリ』が夏休みに3人1組の高校生の全国大会を行っており、『高校生クイズ』以前の世代(50代以上)にはこちらの方がなじみがあるかもしれない(クイズ作家の大ベテランである道蔦岳史さんはこの大会で優勝し、クイズ王としてのキャリアをスタートさせた)。また『タイムショック』も2002年に3人1組の高校生大会を放送していたことがある。

ちなみに個人的に注目していたのは、昨年の優勝校である、東兄弟率いる桜丘高校チームだった。実は2年ほど前に、私が『マツコ・有吉のかりそめ天国』において「最強の双子」として紹介させていただいたこともあり、メディアでの活躍を興味深く見させていただいている。今年は残念ながら途中で敗退してしまったが、ディフェンディングチャンピオンとしての存在感は十分だった。高校卒業後の彼らの活躍も大いに期待したい。

と、視聴者として大いに楽しませてもらっている『高校生クイズ』だが、出場していた現役高校生を中心に賛否両論が起こるというのも恒例で、特に「地頭力」路線の昨年・今年はそれが顕著だった。「競技クイズ」「知識クイズ」を嗜好する高校生とのミスマッチが背景にある。

今でこそクイズ愛好家の間では「競技クイズ」や「知識クイズ」のような分野が確立されてはいるが、まだまだ世間一般のイメージとしては「クイズ」は「一緒に考える娯楽」であり、特にテレビのクイズ番組は何千万人というマスを対象にした娯楽であるため、「知識だけでは解けない地頭力」という路線に舵を切った(ある意味でクイズ番組の原点に回帰した)のは想像に難くない。

とはいえ、出場者の何割かを、「知識クイズ」路線を嗜好する高校生たちが占めており、マイノリティーと切り捨てるのには小さくない割合のようにも感じる。

10年前に『高校生クイズ』が「知力の甲子園」路線で与えたインパクトがそれだけ大きく、そしてそこを原点にして、テレビ・ネットを問わず、クイズの可能性を追求し続ける伊沢拓司とその同世代の仲間たち(『東大王』メンバーしかり、『QuizKnock』メンバーしかり)の姿が大きな潮流を生んだということの証左であろう。若年層のクイズブームが巻き起こっている今、クイズ研究会などでクイズに本気で取り組む全国の高校生たちのニーズが宙に浮いてしまったのは、SNSを検索してみる限り、まぎれもない事実のように思われる。

かつて『アメリカ横断ウルトラクイズ』が全国の大学にクイズ研究会を生み出したように、「知力の甲子園」以降の『高校生クイズ』がきっかけで、全国の高校にクイズ研究会が創設されており、その動きは『東大王』や『QuizKnock』人気でさらに加速し、目を見張るものがある。

というわけで、ここからは宣伝になってしまうが、そうした知識を競いたいという高校生たちにとって、目標となってほしいという願いを込めて昨年に創設されたのが『ニュース・博識甲子園』(http://quiz.or.jp/taikai/koushien/)という大会だ。こちらは私も理事を務める一般社団法人日本クイズ協会が運営し、TBSが番組製作して、Paraviで動画配信されている(https://www.paravi.jp/title/45504)。

番組も兼ねているが、何より高校生の部活の支援、ならびにクイズを通して育まれる教育的な意義を大会の柱としている。溢れる高校生たちの知識欲とクイズ熱を、学校の先生方にも認知していただき、彼らの活動を陽の当たるものにしたいという思いを込めているつもりだ。

印象的だったのは、7月16日に全国8か所で行われた全国一斉の筆記予選が終わったあとの参加者たちのSNS上の感想だった。大半が筆記試験のみの参加で終わってしまうにも関わらず、「楽しかった~」「悔しい!」といった満足そうなつぶやきがいくつも目に留まった。

考えてみれば、クイズに限らず、資格試験や検定試験などでも、上を目指して試験に挑む楽しさというのは世間的なニーズがあるわけで、知識と向き合いたいという高校生にとって、『ニュース・博識甲子園』がそういう存在になりつつあるのだとしたら、運営の人間としてはうれしい限りである。

とはいいつつも、一筋縄ではいかないのがクイズの面白いところなのだということも書き記しておきたい。クイズを突き詰めようとすると、どうしても問題集や過去問題(クイズの世界ではベタ問と呼ぶ)の詰め込み学習で優劣が決まると思いがちだが、かつて長年『ウルトラクイズ』の問題選定にも携わった福留功男アナウンサーは、「百科事典から作る問題が一番面白みがない」とたびたび語っている。もちろん知識を競うクイズ大会となれば「百科事典から作る問題」も重要な要素ではあるので『ニュース・博識甲子園』では一定の割合で出題はされるが、大事にしたいのは「福留アナが面白いと思ったクイズ」だ。そこには、実際の体験から得た知識であったり、読書や映画を通して感じた感動であったり、新聞やウェブのニュースから考えた問題意識などが問われる。気づきによって解ける「ひらめき問題」もそうだ。そうした、見る方向によって乱反射するような、厚みと幅と味わいのあるものが、長年紡がれてきた「クイズ」というものの面白さだろうと思う。

ぜひクイズを愛する高校生には、様々な体験をして、それがあるとき正解として出会えるクイズの奥深さを知ってほしいし、楽しかったと思ってもらえるよう『ニュース・博識甲子園』を育てていきたいと思う。そして『高校生クイズ』には、日本全国の高校生がクイズに触れるきっかけを、かつて高校生だった大人には感動を与える番組として、これからも大樹の役割を担っていくことを心から望んでいる。(QUIZ JAPAN編集長・大門弘樹)

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