TBSで放送中の人気番組『東大王』で、4月から新たに登場した東大王候補生たち。
東大王候補生のこれまでの歩みと『東大王』に対する想いをインタビューする連続企画。
3人目は、7月31日の放送で東大王の正規メンバーとして抜擢された林輝幸。
「ジャスコ」の誤答から、頼れる男へと変革を遂げた林の知られざる努力とは?
(2019年6月28日収録 聞き手:大門弘樹 撮影:玉井美世子)©TBS
「ジャスコ」の誤答がなかったら
今どうなっていたかわからない
――続いては念願かなって『東大王』に初めて出演した時のことを振り返って頂きたいですけれども。まず、収録の場で他のメンバーと顔合わせした時の感想はいかがでしたか? ……といっても、メンバーの大半は同じサークルの顔見知りだとは思いますが。
林 そうですね、でも、伊沢さんと光ちゃんは普段会わないので、なじみというと水上さんと鶴崎さんという感じですかね。で、他に2人の候補生もいたわけですけど、その中に入った時に「これから東大王チームとしてやっていくんだ」みたいな緊張感とかはそんなになかったですね。それはまぁ「普段から知っている人が2人いるし」っていうのが大きかったので。
――なるほど。ちなみに、水上君とか鶴崎君からは、出演が決まった際に何か祝福の言葉みたいなのってありましたか?
林 水上さんからは全くなくて。
――水上君らしいなぁ(笑)。
林 そうなんですよ。水上さんはそこら辺、さっぱりしているので(笑)。で、鶴崎さんからは収録の3日前ぐらいに「おめでとうございます」みたいなLINEが来ましたね。
――鶴崎君はさすが社交的ですね。で、伊沢君とか鈴木さんとは、控室でご挨拶みたいな感じでしたか?
林 そうですね、光ちゃんとは控室で。ただ、伊沢さんは別室だったと思うんですよね。
――そうか、もう芸能人チームだから。
林 はい。なので、伊沢さんはスタジオでの収録が終わってからワイワイやる段階で初めて話す、みたいな感じでしたね。
――なるほど。では、初めての収録はいかがでした? おそらく、ものすごく緊張されたと思うんですけど……。
林 まぁ、ド緊張ですよねえ(苦笑)。
――ちなみに、どの辺で緊張を?
林 「新メンバー候補、こちらです!」って言って扉が開いて、煙がプシューとなって、サッと出てきて、MCの御二方がこう両サイドに来る、っていう……。その時の演出がすごくて、あそこが一番緊張しましたね。
――出だしから緊張を強いられたと(笑)。
林 で、「クイズが始まったら少しは落ち着くかな?」と思ってたんですけど、全然落ち着かなくて……。「東大王が生まれる前クイズ」は振るわなかったし、ランキングも大きなミスはあまりなかったとはいえ、まあ普通という感じでしたし。ただ、「生まれる前クイズ」の最初で、すごい爆弾をぶちまけちゃって(苦笑)。
――(「1960年代にダンスホールで流行したダンスの名前を、カタカナ4字で答えなさい」という問題に対する)「ジャスコ」という伝説の誤答ですね(笑)。あのシーンは『東大王』の歴史に刻まれる名シーンだと思うんですけど。
林 そうですよねえ……。
――あのシーンを振り返ってみて、いかがですか?
林 うーん……。でもまあ競技クイズの場だったら、あれは普通の誤答で終わっているんですよ。
――そうですね。わからない時にボードクイズに何か書いて、不正解の場合はスルーされるというのは当たり前の光景ですし。
林 でもテレビだから、ああいう誤答が笑いに昇華されたわけで。だから、あれは本当にありがたいんですよ。だって、あのおかげで自分のキャラ付けもなされたわけですし。正直、「あれがなかったら、今頃どうなっていただろう?」というのは、ちょっと感じますね。
林 最初の問題だったんですけど、全然わからなくて困っていたんですよ。でも、芸能人チームの方々もMCのお二人も、新メンバーに対してなんか「応援したい」みたいな気持ちがあったみたいで、「わからなくても、なんか書こうよ」という空気がスタジオ全体にあって。で、仕方なく思いついたカタカナ4文字を書いた、って感じなんですけど。
――ダンスということで、「ディスコ」っぽい言葉を考えていたら「ジャスコ」に行きついた、みたいな感じで(笑)。
林 はい。それが結局、大爆発して笑いになったわけですけど……。まぁ、最初は「すごい失敗をしたな」と思ったんですけど、今考えると「割といい誤答だったのかな」とは思いますね(笑)。あと、何か答えることによってドラマが生まれるのは、テレビならではの特徴なのかなと感じました。
――今になって振り返ってみると、あそこで誤答してよかったと。
林 あれでよかったんですかね? 初回の時はかなり落ち込んだんですけど(苦笑)。あの誤答に限らず、初回の収録を終えて帰ったあとは「どこがダメだったんだろう?」「ここはもっとこうすれば良かったんじゃないか?」みたいなのはずっと反省してて。
――具体的には、どういった反省を?
林 例えば「わからない問題が出た時にどうするか?」ということを自分で考えたり、鶴崎さんに電話して「これからどういう対策をしていけばいいのか?」みたい質問をして、今後の対策の方向性を立てたりしていましたね。といっても、そもそもあんまり出番がなかったので、反省する部分がいっぱいあるわけじゃなかったのですけど(苦笑)。
――なるほど。でも、どんな番組でもそうですけど、新メンバーって「初めて登場した時にうまくキャラがつくか」っていうのは、けっこう勝負の分かれ目になると思うんですよ。で、林さんの場合はあそこで誤答することで、意図せずに大ホームランを飛ばした。もちろん、それをキチンと拾ってくれるヒロミさんたちのすごさもあって。
林 ですよね。だって、普通の誤答として軽く流される可能性もあったわけですから。だから、あれをちゃんと拾ってもらって、キャラ付けまでしてくださったというのはありがたい話ですよね。
――あのおかげで「ジャース」の決めポーズまで生まれて。そんな形で衝撃のデビューを飾った林さんですけど、最近はもう、初回とは別人のようにめちゃめちゃ答えているじゃないですか!
林 ありがとうございます! 対策した問題がそのまま被ったわけじゃないんですけど、対策問題と切り口や発想が似ていたりするので、けっこうそれに助けられている部分はありますね。
ⒸTBS
――他のメンバーからしても、頼もしい限りだと思います。で、ちょっと初回の話に戻りますけど、『東大王』に出てからの周囲の反応なんかはいかがでしたか? たとえばご家族の……というか、そもそも林さんの家族構成って?
林 両親と、あと3つ上に姉がいます。
――あ、お姉さんがいらっしゃるのですね。お姉さんはどんな方ですか?
林 この春まで東大の大学院に行ってて、今は社会人1年目ですね。
――おぉ、姉弟揃って東大に!
林 学部時代は別のところにいたので、姉が大学院に進んでから2年ほど2人暮らしをしてたんですけど、社会人になったこの春からまた1人暮らしになって。
――なるほど。で、そのお姉さんは『東大王』をご覧になったのですか?
林 そうですね。姉は今、会社の寮にいるんですけど、その寮にテレビが一台しかないらしいんですよ。で、「その一台で、みんなで観てる」って言ってました。
――『東大王』に出ることを、事前に知らせてましたか?
林 はい。家族には事前に言ってありました。
林 そうですね。なんかワクワクしつつも、「怖いわぁ」みたいなのもある、みたいな感じで(笑)。最初の2~3回くらいは、放送が終わったあとに両親と電話をしたりしてましたね。今はそんなにしてないんですけど。
――ご両親はなんておっしゃってましたか?
林 「今日は良かったねえ」みたいなことも言ってくれるんですけど……。どちらかというと、褒められるよりは「今後はこういうのがあるといいよね」とか「ここがちょっと気になったんだけど」みたいに言われる感じで。
――「ここが気になった」というのはどういう点ですか?
林 例えば「ガウンの左右がずれてる」とか(苦笑)。
――なるほど、クイズではなく身だしなみが気になると。いかにもお母さん目線ですね(笑)。あと、TQCの仲間の反応はどうでしたか?
林 驚いていた人と、爆笑する人の2タイプに分かれたてましたね(笑)。もちろん普通に「おめでとう」と言ってくれるタイプもいました。
――その「おめでとう」というのは、林さんの『東大王』への想いを知っている方の反応ですかね?
林 いや、『東大王』というよりは、クイズそのものへの想いというか……。というのは、僕は大学でクイズを2年半ぐらいやってきて、努力が結果に結びついたことってほとんどなかったので。短文のクイズの大会でもそこまで芽が出たわけでもないし、例会とかでさほど活躍したわけでもないし……。なんか「問題集を読み込んだりしてクイズの勉強はしてるけど、それが結果に結びつかないよね」というのがずっとあったんですよね。それがいきなり『東大王』に出たので、「報われて良かったね」って言ってくれた人もいました。
――なるほど。でも、そういう意味では『東大王』への対策・分析を続け、そして番組に対する愛情が誰よりも勝っていた林さんをオーディションで見出したスタッフはすごいですよね。
林 そうですよね。だって、砂川さん1人で決まってても全然おかしくなかったわけですから。
――新メンバーを見て、改めて「『東大王』はキャラクターをしっかり発掘する番組なんだな」と感じましたね。
得意なのは「総合的に考える力」を
問われるクイズ
――他のメンバーとのチームワークみたいなのはどうですか?
林 初回・2回目とかと比べたら、だいぶメンバー同士のつながりも深まりましたね。例えば、誰がどういうのが得意で、どういうのが苦手とかもわかるようになったんで、全員一斉で押す時に「これは誰が取れそう」とか「自分が取れなくても誰かが拾うだろう」とかいうのはなんとなく意識できるようにはなりましたね。
――なるほど、メンバーの得手・不得手を知ることで戦略が立てやすくなったと。で、そんな東大王チームのメンバーを今、リーダーとして率いているのが水上君じゃないですか?番組を見ていると、伊沢君が卒業してからの水上君には、リーダーとしての気構えがすごく感じられるのですけど、林さんから見てどうですか?
林 実はゴールデンウィークに男4人で東武ワールドスクウェアに行ったんですけど、これがなんと、言い出したのは水上さんなんですよ!
――へぇ~、それは意外!
林 ですよね? 水上さんって、そういうことするタイプでは全然ないので、最初は「突然どうしたんだろう?」って思ったんですけど(笑)。でも、そういうところも含めて、「大将としてチームの仲を深めていこう、みたいなことを考えているのかな?」とは思いましたね。
――なるほど、ちょっといい話ですね(笑)。では、東大王チームの中において、林さん自身が考える「自分の役回り」みたいなものは何でしょう?
林 うーん、なんだろう? ……まぁ僕の強みって、強いて言うなら幅広い知識の領域だと思うんですよね。なので「特定のコーナーで光る」よりは「満遍なく活躍する」みたいなタイプになることが望ましいんですけど。だから「どこに組み込まれても隙のないプレーイングをしたい」っていうのはありますよね。
――とはいえ、やっぱり「好きな形式」「苦手な形式」はあるわけですよね?
林 そうですね。一番好きなのはランキングですかね。あとはファイナルも好きです。
林 毎回、ほぼ任せてもらっているというのもありますし……。あとは、けっこう知識量がモノをいうものが多いからですね。まあ、お題にもよるのですけど。例えば「好きな動物ランキング」。まぁ、これは知識はあんまり要らないですけど、人気の相場感みたいなものは必要だったり。
――あの問題で林さんが答えたのって、アルパカでしたっけ?
林 そうです。
――あれ、すごかったですねえ!
ありがとうございます(笑)。
――あそこでアルパカを答えるに至った思考回路というのを、ぜひ教えていただきたいのですけど。
林 あれはホントにわからなかったんですけど、ポイント差的にはあと2回ぐらいチャレンジできたんですよね。で、ほかの2人がアザラシとかアライグマみたいなけっこう無難なやつを答えると思ったんですよ。なので「ほかの2人が思いついてなさそうで、かつ人気ありそうなものを先に言って選択肢を潰してから次に回そう」と考えて。で、「アルパカが最近人気」というのは、なんとなくイメージであったので、「とりあえずアルパカを言ってみよう」となった、って感じですかね。
――すごい戦略ですね!
林 ランキングって、こういう風に「総合的に考える力」が求められる、っていうところがけっこう好きなんです。知識も必要だし、発想もいるし……みたいな。おそらく「『東大王』が作ろうとしているのはそういうクイズだ」と思うんですけどね。
――なるほど。「あるジャンルの知識だけで一点突破できるクイズ」ではなく、「総合力が問われるクイズ」が好きだと。
林 はい。なので、逆に苦手だったのはオセロで。だって、あれは結局、漢字とオセロじゃないですか? なので、まず「漢字が読める」ということが前提でオセロの戦略を立てるわけですけど、それがあまりに形式が定まって来ちゃっているんですよね。なので、最初の頃はあまり新鮮味を感じなかったんです。でも、最近オセロの勉強を始めて面白いと思うようになりました。オセロには「覚えるのに1分、極めるのに一生」という格言がありますが、その言葉の意味するところをひしひしと感じさせられているところです。楽しいのは、ファイナルとかランキングのように、いろんなジャンルのものに触れられる形式ですね。ファイナルなんか毎回ホントに違うものが出てくるので、「あっ、今回はこういうのが出るんだ!」っていう風になって、やっていて楽しいんですよ。ただ、「一斉早押しでの」ファイナルは苦手ですね。一斉早押しだとボタンを押す人数が単純に多いので、一対一で点くものも点かなくなるんですよね。さらに競技クイズの文脈に触れている分、鶴崎さんや水上さんと守備範囲が被るわけです。芸能人チームの方々に押し勝っても東大王チームで取り合いになる、みたいな。結局僕が押せないまま勝負がつく回もいくつかあって、最終的に東大王チームが勝てれば結果オーライなんですが、そこに自分が1ポイントも絡めてない日があったりするとモヤモヤしますね。
林 そうですね……。やっぱりジャンルの広さかなと思うんですよ。例えばランキングでも、出るジャンルはヒット商品だったり、スポーツだったりと幅広いわけですよね。そういうところが僕はけっこう好きで。
――そのあたりは、いかにも『東大王』という番組ならではですね。ちなみに、これまで番組に参加してきた中で一番会心の解答というとどれになりますか?
林 そうですねえ……。やっぱ、さっき言った「メトロ」の問題だと思うんですよね。あれは9個あるものからメトロにすっと行けたということで、自分の中では「けっこう冴えてたな」と思いますし。あとは番組の流れ的に「富永美樹さんを倒した」っていうことでもけっこう意義が大きかったと思うんですよね。あの時は、そこまで1勝3敗という、我々としてはほんとにピンチな状態だったんですよ。ここで自分が負けたらちょっと苦しかったけど、乗り切ったことで勢いがついたという部分はありますし。
――なるほど。
林 1つ前の回(6月12日放送分)の「12アンサーズ」で「東京メトロは全部で?路線」というのが出てたんですね。それが頭の片隅にあったので「9とアルファベット1文字」というところから「あっ、GとFは銀座線と副都心線か」って感じでメトロを導き出して答えた、みたいなところがあるので。今までやってきたことが順当につながって解答できたという感じで。
――なるほど。過去の積み重ねによって生まれた会心の解答だったわけですね。
『東大王』に出られるのはこの1年間だけ
だから毎回全力で向かいたい
――今は大学4年生ということですけど、就活はされているのですか?
林 はい。今しているところですね。
――じゃあ、院には行かず?
林 迷ったんですけど、もし院に行ったとしても、2年間学問と真剣に向き合える気がしなかったんですよね。もし理系だったら、もうちょっと院に行きやすい環境があったのかもしれないですけど……。でも文系の史学科の院となると、突き詰める形になってくると思うので。正直、「そこまでやれるか?」っていうと自信はないですし、卒論で割と手一杯なところもあるので。だから今のところは「4年で卒業かな」という感じですね。
林 具体的な職種とか業界とかは、まだそこまで絞ってはないんですけど、「自分が出したアイデアで、人々に新しい知見を与えたり、新しい視点を与える」みたいなのをやりたいですね。「世の中の発想を豊かにすることができればいいな」というか。
――なるほど! 林さんの考えていることって、一貫しているというか、全てがつながっていますね。
林 ありがとうございます(笑)。
――でも、就職するとなると『東大王』は……。
林 そうなんですよ。4年で大学を出るとなると、自分がここにいれるのは1年しかないわけですよね。その中で自分ができることは限られているので、1回1回の収録だったり、1問1問の問題をすごく大事にしたいなとは思っています。そういう姿勢が今後の人生に活きてくるっていうことを考えると、たとえ1問であっても無駄にはできないとは思うので。だから、毎回全力で向かいたいなと思ってます。
――ありがとうございます。今後の番組での活躍、そして就活の成功を祈ってます!
【プロフィール】
林輝幸(はやしてるゆき) 1997年、富山県生まれ。片山学園高等学校卒業。2016年に東京大学文科Ⅲ類に入学。現在は同大学文学部に在籍中。趣味はスポーツ観戦、料理。