ライターの海辺暁子と申します。今年4月までの3年間、旅行会社の社員として中国上海に赴任していたため、クイズ番組を始めとする現地のテレビ番組や動画事情に多少詳しいと自負しております。子供の頃は「アメリカ横断ウルトラクイズ」や「史上最強のクイズ王決定戦」に夢中になり、最近では「東大王」「頭脳王」などをよく観ています。プレイヤーとしては全くですが、視聴者目線でクイズイベントなどをレポートできればと思います。
さて今回は、中国において「クイズ番組」とはどのような位置づけなのか、人気があるのか、現地の知人や友人などへのインタビューを元にまとめてみました。
正確に言うと、中国では「クイズ番組」というジャンルとしては認識されていない。あくまでも「バラエティ番組」の一角という位置づけである。
2000年代初頭には2つの人気クイズ番組があった。一つは、名物司会者が仕切る早押しクイズの対戦『幸運52』(CCTV)。もう一つは出題者vs回答者の対戦『開心辞典』(CCTV)だ。前者はポロシャツの色で分けられた、赤、黄、青の3チームで争うチーム戦。後者は1問正解ごとに賞金や景品が受け取れる「クイズ$ミリオネア」に似たシステム。どちらの番組も、基本は問題を読み上げて回答者が答えるという、正統派視聴者参加型クイズ番組であったが、共に10年ほどで終了している。日本の80年代90年代にあったような、クイズ番組のムーブメントは起こせていない印象だ。
余談だが『幸運52』では「日本の早稲田大学は私立?公立?」なんていうなかなかマニアックかつ日本では見ないような形式の問題も出題されており、個人的には好きだ。さらに余談。上記の問題の際に「確か日本には公立大学は少なかったよ~(意訳)」なんていう視聴者のコメントが画面上に流れてきて、中国のクイズ界にポテンシャルの高さを感じた次第。
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日本人も出場した『最強大脳』とは?
本日中国時間21時より、江蘇電視のパズル系?番組『最強大脳』に出演しております。
17-18シーズンのラストマッチ、杭州のヤングスター楊英豪と戦います。中国の皆様はぜひご覧下さい!#最强大脑 pic.twitter.com/ImIRzjkN6C
— 伊沢拓司 (@tax_i_) 2018年4月6日
#最強大脳 の番組ポスター届いたんだけどめっちゃかっこいいな??
(21:10から現地では放送みたいです) pic.twitter.com/GBNHVXEXH8— 松丸 亮吾 (@ryogomatsumaru) 2019年4月19日
さて、昨年から今年にかけ、伊沢くんや松丸くんを始めとする日本人も出場した『最強大脳(江蘇電視台衛星)』。一体どのような番組なのだろうか。20~30代の親しい中国人7~8人に聞いてみたところ、全員がその番組名を知っていた。中国でも日本と同じく、若い世代のテレビ離れが激しいが、『最強大脳』のような人気番組はWEBでも取り上げられることが多く、ネット配信もあるため、世代問わず知名度が高いのだ。「今最も知名度の高いバラエティ番組ではないか」と言う者もいた。
この番組を欠かさず見るという友人女子に魅力を聞いてみた。
「クイズというよりは知能や特技を競う番組で、毎回本当に驚かされる。頭を使うだけでなく、身体のバランスだとか視覚、聴覚などを駆使してポイントを稼ぐところがすごいし、かなり歳上の人や子供など、様々な世代が活躍してる。確か日本人の小学生も出てたよ。オールマイティーにできるというよりは、みんな一つのことを努力して極めている感じ」。
パズルで伊沢くんを破った14歳の杨くんにしても「天才でありながら、相当練習を積んでいる印象」と。中国では、頭脳明晰な人、努力する人に対してのリスペクトは半端ではない。
松丸くんのシーンを中国の動画サイトで見ると「松丸超可愛!!!」というコメントがいくつか流れてきた。松丸くんとともに出場した平前くんには「很帅!(かっこいい)」のコメントが多い。かわいい、かっこいいと思う気持ちに国境はないのだ。番組の佳境、中国人のかわいい女の子が登場したシーンでは、画面が見えなくなるほどコメントが盛り上がっていた。かわいい女の子に対する興味にも、国境はないのだ。
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『東大王』の中国での評判
『東大王』に関しては中国ではまだまだマイノリティだが、徐々に人気が出てきているようだ。『最強大脳』から日本のクイズに興味を持った者や、乃木坂46のメンバーが出演していることから興味を持った者もいる。乃木坂46は中国でもすでに人気を確立しており、そこに引っ張られる形で、彼女らがサポーターをつとめている『高校生クイズ』の人気も高まってきているほどだ。さらに、『東大王』から興味を持ち、伊沢くん主宰のWEBメディア『Quiz Knock』をチェックしているファンもいる。また、今回調べていてわかったのが水上くんのファングループもあるということ。
私の中国人の友人でも『東大王』で水上くんのファンになった女の子がいる。
「正直言って最初は嫌な奴だなぁと思ったけれど、すごく頭がいいのに時々単純なミスをしたり天然だったりするギャップがいい」。
また別の友人男子は鶴崎くんファン。
「自分は文系なので理系に憧れがあるし、顔もかっこいい。性格も面白くてかわいい。この番組は中国にはないエンタメ性があってとても面白い」と欠かさずチェックするという。
出演者と番組企画の両方の魅力によって、今後もっと人気が出てくる可能性はあるのではないだろうか。
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中国におけるクイズ番組の変貌
中国では元々正統派クイズ番組が主流だったが、最近では出場者にスポットを当て、よりエンタメ性やストーリー性を重視したつくりになってきていると言われている。
「クイズマニア」の存在は聞いたことがないし、マーケットも小さい。大学の「クイズ研究会」のようなサークルも、調べた限り見当たらない。しかし鶴崎くんファンの友人男子のようなポテンシャルを持った若者も多く、「問題を出して答える」という従来のクイズのスタイルとはまた違った形で、これから盛り上がってくる可能性もあるのではないか。
人に対する興味が大きい中国では、往年の名番組『アメリカ横断ウルトラクイズ』のような、出場者にスポットを当てる、ドキュメンタリー形式のクイズ番組が登場したらとても人気が出るのではないかと思う。なにせ人口は日本の約10倍。ムーブメントが起きればすごいことになる。
【ライタープロフィール】
海辺 暁子(かいべ あきこ)
3年間の上海勤務を2019年4月で終え、中国が大好きに。現在ロス中で、未だにYouTubeでなく現地の動画サイト(bilibiliやyouku)を視聴。クイズは昔から観る専門ですが、やってみたい気持ちも実は少々あったりします。