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INTERVIEW

クイズのためのクイズの本を書きたかった――伊沢拓司『クイズ思考の解体』インタビュー(PART1)

ロジックを開示することで
逆にクイズの面白さが保たれる

――では、具体的に本の中身について、お聞きしていきたいと思います。まず第2章のクイズの構文の話は、これまでの最新アップデート版ですよね。25パターンに分類されているのもすごいんですが、これが2.5章の伏線になっているという構成がすばらしかったです。
伊沢 ホントですか。2.5章を書いてよかったです!
――クイズ界って、予選の筆記クイズを除けば、ほとんどが読み上げの早押しクイズじゃないですか。『abc』を頂点とする競技クイズは特に顕著ですけど。しかし、この2.5章では「映像クイズの攻略法」を解き明かしてるんですよ。さすがはテレビで映像クイズをたくさん戦ってきた伊沢君にしか書けない内容だし、おそらく史上初めて言語化されたんじゃないかと思います。
伊沢 そうかもしれないですね。

――おそらく今後『東大王』にチャレンジしていくであろう中高生たちは、これがベースになっていくんですよ。
伊沢 ありがとうございます。これは今回、僕は絶対に入れたかったんです。今、読み上げの解説をされても、一般の方としてはポカーンだなというのは、書き始めた2年前からもあったし、『アタック25』も終わってしまって、すでに読み上げクイズ自体がテレビの中で希少なものになっていたので。今のヤングが考える早押しクイズって、やっぱり映像なんですよね。熊本大で「熊大王」っていう文化祭企画みたいなのをやってて、それが映像クイズだったんですね。それを見た時に、「これは映像クイズについて書かなきゃいけないな」と思いましたし、そもそも読み上げ的な型論って長戸さんの『クイズは創造力』ですでに文法的なのと、音声的なのにちゃんとわけてまとまっていて。それが僕の形式と実質みたいな分け方のベースになってるんですけど、「そもそも文法だけでは早押しクイズは捉えられなくて」みたいな話ってもう30年前に出てるんですよね。そう考えると、自分が加えられるアップデートは「単純に幅を取ること」。25の文法をまとめて、25に絞り込んで、これだけの紙幅を割いて語るというのは今までできなかったことなので、それが1個新しいのかなと。それと、やっぱり映像クイズへのアップデート。これがないと越境する本としては「画に描いた餅」になってしまうので。そこはマストでしたね。生配信で『東大王』の解説をしていたのがすごく大きかったというか。『東大王』について一般向けに説明するというのを毎週やっていたので、自分の中で理論が固まっていたんです。
――理屈がストックできていたわけですね。今回の伊沢君の本は「マジックからロジックへ」というのが大きなテーマだと思うんですけど。昔のクイズ王のすごさは説明されないマジックであったと。だからこそ、いまは『東大王』なんかでクイズ王である伊沢君自身が解答者の思考をロジカルに説明することで、すごさの謎を伝える時代だという趣旨ですけど……でも視聴者にとっては『東大王』の地球押しって多分マジックなんですよね。
伊沢 完全にマジックに見えますね、あれは。


――だからこそ、この2.5章の解説では地球押しを例に、映像クイズの攻略法が紐解かれていて。『東大王』を観ている人は目から鱗なんじゃないかなあ。
伊沢 そうですね。僕自身は全然マジックは肯定しているというか、テレビ的な演出手法の一つだし、ロジックだけの番組が成立する土壌は全然まだないと思うので、未だマジックに頼ることは一つ手段なのかなと思ってるんですけど。その上で、世界遺産の問題を、何の世界遺産でもあれでわかると思われちゃうと逆に僕も損だし、世界遺産は尽きていくわけですから。実際に『東大王』も出題する内容がなくなったり、出題するスタッフも変わっていったりして、「地球押し」問題の軸が変わってしまうかもしれないので、番組内でも度々ネタバラシと言うか、この問題の構造の解説をロジックとして残すようにしています。ある日突然、全く規則性なく1個上からの世界遺産を出されると、僕が一番困るんですね(笑)。
――なるほど。
伊沢 だから「『こうこうこういう理由で早押しができるのであって、こういう問題だと早くは押せませんよ』っていうところは1回つまびらかにしておかないと、みんな損するな」っていうふうに当時から思っていて。番組側や出題側だけではなく、観ている側も損するんですよ。昔『高校生クイズ』で、ヒエログリフを暗号として解く問題があったじゃないですか。あれを見て「ヒエログリフを覚える練習をしたクイズ研がいた」みたいな話があって、それはもったいないなって思っちゃったんですね。それを覚えるよりも、他にもっと楽しめる入り口はあるし。そういう同じ轍を踏まないためにも、そこは1回開示しなきゃいけない。一方で僕たちは『東大王』に完全に特化して勉強しているわけではなくて。今までアマチュアクイズ、競技クイズの中でやってきたような論理というのは応用しているんですよね。つまり、そこに参加してる少数の人が共有してるだけの「型」というのがテレビでも再現されてるわけですけど、そういう「プチデータベースの上に成り立ってるものですよ」っていうのは言っておかないとなっていうのはずっと思ってましたね。それを言うことによって、逆にそのクイズの面白さが保たれる。薄く浅くやってるんじゃなくて、ちゃんと「こういうルールの中でやってますよ」っていうのは例示したかったんですね。
――ベタ問題のデータベースや解法と同じで、ある種のお約束の中で、真剣勝負を戦っているんだというのを正直に明かすことで、逆に超人たちのすごさがわかると。
伊沢 テレビのところは、もうちょっとたくさん書けたらよかったんですけど。ただ映像がない状態で映像の説明をするのは大変でした(笑)。
――ああ、それはそうですね(笑)。
伊沢 でも、世界遺産の地球押しの問題は、例としてめっちゃわかりやすくていいなと思いますね。

クイズのためのクイズの本を書きたかった――伊沢拓司『クイズ思考の解体』インタビュー(PART2)

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