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INTERVIEW

『ナナマル サンバツ』完結記念特別対談 杉基イクラ×伊沢拓司インタビュー(PART2)

それまで一般的に知られていなかった競技クイズという世界に着目し、その中で鎬を削る高校生たちの姿に肉薄した『ナナマル サンバツ』。10年に渡る連載を終えた作者・杉基イクラと、作品ともに歩んできた伊沢拓司が、物語の魅力と裏話を語りつくした。
(2020年10月22日収録 聞き手:大門弘樹 撮影:玉井美世子)

杉基イクラ(すぎもといくら) 北海道生まれ。2000年に『テイルズ オブ デスティニー』(「月刊Gファンタジー」連載)でデビュー。2010年より「ヤングエース」にて『ナナマル サンバツ~7○3×~』を連載。代表作に『Variante -ヴァリアンテ-』『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』『サマーウォーズ』など。

伊沢拓司(いざわたくし) 1994年、茨城県生まれ。東京大学経済学部卒。開成高校時代に『第30・31回高校生クイズ』で2連覇を達成。2017年より『東大王』にレギュラー出演。現在はウェブメディア『QuizKnock』CEO、YouTuber、クイズプレイヤーとして数々のテレビ番組に出演。主な著書に『勉強大全 ひとりひとりにフィットする1からの勉強法』(KADOKAWA)がある。

関連記事:『ナナマル サンバツ』完結記念特別対談 杉基イクラ×伊沢拓司インタビュー(PART3)

クイズの多様性の部分をいろいろなキャラクターを使って表現(杉基)

――キャラクターの感情もリアルですが、クイズに対する考察や分析も驚くほど的を得ているのも『ナナマルサンバツ』のすごさですね。
杉基 はい。……でもクイズってすごい多様性があるから、「これがクイズだ」って勝手に答えを出してはいけないとずっと思ってたんですよ。なので、自分が取材で見て感じたいろんな多様性の部分を、いろんなキャラを使って「全部出しちゃえ!」と。それで「この子に共感できない人もいるかもしれないけど、でもこっちにはきっと共感してもらえるだろう」とか。いろんなところを数打っちゃいました(笑)。
伊沢 やっぱり感情の動きに、ちゃんと論理性が加わっていたのが僕はすごく良かったなと思います。クイズプレイヤーたちもそこは毎日毎日すごく思い詰めているんですよね。ホントに毎日クイズのことを考えて、クイズでメンタルがすごく上下する人は少なくないので。特に高校生の突き詰めてる時期なんかは。それもなんかこう一時の何かがあって「これで傷ついた」とかじゃなくて、2時間、3時間考えた上で傷ついたりしてるわけですよ、みんな(笑)。2時間、3時間考えて「うわー、どうすりゃいいんだろ、今後。この実力差を埋められるのかな?」とか。これはプレイヤー特有なのかわからないですけど、すごく論理的に感情が動いていくわけですね、僕が見ている限りは。
杉基 「あれ、あそこでこうだったから、ああだったら」とか?
伊沢 そうです。で、mixiとかに長文を書いちゃうわけです。
杉基 あー、なるほど(笑)。
伊沢 なので、僕はそこがある種のリアルというか。「うわっ!」みたいな一桁の足し算的な感情の動き方じゃないわけですね。背景にいろいろものがあって動いていくから。
杉基 だから私もそこを構想にするにあたって、やっぱりクイズもいろんな「スポーツもの」「競技もの」と変わらないと思ったんですよね。ライバルに対する感情とか、負けたり勝ったりした時の感情って。クイズも野球でもバスケでも、みんな同じような思いなんだと。そういう面では「描きやすいな」と思いました。
伊沢 そうなんですね、僕は「描くのは大変だろうな」とずっと思っていたので。
杉基 そういうふうに描くと、読者さんも「あっ、クイズって普通のスポーツと一緒だな」というふうに共感してもらいやすいですし。クイズ独特のものだと、なかなか共感してもらえないので。
伊沢 そうですよね。
杉基 だったら、そこに普遍的なものがあれば、クイズをやってない読者さんにも伝わるので。なので、もう特殊なことはせずに、スポ根だと思って描いた部分はありますね。
伊沢 クイズというゲームには、例えばバスケで言ったらボールをやり取りしている間とか、サッカーで言ったら一進一退のボールを持ったり持たなかったりみたいな間がないじゃないですか。スルーにならない限り、誰かのポイントが必ず伸びていたりするわけですよ。どうしても点が動いちゃう、誰かが勝利か敗北に向けて明確に動いちゃうので。となると、ホントに場面展開が多くなっちゃって、感情の動かし方とかキャラの動かし方とか「これ、描くのめっちゃ大変じゃないかな」と思ってたんです。
杉基 そうですね。まずクイズだけでも文字量を使うので(笑)
伊沢 そうですよね! 文字量、相当ありますからね。
杉基 キャラのことを描いている暇がないんですよね。展開を描くのに忙しくて。なので、10年かかったんですよ(笑)。

※※※ここから先はクライマックスに関するネタバレが含まれます。ご注意ください。※※※

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