杉基 物語を考えるのも忙しいんですけど、まず大会の概要、ルールを考えて、尺も考えて、問題も考えて。自分で作ったルールなのに、ルールの綾に翻弄されて、やりたい物語にならなくなったりとか(苦笑)。
伊沢 いやー、そうですね。最初にルールがドンと出るわけですもんね。
杉基 そう! 変えられないんですよね、あとからね。「あっ、ここのペナルティ、これじゃダメだ~」みたいな(笑)
一同 (爆笑)
伊沢 でもホントルールのパートがすごすぎて! 特に「SQUARE」全国編の。
杉基 シンプルにしようとは心がけたんですけど……。キャラの物語を追わなきゃいけないから、なるべくシンプルにシンプルにしてキャラのほうに集中できるようにしようと思ったんですけど、意外と説明がかかりました(苦笑)。準決勝の「国盗り」とかあったじゃないですか。
伊沢 「国盗り」は大変そうでしたね。
杉基 あれはシミュレーションをめちゃくちゃしましたね。一話のシミュレーションに3~4日かかったりして。で、描いている最中に、また「これじゃ違う!」と思って描き直したりとか。
伊沢 で、またそれを漫画の限られたコマの中に詰め込むわけですもんね。
杉基 そうですね。すっごい考えたのに、あんまり反映されなかったとか。
――「SQUARE」の形式は完全にオリジナルのルールでしたけど、あれは先生がご自身で考えられたのですか?
杉基 基本的には、キャラにやらせたい物語があるから、そこになるべく沿うような形にしないといけないので、私と担当で考えましたね。で、だいたい作ったものをセブンワンダーズさんに監修してもらうみたいな流れですね。「これじゃちょっとダメ」とか指摘してもらって。
――なるほど。ルールの穴のチェックなんかはしてはもらいつつ、でもほぼほぼ先生が創られたんですね。『ナナマルサンバツ』の前半はほぼほぼ早押しクイズですけど、それが「SQUARE」の予選になり、さらに全国大会になっていくと、今まさに『東大王』とか松丸君とかが人気を集めているような、早押し以外の新しいクイズの形が登場してきましたね。
杉基 そうですね。それはもうほんとに時代に合わせたというのもありますし、あとは全国大会だから『高校生クイズ』とか『ウルトラクイズ』みたいなちょっとバラエティ性のあるものは元々やろうと思っていました。
杉基 はい。なので、例会でガチガチの早押しクイズとか競技クイズのセオリーを学んできた識たちが「えっ、こんなのやってないよ!」みたいな、ちょっとルールに翻弄されたりするのも面白いかなと。
伊沢 ホントにあることですからね(笑)
――まさに伊沢さんがテレビで何度も経験してきた(笑)。
伊沢 そうですね。まさに翻弄されてきました。でも、あれだけのしっかりしたルールの中でも、僕が特に「すごいな」と思ったのは、馬跳びのところなんですよね。予選の決勝なんですけど。ルールの話で行くと、あれって意外と正解数少なめで上がれちゃうわけじゃないですか。
杉基 そうですよね。
伊沢 はい。なので、最初に馬跳びのルールを見た時に「あっ、これけっこうあっさりめになるけど大丈夫かな?」と思ったら、誤答が絡んだりとかすると、そこから深みが出てくるというか。で、「正解数少なめで上がれちゃう」要素を解決すると、大勢のチームが競いやすい形式だし、なかなか解答権を得づらい形式ゆえにじりじりした感情とか、個人個人をじっくり描けるし。「あっ、これ、めちゃくちゃ漫画向きな形式だな!」と思いました。それがすごい発見でしたね。だから、いろいろなルールが登場して、いろいろなクイズの描かれ方を見た時に「ホントにクイズそのものを見つめ直すポイントになったな」と思って。……それこそリアルなクイズ大会には、山のない、ただただ殴り合うような形式が少なくないんですよ。そこに、あえて複雑なルールで飛び込み、そして見事に毎回毎回違うストーリーだったり、違う感情だったりが出てくるというのは、ホントにすごいなと。普通のクイズプレイヤーなら諦めるところですね、ああいうルールを作るのは。リアルを巻き込んだフィクションであるがゆえの産みの苦しみを感じました。
杉基 でも、あれも毎回毎回プロットとネームを切ってたので、毎月ギリギリの作業なんですよ。毎月ネームを切りながら発見することもすごく多いんですよ。
伊沢 それだけ向かい合うことで気づくわけですね。
杉基 そうですね。だから、最初のルールを作った段階の脳内シミュレーションでは「なんかこんな感じかな」と言って進めてても、「ここでこのキャラを頑張らせたいな」とか「あっ、待て。ここでこのキャラを通過させたら、すごく面白くなるんじゃない?」みたいなのがやっぱり出てくるので。そういう勝負の綾みたいなところを絡めて。発見しながら描いたところも多いですね。