我こそは日本一なり、と語る腕利きのクイズプレイヤーが一堂に会した。去る2014年3月9日、社会人による基本問題No.1決定戦『ABC the fourth』が開催され、会場となった国立オリンピック記念青少年総合センターには134人の参加者が集い熱戦を繰り広げた。
『ABC』シリーズは、2003年から現在まで続く学生による基本問題No.1決定戦『abc』シリーズにインスパイアされた「社会人版abc」という立ち位置の大会である。『abc』シリーズは出場者が学生に限定されているにもかかわらず今や参加者が500人を超えており、クイズ界最大といっても過言ではない大会であるとともに、多くの学生が一年の集大成として最も手にしたいタイトル戦でもある。そんな学生世代が「abcを開いてくれる社会人への恩返し」として2010年に『ABC』シリーズを立ち上げ今に至る。
この大会の特徴の一つが、この学生主催という点である。特に今大会は、『ABC』シリーズ立ち上げを行った2009年大学入学組が卒業したことにより、中心スタッフが総じて刷新されるという状況で開催された。今大会の大会長を務めた早稲田大学二年の佐谷政裕は大会終了後「先輩方が抜けたからダメな大会になったとは言わせない、という現役スタッフの強い気持ちが大会の成功につながったと思います」と話した。
『ABC』が掲げる「基本問題」の定義とは、『アタック25』のようなテレビクイズでよく出題されるような比較的答えやすい問題、のこと。その題目の通り、参加者を一気に48名まで絞る第一ラウンドのペーパーテストでは一問の取りこぼしが明暗を分けるハイレベルな戦いが繰り広げられ、トップの廣海渉は100点満点でなんと90点を叩きだした。
序盤から白熱した戦いが繰り広げられ、第二ラウンドで早くも『ABC』第1,3回優勝の古川洋平らが敗退する波乱の展開になった大会は、第三ラウンドで『初代クイズ神』であり『ABC』第2回チャンピオンの渡辺匠が敗れたことにより、チャンピオン経験者不在となる群雄割拠の状態となった。
一方で第三ラウンドを勝ち抜き準々決勝へコマを進めたのは、前年までメインスタッフをしていた隅田好史や、大卒2年目の中村心、3年目の鳥居翔平、山田晋也といった、いずれも過去の『ABC』でスタッフを務めてきた若手を中心とするメンバー。世代交代を印象付けるとともに、彼らがインタビューで揃って口にした「学生スタッフへの感謝」が大会を暖かく盛り上げた。
大会も佳境となる準々決勝では、敗者復活戦で勝利した渡辺と、渡辺と『クイズ神』で決勝を戦った為季正幸、そして若手から隅田と鳥居が勝ちあがり、大会がベテラン対若手の様相を呈してくると、準決勝では手数を稼いだ鳥居と渡辺が試合を支配し、それぞれの世代を担って決勝へ進出した。
『クイズ神』優勝を皮切りに、『ABC』シリーズでも優勝を経験している渡辺匠に対して、『ABC the third』で準優勝し、『東日本早押王』二連覇などのタイトルをものにしている新世代のエース鳥居翔平が挑む形となった決勝戦は、6セット先取のテニスを模したクイズ。圧倒的スピードを誇り華麗な押しを見せる鳥居に対し、堅実な知識に基づいて落ち着いて正解を重ねる渡辺という対照的な二人の押し合いは熾烈を極め、セットカウント4-4にまでもつれる大熱戦に会場のボルテージも最高潮に。最後は数度のデュースの末に第9セットを獲得した渡辺が、その勢いのまま6セット目を取り二度目の優勝を成し遂げた。
昨年末に長女が生まれ、育児に仕事にと忙しい日々を送る渡辺。「合間合間の細かい時間を使って積み重ねた勉強が今日の結果につながりました」と満面の笑みで答え、最後には長女に向け「パパやったよ!」と叫ぶと、会場は温かい笑いに包まれた。優勝の瞬間には、敗者復活からの優勝というドラマチックな展開に涙する人もちらほら。午前11時に始まり9時間に渡った激戦は、数々の名勝負を記憶に刻みつつ万雷の拍手で幕を閉じた。
優 勝:渡辺匠
準優勝:鳥居翔平
筆記一位:廣海渉