地元チームを全力で応援する地方銀行は
まさしくセンバツの甲子園そのものだった
——そういった高校生への経済教育の一環として、大会には各都道府県の地方銀行さんが協賛してくれています。こういった状況は最初から考えていましたか。
鈴木 まったく考えていませんでした。それどころか、最初に考えた頃はこんなに何回も開催することになるとも思っていませんでした。1回目が終わったあと、スタッフ間で2回目はどうしようかと話し合っているときに、「地方銀行さんに地方大会やってもらおうよ」と提案した人がいたんです。ダメ元で声をかけてみたら10行くらい集まりました。そこでちょっと意識が変わったんです。自分たちだけでやっていたら絶対にここまで続かなかったですが、ここまで来たら大会は我々だけのものではないぞと。
——各銀行への協賛のお願いは、割とすんなりと受け入れてもらえたのでしょうか。
鈴木 もちろん二つ返事でオーケーというわけにはいかないので、どういう目的の大会なのか分かっていただくために、頑張って説明させていただいたりはしました。思い返すと、お願いする時期がたまたま良かったんです。ちょうどその頃、金融庁から各銀行へ「どういった社会貢献をしているのか」というアンケートがあったらしいんです。それで「小学生を対象におこづかい教室を実施」とか、「中学生には社会科見学の受け入れ」など、小中学生向けには元々活動していたので解答できたらしいのですが、高校生を対象にした活動となるとポッカリ空いてたそうで。そのタイミングでエコノミクス甲子園の話が来たので「これで高校生にも何かできる!」と、良いタイミングだったみたいです(笑)。
——10行から始まった地方銀行による地方大会も、今や45都道府県にまで広がりました。
鈴木 各銀行さんが「地元の高校のために」と協力してくださって、本当にありがたく思っています。地方大会は各銀行さんが主催なので、参加校に対して贔屓はしないのですが、地方の銀行員さんって地元の名門校のOBが多いので、自分の出身校をこっそり応援してくれてたり。
池田 全国大会は本当にすごいです。代表で来てるからコソコソ応援する必要もないので、法被を着たり、横断幕まで用意して、「頑張れー!」って声援を送ってくれています。
鈴木 まさに高校野球の甲子園みたいな様相です。あんなに応援してくれたら、子供たちは自分の地元を絶対大好きになりますよ。予期してなかった副産物と言いますか、子供たちの郷土愛みたいなものが育まれてるのを見て、胸が熱くなりました。銀行さん、運営を手伝ってくれる参加者OB、みんなで作り上げている大会なんだなと、ひしひしと感じています。
大会が好きだから自然にスタッフをやる
参加者たちが繋いできた『伝統』
——池田さんもそうですが、大学生OBスタッフがここまで運営に協力しているのは、とても凄いことだと思います。
池田 僕はクイズ研究会でもなかったですし、優勝できるとも思っていなかったんです。ちょっと出てみようかなくらいの軽い気持ちで。だから、優勝できたことは嬉しかったんですけれど、それ以上に大会を通じて仲間がたくさんできたのがすごく嬉しくて。「全国にはこういうやつらがいるんだ」「こういうことに興味を持って勉強してるんだ」という気持ちが、エコノミクス甲子園で出会った仲間達の間で共有されて繋がってるんです。だから今でも、スタッフに参加した人もそうでない人も、みんな仲が良いんです。一緒にミーティングしたり、遊びに行ったりする度に「あぁ、この繋がりはずっと大切にしたいな」と漠然と思ったりして。きっとみんなも同じ気持ちなんだと思います。
——大会の運営であり、繋がりを感じる場所でもあるんですね。
池田 それと、これは個人的な理由なのですが「エコノミクス甲子園に恩返ししたいな」と、ずっと思っているんです。優勝してニューヨークまで連れて行ってもらっているので、その経験を今の高校生達に大会を通じて伝えたり、貢献できるようなことがあれば力になりたいんです。それは今もずっと変わらない思いですね。
鈴木 もう13年もやっているので、代々の先輩から受け継いできた、ある種の『伝統』が生まれてるみたいなんです。その伝統のひとつに自分もなるというか、帰属意識みたいなものがあるのかもしれません。
池田 それは確かにあります。みんなエコノミクス甲子園が好きだから、守りたいのかも。今も事務所に社会人になった先輩がフラッと遊びに来ますよね。お菓子持ってきたりして。
鈴木 そうそう。「おーう」なんて軽いノリで。全国大会でも、何も言わないのにスタッフ席に入って審判になる先輩もいます。大会中、解答者から想定してないけれど間違いではない答えが出てきたときに「審議!」の掛け声で審判達が集まるんです。みんなでああでもない、こうでもないとやっているところに、弁護士になったOBが「この場合はこういう解釈もできるので正解とみて差し支えないんじゃないでしょうか」なんてビシッと言ってくれたりして。成長を感じましたね。
——大会だけではなく、運営の方でも伝統が受け継がれていますが、スタッフへの志望は自発的なものが多いのですか。
鈴木 えっと、あのー(苦笑)
池田 あはは、歯切れが悪くなってますね(笑)
鈴木 大会を開催している最中、僕ら大人はあまり前に出ないようにしていて、代わりに大学生のスタッフがみんなスーツや腕章をつけて、選手の誘導などで走り回っています。そうすると、「カッコイイ!」「自分も大学生になったらスタッフをやりたい!」と思ってくれる高校生が結構いるんです。だけど、大学に入っちゃうとサークルなどで忙しくなって、時間がなくなってしまう。その打開策として、「受験お疲れ様の会」というのを年中行事として開いています。
池田 東大志望の子が多いので、その2次試験が終わった夜に合わせてですね。
鈴木 大会に参加していた受験生達が地元に帰る前に、ちょっと豪華に見えるところにみんなを集めて、大会の先輩である大学生たちも呼んで食事会をするんです。楽しく食事して、盛り上がったところで、「ここに来たってことはスタッフやるよね?」みたいな感じで(笑)。
池田 既成事実と青田買い。もうこれも伝統ですよね(笑)。でも、もちろん強制ではないですし、実際に途中でやめるスタッフだっています。それでもこんなに手伝ってくれるのは、やっぱりみんな好きだからなんです。
——第10回から、返済不要の総額200万円の奨学金制度も始めていますね。
鈴木 全国大会に進出した時点で勉強のほうは資格があると思うので、大会の順位は関係なく、経済的な理由でゆとりある大学進学が困難な子を選出しています。応募者は年々増えていて、「勉強はできるのに家庭の事情で進学を諦めていたら、高校の先生が出場を勧めてくれた」という話も多いです。なんと言いますか……正直に申しますと、かなり驚きました。想像以上に厳しい家庭環境の子が多いことが分かって、「日本はこんなところまで来ているのか」とショックを受けました。ですが、そういう子こそ経済の知識を持ってもらいたいんです。何も金融や株の話じゃなく、身近なお金の知識です。お金の知識がないと、不必要に損をしてしまったり、誰かに騙されたりすることもあります。応募者全員に奨学金をお渡しすることはできませんが、この大会に参加したおかげで経済を見る力がつき、少しでも人生の糧になればいいなと思っています。
——これからも歴史を紡いでいくエコノミクス甲子園ですが、今後の展望はありますか。
鈴木 まずはテレビ番組になるような規模にしたいです。高校生クイズみたいになるのはちょっと難しいかもしれませんが、「全国高校ロボット競技大会」のような形になったらいいなと思っています。もうひとつは、世界大会にしたいですね。「裾野を広げるには、頂点を上にあげなくては」というプロアスリートの言葉があります。テーブルクロスをつまんで持ち上げれば上げるほど裾も広がる、という意味です。「今は日本大会だけど優勝したらアジア大会、次は世界大会で海外のみんなと英語で互角に戦うんだぞ」という、もっともっと上のステージを用意してあげたいんです。「テレビ」や「世界」と言うと、バラエティ色が強くなるように思われるかもしれませんが、たくさんの子供たちに経済学に触れてほしいという理念はブレていません。まずは今以上にエコノミクス甲子園を知ってもらうこと。そのためのひとつの手段だと考えています。
池田 僕が出場したときよりも、毎年参加チームは増えています。このままどんどん増えていってほしいというのがまずひとつの願いです。でも、単に増えるだけではなく、いつか出場した高校生が何かのきっかけで金融や経済に触れることがあったとき、「そういえば昔エコノミクス甲子園出たなぁ」と思い出してもらえるような存在でありたいなと思いますね。「そういえばテキスト残ってたな。読み返してみるか」というように、その人の経済観の一部になってくれれば幸せです。
全国高校生金融経済クイズ選手権
『エコノミクス甲子園』 全国大会概要
開催日:2019年2月17日(日)
時 間:10時〜16時30分
当日の一般観覧はありません。YouTube Liveを行います。詳細をHPやTwitterにてお知らせいたしますので、ご確認ください。
公式HP:econ-koshien.com/
公式Twitter:twitter.com/ecokou
公式YouTubeチャンネル:youtube.com/channel/UCL8EyQzBT8qdNq9fuv3aq5A
※当日の生放送は上記YouTubeチャンネルより行う予定です。