古川 洋平 Youhei Furukawa1983年、宮城県生まれ。2000年に「アタック25高校生大会」で優勝。立命館大学在学中の2004年から2006年には、新世代による基本問題実力No.1決定戦「abc」で3連覇を果たす。現在はクイズ作家を主軸にしつつも、多くのクイズ番組で名をあげるクイズプレイヤーでもあり、「はじめてのクイズ」など様々なクイズイベントの主催者としても活躍中。「リアル脱出ゲーム」を中心としたイベントを手がける株式会社SCRAPのイベントスペース「ヒミツキチラボ」。“企画の実験”をテーマに掲げたこの場所で、初心者向けの「はじめてのクイズ」をはじめ様々なイベントを主催している仕掛け人が、クイズ作家の古川洋平だ。クイズプレイヤーとして華々しい戦績を残してきた古川は、なぜ初心者向けのイベントを企画するに至ったのか、その真意を直撃した。
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捨てられなかったクイズ作家の道
——先日は「Quiz Japan Party」の司会ありがとうございました。クイズイベントの司会業はもちろん、企画なども手掛ける“古川さんのクイズの原点”からまずはお話をうかがえればと思います。古川さんはどのような経緯でクイズ作家になったのでしょうか?
古川 もともとクイズが好きで作家になるのは昔からの夢だったんです。田中健一さんや日高大介さんのような一流のクイズ作家の人たちが成功されているのを見て、僕もああいうふうになりたいなという憧れがあったんですね。でも、クイズ作家というのは一般的な仕事とは違うじゃないですか。日本に100人もいないような職種なので、そういう仕事に就くっていうのはなかなか勇気がいるなと思って。
——そうですね、職業にされている方はあまりいらっしゃらない。
古川 一方で、大学を出て一般企業とか自治体に入って結婚してという人生が普通だよなと勝手に決め付けてたところがあって。だから、クイズ作家になる前に食品会社の営業マンと公務員として働いていた時期があるんです。でも、公務員4年目のときに「このまま、定年を迎えるまでに僕はこうやって生きていくのかなぁ」と思うようになってしまって。
——「普通の生き方」が嫌になったということですか?
古川 そうなんですよね。生活は安定してるし、自由な時間も持てるんですけど、それでも続けていたクイズの研究に割く時間が全然足りなくて、普段の仕事でもさして力を発揮するでもなくといった感じだったんですね。それで、早くも定年のことを考えはじめてしまったんです。まだ、20代だったのに。
——20代にしてもう、定年のことまで考えてしまったと。
古川 でも、結婚して一年も経ってない時期でしたし、公務員という安定感のある仕事をわざわざ辞めてしまうことに嫁よりも僕のほうが抵抗を感じてて。それでも、踏ん切りがつかなくて悩んでいたら、「やりたいことやりなよ。生活ができなくなったら、生活保護受けてもいいから」と、ケースワーカーとして勤めていて、生活保護の大変さを知っている彼女が背中を押してくれたんです。それがフリーを決意した大きなきっかけですね。これが29歳のとき、去年の1月のことです。ずっとプレイヤーとしての活動がメインでしたが、自分の思うように人生を歩もうと決めて、本当にやりたかったクイズ作家の仕事を本格的に始めました。
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予想外の動きを見せた「はじめてのクイズ」
——今は主にどのような活動をされているのでしょうか?
古川 事務所に所属せず、フリーのクイズ作家としてテレビ局、ゲーム会社などと仕事をしています。クイズに関して制作と演者の両方をやらせてもらってる感じですね。
——古川さん主催の「はじめてのクイズ」が今年の4月で1周年を迎えました。この1年を振り返るとどんなことが思い浮かびますか?
古川 1年間やって、ここまでの多くの人がリピーターになってくれるとも、「はじめてのクイズ」に愛着を持ってくれるとも思ってもみなかったということです。もちろんそういう場を目指してはいたんですけれど、それが今、目の前に現実のものとしてあることに驚いています。企画を持ち込んだとき、ちょうど、ヒミツキチラボ実験室長の吉村さおりさんがクイズイベントをやりたいと考えていたのも運が良かったですね。
——それでも、最初は不安だったのではないですか?
古川 最初は48人という定員が埋まるかどうか不安でした。でも、満席になったのを見て、まだまだクイズの需要があることも分かって不安が解消されました。クイズが良く分からなかった人が回数を重ねるごとにすごく楽しそうな顔になっていく。その過程を見ることができてすごく嬉しいですね。「はじめてのクイズ」を通して、クイズを楽しむ場を作ることができて本当に良かったと思います。
——そんな「はじめてのクイズ」ですが、1回目の開催までには紆余曲折があったそうですね。
古川 初めて、吉村さんと企画の話をしたときに、ヒミツキチラボが抱えていたアイドルグループのパズルガールズという謎解きゲームに演者として出ているアイドルグループがいることを知って、彼女たちがファンとチームを組んで対抗戦をするクイズイベントをやろうと思ったんですね。それが実現すれば、クイズを知らなくてもパズルガールズのことが好きな人は来てくれるだろうし、クイズの新しい扉が開けるんじゃないかと期待して。その企画書と「はじめてのクイズ」の企画書の2つを持っていったんですよ。そしたら、吉村さんが「クイズのイベントをしっかり育てたいから、スタンダードなクイズをしたほうがいいと思います。クイズの楽しさを知った後で、こういうバリエーションのイベントも展開しましょう」とアドバイスしてくれたんですね。後に「パズルガールズ」とのイベントも開催したのですが、吉村さんの言うとおりで、目を引くような内容でいきなりお客さんを呼ぶより、クイズそのものの魅力を伝えるということに成功したから、今の「はじめてのクイズ」があるのかなと思ってます。
——「早押し機が押せる」という点も初心者には非常に魅力的に映りますね。
古川 テレビで早押し機を押しているシーンを見ている方は多いと思うのですが、実際に触ったことがある人はごくごく少数ですよね。やり方がわかってるのに経験できないものの代表のひとつだと思うんですけど、早押し機を押すことそのものが、イベントになっているのかもしれません。参加される方々にはテレビに出演しているかのように非日常を感じてほしいと思っています。
——出題されるクイズにも、「はじめてのクイズ」ならではの工夫があるようですが?
古川 「はじめてのクイズ」で出題するクイズは「へぇ~」と思わせることに重点を置いています。例えば、オープン大会などで出題される次のような問題文
「フランス人のフレデリック・バルトルディによってデザインされた、有名な像といえば何?」
では何より知識が問われ、初心者にはハードルが高いんです。クイズをする人は設計者の名前まで覚えているのですが、クイズをしない人たちはそこまでしません。一方で、同じ答えの問題でも「はじめてのクイズ」では
「その顔は製作者の母親の顔がモデルとなっている……」
(答えは「自由の女神」)
このように問題文に「へぇ~」と思わせる雑学を加えることを心がけています。初心者だからこそ、クイズに肯定的な気持ちになってほしいし、純粋にイベントを楽しんでもらいたいんです。
——聞いているだけでもためになるような問題ということでしょうか?
古川 そうです。言ってしまえば「トリビアの泉」を見たときのような気分になる問題文が理想です。雑学があると、聞いているだけでも楽しめるんですよ。間違っても、答えが出なくても、飽きないように興味をもってもらうことを目指しています。
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参加者の笑顔がイベントの原動力であり、魅力
——他にもいくつかクイズイベントを主催されていますが、印象に残っているイベントはなんですか?
古川 「ふたりクイズ」というイベントが一番印象に残っています。「ヒミツキチラボ」で開催した、ペアで行なうイベントなんです。「ふたりクイズ」は、今までクイズと縁遠かった女性の方の中にも、クイズをやりたい人とか楽しんでくれる人が眠っているんだなと気付かせてくれたイベントです。オープン大会の男女比って大げさに言うと99対1くらいで、会場にまず女の子がいないんです。でも男女カップルでの参加を推奨している「ふたりクイズ」では、約半数が女性になりました。
——その「ふたりクイズ」や「はじめてのクイズ」以外にも「イントロクイズ」など様々なイベントを主催されていますが、イベントのどんなところに魅力を感じますか?
古川 プレイヤーの顔が見れるところですね。正解したときの喜ぶ顔や考えているときの顔は、テレビだと編集の過程でカットされていることがあるんです。でも、イベントの場合だと夢中になっている顔が毎回見ることができる。彼らの喜ぶ顔を見ると、私の中のクイズの熱量も回を重ねるごとに増しているのが実感できます。
——その反面、大変なことも多いと思うのですが。
古川 普通は、制作と演者は別れているものなのですが、それを一人で両立させなければならないところは大変ですね。でも、制作の意図を一番わかっている演者という立場を最大限に活かすことで、イベントを円滑に進めることができると考えています。
——クイズイベントの司会をする上で大事なことはなんですか?
古川 さまざまな層のお客さんや、主催者がどうしたいのかという意図を汲むことだと思います。ホールを借り切って行なう「abc」やニコニコ生中継で放送された「Quiz Japan Party」、私が一年くらいやっている50人くらいの規模のイベント「はじめてのクイズ」のなど、イベントそれぞれにお客さんの層や主催者の思いが変わってきますから。それから補足説明も大事ですね。解答者だけがその場で納得するのではなく、観客にもわかってもらえるように工夫しています。解答が終わって空き時間が多くなると、だんだんと参加者の熱量が下がってしまうものなんですよね。だから待ち時間も面白いと思わせることが大事です。
——クイズイベントの主催者である古川さんから見た「Quiz Japan Party」の特徴はなんだと思いますか?
古川 同じフィールドでクイズ王と一般の解答者が戦えるところだと思います。初心者を集めたイベントを主催している立場としては、初心者と能勢さん、伊沢さんらクイズ王が共存するイベントというのが新鮮でしたね。それから一般参加されている解答者にもチャンスがあるよう難易度の高くない時事問題が出題されるなど、夢の舞台としてのクイズ大会を演出することが非常に上手だと思います。
——「Quiz Japan Party」に古川さん主催の「はじめてのクイズ」に参加されていた方もいらっしゃったそうですね。
古川 そうなんです。決勝に2人、「はじめてのクイズ」でクイズを始めた方が残ってたんですよ。クイズをやったことがない人に面白さを伝えるというのが「はじめてのクイズ」の目的ではあるのですが、決勝に出るだけの実力がついた人が現われたことは嬉しかったですね。
——クイズ界の開拓者としてまいてきた種が少しずつ芽を出してきているんですね。
古川 先輩たちが拓いてくれた道があったので、僕だけが開拓者と言うわけじゃないですよ。でも、これからは「ヒミツキチラボ」という実験的な企画に寛容な会場を使ってもっと面白いクイズイベントにも挑戦したいです。
——最後に今後の展望について聞かせてください。
古川 「ヒミツキチラボ」で行なっているようなアットホームなイベントをメインとして続けるのはもちろんなのですが、もっと規模の大きなクイズイベントを考えています。最近のクイズイベントは50枚のチケットが4分で売切れてしまうんです。最終的には参加者を可能な限り増やして球場みたいな、今までにないくらい大きなスペースでクイズイベントを開催することにも興味があります。
——広大な球場を使ったクイズ、ぜひ実現してほしいですね!
古川 そのときはぜひ参加してください!