平成時代限定のクイズ
勝敗の鍵は女神が握る!
――そしていよいよ決勝ラウンド「平成を駆け抜けろ! 総決算クイズ」。これもユニークなクイズ形式でしたね。平成を3つの時代に分けて、初期(平成元年~8年)の方がポイントが低く、皆さんくらいの年齢の方でも馴染みのある中期・後期になるにつれポイントが高くなるという、否が応でも盛り上がる形式です。決勝のポイントはどこにあると見ていましたか?
関根 「金の女神像」はその年の得点×その問題を間違えたチーム数の得点を、「銀の女神像」はその年の得点×その問題を間違えたチーム数÷2の得点を獲得できるルールでしたが、相手チームのペンが全然動いてなかったら早い段階で女神像を使った方が良いと思いました。
▼女神像の選択
中央中等=金
智辯和歌山=金
並木中等=銀
金大付属=金
灘=金
藤島=金
富山中部=金
旭丘=金
平井 僕的には銀の方がやりやすそうだと思っていたんですけど、みんな金の女神像を選んでましたね。それに最後の方でバーーーって使い出してたよね。
関根 問題の難易度がよくわからなくて様子見をしていたのが理由だと思うんですけど、ここまでクイズの難易度が高かったので、確実に正解できる問題が1つは出題されるだろうと予想して金の女神像にした人が多いのかなと思います。
――なるほど。では決勝も1問1問見ていきましょうか。第1問は平成元年~2年、バブル期のクイズでした。
「まだまだバブル景気の真っ只中。任天堂からゲームボーイが発売された平成元年。その年の最終取引日である12/29に日経平均株価が歴代最高値となる38957円を記録しました。では一般的に証券取引所の年末の最終取引日のことを漢字3文字でなんというでしょう」
正解は「大納会」
○藤島、灘、金大付属、並木中等、智辯和歌山、旭丘
×富山中部(大納日)、中央中等(決済日)
関根 当初から感じていたことなんですが、競技クイズと違って問題文の前振りが長く、確定ポイントがなかなか現れないものエコノミクス甲子園の特徴かもしれません。ボードクイズだからできることですよね。時代を振り返りながら想像を膨らますという意味でも、1つのジャンルに特化したクイズならではの出題方法だと思います。
――正解しているチームが多い一方、ここでは女神像を使うチームはなし、次の第2問(平成3年~4年)が
「横綱千代の富士が引退しジュリアナ東京がオープン。西新宿で東京都庁が開庁した平成3年。複数の証券会社による大口顧客への損失補填が社会問題となりました。ではこのような不祥事を防ぐために翌平成4年に設立された不正な証券取引の監視、摘発を行う行政組織は?」
正解は「証券取引等監視委員会」
○藤島、灘、金大付属、並木中等、
×富山中部・中央中等(公正取引委員会)、智辯和歌山(公正取引委員会)、旭丘(金融庁)
――2人は答えられましたか?
関根 いやー細かいところまでは合う気はしなかったですね。こういうのだろうとは思いましたけど、その場にいたら書けなかったと思います。
――正解したチームも藤島、灘、金大付属、並木中等の4チーム。不正解チームが間違えた「公正取引委員会」は確かに書いてしまいそうな印象はありますね。
関根 そうですねぇ。
――灘が続けて正解してるのに女神像を使わないですね。相手チームの出方をうかがっていたのでしょうか?
関根 そうだと思います。僕だったらもう少し早めに銀の女神像をポンッと出したと思うんですけど、状況がまだよくわからなかったですよね。全15問って意外と多いようで少ない気もするので。後から振り返れば、この辺で出しておけばトップに近かったのかなとは思います。ただ、灘が選んだのは金の女神像なので、やっぱり出し渋りしたくなる心理は働いたと思いますね。
――あまり早く出して正解しちゃうと、焦った他のチームが追随しようとするから様子見て出すという判断だったんでしょうかね。
関根 たぶん誰かの流れに乗りたいってのはあったんでしょうね。
平井 みんながみんなの様子を見ていた感じですね。「なかなか出さないな」って。
――次の第3問(平成5~6年)は
「関西国際空港が開港し向井千秋さんが宇宙へ出発。オウム真理教による松本サリン事件が起こった平成6年。ドラマ家なき子の『同情するなら金をくれ』というフレーズが流行語大賞を受賞しました。では、この年トヨタが社員に導入した給与の金額を1年単位で決定する制度をなんというでしょう」
正解は「年俸制」
○富山中部、藤島、灘、並木中等、旭丘
×金大付属、智辯和歌山、中央中等
――まだ女神像を使うチームはなし。続いて第4問
「阪神淡路大震災が発生し、ウィンドウズ95が発売され、野茂英雄が大リーグで活躍した平成7年。ネット書店としてAmazonがサービスを開始しました。では、日本の出版業界に見られる販売業者に小売価格を指示し遵守させる制度はなんでしょう」
正解は「再販売価格維持制度」
○並木中等(再販売定価制度)→審議の結果おまけで正解
×富山中部(希望小売価格)、藤島・灘・金大付属(最低価格保証制度)、智辯和歌山(オープン価格)、旭丘(希望小売価格制)、中央中等(指値取引)
関根 これ別解が出やすい問題なんですよね。外国由来の言葉も多いから日本語にしたときに難しいと思うんですよ。別解が多いというのも競技クイズとは違うところかと思いました。
――平成初期までのクイズが終了、女神像もまだ使われない状況。次の第5問(平成9~10年)
「長野オリンピックが開催され、サッカーワールドカップに日本が初出場し、誰もがiMacを欲しがった平成10年。あるインドの経済学者がアジア人としてはじめてノーベル経済学賞を受賞しました。では、発展途上国の経済を研究して貧困や分配の不平等の理論を構築したこの経済学者は誰でしょう」
正解は「アマルティア・セン(センのみでも正解)」
○富山中部、藤島、金大付属、並木中等、智辯和歌山、旭丘
×灘、中央中等
――ここまで並木中等は全問正解です。
関根 これは競技クイズでよく出るので僕はわかりましたけども。
平井 僕は知らなかったっす。
関根 思ったより正解が多かったですね。こういうところでクイ研の人が有利なのかなぁって思って見てたんですけど。クイ研じゃなさそうなチームも正解してたので「あぁすごいなぁ」と思って見てましたね。
――クイ研の灘は間違えてますもんね。そして第6問(平成11~12年)
「シドニーオリンピックが開催され、カシミアのストールやサザンオールスターズのTSUNAMIが流行した平成12年。日本、中国、ASEAN諸国などの間でチェンマイ・イニシアティブが締結されました。では、チェンマイ・イニシアティブのような通貨危機が起こった時に一定のレートで互いに通貨を融通し合うことを定めた国家間の協定をなんというでしょう」
正解は「通貨スワップ協定(スワップ協定でも正解)」
○富山中部、藤島、灘、金大附属、並木中等、旭丘
×智辯和歌山、中央中等
――これもニュースを見ているとよく聞くワードですね。
関根 そうですね。
――競技クイズでも出題されますか?
関根 これは出たことないですね。
――問題文が長くなってしまうからですか?
関根 そうですね。確定がなかなか難しいんだと思います。競技クイズの場合って確定がないと困るんですね。例えば7問目に出題される「コンコルド効果」は問題文の後半に「ある乗り物になぞらえて」という限定がくるので確定になるんですけど、こういった問題文でも例えば語源がヒントになるような「フランス語で何というでしょう」とか「英語で何というでしょう」という限定があると安心しやすいというか(笑)。
――そもそも、競技クイズでは金融・経済ジャンルの問題はあまり出題されないものなのですか?
関根 そうですね。エコノミクス甲子園のように細かい知識を問うクイズはあまり聞かないですね。やっぱり文学とか歴史とか理系のすごい難しい法則とか、そういった日常生活とはかけ離れたところの知識を問うことが多いかなっていう気はするので。
――そして次が第7問(平成13~14年)。2人が生まれた年ですね。日韓ワールドカップの開催の年に生まれたと。
関根 だから赤ちゃんのときに僕はベッカムの髪型をさせられてました(笑)。
「日本でサッカーワールドカップが開催され、アザラシのタマちゃんが多摩川に現われた平成14年。ダニエル・カーネマンがノーベル経済学賞を受賞し、彼が研究する行動経済学が大きな注目を集めました。では、行動経済学の知見の一つで費やした労力を惜しんでその事業や投資が失敗するとわかっていながら中止することができない心理現象のことをとある乗り物になぞらえてなんというでしょう」
正解は「コンコルド効果」
○富山中部、藤島、灘、並木中等、旭丘、中央中等
×金大附属、智辯和歌山
――正解多数ながらも女神像はまだ使われませんね。第8問(平成15~16年)は
「朝青龍が横綱に昇進し、六本木ヒルズや大江戸温泉物語が開業した平成15年。日本郵政公社が発足し小泉首相のもとで日本の郵政の民営化が始まりました。では、郵政三事業と言われた3つの事業はなんでしょう。すべて答えなさい」
正解は「簡易生命保険、郵便貯金、郵便」
○藤島、並木中等、中央中等
×富山中部、灘、金大附属、智辯和歌山、旭丘
――「保険」を答えられない高校が多かったですね。
関根 多分そうでしたね。意外と「郵便」でわからなかった人もいました。
――意外と答えられそうな問題で灘も落としていますね。そして第9問(平成17~18年)
「神戸空港や表参道ヒルズがオープンし、クリスピー・クリームドーナッツが大流行した平成18年。ライブドア堀江貴文社長への強制捜査をきっかけにIT企業の株価が急落したライブドア・ショックが起こりました。では、この時にも行われた措置で非常事態において冷静な判断を投資家に促すため証券取引を一時中断させる制度のことをなんというでしょう」
正解は「サーキットブレーカー制度」
○智辯和歌山
×富山中部、藤島、灘、金大附属、並木中等、旭丘、中央中等
――ここで智辯和歌山が1校だけ正解。キーワードが多いから答えを導きやすいのかなとも思いますが、問題文の印象から漢字の単語が正解になるような印象を受けるのも誤答が多かった原因ですかね。
関根 そうですねぇ。競技クイズではこういう問題が好まれます。
――次の第10問(平成19~20年)からは連続して見ていきましょう。
「タクシーの全面禁煙化が始まり、赤坂サカスがオープン。ホームレス中学生がベストセラーになった平成20年。アメリカの大手銀行リーマン・ブラザーズが経営破綻したことがきっかけに世界中に金融危機が波及しました。では、この金融危機のきっかけとなったサブプライムローンの審査にも使用された個人の信用情報を一定の指標で数値化したものを何スコアというでしょう」。
正解は「クレジットスコア」
○藤島、灘、金大附属、旭丘、
×富山中部、並木中等、智辯和歌山、中央中等
11問目(平成21~22年)
「マイケル・ジャクソンが死去し、広島のマツダスタジアムがオープンした平成21年。岩崎夏海の小説『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーのマネジメントを読んだら』が大ヒットしました。では、統計分析や品質管理を用いて仕事の過程を分析し、ミスやエラーを100万回に3~4回の割合に抑えることを目指す品質管理指標のことをなんというでしょう」
正解は「シックスシグマ」
×富山中部、藤島、灘、金大附属、並木中等、智辯和歌山、旭丘、中央中等
12問(平成23~24年)
「サッカー女子ワールドカップで日本代表が優勝し全国の児童養護施設に匿名で寄付を行うタイガーマスク運動が広がった平成23年。東日本大震災が発生し大くの企業が営業休止に追い込まれました。では、災害など緊急事態が発生し、企業が大きな損害を受けた際、中核となる事業を継続し早期復旧するための方針や手順、体制などを定めた計画のことをなんというでしょう」
正解は「BCP(事業継続計画)」
×富山中部、藤島、灘、金大附属、並木中等、智辯和歌山、旭丘、中央中等
13問(平成25~26年)
「富士山が世界遺産に登録され、新歌舞伎座がオープン。滝川クリステルが「お・も・て・な・し」を世界に発信した平成25年。日本銀行総裁が白川正明氏から黒田東彦氏に交代となりました。では、この時の日本銀行が実施した財政政策や金融緩和政策によって緩やかななインフレーションを計画的に起こし景気を刺激する経済政策のことをなんというでしょう」
正解は「リフレーション」
○藤島→(審議の結果「インフレターゲット」も正解)
×富山中部、灘、金大附属、並木中等、中央中等、智辯和歌山、旭丘
――ここで初めて弁和歌山と灘がそれぞれ金の女神像を使用しましたが、何と誤答。よく聞く言葉ですし正解率も高いと思いきや、藤島のみが正解という結果でした。では第14問(平成27~28年)
「15年ぶりに日経平均株価が2万円台に回復し、中国観光客の爆買いや五郎丸ポーズが話題となった平成27年。国連加盟国はSDGsと呼ばれる貧困削減や環境保護など2030年までに達成すべき17の目標と169の具体的な達成基準を定めた文書に合意しました。では、このSDGsはどのような言葉の略称でしょうか。正しくアルファベットでお答えください」
正解は「Sustainable Development Goals」
○藤島、灘、中央中等
×富山中部、金大附属、並木中等、智辯和歌山、旭丘
――残り一問という状況で並木中等(銀)、旭丘(金)、中央中等(金)も女神像を出してきました。正解は「Sustainable Development Goals」。こういう問題が出題される理由はあるのでしょうか?
関根 前日のプレゼンで、環境大臣がいらっしゃったんですけど、その時にSDGsを紹介してたんですよ。名刺代わりのプリントが配られたんですけど、そこに確か書いてあったんです。そういうところまでちゃんと勉強してた人は正解できたし、サボった僕は全然わからなかったですね(笑)。Developmentは覚えてるんですけどGoalsとかSって何だっけな、という感じで細かいところが思い出せなかったですね。
――次が第15問(平成29~30年)
「築地市場が豊洲に移転しDA PUMPのUSAや映画「カメラを止めるな」が大流行した平成30年。働き方改革関連法が成立しました。では、この関連法により整備されることになった裁判手続きによらず第三者の介入によって当事者間で紛争を解決する制度はなんというでしょう」
正解は「ADR」
○藤島、灘、並木中等、智辯和歌山
×中央中等、富山中部、金大附属、旭丘
――正解の「ADR」は、競技クイズに出ますか?
関根 何回か見たことはあります。僕は一応わかりました。
――そして15問までの得点を集計した結果、福井代表の藤島が2位の群馬代表の中央中等に大差をつけて優勝の栄誉に輝きました。
●結果
藤島 82pt
中央中等 50pt
並木中等 48pt
灘 40pt
旭丘 26pt
智辯和歌山 21pt
金大附属 18pt
富山中部 18pt
戦いを振り返って
エコノミクス甲子園に望むこと
――長丁場の大会が終わりましたけどいかがでしたか? 総括を聞かせてください。
関根 金融・経済というジャンルは難しいし、それだけに問題も作りにくいと思うんですよ。だけど人生で必ず関わる金融・経済の重要さを考えるきっかけのひとつとしてに高校生のこういう機会をくださった、素晴らしい大会だなと思っています。各都道府県の代表が北海道から沖縄までいるわけですから、この年齢でそういった人たちと関われたことも貴重な経験になりました。
平井 今回は環境についての問題が多くて、これから僕たちが社会に出ていく中で20世紀とは違って環境問題を気にしつつも経済発展とかを考えていかなきゃいけない時代で、こういう経済と環境について学ぶ機会があって非常によかったと思います。それから特に遠方からきたチームはモチベーションが高かったのですが、彼らからも刺激を受けました。僕、けっこうなあなあな性格なので(笑)。みんなのモチベーションが凄く高くて、ひとつの目標に向かって頑張る姿を見てかっこいいなって思いました。
――大会出場がきっかけで金融や経済の見方も変わりましたか?
関根 色々と知っていくなかでわかることも増えていって、どんどん面白くなってきましたね。いずれ文系の大学に進学すると思うんですけど、経済も学んでいきたいなと思っています。
平井 例えば住宅ローンは自分の将来にも直結するような話だと思うので、こういう機会に、少しですけど触れることができて良かったのかなと思います。
――大会を出場した経験から、何か要望はありますか?
関根 実は東京の地方大会は20組ぐらいしかいなかったんです。東京はもうちょっといるのかなって思ったらそこまで多くはなかったので、参加者が増えるといいですよね。
平井 やっぱり人数いた方が楽しいのかなって。僕も関根くんに言われるまで存在を知らなかったですし、東京はそれこそクイ研のプレイヤーも出場するのかと思ったらそうでもなくて。
関根 去年はもうちょっと人がいた気がするんだけど、今年は知ってる人も少なかったですね。素晴らしい大会ですし、経済が好きな学生もいるので参加者がどんどんと増えるといいなと思います。
――大会中でいちばん印象に残っている問題は何ですか?
関根 僕は決勝ラウンドの14問目、「SDGs」が答えの問題です。今まで意識したことがなかった単語だったんですけど、この大会をきっかけに何回か聞く機会もあったので、印象に残っているひとつとしてこれにしました。
平井 僕は第1ラウンドの勝敗を分けた「ブラックマンデー」に。1問目を関根くんが答えてくれたのに、一瞬「あれ何だっけかな」って考えている隙に取られて悔しかったので、それがいちばん印象に残っています。
現在はクイ研を引退し大学受験に向けて猛勉強中だという関根くんと平井くん。最後に2人は「エコノミクス甲子園がきっかけで知った金融や経済を大学に進学してからも学んでいきたい」と、今後の展望を語ってくれた。