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INTERVIEW

乾 雅人×斉藤 哲夫インタビュー(PART 4) 「QUIZ JAPAN vol.7」より先行掲載

乾 雅人×斉藤 哲夫インタビュー(PART 4) 「QUIZ JAPAN vol.7」より先行掲載
『ノックアウト~競技クイズ日本一決定戦~』総合演出
乾 雅人 Masato Inui
1964年、岐阜県生まれ。テレビ朝日でアルバイト後、1990年にライターズオフィスに入社。2004年に有限会社フォルコムを設立。『SASUKE』は第1回から総合演出を担当。その他の代表作に『クイズ100人に聞きました』『スポーツマンNo.1決定戦』『筋肉番付』『DOORS』『Dynamite!!』『K-1 WORLD MAX』『世界卓球』『ワールド・クイズ・クラシック』『リアル脱出ゲームTV』『ゼウス』など。
『ノックアウト~競技クイズ日本一決定戦~』演出
斉藤 哲夫 Tetsuo Saito
1971年、青森県生まれ。法政大学を卒業後、1996年にIVSテレビ制作に入社。2013年にフリーのディレクターとして独立。代表作に『特命リサーチ200X』『ネプリーグ』『カートゥンKAT-TUN』『冒険JAPAN!関ジャニ∞MAP』『世界卓球』『SASUKE』『The MASTERS, My Life』など。

『ワールド・クイズ・クラシック』から5年。『SASUKE』を生み出した演出家・乾雅人が再び動き出した。競技クイズの日本一決定戦。地上波では不可能な夢のために男たちが集まったのは、CSという新天地だった!(2016年8月30日収録、取材:大門弘樹、写真:辺見真也)

マイナスを言うことで運が逃げる!
8人の運命を分けたメンタルの強さ

大門 で、いよいよ決勝です。結果は奥畑さんの圧勝でした。

斉藤
 決勝が始まる前は「もしかしたら、武藤君いけるかな」と思ったんですけどね。でも、編集する立場として、今回は「奥畑さんが優勝してよかったなぁ」とは思いましたよね。というのは、収録中に「ボタンチェックのジンクス」とか奇跡のようなフリ・オチがいろいろあったじゃないですか。で、奥畑さんは「勝ったらカーディガンに袖を通す」というフリがあって、優勝することで大オチが付いたっていう。そんな壮大なフリを最後に回収できたのが、番組の物語的にはすごく面白かったなぁと。たまたま羽織ってたカーディガンを、「いつ袖を通すんですかね?」ってイジって、それが最後に袖を通すことになるって、あんなの狙ってできることじゃないから。すごい奇跡だなぁ、とは思いましたね。

 結果として、テレビクイズに出たことある人の、なんか引きの強さっていうのを感じたね。問題を引く力もそうですけど。そういえば、武藤君は決勝の途中で「チョコレートが……」っていう話をしていたでしょ?

大門
 「糖分が足りない」って。

 負ける人って、マイナスの話になっちゃうんですよね。「ちょっと糖分が足りなくて疲れてきたなぁ」なんて。あれを聞いて、俺は「マイナスを言ったな」って思ったの。

大門
 なるほど。

 一方、奥畑さんはずっと前向きだったから。ま、そういうところが、テレビにおけるルールとしては大事で。そういう意味では、北海道の宮川君。彼はやついさんにいじられた時に、一瞬イヤな顔をしちゃったのが全てだと思うんだよね。「ボタンを押さなきゃダメでしょ」って言われた時の、あの表情が。テレビクイズって、ああなった瞬間にやられちゃうんですよ。

斉藤
 勝ち運が離れちゃう、ってことですね。

 あそこでニコニコして「そっすね」って言えなかったのが、宮川君の敗因だと思うんですよ。

斉藤
 あの時に自分から「これで僕の運も変わるかも知れませんね」なんて言えたら、たぶん勝てるんですよ。そういうメンタルとか考え方は、勝負を動かしますよね。

大門
 なるほど。

 そういうのは、問題の引きにもつながってくるし。例えば、武藤君がやついさんに「(チョコレートを)取りに行きます?」っていじられた時に「先に言ってほしかった」って言ったじゃないですか。あれは面白かったけど、「これじゃ勝てないな」と思ったんです。「このあと接戦になったとしても、奥畑さんのメンタルに負けてしまうな」と。奥畑さんは「今日は運が良かった」なんて言っていたけど、彼女の運が良かったんじゃなくて、武藤君の運がなくなっていったんだという。

大門
 メンタルによって運が逃げてしまうことがあるということを、あれだけのプレイヤーでも気づいていないということですね。

 そうですね。

斉藤
 安藤(正信)君も、最初の早押しでミスが続いた時に、ちょっと弱い部分を出してたじゃないですか。でも、彼はそれを自分で切り替えていましたもんね。安藤君はテレビクイズを百戦錬磨でやってきたから、「軌道修正します」って宣言して自力で切り替えることができたと思うんですけど。

 全体を通して、やついさんのいじりに負けず、自分は自分のメンタルでやるっていうことができる人が、やっぱり強かったかなと。テレビクイズで嫌な思いをして、恥をかいてきた人たちっていうのは、あとでオンエアされたものを見て「この時はこう思ったからダメだったんじゃないか」って、反省してきたと思うんですよね。おそらくそれが活きたんじゃないかな。

大門
 あぁ、なるほど。

 イベントだと、反省できないと思うんですよ。だって、その時のことを忘れちゃうじゃないですか。

大門
 そうですね。あとで見直せないですし。

 イベントでも「あの時、あそこでああしていれば」っていう気持ちは残るし、「あの時、問題が順番入れ替わっていたら、俺が勝ったんだろうなぁ」っていうふうに考えたりすると思うんです。でも、「この時、こういう心構えだったらなぁ」っていうことは、思い返さないと思うんですよ。だって、あとで見返さないから。でも、テレビで戦ってきた為季や奥畑さんは、そういう心理的な反省をしてきたことがあるんですよ。でも宮川君や武藤君は、そういう経験はなかったんじゃないかな。まぁ、そもそも芸人にいじられたことがないと思うんですけど。「芸人がいじってくるぞ」って時のメンタルができていなかったんだよね。

大門
 なるほど。……ひとつ言えるのは、競技クイズをやっているプレイヤーって、敗因を問題に求めたがるんですよね。問題の並びもそうですけど、「もうちょっと過去問を勉強していたら……」とか、そっちに考えが行ってしまう。でも、あのレベルだと、そんなの関係ないのですよね。

 そうですよね。むしろ「大きな対戦で、いかに引き寄せられるか」っていう……。例えば、石川君が為季に負けたのは、完全にメンタルですよね。押しに行けたはずなのに行かなくて、結果として負けてしまったわけから。

斉藤
 思い出しましたけど、為季君が「ダフネ」って答えた問題。あの時、控室で武藤君と宮川君が「これは石川さんが押せるはずの問題だったのに、押さなかったね」「あれを押した為季さん、すげえ」っていう話をしてて。で、勝負が終わった後に撮った為季君のインタビューを聞いたら、「今回、石川さんを倒すために難しいクイズをいっぱい勉強してきたけど、それが唯一発揮できたのがダフネの問題だった」と。

大門
 へぇー!

斉藤
 「勝てたのは、あの1問が大きかったです」って言っていたんですよ。それを聞いて、ちょっと鳥肌が立ちましたね。確かに「あそこで流れが変わったね」っていうのがあったんで。ものすごい努力をした中で、出題されたのはあの1問だけだったけど、それがあったからこそ勝ったんだというのが、あのミラクルの裏側という。

 それを引き当てたというのがね。

斉藤
 その問題が出るかはわからないですからね。でも、他のプレイヤーが言うには「石川君が答えられるはずの問題だった」っていう。石川君はあそこでわざと待ったのか、それとも押せなかったのかは、ちょっとわかんないですけど、

 あの試合もそうだけど、それぞれの試合に「負ける人は負けるべく」っていう理由があったことが、とてもわかりやすく現れていた瞬間がありましたよね。それってやっぱり、テレビクイズをやったことがある人と、イベントだけでやってきた人たちの差がちょっとあって、そのちょっとが表れていた、っていうことだと思うんですけど。

大門
 奥畑さんと春日君の第一試合は、もう始まる前から勝負がついていた感じがしたんですよ。奥畑さんは悠々と座っているんですけど、春日君は座った瞬間から落ち着きがなかったというか……。受け答えがフワフワしていて。

斉藤
 春日さんは、テレビの経験はないんですか?

大門
 あまりないですね。昔は『タイムショック21』とか『天』とか、ちょくちょく出てましたけど、大舞台は『WQC』の後は5年間出てないです。

 『WQC』の時もテンパってましたね。

大門
 そうですね。

 まぁ、『WQC』はね、テンパるシステムだったから。極限まで追い込まれちゃうから、テンパりやすい人はものすごくテンパっちゃうという。あのときは加藤(禎久)さんというすごい人が……。

大門
 当時、オープン大会で無敵だった方なんですけど、問題を読み間違えてしまってダメだったんですよね。

斉藤
 え、どんな間違いをしたんですか?

大門
 「百、千、万…と続く“数の単位”で、漢字3文字以上のものを答えろ」っていう問題で、「以上」っていうのを見落としてて、那由多・阿僧祇みたいな3文字のやつだけしか答えなくて……。

斉藤
 あぁ、それで不正解になったと。

大門
 で、終わったあとに「冷静に問題を見てどうですか?」って言われて、「あ、“以上”。なんですね」って、タイムアップになってから気づいて。

 すごい顔をしていましたよね。自信もって答えたのに、「ブー」ってなるから、「どうして? 正解じゃないの?」っていう……。

斉藤
 「何を間違えたの?」って。

 あまり表情を出さない感じの人なのに、「今、私テンパってます」っていう、ものすごい顔なの。人間がビックリして、テンパった時の顔っていうのは一番わかりやすくて。で、奥さんも「どうしてよー!」っていう。……まぁ、そういうのを見ていると、ちゃんと落ち着いて受け答えをして、ご主人の話も普通にちゃんとして、やついいちろうに対峙できる奥畑さんっていうのが、いかにスゴイか。

大門
 そうですよね。

 そういう意味では、武藤君は準々決勝や準決勝でやついさんにいじられても、ペースを乱されていなかったでしょう?

斉藤
 そうなんですよね。

 いきなり「宮川さんは“早押しのテクニックは向こうの方が上だと思っているんで”って言っていましたけど、何をおっしゃっているのかわからない」なんて言ったじゃない。あのあたりは、完全に武藤君のペースでしたよね。それを聞いた時に、「この勝負は武藤のものなのかな」って。

斉藤
 あれを一言目で発せられるのってすごいですよね。

 あのメンタルはすごい。

斉藤
 年上で、クイズ歴も上の人に対して「何をおっしゃっているのかわかりません」っていう。あれはすごいですよ。

大門
 10歳くらい下ですからね。

 ところが、決勝になると「会場の雰囲気としても、奥畑さんに傾いていると思う」なんて、マイナスで入っちゃったじゃないですか。

斉藤
 「僕もクイズ女王誕生の瞬間を見てみたい」なんてね。

 あれは言っちゃダメですね。

大門
 白旗をあげちゃったんですね。

 そういうことですね。

8色のキャラクターを描くには
想いを物語る写真が必要だった

大門 次は編集作業の話をお聞かせください。おそらく4時間近くあった試合を2時間にまとめられたわけですけど。

斉藤
 まずひとつ言っておきたいのは、やついさんのDJを入れる隙間が1秒もなかったっていう。

大門
 当初はDJも入れようと思われていたのですか?

斉藤
 入れられるなら、20秒くらいは入れようかなと思ったんですよ。……でも、編集してて思ったんですよ。「これ、全然関係ないな」って(笑)。だとすると、「何でDJを入れるんだろう?」ということを冷静に考えた時に、「愛情で」っていう理由くらいしかないな、と。で、「クイズ番組だから、そこは割り切りが必要なんじゃないか」「あれだけは現場に来た人だけのプレゼントだ」っていうことで、切ろうって決めて、全カットと。

大門
 なるほど。

斉藤
 まず、DJの舞台が20分くらいあったんですよ。それが素材の冒頭なんで、まずはそこから考えるわけですよ。「このDJの部分って、どうやって編集で入れるんだろうなぁ」って悩みながら、ひとまずはそれを置いてけぼりにして、先の編集をずーっとやっていって。で、最後まで見て、改めて最初まで戻った結果「うん、入れちゃダメだ」って(笑)。

大門
 通してみたら、必然性がなかったと(笑)。

斉藤
 「これは切らないと成立しないな」と思って、やめたんです。やっぱり、ゼロから番組を見る人にとっては「このクイズ大会は何なのか?」っていうところからお知らせしないといけないじゃないですか。そういうところから番組がスタートすることを第1に考えた時に、入れる隙間は1秒もないなって。もしあるとしたら、地上波の番組でいうところの提供ベースかな、と。特番なんかだと、CMの前後とかに「ここまでの放送は」とか「ここからは○○の提供で……」っていうのがあるじゃないですか。そういうところとか、あとはエンドロールだったらいけるかなぁ、とかいろいろ考えたんですけど。でも、どうやらファミ劇さんでは提供が入らないみたいだし、エンドロールは優勝した奥畑さんの幸せそうな顔を見せるのが一番気持ち良かったんで。なので、泣く泣くカットをしたというのが、まずひとつ。

大門
 他には?

斉藤
 あとはさっきも話をした控室ですね。やっぱりリング上でずーっと早押しクイズをやっているというのは、画変わりもしないので、わりと単調だったんですね。なので「飽きないようにするには、どうしたら良いんだろう?」ってことを、ずっと考えながら編集していたんです。それが、控室のリアクションがあったから、物語性とか客観性とかが追加された上にテンポも良くなって、番組構成がまとまったなぁっていう印象ですね。さっきも言ったとおり、立体的になったなぁっていう。あれがないと、あの舞台まわりだけで終わっちゃってたんで。……唯一あるとすれば、敗者席にいる春日さんをいじるくらいの広がり?

大門
 あはは(笑)。

斉藤
 でも、それだけだとちょっとキツい。なので、控室にいた為季君とか武藤君の解説や感想はすごく助かりましたね。武藤君は、舞台ではチョットひねくれた感じなのに、裏では全然違うんですよ。「クイズ好きな、普通の良い若者」っていう感じのしゃべり方で。

大門
 へぇー。

斉藤
 でも、そこはちょっとギャップがあって、見ていて面白かったですけど。とはいえ、やっぱり皆さんおしゃべりではないので、実は編集で使ったのが、ほぼMAXくらいなんです。なので、正直「ここ、リアクションないかぁ」って思うところも編集しててありましたけど。でもまぁ、テレビが初めての人も多かったですし、それを考えると本当に皆さんのおかげで助けられたなぁ、っていうのはありましたね。

大門
 あと、提供させていただいた写真はいかがでしたか?

斉藤
 あれは8人の紹介映像をつくる時、すごく助かりましたね。本番の収録前に撮ったイメージ映像だけだと何も物語がないので、歴史を物語る写真が欲しかったんです。インタビューを聞いてみると、やっぱり皆さん、いろいろと背負っているものがあるじゃないですか。テレビクイズで苦杯をなめ続けた人もいれば、称号をもらったんだけど前に進みたい人もいれば。でも、そういうのってナレーションだけだと伝わらないんです。やっぱり昔の映像とか写真がないと、なかなかその想いが画で伝わらない。特に奥畑さんの……あれ、20代の頃ですかね? 『ウルトラクイズ』の○×を持っている写真を見た時に、「あぁ、こんな昔からずっと“日本一になりたい”っていう想いでやってきたんだ」っていうのが、その1枚だけで伝わってきたんですよ。

大門
 あの写真は良かったですね。

斉藤
 あれって、日本一になれなかった時の写真じゃないですか。あの時に日本一になれなかった人が、「絶対に日本一になりたい」って言って、本当に日本一になった。その長年の夢を叶えたっていうのがすごく伝わるようになったので、写真をお借りして良かったと。為季君なんかも、いろんな写真がありましたけど、それを見て、昔からやっているのもすごい良くわかったし。……本当に苦労しているんだなと思って。編集では使わなかったんですけど、彼はインタビューで「これで優勝できたら、クイズのペースを落としたい」とも言っていたんですね。まぁ、結果としてクイズのペースを落とすことにはならなかったですけど(苦笑)。そういう気持ちを聞いて、本気度がすごく伝わってきたし。皆さんの想いと、あの写真があったからこそ、1人1人の物語をイメージして8色のキャラクターを描き出すことが出来たわけで。ですから、皆さんに提供していただいた写真はすごく助かりましたね。

大門
 ちなみに、春日君は54勝もしているのに、自分の写真は1枚も持っていなかったという(笑)。

斉藤
 でも、春日さんの写真もいただきましたよね? あれも良かったですよ。あれは誰が撮ったんですか?

大門
 1枚を除いて、全部僕ですね。

斉藤
 戦場カメラマンみたいですね、本当に(笑)。

大門
 ただ、僕は21世紀に入ってからそんなに大会に行かなくなっちゃったんで、若い頃の写真しかないですけど。

斉藤
 最近の写真がないんですね。

大門
 そうなんです。春日君とか安藤さんとか奥畑さんの若い頃の写真はあるんですけど、徳久(倫康)君とか、宮川君の写真は1枚もなくて。なので、その辺はいろんな人から借りて。

斉藤
 すごいですよね、その情熱。

大門
 いやいや(苦笑)。

 でも俺、そういうのすごいと思うよ。本当にすごいと思う。大門さんの、その情熱たるや、半端ないと思うんだよね。

まさかの金剛地武志の抜擢!
ナレーションは世界観を作る作業

大門 そしてオフライン編集の次は、編集室の作業ですね。僕も立ち会わせていただきましたけど、斉藤さんは48時間くらいぶっ続けで作業されてましたよね。いつもあれくらいですか?

斉藤
 いや、短い方ですよ。2日で終わりましたからね。……あ、編集で思い出しましたけど、編集作業に入る時に「テロップをどうしようか?」っていう話になったんですよ。普通の地上波の番組だったら、ああいう問読みの早押しクイズは、ナメ出し(問題文が読まれるのにあわせ、1文字ずつ画面に表示されるテロップ)にするんですよ。

大門
 そうですね。

斉藤
 ところが、今回はものすごい量の問題があったじゃないですか。地上波の番組だったら、ものすごい時間をかけてでも全部、ナメ出しにするんですけど、今回は納品まで時間がなくて。なので、「ナメ出しにすると編集時間が足りないけど、どうしよう?」って思ったんですよ。そうしたら乾さんに「ナメ出さなくて良いから」って言われて。それで「なるほど、じゃあ大丈夫か」って思ったんですけど、「ちょっと待てよ……ナメ出しをしなくて良いなら、どうしようかな?」と考えて。

大門
 なるほど。

斉藤
 で、僕は編集している時からずっと「現場にいる人が体感している感じを出そう」と思っていたんで、「じゃあ、問読みしている間はテロップを出さなければ良いんじゃないか」と。テロップを出しちゃうと、リングの上にいる解答者の気分になれないし、ナメ出すと、みんな文字を読んじゃうじゃないですか。でも、解答者は文字を読まないで、「耳で聞いて問題を把握して、より早く答えられるか?」っていうことをやっているわけですよね。だから、視聴者にもその難しさを体感してもらおうと思ったんですよ。しかも、もしかしたら、出ているプレイヤーよりも早く「わかった」って言える問題もあるかもしれない。で、プレイヤーよりも早く答えられる問題がほとんど無かったら、「この人たちはすごい」ってことになるわけで。そういう感覚を、現場にいなかった人でも疑似体験できる番組になったら意味があるなと思って、そういう編集をしようと。それが今回のテロップの入れ方の、一番のこだわりですかね。

 それ、Twitterで「良かった」って書かれていましたよ。

斉藤
 あ、そうですか? やった甲斐がありました(笑)。

 俺もナメ出しっていうのに対して、ちょっと思っていたんですよ。『WQC』のときは「ナメ出してくれ」って言われたから「そう?」って言ってやったんですけど……。あれは日テレのクイズとかを見ていて、そうなっちゃったんだろうけど。でも、当時は「なんで現場と違うことをやるんだろう?」っていうことを、ずっと思ってましたね。

大門
 現場と視聴者では、情報量が違ってきますものね。

 そうです。文字にしてしまうと、「問題」って言った時の集中力が全然違ってしまうと思うんですよ。でも、今のテレビクイズの王道はナメ出しだから「それって、どうなんだろうなぁ?」って思っていて。今回はああやった結果、「これは正解だよなぁ」って思いましたね。

大門
 次はMA(効果音・音声などを付ける作業)の話ですね。まずはナレーションの金剛地(武志)さん。この人選は?

 金剛地さんは、僕が何年か前に舞台を演出した時に出ていただいたり、彼が出ている朗読劇を見に行ったりしたことがあって、以前から「うまいな、この人」って思ってたんですよ。あと、ラーメンの特番をやった時にタレントさんとしてご一緒してたこともあるんですけど。で、今年の4月頃にある女優さんの披露宴でお会いしたんですけど、その時に「なんか一緒に仕事させてくださいよ」っていう営業的なトークがあって、「最近、映画のナレーションもやってるんで」なんて言ってたんです。それで「ナレーションやってるのかぁ」って思ったんですね。朗読劇のイメージがあったんで、ちょっと意外だなと。で、彼はもともとミュージシャンだけど、今は役者の方が多いから、僕の中では役者さんのイメージなんですね。で、「あ、役者さんにナレーターをやらせるのも良いかもなぁ」と思ったんです。

大門
 その理由は?

 本職のナレーターさんって、自分のナレーションの読み方があって、独自の味付けでやられるじゃないですか。そういうのを持っていない人にやってもらうのも面白いかな、って思ったんです。

大門
 なるほど。

 あと、最初は「この番組は『WQC』のリベンジだから、あの時のナレーターにしようかな」と思っていたんです。あおい洋一郎さんっていうナレーターなんですけど、「もう1回、あおいさんにあの感じでやってもらおうか」って。ところが、スケジュール的にダメだった。金剛地さんと会ったのは、ちょうどそれがわかった頃ですね。そういうタイミング的なことも「金剛地さんにやってもらうのが良いかな」と思ったきっかけですね。

大門
 再会したタイミングが良かったと。

 で、金剛地さんに選手の呼び込みのナレーションをしてもらおうって思って、斉藤ちゃんにお願いして収録前に録ってもらったんですけど、その時に「リングアナっぽい感じで」って指示を出したんです。実はその時、昔のプロレスみたいな「赤コーナー、奥畑選手の入場です」って感じのイメージだったんですけど、斉藤ちゃんが「おくぅはたぁ~、かぁおぉ~るぅ~!」っていうのを録ってきたんですよ。

大門
 『PRIDE』とか『K-1』っぽいやつですね。

 現場でそれを聞いて「あ、そう来たか」って思ったんです。で、本編ナレーションのMAで金剛地さんに来てもらった時に、矢野ちゃんが作ってくれた原稿にいっぱい「!」があったんだけど、「!」は不要だなって思ったんです。斉藤ちゃんが録った呼び込みが声を張っている感じだったんで、本編のナレーションは真逆をいった方が面白いかなって。同じようなトーンでナレーションをするよりは、ガラッと変えた方が良いかなということで。

大門
 1人2役やっている感じの。

 そうですね。それが役者の面白いところだから。なので「声を張らずにナレーションをしてくれ」と。そうしたら、金剛地さんが「張らないナレーションってどんなんだ?」って言ってきたので、『WQC』のナレーションを聞いてもらって「割とエレガントな感じで、できるだけ抑えたトーンでやってくれ」「淡々と、あんまり抑揚をつけないでやってほしい」と。で、実際にやってもらったら、なんか大河ドラマのナレーションみたいに……。

一同
 (爆笑)

 もう、うねりだしたから(笑)。だから「うねったなぁー」と思って。で、「もっといけ、いけ!」ってやったから、あんな変わったナレーションになったんですね。

斉藤
 頑張ってましたよね(笑)。

大門
 乾さんの指示出しがすごく面白かったです。

 僕がナレーターとMAをやる時って、だいたいあんな感じなんですよ。「もっとこうしろ」「こうできないか?」って、どんどん指示を出すという。ナレーターのやりたいまんまでは、絶対にやらせないと思って。

斉藤
 あの作業が一番面白いですけどね。

 世界観を作るところだからね。

斉藤
 仕上げる段階ですから。

 『リアル脱出ゲームTV』でナレーションをやってもらった人(桐谷蝶々)も、「この声、綾波レイの人(林原めぐみ)じゃない?」って誤解させたらネットがワーワーいうだろうという狙いがあって選んだから。ナレーションにもそういう、「ん、なにこれ?」っていう引っかかりが必要だと思って。もちろん、流行りのナレーターさんとかを使ったりすると、「お、あの人だ」ってなるだろうけど。でも、そうじゃない引っかかりがあると、Twitterなんかでワーワーしてもらえるかなと。

大門
 なるほど。

 今回でいえば、マニアにとっては伝説になっている『テレバイダー』の金剛地を使った、っていうところのバズり方、そういうのも必要だろうと。あとは、自分の知り合いでまとめちゃうっていうことの面白さ。自分のやりたいようにできる、っていうね。Facebookかなんかにも書いたと思うんですけど「配牌として面白い」っていう。だって、「ナレーターを金剛地にする」って、それだけで面白いじゃないですか。ただ、金剛地さん何も言わないと普通にやっちゃうので、それだと彼ならではの面白さが出ない。だから、その面白さを引き出すっていう作業はちょっと面白かったですね。金剛地さん、自分でも笑っちゃってましたもん。「やりすぎたかなぁ?」って。

大門
 「語尾をもっとねっとり系に」なんて指示でしたよね(笑)。

 そうそう。「大河ドラマみたいになっちゃっているけど、もっとやれ」って。

大門
 (マネをしながら)「クイズ新時代、ここに幕開け」って。

一同
 (爆笑)

 ひどいですよね。ああいうのが楽しい。でも、完全にそれができたものね。

斉藤
 (マネをしながら)「見たか、クイズの面白さ」とか……。もう、能かなにかの中継みたいになってましたけど(笑)

 ああいうのって、ナレーターさんだとできないんですよね。役者ならではのバカバカしさ。すごいハマってましたね。

斉藤
 キャラになっていましたよね。

 金剛地さんには「ちがう面白さを引き出してくださってありがとうございます」って、Twitterで褒めていただいたんですよ。まぁ、そういう感じで、『テレバイダー』のイメージ以外にも、「『ノックアウト』というクイズの人だ」っていう別のバリエーションのイメージが定着すれば良いなぁ、と。

大門
 で、そのナレーションの原稿を書いたのが……。

 矢野ちゃん。

大門
 アメリカのサンタフェで書いたという。

 おしゃれなところで書いているなぁ(笑)。でも、海外でナレーションを書くって、すごい時代だよね。

大門
 ちょうど『高校生クイズ』でアメリカにいたんですよね。

 で、矢野ちゃんのナレーションがまた、ぶっとんでたよなぁ。最初、矢野ちゃんがナレーション書くんだって聞いてビックリしたんだけど、その時は「きっと正統派のナレーションを書いてくるんだろうな」と思ったんですよね。なので、あれは意外だったなぁ。

大門
 オフラインプレビューがかなり面白かったみたいなので、その影響でしょうね。

斉藤
 そんなこと言ってました?

大門
 言っていました。「面白すぎてテンションが上がりまくりました!」って。

 良かったなぁ。……でも、今や「テレビのクイズ作家・構成作家」と言えば「矢野ちゃん」という時代だからね。1人で何本やってんだよっていう。

大門
 特番だけで、同時期に3つですものね。『ノックアウト』『地下クイズ王決定戦』『高校生クイズ』っていう。

 ともあれ、矢野ちゃんは多忙な中でも、あれだけナレーションに気を配ってくれて。素晴らしかったなぁ。

出来としては200点!
テレビ屋人生で初めて自由に作れた番組

大門 最初の方で「地上波は制約が多い」という話がありましたけど。乾さんは『ノックアウト』について、Twitterで「テレビ屋人生で初めて自由に作れました」ってツイートされてましたね。

 書きましたね。

大門
 終わってみてどうでしょう、満足度は? あと、『WQC』のリベンジは果たせましたか?

 まず、出来としては200点です。

大門
 おぉ!

 僕、いまだに完パケを見返すんです。自分で作った番組を、こんなに見ることはないってくらい見ているんですよ。……斉藤ちゃんは自分で作ったのって、見る?

斉藤
 終わったあと1回くらい、ですかね? そんなに何回も見ないですよ。

 普通はそうでしょ? ……でも、俺はたぶん、この番組を15回くらい見ている(※インタビューはオンエアの10日後)。

大門 
完パケをですか?

 うん。「良く出来てんなぁ」と思って。ま、斉藤ちゃんの編集がうまいのもあるんですけど、素晴らしい番組だと思っています。で、『WQC』のリベンジが果たせたかどうかですけど……それは、この番組が続いていくかにかかっていると思うんです。

大門
 なるほど。

 ファミ劇さんがこの先、『ノックアウト』を続けてくださるのであれば、リベンジできたということじゃないかと思うんですよ。もともと『WQC』というのは、見てくれる人が増えること、参加してくれる人が増えること、競技クイズをやっているアスリートが「あの番組だけは出たいな」となっていくことを目指していたわけです。で、最終的に「いつの日か、その世界バージョンを作りましょうという!」という壮大な目標があったわけです。でも1回で終わっちゃったので、それが出来なかった。もっともっと先に行くはずだったのにそれが出来なかったことが、とても残念な気持ちだったんです。なので、『ノックアウト』がもっと続いていって、市井で行われているクイズイベントの頂点として認知されて、みんなが集まってくるようになったら、リベンジになるんじゃないかなと。

大門
 そうしたいですね。

 みんながこの番組のことを「出たいなぁ」って思ってくれて、そこで勝ったやつがNo.1として認められる。そういう番組になっていくと良いなぁ、って思いますね。

斉藤
 今回は予選会の参加者が200人足らずだったので、まだまだ少ないんですよね。だから、そこがもっと派手になったら良いなぁと。今回の『ノックアウト』を見て、これを目指してくれる人が増えて、予選参加者が増えてくれたら。で、「決勝に残ったすごさ」というものをもっともっと強調できるような大会になったら良いのかなぁって。

大門
 予選会の価値、本戦進出するということの価値をあげていきたいと。

斉藤
 それこそが、番組が続いていくことの良さとだと思うんで。今回の8人って、まさに奇跡の8人だったとは思うんです。でも、もっともっと面白くなっていくためには、そこの分母ももっともっと増えてくれないと難しいと思うんで。なので「より面白く、より強い人」が勝ち上がってくる大会になっていくと良いのかな、って思いましたね。

 そうだね。まぁ、権威っていうのはいきなり出来上がらないから。だから、徐々に徐々に権威になってくれると良い。「『ノックアウト』に勝ったやつがチャンピオンでしょ?」っていう、これこそ権威みたいな大会になってくれると良いなぁ、って。

斉藤
 「あそこで勝たないと本当の1番じゃない」っていうね。_sbs0290

大門
 ちなみに、周囲の反響はいかがでしょう?

 昨日、番組を観たっていう町の電気屋さんに感想を聞いたんですけど、その人は「あんなに面白いんですか、クイズって?」って言ってた。

大門
 ほぉー!

 あとは「やついいちろうの司会があんなに面白いのは衝撃だった」って。感想はそれくらいかなぁ?

大門
 クイズマニアではない町の電気屋さんに響いたというのはすごくうれしいですね。競技クイズの面白さが一人でも多くの人に伝わるように、第2回でもぜひよろしくお願いいたします! そして本当に素晴らしい番組を作ってくださって、ありがとうございました!

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