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INTERVIEW

テーマは「努力が報われる日」――入社9年目、新進気鋭のディレクターが演出を担う『高校生クイズ』企画の裏側とは?/日本テレビ・関口拓インタビュー

「努力が報われる日」をテーマに新たなスタートを切った『第42回全国高等学校クイズ選手権』。今大会から演出を担う関口拓は、入社9年目の新進気鋭のディレクターだ。『頭脳王』『いざわ・ふくらの賢くなるクイズ』を通して「クイズの今」を見つめてきた関口が、「努力」というキーワードに込めた想いとは?
(2022年5月17日収録 聞き手:大門弘樹 写真:友安美琴)

関口拓(せきぐちたく)
1991年、岡山県生まれ。京都大学経済学部卒業後、2014年に日本テレビに入社、情報カルチャー局に配属され、『高校生クイズ』『ZIP!』のADを担当。『超問クイズ!真実か?ウソか?』でディレクターに昇格。現在は『クイズ!あなたは小学5年生より賢いの?』の演出、『ヒルナンデス!』『最強の頭脳 日本一決定戦!頭脳王』のディレクター、『いざわ・ふくらの解けば解くほど賢くなるクイズ』の企画・演出を担当。

入社1年目に観た高校生の生の反応が
テレビマン人生の柱になっている

――関口さんが日本テレビに入社して初めて担当された番組が『高校生クイズ』だそうですが、『高校生クイズ』は以前からご覧になっていましたか?
関口 はい、参加はしていないですけど、もちろん観てました。高校生の時に観た『高校生クイズ』の印象は、「天才がいるなあ」ですね(笑)。僕が高3の時がちょうど「知力の甲子園」の第1回だったんです。開成と太田高校のタイマン早押しはめちゃくちゃ記憶に残ってますね。以前、伊沢(拓司)君とふくら君と3人で、昔の『高校生クイズ』の話をいろいろしゃべったんですけど、「あれ、熱かったよね!」って3人で盛り上がったシーンがあって……。
――どんな場面ですか?
関口 (2006年の第26回の全国大会1回戦終了後の)敗者復活戦で「3人の答えが一致したら敗者復活できる」というルールのクイズがあったんですけど、そこで女子3人のチーム(高松高校)に対し「もしも優勝できたら、それは誰のおかげ?」という問題が出されたんですね。その時、周りの2人はリーダーの名前を書いたんですけど、リーダーは「チームのみんな」って。それで敗者復活できなかったというシーンですけど、伊沢君もふくら君も僕もそれを覚えていたので、「やっぱり昔から『高校生クイズ』が好きだったんだな」と再認識しました。
――入社してすぐ、その『高校生クイズ』の担当になられたということですが……。
関口 当時の日本テレビでは、「入社1年目の社員は、制作局に配属されたら『24時間テレビ』、情報カルチャー局に配属されたら『高校生クイズ』のADをやる」という決まりがあったんですよ。僕は3人の同期と共に情報カルチャー局に配属されたので、「入社早々、大型番組に携われるんだ!」とテンション上がりましたね。
――その当時(2014年)の『高校生クイズ』は、「知力の甲子園」が終わり「アメリカ横断」路線になっていましたよね?
関口 そうですね。大学生の時はまったく観ていなかったので、「あれ、こんな感じだったっけ?」とか思いました(笑)。
――ADとして、実際にアメリカに行かれたのですか?
関口 実は4人いた新入社員のADのうち、仕事ができる1人だけがアメリカに行けたんですけど……僕は仕事が全然できなかったので、残念ながらアメリカに行けなかったんですよ。それが今でも悔しいです(苦笑)。でも、めちゃくちゃ楽しかったですね。テレビマンとしていいスタートを切らせてもらいました。
――具体的にどのような作業をされていたのでしょうか?
関口 その時のADは、何もわからない4人の新入社員とひとつ上の先輩1人の計5人でした。みんなで全国行脚して、地方大会の設営やクイズの裏取り、クイズをオンエアで出すための素材の許諾なんかをやっていましたね。高校生のプロフィールも作りました。1年目だし、何もわからない状態だったんですけど(苦笑)。ただ、その時の関東大会が、いまだに僕のテレビマン人生で一番いい思い出となっている出来事なんです。準備してきた大きなイベントが実現し、そこで高校生たちがクイズで勝っては喜び、負けては泣いて……みたいな光景を生で見て、「ああ、ホントに頑張ってきて良かったなぁ」と。それまでは大変な思いをしてきましたけど、その苦労が報われたと思える日でしたね。
――テレビマンにとって、大勢の視聴者の反応を生で見られる機会は貴重ですよね。
関口 ホントそうなんです。イベンターじゃないですからね。だからこそ、あの体験はデカかったです。テレビって、普段は視聴率のグラフ中心にしか「観られたかどうか」がわからないので、すごく寂しいんですよ。だから、「テレビの向こうは、あの子たちの顔があるのかもしれない」ということを常に思いながら作っていますね。「あの日の体験は、原風景として忘れちゃいけない」って思っています。

『頭脳王』で学んだ
五味一男直伝の発想法

――「知力の甲子園」以降の『高校生クイズ』を演出されたのは五味一男さんと河野雄平さん(日本テレビ コンテンツ制作局統轄プロデューサー)です。お二人は関口さんにとってどのような存在でしょうか?
関口 河野さんは最初の師匠ですね。河野さんは考えを全部口に出してくれる人なんです。意識を共有し、「これはこういう理由でダメだ」「こうやったらいい」って、必ず言語化してくれるんですよ。時間がないと「これはダメ」「これはいい」って、パッと結果だけ伝えちゃう人も多いんですけど、河野さんは全部言語化してくれた。そのおかげで僕も「あっ、こういうのがいいんだ」「こういうのがダメなんだ」という審査基準が少しずつできてきました。ただ、それは河野さんの審査基準にある程度沿ったものになっていると思うんですよ。そういう意味では、「僕の中のむちゃくちゃデカい部分を河野さんが占めているんだろうな」と思います。
――河野さん流の判断基準が、関口さんの中にも息づいていると。
関口 あと、河野さんはすごく細かくこだわるんです。多分、誰よりも熱いからなんですけど……。極端な例を挙げると、「サイドテロップを1文字入れるか、外すか?」みたいな部分で1時間くらい悩むんです。
――テロップ1文字のために!
関口 そう。河野さんはテロップ1枚1枚、問題文の語尾やイントネーションひとつひとつに至るまで、全部こだわったものをオンエアで届けているんです。『超問クイズ!真実か?ウソか?』(以下『超問』)が50回ぐらいオンエアされた頃には、「全部が全部やりきったから、『ああすれば良かった』という後悔は一切ない」みたいなことを言ってました。毎週のレギュラー番組ですら、そこまでのこだわりがあるんですよ。精神論ですけど、「その背中は見習わなきゃな」と思いますね。
――五味さんについてはいかがですか?
関口 五味さんは僕が入社3年目ぐらいに『頭脳王』のADに就いた時に総監督をされていました。もちろん存じてますから、ビビリながらご挨拶させていただいて(笑)。あの方はホントにすごすぎますね。
――その「すごさ」を、ぜひ教えてください。
関口 常に発想がオリジナルで、でも本質を全部突いている。それぞれの番組に携る人が100~200人いて、みんないろいろなことを考えているんですけど、そこからは出てこない「そんな発想あったんだ!」っていうようなアイデアを出してくるんです。あと、すごくファンタジーな発想される方なんですよ。
――「ファンタジーな発想」ですか?
関口 はい。以前、話をしたときに「テレビを現実として考えてない」「漫画みたいな世界観をテレビに落とし込んでいる」というようなことを言っていました。例えば『頭脳王』でいえば、第2回(2013年)から「人間vs.AI」という切り口で、AIとの立体三目並べ、チェスに似た独自のゲーム対決をやってます。あの当時に「超天才の人間はAIを超えられるか?」ってナレーションでドンとやるのって、漫画の世界観なんですよね。
――たしかに、「誰が一番知識があるのか?」という、従来のクイズ王番組的な世界観とは、一線を画していますね。
関口 別の言い方をすると、五味さんのやっていることは映画監督なんですよ。今のディレクターは僕も含めて「タレントさんがしゃべりやすい枠を作って、その中で楽しくやってもらって、その面白いところを編集でお届けする」っていう感じの、タレントさんパワーに頼った番組作りをしているのですけど……。でも五味さんは頭の中で「こうやったら面白くなる」というのが1から100まで全部見えてる。それをもとに映画のようなバラエティの作り方をされるんです。
――なるほど。
関口 五味さんって「視聴率男」みたいなアダ名があるじゃないですか。でも、それって五味さんのことを勘違いしている気がするんですよ。五味さんは今の視聴者が求めていることは全部わかっていると思います。でも、「今は千鳥さんが人気だから、千鳥さんを番組に起用しましょう」みたいな「いま流行っていることをテレビで具現化しよう」という発想ではなくて、「『今の人が潜在的で求めているであろうもの』は何なのか?」を常に考えているんですよ。だから全部オリジナルの発想になって、ほかでは見たことがない番組になるという。そこが根本的にほかのディレクターさんと違う点だと思います。『頭脳王』は今でも五味さんが「思いついたよ」ってアイデアを持ってきて、僕らはそれを板書しています(笑)。そこから学んだこともいっぱいありますね。
――どうやって発想されているのでしょうね?
関口 ロジカルではあるそうですけどね。「潜在的な本能を求めてたら、論理的にそこに辿り着くんだよ」みたいなことをおっしゃっていました。

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