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INTERVIEW

走り抜けた6年間「クイズで強くなることは周りへの恩返し」水上颯×鶴崎修功スペシャルインタビュー

水上颯の『東大王』卒業から早2か月が経過した。すでに『東大王』は、水上からバトンを受け継いだ鶴崎修功をリーダーに新たな日々が始まっている。本誌では、水上が東大で学位を授与されたまさにその日に、水上と鶴崎に、東大入学から卒業までの6年間を振り返るインタビューを行った。残念ながら、インタビュー後に新型コロナウイルスの流行により従来の番組収録はしばらくお預けとなってしまっているが、今一度、時計の針を3月に戻して、彼らのクイズにかけた青春に耳をすませてみよう。
(2020年3月24日収録 聞き手:大門弘樹 撮影:玉井美世子)

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入学した時にはクイズをやるつもりはなかった(水上)

――今日は水上さんの学位授与式だったそうですね。卒業おめでとうございます! 6年間を振り返ってみて、まずはどんなことが思い出されますか?

水上 一言では言い表せない感じはありますけど、東大で過ごした6年間は、やっぱりクイズが切り離せない日々だったと思います。入学した時には僕、クイズをやるつもりなかったんですよ。身体を動かしたかったんで。クイズは高校で、ある程度は結果が出ていたのもあって「もういいかなあ」と思っていたんですけど。それが、うっかりTQC(東大クイズ研究会)に入ってしまって(笑)。そうすると、ハマっちゃうタイプだったんで、面白かったんですよね。6年間ずーっとね、「もういいかな」と思いつつ、ずっとクイズを続けてましたねえ。

――鶴崎さんは、6年間を振り返っていかがですか?

鶴崎 僕も実はクイズ研究会は入るつもりではなかったんですよ。でも、大学のサークルには新歓というのがあって、それが面白くて入ったんですけど。「入って良かったかな」とは思ってますね。単純に楽しかった。過去形で話してますけど、今もTQCの会員なんで、僕はまだまだ続けていくつもりなんですけれどね。

――運動系のサークルも入っていたんですよね?

鶴崎 はい。僕は3年生まで合気道のサークルに入って。「運動は何かしろ」という母親から教えがありまして(笑)。

――そうなんですね(笑)。合気道を選んだ理由というのは?

鶴崎 なんか武道というものをやってみたいと思って。非常に良かったんですけど、クイズと両立するのはだんだん難しくなっていって。どちらかというと、徐々にクイズにハマっていたという感じですね。

――水上さんはバドミントンですよね?

水上 そうですね。僕はバドミントンと卓球をやってて。

――二つってすごいですね。

水上 なかなか珍しいというか。まあ時間も被っていたんで、途中からはバドミントンよりも、卓球のほうをメインでやっていたんですけど。6年間は続けましたね。僕の場合は両立は難しくはないんですけど、本気でやるというほど強くもなかったんで、お遊びぐらいの感じでしたね。

――鶴崎さんも卓球をされていたんですよね?

鶴崎 僕は高校2年で卓球をやめたんです。卓球は好きなんですけど、それ以降は全く練習もしてなくて、プライベートでやったこともないですね。

水上 卓球は一回だけやったことがあるじゃないですか? 『東大王』で。

鶴崎 あー、そうですね。ロケの時に久々にやりましたけど、今はもうラケットにボールが当たらないレベルになってます(笑)。

水上 そんなもんでもなかったけどね(笑)。

鶴崎 なかなかね、下手になってましたね。

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クイズに強くなったのは周りへの恩返し(水上)

――大学時代でいうと、まず水上さんが『頭脳王』に出演されていますよね。あの頃の水上さんのクイズに対するモチベーションはどんな感じだったんですか?

水上 うーん……実は僕、あの頃はあんまりクイズが面白くなくて。やめよう、やめよう、と思ってたんですけど。

――そうだったんですね。

水上 はい。『高校生クイズ』で優勝したというのが縁で声をかけられて、『頭脳王』にも出ることになったんですけど。ただ、あの頃はクイズの実力でいうと、たぶんそんなでもない感じだったんですよね……。なんかクイズという競技自体の非本質性を感じていて。

――非本質性というと?

水上 ゲームとしては面白いけど、早押しというクイズの独善性にちょっと飽きちゃった頃で。早押しで早く押すことに意義をあんまり感じなくて。一文字、一文字を削り出すやり方というのがあんまり向いてないから、「もうやめようかな」と思っていたところだったんですよね。そんな中で『頭脳王』で優勝して。あの時も優勝できたのも奇跡というか(笑)、よく優勝したなあ、と思っていたんですけど。でも、「優勝した以上はクイズに強くないと周りにも申し訳が立たないな」と思ったんですよね。

――水上さんがクイズに対して本気で取り組んだきっかけとなったのが『頭脳王』だったんですね。

水上 でも基本的には、僕は「クイズを楽しめればいい」と思ってやってきたんですよ。でも大学4年の1年間だけは僕、めちゃくちゃクイズを頑張ってたんですよ。

鶴崎 あの時はホントにそうだったよね。

――『abc』(大学4年生までが出場できる短文による学生日本一決定戦)ですよね?

水上 はい。大学3年の時に、僕は一個上の世代とめちゃくちゃ仲が良かったんですけど、その一個上の鈴木淳之介が『abc』で優勝したんですよ。で、次の年、長文の『パーソン・オブ・ザ・イヤー』、短文の『abc』の両方とも、当時の僕の一個上の世代が開く大会だったんです。そこで強い姿を見せないわけにはいかないな、と思って。だから、大学4年生の時に頑張ったのはそれまでの恩返しなんです。

――なるほど。

水上 僕、自分のためにクイズをやるタイプじゃないんです。基本的に「大会で活躍したい」とか、あるいは「個人戦で人に負けたくない」とかそういうのはないんです。ただ、人のためなら頑張れる。そこで1年間だけ必死になってクイズを勉強してましたね。

――鶴崎さんには、水上さんのそういう部分はどのように見えてましたか?

鶴崎 3年生の終わりから4年生にかけて「化けたな」というのはありましたね。ただ、その理由は見えてなかったですね。というか、僕は正直、水上が短文をやるとはあんまり思ってなかったんですね。長文の『パーオブ』を取ると思っていたんですよね。なので、3年生の後半ぐらいから4年にかけて短文をやっていて、そこに意外性を感じていたというか。結果、うちの世代からは、水上が『abc』でペーパー1位を獲るわけですけど、まさか獲るとは思ってなかったんですよね。もちろん、『abc』の過去問とか、たくさんクイズをしてるのは知っていたんですけど。

水上 まあ、努力というのは人に見せるものでもないしね。

鶴崎 水上はやればやるタイプだというのは知っていたけれど、「ちゃんと1位を獲ってくるか!」と驚きましたね。

水上 それでも勝てなかったからね。やっぱり短文は難しい。

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テレビとクイズ界をつなぐ人でありたい(鶴崎)

――『東大王』への出演はお二人の人生にとってもターニングポイントになったかと思いますが、ライフスタイルや人生観に影響を与えたことはありますか?

鶴崎 僕はすごく影響を受けていますね。一つは、どうやったら一般の方に面白いと感じてもらえるかを意識してクイズを作るようになった、題材の取り方とかそういう部分。もう一つはクイズを続けるきっかけにかなりなっているといいますか。

――なるほど。

鶴崎 僕、そんなにクイズが強くないんですよ。……まあ、半分よりは上だと思いますけど(笑)、クイズプレイヤーの中で最上位ではないという実感があるんですね。『abc』でも大学3年生まではずっとペーパーで落ち続け、大学4年生でも2ラウンドで負けましたから。今もそんなに強くないです。

――競技クイズというフィールドだと、そういう実感があるわけですね。

鶴崎 はい。少なくともそこではそうだし、そうじゃなくても競技の枠を取っ払ってクイズをしても負けうるということなんですね。『東大王』の問題でクイズ大会をやったとしても、残念ながら僕は優勝できないと思うんですよ。だけど、僕は少なくとも「クイズプレーヤーです」と自信をもっていえるようにならなければ、と。『東大王』って元々クイズプレイヤーじゃない人たちもいるわけですよ。鈴木光さんが代表ですけど。鈴木光さんは少なくとも競技クイズプレイヤーではないわけですね。でも、彼女は自分独自の勉強で頭角を現し、今では『東大王』で欠かせない存在です。

――なるほど。

鶴崎 僕の中では『東大王』がなければ、4年生の時に『abc』でたいして活躍できなかった時点で最強を目指すモチベーションは全くなくなっていたはずなんです。『東大王』があるから、努力し続けなければいけない。

――『東大王』が5年生以降の新たな目標になったということですね。

鶴崎 それはありますね。でも僕はやっぱり競技クイズの人なので、『東大王』の対策だけしてればいいわけじゃない。僕はクイズ界の発展を願っていて、クイズ界に足を着けた人でありたいなと。単なる「テレビの人」ではなく、「競技クイズの人かつテレビの人」。僕はそう見られていたいんです。

――『東大王』という競技クイズではないクイズ番組に出たことで、より自分のオリジンを意識するようになったわけですね。

鶴崎 はい。『東大王』の力でクイズ界がさらに発展すれば一番いいと僕は思っているので。そこをつなぐ人でありたいですね。

――なるほど。水上さんは『東大王』に出て変化したことはありましたか?

水上 そうですねえ……。『東大王』に出て僕が意識したのは、作り手側の存在ですかね。今は素人でも動画の配信者だったりと、コンテンツを作る立場にも立てるとは思うんですけど、僕自身はそういうものを意識したことはなかったんですよね。番組に行くと、いつもスタッフさんが20~30人は必ずいるし。ロケに行ったり、あるいは問題を作ったり。「ああ、コンテンツというのはあくまで誰かの手で生まれたものであって、自然発生的に生じるものっていうものではないんだな」というのは学びましたね。当然といえば当然のことなんですけど、僕自身は……例えば、本を読んでいても、作り手のことを意識したことはなかったんです。むしろ「自然のあり方としてコンテンツだけを消費すればいい、作者と本というのは切り離して考えるべきだ」とか、そういうふうに思っていたんですけど、モノだったり、あるいは形のない経験だったり、そういったものでけっこう人っていうのは繋がっているんだな、と思うようになりました。一本の鉛筆が生まれるまで、みたいなああいう話(一本の鉛筆が作られ、使う人のもとに届くまでには多くの仕事と大勢の人たちがいることを描いた谷川俊太郎の『一本の鉛筆の向こうに』)になってしまうんですけど(笑)。短絡的に受け取っている物事でも、誰か人の気持ちが入って行われているし。クイズ大会も、だいたいは赤字だったりして、スタッフも一つの大会をやるにはけっこうな時間を、ボランティアでやっているんですよね。少なくともお金というものが介在していてもいなくても「思い」というのはこもっているんだ、と思います。

――なるほど。

水上 で、何が言いたいかというと、ホントに僕は鈍いんで、これまで気づいてこなかったんですね。人から受け取ってきたものというのを。……あのー、僕、まともな生活を送るのに極めて向いていないタイプの、社会生活不適応者なんです(苦笑)。でも笑って生活できているというのは、ホントに人からもらってきたもののおかげだと思っています。自分が受け取ってきたものを返せる人になりたい、これから出会う人に恩返ししていきたいな、と思うようになりました。

――それは大きな変化ですね。

水上 元々、僕、『東大王』に出るまでテレビが嫌いだったんですよ(苦笑)。今でもテレビは全く観ないんです。最初にテレビに出てた時とかね、けっこう「ヤバい人」だったんですよね(苦笑)。

鶴崎 テレビに出せない人ね(笑)。

水上 そう。

鶴崎 ヒロミさんとか山里さんが「水上は最初の頃はテレビで出せない奴だったなよあ」とかよく言っていますよね。でも、その点でいうと、我々が3年生から6年生にかけて『東大王』に出れたのは大きいかもしれないですね。これが1~4年生だったら、もうちょっとぼんやりしていたかもしれません。

――なるほど。

鶴崎 自分も与える側になる時期というか。クイズ界でも年長になり、社会にも出る年になり、何かモノを作ってお金をもらう側になる時期に、『東大王』があった。その『東大王』がどうやって支えられているかというところに自然に目を向けることになったのかな、と。「単純にクイズやってればいいんでしょ?」というのじゃなくて、「周りの人たちは何を考えているんだ?」ということをよくよく考えるきっかけになったのかな、と思いますね。

――そういう意味でも、卒業というシステムはよくできてますよね。役割が新しい人に移ってくというのは。

鶴崎 そうですね。だから、新しい若い人がたくさん増えて。少なくとも今のメンバーにはおそらく水上マインドみたいなのが受け継がれていて。もちろん伊沢マインドも我々には受け継がれていて。別に上下関係とか、クイズ内の役割はないんですよ。大将だからといって何かをするというほどでもないし、何かを決めるというほどでもないんで。でも、やっぱりなんか伝わっていくものがある気がしますね。

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クイズは理不尽を押しつけるゲーム。だから勝つと胸が痛む(水上)

――お互いについて、『東大王』の3年間で変わったと思うところってあります?

鶴崎 水上はやっぱり人当たりが良くなりましたよね(笑)。でもそれって、サークルで見せていた笑顔を、一般の人に見せるようになったというのが正しいのかもしれないですね。

――なるほど。

鶴崎 ヒロミさんも時々「水上は実はいい奴だ」と言っていて。つまり「最初からいい奴だったんだ」と。プライベートの場では割と朗らかなところもあったのが、『東大王』に出ているうちに、カメラの前でも自然の笑顔を見せるようになった。それって、一般の人という対象を大事にするというマインドがすごく大きくなったかなと思いますね。別に人のことが嫌いなタイプではなかったとは思うんですけど、不特定多数の人が「何をして欲しいのか」というのをすごく感じるようになったかな。

水上 うん、そうかもしれないね。

――水上さんから見た鶴崎さんの変化は?

水上 難しいところではありますね。鶴崎は割と一番最初に出た時から鶴崎修功だったんですよね。『東大王』って番組はいい意味で肩肘を張らない番組なんで、実はけっこうヤバいところはそのままヤバく出て、普通のところはそのまま普通に出るんですけど、鶴崎修功という存在は……まあ、簡単に言うと変人じゃないですか(笑)。

鶴崎 ははははは(笑)。

水上 けっこうステレオタイプな変人に近いところがあって(笑)。数学科というのもありますし。まあ、数学科に変人が多いというのはちょっとした偏見ですけど(笑)、たぶんそんなに間違ってはいないので。よくいるヤバい数学者さん、なんですけど。でも、3年間で成長してないというわけじゃないんですよ。鶴崎も最初はテレビ局と東大クイズ研のパイプ役をやっていたんですよ。ただ、俺と同じで積極的な感じでは決してなかったと思うんですよね。最初は「自分がクイズをやりたいから、出てます」みたいな感じで。でも、やっぱりテレビって、人を楽しませてナンボなんで。『東大王』っていう番組で自分の位置から皆さんを楽しませ、かつクイズ番組では自分が楽しまなきゃしょうがないんで、自分も楽しむ。だから、要はカメラを気にしてとかそういう感じではなく、自然とできるようになった感じです。一言で言うと「エンターテインメントを知った」んですよね。

――なるほど。

水上 例えば、楽屋でしゃべっている時って別に誰の目とか気にしないけど、相手を楽しませるためにしゃべっているみたいなところはあるじゃないですか。それをテレビという場でもできるようになった。テレビと日常がかなりボーダーレスで、どっちでも行ける感じに今ちゃんとできているんじゃないかな、と思いますね。

――カメラの前だからと無理することなく、相手を楽しませるように話せていると。ホントに等身大の姿ですよね。その姿勢はテレビを観ている視聴者にも届いていますよね。そういう点でも『東大王』でのお二人の影響力は大きいと思いますが、やりがいやプレッシャーはありますか?

鶴崎 そうですね。僕はわりとポジティブに捉えていて。これまで東大クイ研だけでは決して手が届かなかった小学生とか家族とか、そういう人たちに『東大王』が特に手を伸ばせていて。同じく「QuizKnock」や「みんはや(みんなで早押しクイズ)」もけっこう大きなところだと思うんですけど。やっぱり小学生たちが「観てます」とか、「クイズやりたいです」と言ってくれるのが特にうれしいですね。とても光栄なことだと思います。やっぱり新しい人たちが入ってくることは良いことなんで。

――そうですね。

鶴崎 その点では、やっぱさっき言った、水上が自然な笑顔を見せれるようになった、というのは非常に素晴らしいことだと思っていて。それって『東大王』って番組が、あんまり飾らずに、大学生っぽいところを見せたいという方向でやっていたおかげなんですよね。だから「自分もそうなりたい」「自分もクイズをやってみたい」という人が増えたんだと思います。

――水上さんはどうですか?

水上 そうですね。『東大王』って番組が、小中学生のお子さまにお見せしたい番組ではそこそこの地位を獲得していると思うんですけど(笑)。かつての『平成教育学院』とか、今でいう『Qさま!!』みたいなね。そういう意味で様々な世代にリーチできるっていうことは非常にありがたいです。

――なるほど。

水上 僕、昔から自分の努力の限界をけっこう決めてしまっているところがあって。だからその範囲内でしか基本、行動しない。自分で何かをやろうとか、そういうことはあんまりしない人なんです。いまも流れ流れて、タレント活動みたいものをするなんて全く思ってなかった。世の中って、誰か一人の力で動かしているわけではないと思うんですよ。人というのはあくまで社会の構成員なんですよね。だから自分が動くことで、自分の周りを動かすことは極めて簡単にできるんですよ。それは自分が社会を形作るものの一つだから、自分が動く分、人を動かせるということで。そういう意味で、世界っていうのはものすごく簡単に変えられるんですよね。例えば、以前、高校で講演会をした時に「教育入試改革、どうにかなりませんかね?」みたいなことを言われたんですよね。その時は「それは誰かが言えば変わるよ」って言ったんですけど、実際、高校生が声を挙げたりして、いろいろと修正されていってるじゃないですか。例えばいじめも、誰かが動けば、やめさせられることができると思います。だから、動くことで世の中は変えられるんです。僕みたいなただの素人の東大生がテレビに出て、こんなインタビューを受けてるのも、その結果ですよね。逆に言うと、すごい有名人だって所詮は人なんです。みんなすごい人になりうるし、すごい人もみんな普通の人なんだ、っていうのはお伝えしたいですかね。

鶴崎 そうですね。そこは僕も思いますね。テレビのクイズ番組って、すごいキャッチコピーがつくじゃないですか。

――それこそ「IQ165の天才」みたいな。

鶴崎 そう言われると、まるで何でもできるように思われるかもしれないんですけど、実際の僕はただ数学ができるだけで、それ以外は別にできませんよ、と。なんなら数学でも東大の中には僕よりも数学ができる人もたくさんいますし。東大生でも普通の人間なんですよね。クイズって、本質的ではないものの例えとしてよく使われるじゃないですか。例えば、「国会クイズ王」みたいな。知識だけつけたって何にも役にも立たないみたいなイメージで。

――ネガティブなレッテルとして使われることは多いですよね。

鶴崎 それはわかっているんだ、と(笑)。それはわかった上で、いわゆる遊びとしてのクイズというか、スポーツとしてのクイズというか。が、そういうものが尾ひれのつかない形で広まってくれたらうれしいな、というふうに思っています。だから「クイズやれば天才になれる」とかではなく(笑)。もちろん『クイズをやったら知識がつく』はあるけど、それ以上に「クイズをやったら楽しい」というふうな形で広まって欲しいですね。

――確かに、そこはテレビ番組の演出によって誤解されがちですよね。それが嫌でテレビに出ることを避けるクイズプレイヤーも一定数います。ただ、お二人に共通していると思うのは、そういったメディアに出るきっかけや縁を「興味がないから」とシャットアウトしてこなかったことで今につながっていますよね。先日、水上さんの東大のインタビューを読んで印象的だったのは、「僕は全てを肯定する『肯定ペンギン』ですから」というフレーズでした。自分のいまを肯定する。それはすごく大事なことですよね。

水上 まあ、チャンスとか失ってばっかりですけどね(苦笑)。

鶴崎 まあ、それはラッキーなところは大きくて(笑)。僕、別にそんなに世渡りがうまいタイプではないですから。むしろ物事を進めるのがうまいタイプではない。だから、これはホントにラッキーとしか言いようがないですね。まあ、伊沢さんみたいな人はもしかしたらそういうのがうまいかもしれない。水上はどうなの?

水上 俺はねえ、神に愛されている(笑)。というか、俺自身が神を愛してるから(笑)。

鶴崎 はははは(笑)。

水上 相思相愛で、当然だとも言える。

鶴崎 なるほどね。相思相愛ね。

水上 僕、先ほども言った通り、メチャクチャなんですよ……。自分の思い通りにさせるとか、自分で引っ張って何かするとか、そういうものを僕は別に全然考えてなくて。まあ約束は忘れるし、朝は遅刻するし、人としてはホントにボロ雑巾みたいなレベルなんですけど(苦笑)。それでも何とかやって来れたのは、皆様のご愛顧です。ポンコツだけど、それでも周りに目をかけてもらって、いろいろ助けてもらって、何とか生きられているというのが現状なんですよ。

鶴崎 まあ、実際に僕たちは人に助けられていることはあるでしょうね。人に嫌われるような人間だったら、こうはなっていなかったかもしれないなあ。たぶん『東大王』の面接で落ちていただろうし。

――クイズ王というと昔はヒール役でしたが、『東大王』は視聴者はもちろん、出演者やスタッフから東大王のメンバーがすごく愛されているというのが番組の核になっていますよね。

鶴崎 そうですね。雰囲気はすごく良いですね。それで水上もちゃんと人を愛し、みんなから愛されてきたのかな、というふうに思いますね。これから医者をやる時にも重要でしょ?(笑)。

水上 まあ、もちろんね(笑)。

鶴崎 やっぱり人を愛せる医者のところに行きたいですからね(笑)。それとはもかく、『東大王』が雰囲気がいいのは、チーム戦というのも大きい気がしますね。

――あー、確かに。

鶴崎 東大王チームを一般人と言い切るには微妙かもしれないですけど、一般人参加でチーム戦となると意外と少ないのかな、と思ったり。『高校生クイズ』はそうだけど。

水上 『東大王』って、勝つと申し訳なくなるんだよね(苦笑)。自分の正解によって相手に押せなくさせるわけだから。クイズっていうのは実は理不尽を押しつけるゲームだと思っているんでよね。これはしょうがないことなんですけど。僕はけっこう気を使っちゃうんですよね……。

――優しいですね。

水上 早押しクイズもそんなに好きじゃないんですよ、そういう意味で。面白いし、スポーツとしてやるのは好きなんですけど、それはある程度わかっている人が相手で、それこそお互いの知識量と瞬発力で戦うみたいな、そういう場ならともかく……。普通の方とか、あるいはクイズを別に勉強したこともないような芸能人の方とクイズをやるのは、けっこう微妙なんですよね。「瞬殺」とか言われたりするのが(苦笑)。

――ちょっと胸が痛むわけですね?

水上 はい……。だから、そういった部分で『東大王』はけっこううまく、お互いリスペクトを持ってやれてるところはかなり良い番組なのかな、と思います。

これからは恩返しとしてクイズの大会を開きたい(水上・鶴崎)

――じゃあ、いよいよ卒業のお話を。水上さんは研修医になるために一時クイズを休止するということですよね?

水上 クイズねえー。ぶっちゃけて言うと、もうあんまりモチベーションなくて(苦笑)。

――その話、聞きたいですね。

水上 いや、あのー……ホントに6年生になってから、だいぶクイズ自体が弱くなってて。理由としては、ほとんど記憶ができてないんですよね。

――記憶ですか?

水上 はい。……クイズの勉強もちょっとできないぐらいのスランプ具合で。なんか自分が出てたクイズの大会の記録集とかを読んでも、自分がその問題を解いた記憶がないんですよね……。

鶴崎 出ているのに。

水上 確かに出ているんだけど(苦笑)。ホントに非常にあやふやなんですよね。

――意識がちょっと遠のいているみたいな感じなんですか?

水上 クイズに対して、というよりも記憶自体がだいぶあやふやになってしまいまして。実は国試(医師国家試験)でも、それが影響して若干危ぶまれたんですけど……。なんか勉強するマインドにもなれないし、そもそも覚えられないし……みたいな感じで。そこは今もあんまり治ってなくて。多少イップスみたいな部分でもあるんですけど。といいつつ、クイズは好きなんで、やめることは多分ないんですけど。

――それはよかったです。

水上 もちろん、大会とかに出ることは頻度としてはものすごく下がりますし。そもそもこの1年間でもクイズの大会はほとんど出てなくて。これから先、今と同じ形ではおそらく続けていかないなと思います。バリバリ、クイズの大会に出て活躍する、みたいなのはちょっと厳しいかな、と正直思っています。もちろん、まだ将来的にはわかんないんですけど。まあ、さっきも言った通り、恩返しとしてクイズの大会を開くとか、それぐらいからはやろうかな、と思ってます。実を言うと、この2人がメインで大会をやるつもりなんです。

――あっ、2人で? おー、そうなんですね!

水上 作るのを予定してますね。

――なるほど。やはりプレイヤー人生の集大成として『東大王』のファイナルで10連勝する、というのが大きな目標を達成されて燃え尽きたところはあるわけですね。

水上 そうですね。あそこで「僕のやりたいことはやれたかな」とは正直思っているので。まあ、僕ちょっといさぎの悪い人間で、別に引退とかはしないですけれど(笑)。基本はあれでいいかな、と。あれが僕かな、と思っていまして。最後も、僕、すごい微妙な負け方を個人ではしましたけど、それもまあ僕かなあ、と。クイズというのはそういうもんですからね。それでいいかな、と思っています。

鶴崎 正直、目標とするものがなくなると、というのはやっぱり大きくて。学生プレイヤーにとっては『abc』だとか。そういうもので、永遠であるものは非常に少ないんですよね。何年間しか出れないとか。ずっと出られる大会だったら、「次がんばればいいや」みたいになっちゃうというか。二つの矢を持たない、みたいな感じになりますけど。

――それこそ『M-1』みたいなもんですもんね。

鶴崎 そうですね。ラストイヤーだからこそ、みたいなものがあって、そういうのが消えると。『東大王』もなくなってしまった時に、例えば僕が来年で『東大王』をやめるとかになったら「次は何やろう?」ってなっちゃうし。コンスタントに「次はこの大会で活躍したい」みたいに思える人はずっとクイズをやり続けられるんですけど、なかなか人間はそうはいかないというか。クイズ大会があまりにも違うので。同じじゃないんでね(笑)。色が違いすぎるというか。『東大王』で活躍するのと『abc』で活躍するのは全然違って。そういうのはクイズの難しいところかな、と。で、それが大学から社会人になるとか、高校から大学に入るというところでクイズを辞めてしまうきっかけになってしまっているんですよね。そこは何とかしたいんですけどね。ただ、僕の話をすると、僕はまだやめる気はないんです。

――安心しました。

鶴崎 でも、大会に出る回数は僕も少なくなっていて。学校にはいるのに部室に行かないということも多くなっているし。それは良くないことではあるんですけど、まあまあそれはそれでもいいかな、というふうに思っていて。目標が欲しいんですけど。数学の博士課程がどうなるかわかんないんで。そのあと職業を決めないといけないですから、そういう人生との兼ね合いもあって(苦笑)。でもそれは全ての学生クイズプレイヤーが思うことなので、避けられないですね。

――直近は水上さんから託された『東大王』のバトンですよね。

鶴崎 はい、そうですよね。『東大王』としてはバリバリ活躍するつもりではあるし、しばらくはやりますよ!

水上 正直、人が抜けることでチームとしては弱くはなるかもしれません。まあ、あんまり弱くなったとは言わせないように頑張って欲しいなとは思っています。僕としては!

鶴崎 その辺は僕はもちろん、みんなで頑張っていく。で、あとはそのクイズの世界にどれだけ貢献できるか。今度クイズ大会をやるというのもそうだし。僕はクイズ界に何か新しいものを作りたいと思っているんですけど。

水上 いいじゃないですか。

鶴崎 そういうのを生むことをまた続けていければいいかな、と。クイズプレイヤーとして新しい自分を作りたいとか、問題を作る側として、大会を作る側として新しいものを作りたい。そういうものがなくなった時に、人は引退しなければならないというふうに感じるので。『QuizKnock』にも顔を出すだろうし、そういう意味で新しいことをやることはやめたくないですね。

――鶴崎さんは『東大王』を卒業された水上さんに、番組では3つの文章を贈られてましたね。改めてもう一度、水上さんに対する想いを。

鶴崎 この雑誌を読んでいる方は水上颯は別に「クイズを辞めない」ということがわかっている人も多いと思うんですね(笑)。テレビを観ているほとんどの人はそれを知らないわけだから、番組ではああいった未来の話をしたわけですけど。あの時にテレビでは言ってない話としては、今度水上とやるクイズの大会というのは一回で終わらせたくないと思っていて。

水上 そうだね。

鶴崎 定期的にやりたいと思っているんですよね。それは僕がクイズを辞めたくないというのも一つにあり、水上にもクイズを作って欲しいというのも一つにあり。まあ、二人で問題を作るほうが楽だというのもあるわけですけど(笑)。水上颯の問題をまた見たい、と。で、僕の問題も見せたい、と。だから僕らは大会をやるんです。失敗しなければどんどん続けていきたいな、というふうに思っていて。大きなクイズ大会ってだいたい年1回じゃないですか。『abc』も『勝抜杯』も。年1って非常に目標としては難しい。出る人たちが1年をそれに懸けるからね。だから、もうちょっと短いペースでやればいいな、と思っているんですけど。

――あっ、短いペースで?

鶴崎 1年よりは短いペースでやれればいいかな、と思ってます。ただ、僕らのキャパによるんでお約束はできませんけど(笑)、僕は頑張っていこうかなというふうに思っていますね。

水上 僕も今後、プレイヤーとしてクイズ大会に参加するということは時間的にも実力的にも厳しくなるし、プレイヤーとしてはこの前の『東大王』でやり切ったので、今度はそういった形でクイズと関わっていきたいなと思っています。何も勉強したことを答えることだけがクイズじゃないと思っているので。僕の本(『水上ノート』)の最後にも書きましたけど、今の僕にとっては人生そのものがクイズです。だから、これからは僕が人生で何か見つけたことや感じたことを、自由気ままに出題して皆さんにお見せして、結果的にそれが恩返しになればいいなと思っています。

――その良き相棒として、鶴崎さんがそばにいるというのが素敵ですね。これからも2人の活躍を追いかけていきたいと思います。本日はありがとうございました。

※インタビューの完全版は「QUIZ JAPAN vol.12」に巻頭グラビアとともに掲載される予定です。ぜひご期待ください。

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