Subscribe / Share

Toggle

INTERVIEW

前代未聞のクイズ番組『99人の壁』はこうして生まれた!千葉悠矢×山本太蔵インタビュー(前編)

子供が大人をブロックし、俳優・佐藤二朗をも翻弄する。
いったい誰が、激戦区の土曜日19時台でそんなクイズ番組が放送されるようになるなど想像できただろうか。
生み出したのは、入社2年目のAD千葉と、クイズ初挑戦の作家・山本。
『99人の壁』は、そんなクイズ番組のセオリーを知らないADと作家の二人三脚ともいうべき番組だった――。
(2019年6月26日収録 聞き手:大門弘樹 撮影:神保達也)

プロフィール
千葉悠矢(ちばゆうや) 1993年、神奈川県生まれ。早稲田大学卒業後、2016年にフジテレビジョン入社。『超ハマる!爆笑キャラパレード』『FUJIYAMA FIGHT CLUB』『RIZIN』『久保みねヒャダこじらせナイト』『ネタパレ』でADを担当。2017年に『白昼夢』でディレクターデビュー。『超逆境クイズバトル!!99人の壁』を企画・演出。

山本太蔵(やまもとたいぞう) 1980年、岩手県生まれ。2001年NSC東京・構成作家コースを卒業後、劇場『ルミネtheよしもと』で作家見習い経て、2006年にTBS『10カラット』で放送作家デビュー。『いきなり!黄金伝説。』『日曜×芸人』などで構成を担当。現在『超逆境クイズバトル!!99人の壁』『BACK TO SCHOOL!』の構成を担当。

企画を作ろうにも
知り合いの作家がいなかった

――前回のインタビュー(『QUIZ JAPAN vol.10』参照)では、千葉さんとクイズ作家のお二人(矢野了平、日髙大介)の座談会で、レギュラー化直後にお話を伺いました。今回はクイズ作家ではなく構成を担当されている山本太蔵さんとの対談ということで、まずは山本さんが『99人の壁』が関わることになったタイミングから教えていただきたいのですが。
千葉 最初からですね。
山本 千葉君のいう最初っていうのは?
千葉 プレゼン大会の前に、一緒に企画作りをしたんですよ。
山本 あぁ、企画作りからやったね。

――お二人が一緒に企画を作ることになった経緯というのは?
千葉 プロデューサーから企画募集があったんですけど、当時まだ2年目だったので、普段から一緒にやっている作家さんが一人もいなかったんです。
山本 まぁ、2年目だとそうだよね。
千葉 とはいえ「誰かと相談しながらやりたいな」とは思って。で、太蔵さんは僕が1年目に『キャラパレード』(『超ハマる!爆笑キャラパレード』)って番組でADをやってた時、僕がついてたディレクターと一緒にネタを作っていたんですよ。その頃、僕はその議事録を録っている、みたいな感じで。
山本 だから、当時はほとんどしゃべったことないぐらいの。収録の帰りに喫煙所行った時、「あれ観た?」「これ観た?」くらいの話をしたり、帰りにタクシーに乗る前に歩きながらしゃべった程度で、仕事の話はほぼしたことなくて。
千葉 そうですね。ただ、連絡先は知っていたんですよ。というのは「どこどこの会議室集合でお願いします」みたいなLINEを送ってたので。だから、太蔵さんはあの頃の僕にとって唯一、連絡先を知っている作家さんみたいな感じだったんです。
山本 まぁ、当時はそんな感じだよね。
千葉 なので「企画を作ろう」ってなった時に、とりあえず連絡先を知っている太蔵さんに「あのー、いいですか?」みたいな風にお願いしたと(笑)。
山本 で、いきなりLINEが来て。
千葉 初めてちゃんと一対一で話をしたのが新橋のルノアールでしたよね。
山本 日テレの前のね(笑)。
千葉 そうです(笑)。それで、ホントに何もない状態から「一緒に企画を作りませんか?」って話をして。確か、その時はクイズとはまったく関係ない企画を作ったりしたんですけど。で、そこから太蔵さんとちょこちょこ定期的に会って、「何やりたい」「これやりたい」みたいな話をするようになったんですよ。
山本 そうだったね。
千葉 で、何回目かの時に、プレゼンとはまったく関係なく、太蔵さんが元々やりたがっていた企画の話になって。それが前回のインタビューで話をした「ツイッター対クイズ王」って企画で。
山本 うん、そうそう!
千葉 「世界中から知恵を集めて4人のクイズ王を倒そう」みたいな企画で、すぐに企画書を出しに行ったら「確かに面白いと思うし、新しいけど、クイズをやってる人の顔が見たいねえ」みたいなフィードバックを受たんですよ。それで、「なるほどねぇ」ってなって……。その時は、そのままフワッと話が流れて、引き続き別の企画を作るみたいな感じで。

――えっ、そうだったのですか?
千葉 そうなんですよ。
山本 そもそも、「クイズ番組を作ろう」とは全然思ってなかったので。
千葉 で、そのうちに「プレゼン大会が始まる」という話になったんで、太蔵さんに連絡をして「プレゼン用にペライチを作んなきゃいけなくなりました」みたいな話をして……。で、その頃に2人の間では「『ツイッターvs.クイズ王』はフィードバックでいろいろ指摘を受けたけど、あの企画にあった大人数対少人数という構図には絶対になんかあるはず」というのが、なんとなく引っ掛かっていて。
山本 うん。
千葉 だから「そこをスタート地点に企画を作ろう」という話をずっとしていたんです。で、「スポーツを大勢対1人でやるとかですかねえ?」みたいな話をしながら……。
山本 スポーツ以外に何も出なかったっけ?
千葉 ほぼスポーツだったと思いますね。あとはダーツとか。
山本 あぁ、ダーツかあ。
千葉 確か「ダーツのプロが1人で3投するのと、30人ぐらいが一斉に投げるのではどっち勝つのか?」みたいなのがあったんですよ。
千葉 あと、サッカーでも考えたけど、あとで冷静になってみたら「大晦日に香川(真司)選手とかの日本代表が、大勢のちびっ子とやっていたな」とか(苦笑)。よくよく考えたら「他の番組で見たことあるな」というのばっかで。
そうこうしているうちにプレゼン大会の締切り何日か前になったんで、「もうバーッと変えちゃおう」と。で、「とりあえず原点に戻ってクイズをやってみたらどうなんだろう?」ってなって、というか。
山本 そこで最初に戻ったんだよね。
千葉 ただ、ちょうどその頃から太蔵さんと会えなくなっちゃって……。
山本 お互いに忙しくて。
千葉 だから「やっぱごめんなさい。大人数のスポーツ系の企画をやめます」みたいなLINEをしてからは、直接会う機会がなくて。
山本 当時は「もう任せるよ」みたいになってたよね。
千葉 なので、そのあと思いつきで「『1人対100人』みたいなのを、早押しクイズでやることにしました」って連絡だけして、ドタバタとプレゼンに臨みました。
山本 そうね。
千葉 そもそも、「2日前に急遽変えた企画が通るわけない」と思ってたんですよ。だから太蔵さんからは「プレゼンどうだった?」とかいうのも、特に聞かれることもなく(笑)。
山本 全然ないです(キッパリ)。
千葉 なので、終わった直後に太蔵さんに「通りました!」って言ったら「嘘でしょ?」みたいな風になって。
一同 (爆笑)
千葉 そんな感じで、あれよあれよという間に始まったという感じですね。

――ちなみに、山本さんは最初に「通りました!」というのを聞いた時、どんな感じでしたか?
山本 しばらく連絡もらってなかったんですよ。何もなかったのに、いきなり「優勝した」っていうLINEが来た気がする。
千葉 そうそう(笑)。その時のメッセージ、LINEをちょっと遡れば残っていると思う。
山本 え、あの「優勝しましたー!」ってやつ? だって相当前だよ、あれ。
千葉 残っていると思いますよ。(スマホをいじりはじめる)……ありました! 9月14日ですね。プレゼンが終わった30分後ぐらいに太蔵さんにメッセージを送ってますね。
山本 (画面を見ながら)「え――――――っ!」だけしか書いてない。
一同 (爆笑)

――しかし、このバーの数とか最高ですね(笑)。
山本 ねえ。面白いじゃん、これ(笑)。で、そのメッセージが来た時のことでいうと、すげえテンション高かったかというと……なんか、あんまよくわかんなかったですね。だって、千葉君って当時2年目でしょ?
千葉 はい。
山本 「2年目のADの企画が通る」って、ほぼないんで。だから、わけわかんなかったっすね。「えっ!?」っていう感じで。

――「現実感がない」みたいな感じですかね?
千葉 そうですね。
山本 で、「やんの?」っていう。

――でも、そこからあれよあれよで特番になだれ込んだわけですよね?
千葉 そうです。
山本 なんか「優勝したら番組をやれる」っていうことだったんで。まぁ、その時は「やるぞ!」ってよりは「……やっていいの?」って感じでしたけど。

――というのは?
山本 やっぱ、経験不足というか……。当時は多分、Vをつないだこともなかったでしょ? PRで使う何秒とかのVくらいならあるかもしれないけど。
千葉 そうです。そんな感じでした。
山本 だから、「たぶん上のディレクターが入るんだろうな」と思ってたんですよ。

――なるほど。
山本 しかも、僕自身も特に名のある作家でもなかったので。だから、当時はお互いに「もう1人ずつ入るだろうな」とか思っていた感じで。
千葉 そうですね。最初はホントにそんな感じでした。その後で室長に呼ばれて「こういう結果になったけど、演出やるよな?」って言われた時になって初めて「あっ、やれるんだ!」と思ったというか。
山本 そうだね。
千葉 で、そしたら、もういろんな人からいっぱい連絡が来るんですよ。「キャスティングはどうするんだ?」とか「どこの制作会社を入れるんだ?」とか……。
山本 でも知らないよね、そんなの(笑)。
千葉 あと、「入れたい作家はいるか?」とかも聞かれたんですけど、入れたいも何も、他に知り合いが1人もいなかったので。
一同 (爆笑)

――とはいっても、何らかの基準で作家さんやディレクターさんを選ばれたのですよね?
千葉 はい。僕の希望で、基本的に初対面の人を選びました。制作会社の演出の人は前からお世話になっている方だったんですけど、その下につくディレクターなんかは「なるべく初対面がいい」とお願いしました。というのは「元からの関係性があると、何も言えなくなっちゃうな」っていう気がして。例えば「このVを、こう直して」みたいなことが言いにくいな、みたいな……。
山本 そうねえ。
千葉 なので、ADもみんなほぼ初対面の人だけで集めてもらって。だから、最初はめっちゃ少人数だったんですよ。今でこそディレクターもたくさんいますけど、最初は10人弱ぐらいでずーっと会議とかやってて。まぁその分、役割分担はめちゃめちゃ明確でしたけどね。「オーディションやる人」「クイズ作る人」みたいな感じで。

――なるほど。ちなみに、山本さんはその時点ではどんな役割をされていたのですか?
山本 最初はルールが全然完成してなかったんですよ。なので、ルール作りから手をつけた感じですね。まあ、それは僕だけじゃなくて、みんなで集まって考えたんですけど。「ルールにアラはないか?」みたいなのをみんなで話したりとか。で、最初は「100人とクイズする番組」だったような気がするんだけど……。
千葉 そうですね。「100人対1人でクイズする番組」というのが基本線で、「300人だとどうか?」という案もあったり。
山本 あー、あったね(笑)。
千葉 でも、「早押しボタンを300個用意する予算がない」とかで。
一同 (爆笑)
千葉 それで「現実的に」ってことで100人になったと。
山本 予算の都合だったという(苦笑)。
千葉 僕、ボタンの値段とか全然知らなくて、「こんなん1個1000円ぐらいで売ってないですか?」みたいな感じだったんですけど。でも「1個で数万円するんだよ」って言われて、「それは無理だ」ってなって。
山本 いやぁ、ヒドかったなぁ、あん時は(苦笑)。
千葉 最初は「100人って少なくないですか?」みたいなこともちょっと思ったんですよ。「300人ぐらいいないと迫力ないんじゃないですかねえ?」みたいな。今思うと、100人で全然迫力あるんですけど(笑)。
山本 いやー、危なかったよね。
千葉 300人でやっていたら終わってましたね。
山本 クイズのことに無知過ぎて、ホントにヤバかったんですよ。だから、周りにホントにいろいろ教えてもらってね。最初の頃なんか、すごい変なことも言ってたもんね。「1人10問やろう」とか。

――最初に「出場者を募集します」という告知があった時は「10問連続正解で100万円」でしたよね。
山本 そうそう(苦笑)。
千葉 それって、まだ矢野さんが加入する前の段階なんですよね。「まずは人集めしなきゃいけない」ということで「10問で100万円です」って告知したんですけど、そのうちに「10問って多くね?」みたいな空気になってきて……。
山本 で、みんなも「そうっすね」ってなって(笑)。
千葉 で、矢野さんに相談しに行ったら「5問の方がいいと思いますよ」って。それで急遽5問に変えたと。
山本 そうだ。懐かしいなぁ。
千葉 しかも、そもそものルールも最初は違っていて、「何人かのチャレンジャー対100人のブロッカー」みたいな感じだったんですよ。それが「ブロッカーが戦う理由をつけたい」ということで「止めたら人が真ん中に出てくる」というルールになって。で、そうすると100人分クイズ作んなきゃいけなくなるから「10問だとヤバイよね」みたいなのもあったりとか。
山本 あと、あの「囲うスタジアム」も、あの頃はまだ決まってなかったよね?
千葉 いや、そこはもう決まってたんですけど……。
山本 あっ、そうだっけ?
千葉 はい。ただ、最初の設定では「1問目クリアしたら25人が別室からウワーッと出て来る」みたいな感じだったんですよ。
山本 あぁ、そうだ!
千葉 で、「2問目も正解したら別の25人がウワーッ来て、違う壁に来る」みたいな感じでやりたいって言ってて。でも「移動時間だけでヤバいことになるから無理だろ」ってなったんです(苦笑)。
山本 「その移動時間は何?」っていう(笑)。
千葉 今思うと、あれもすごくヤバかったなと。
山本 あはは(笑)。だから、最初はいろいろ無駄だらけだったのを削っていく、って感じでしたね。まぁ、それは僕の作業というよりは……なんて言うんですかね、僕らが一緒に考えたものを、周りに教えてもらいながら直していくっていう。

オーディションに集まった
特殊能力者たち

――オーディションについては前回のインタビューでもうかがっていないので、ぜひお話を聞かせてください。まずは「初回のオーディションはどうだったか?」というところから。確か、最初は東京だけだったのが、急遽、大阪でも開催することになりましたよね?
千葉 そうです。思った以上に応募が多かったので、「地方の人と会えないのはもったいないな」ということで急遽、関西もやることにしたと。で、最初のオーディションは東京でやったわけですけど、その時のすごく衝撃的な感じというか……。
山本 ねえ。そこをうまく言葉にしたいですけど(笑)。
――それを是非、言語化していただければ。
千葉 オーディションに来る人って、みんな何らかの特殊能力を持って来るわけじゃないですか。「これが得意です」みたいな感じで。中でも僕が印象に残っているのは、イントロクイズの藤田太郎さん(※のちに7月20日放送分でグランドスラムを達成)。たぶんクイズ界では有名な方だと思いますけど。履歴書には「イントロマエストロと呼ばれています」なんて書いてあって、テレビ番組にも出たことがあるっていうんで、「どんだけすごい人が来るんだろう?」なんて話していたんですよ。で、面接の場で試しにパソコンから音出してイントロクイズをやってみたら、まぁほぼ答えるんですよ。

――オーディションの時、実際にイントロクイズを出題されたのですね。
千葉 はい。それで「すげぇ!」みたいな風になって、すごい盛り上がって。しかも、ADがたまたま携帯で流す曲を探してた時に間違えて、関係ないタイミングでYou Tubeが流れちゃったんですよ。「あっ、すいません!」みたいな風になったのに、藤田さんがその間違えてかけた曲まで当てたんですよね(笑)。で、「ホントのスペシャリストじゃん、この人!」みたいな。そんな風に「あっ、なんかヤバい人が集まってるんだな」みたいな感じの印象でした。
山本 あと、『BAZOOKA!!!』っていう番組の『地下クイズ王決定戦』ってあるじゃないですか? あれが大好きでずっと観てたんですけど、それに出ていた人たちがけっこう来たんですよ。
千葉 来ましたねえ。
山本 俺、それでテンション上がっちゃって(笑)。
千葉 あと、当時のオーディションが今と違うのは、子供が圧倒的に少なかったという。
山本 あっ、そうだ!
千葉 だって、初回って子供は1人だけだったんですよ。

――そうですよね。
千葉 だから、オーディションで「うわっ、子供が来るんだ」みたいな感じで、ものすごい貴重だったんですよ。確かジャンルは電車系だったかな?
山本 そんな感じだったと思うなぁ。
千葉 あと、最初の時はやっぱり「我こそはクイズが強いんだ」みたいな人たちがグワーッと集まってきたので、皆さん語り出したら止まらないというか。
山本 そうね(苦笑)。
千葉 もう、ずーっとしゃべってるんですよね(笑)。
山本 うん。で、こっちはそれを聞いて「……ほぉ~」って(笑)。
千葉 たまに放送で二朗さんが話を聞きながらボーッとしてる時があるじゃないですか? 口では「なるほど、なるほど」と言っているけど……。オーディションでは僕たちも同じような感じになるというか。
一同 (爆笑)
千葉 こっちも最初1分間ぐらいは聞いているんですけど、2分目以降は情報が深すぎて、もう入って来ないみたいな(笑)。
山本 「ほぉ~」としか言えない、っていう。
千葉 「なるほど、お好きなんですね」って(苦笑)。そんな方がわんさかいた感じですね。
山本 しかし、今考えると最初のオーディションって、ツイッターでしか告知してないんですよね。それでよく来たよね、あんなに。
千葉 確かに。
山本 これってすごいよね?

――クイズファンからすると、やっぱり視聴者参加型のクイズ番組を待ち焦がれてた、っていうのはあるんですよ。
山本 あぁ、そうなんですか?

――しかも、「自分の得意なジャンルの問題に答えられる」というのは『カルトQ』以来なんで、「30年ぶりにこういう番組が来たか!」とみんな立ち上がったんだと思います。
山本 あー、長いことなかったんだ。
千葉 それは全く想像してなかったですね。
山本 じゃあ、それでちょっと話題にしていただいてたということなんですね。

――はい。クイズって、全ジャンルを網羅するのはクイズ王みたいな猛者じゃないと厳しいんですけど、「このジャンルだったらいける!」っていうのは、クイズ好きなら誰でも思ったことがあるというか。
千葉 あぁ、なるほど。
山本 それであんなコアな人たちがいっぱい来たんだ(笑)。
千葉 最初の時はそうですね。

――ある意味、『地下クイズ王』の地上版みたいな(笑)。
山本 いやもう、ホントそんな空気でしたねえ。
千葉 セットの感じも相まって……。
山本 当時のセットは暗かったしね。しかも女性いないし。
千葉 最初は女性、少なかったですね。
山本 そういえば、最初は小坂(由里子)さんもいないんだっけ?
千葉 そうそう。
山本 じゃあ、女性の声はほとんどないんだ。
千葉 そうですね。最初は男ばっか出てる番組でした(苦笑)。

――そのあたりの色付けみたいなものは、回を重ねるごとに意図的に変えていった、という感じですか?
千葉 そうですね。それはかなり意識しました。例えばセットの暗さとか。僕の中では「緊張感を出したい」みたいなのがあったので、暗さは絶対捨てたくなかったんですよ。でもいろんな人から「とはいえ暗すぎるだろ!」って……。
山本 ねえ。ヤバかったよねぇ。
千葉 まあ、確かに今にしてみると「こんな暗いセットあるか!」って思うんですけど。
一同 (爆笑)
千葉 あれは「ちょっとチープに見える暗さだったかな」という風になって。

――あぁ、なるほど。
千葉 なので、2回目の時はセットをちょっと青っぽくしたりとか改良して。で、出場者もクイズやったことのない人がバーッと入ってきて。あれは1回放送があった後なので「クイズはやったことないけど、これだったら私でも出れるかも」みたいな人がバーッと集まってきたので、そういう人をなるべく集めたって感じですね。あと、子供の応募もちらほら増えてきたので、ちっちゃい子とかも入れたりして。
山本 そうだね。
千葉 子供を入れたのは年齢のバランスもありますし、あとは「閉鎖的になると、誰も参加しなくなっちゃう」って危惧があったので、それを避けるためというのもありました。そういうのって、やっぱ危険じゃないですか。

――そうですね。
千葉 なので、「クイズに強くないと、この会場にいちゃいけないんだ」みたいな風にならないようにということで。ちょっと開放感のあるようというか、「別に誰が出てもいい」っていうようにすることはだいぶ意識しましたね。
山本 うん、したね。
千葉 2回目をやる時に書いた「もう一回やらせてください企画書」みたいなのがあるんですけど、そこにそういうのも全部書いてました。「壇上のバランスを見直す」とか……。
山本 「今度はすごい明るいセットで、華やかなスタジオに」とか書いてたね。

――その流れだと思うのですけど、3回目ぐらいから女性が目立ってきて……。
千葉 3回目ぐらいは、女性がかなり入ってきてましたね。

――で、レギュラー1発目でちびっ子が跳ねた感じでした。
千葉 そうですね。
山本 あれ、レギュラー1発目でしたっけ?

――はい。ちびっこ3人衆が(笑)。二朗さんとちびっこが、あんな感じで掛け合いになるのは、奇跡的な化学反応だったのではないかと思うんですけど。
千葉 (栗原)叶はオーディションの時から「変わった子だな」って思ってはいたんですけど、あんなに跳ねるとは思ってなくて。
山本 そうね(笑)。
千葉 「いっぱいいる子供の中の1人」だと思ってたんですよ。……でも、あの収録の時、僕がカンペを出してるちょうど真後ろに叶がいたんですけど、そこからずーっと「ドスドスドス……」って音がしていて。
山本 何それ? 俺、知らないんだけど。
千葉 たぶん落ち着きがないから……なんかこう、ずーっと椅子とかをネリネリしたりして。
一同 (爆笑)
千葉 それでずーっとドスドスしてたんですよ(苦笑)。
山本 そうなんだ。それ知らなかったわ。
千葉 だから「これ、ちょっとヤバい子が来ちゃったかなぁ」と思ったんですけど、いざ二朗さんが絡みに行ったら全部ホームランで返すようなコメントというか。
山本 すごいよねえ。
千葉 あと「アフリカの楽器」のクイズで、ビジュアルでバーンってなんか難しい名前の楽器(トーキングドラム)が出たじゃないですか?
山本 「太鼓!」って言ったやつね(笑)。
千葉 そう。あの時に「この子、すごいわ!」って思って(笑)。まぁ、間違っちゃいないんだけど……。
山本 確かに(笑)。
千葉 でも、あれは完全に想定外というか……。叶本人には「面白くするぞ!」っていう意思は全くないから。

――そうですよね。実はあの時、私も取材で入らせていただいていて、サブ(副調整室)で収録を観ていたんですよ。で、最後に関東ローカルの提供ベースのところで、二朗さんが1人だけチョイスしてセンターに呼ぶじゃないですか? その時に叶君が選ばれたんですけど、間違えたのに「もう1回やらせてください」って言って、サブが大爆笑だったんですね(笑)。
千葉 あぁ、言ってましたね。彼にはルールがないんで(笑)。それがやっぱ面白いのかな。で、叶を見て、「叶のライバルになりたい」とか「叶を倒したい」って子が現れ出したんですよ。
千葉 そうですね。
山本 うん。そこから子供が増えた。
千葉 #1には叶のほかにも、小学4年生の男の子が「サメ」で出てたりとかしたんで、たぶんこの回がきっかけで……。だって夏の時(3回目の特番)って、子供は前に出てないですよね? 壁にはいたけど、センターには……。
山本 うん、出てない。
千葉 ところが、レギュラー1回目で「サメ」の男の子とか叶が真ん中に出てきたから、オンエア後に子供の応募が急増したという。「京浜急行だったら僕のほうが詳しい」とか、「栗原叶君に会いたい」とか、そういう子が。
山本 うん、すごかったよね。
千葉 だから、オーディションでも子供と話す機会が一気に増えたっていう感じですね。

――佐藤二朗さんをキャスティングされた時には、そういう化学反応があるなんて全く想定してなかったですよね?
山本 してないですね。
千葉 キャスティングの段階では、「子供と絡ませたい」とかはなかったですね。ただ、2回目の時に『きかんしゃトーマス』の子と二朗さんがセンターでメンチ切り合ったりとかしてたじゃないですか?
山本 あったねぇ(笑)。
千葉 あれを見て、「子供とやりあう二朗さんって、めちゃめちゃ面白いんだろうな」ってのは思ったんですよ。二朗さん自身も「俺は子供と精神年齢が一緒なんだよ」みたいなことを言ってたんですけど。なので、夏の時は壁に子供をたくさん入れるようにはしてたんですよ。でも、誰もセンターには来れなかったので。
山本 そうね。
千葉 それが今は、当たり前のように子供がブロックして出てくるようになってきたんで。

――しかし、この番組って子供以外でもキャラの発掘がすごいじゃないですか。
山本 ありがとうございます。

――そこを担われているのがオーディションだと思うので、その辺をさらに詳しくお聞きしたいのですけど。
山本 僕がオーディションでいつも思うのは、「基本、オーディションで跳ねた人はあのスタジアムで跳ねる」っていう。そこはけっこうイコールですね。
千葉 そうです。
山本 基本的には、僕と千葉君の2人で、ざっくばらんに面接みたいな感じで話すんですけど、子供って自分が集めているファイルとかを「見て、見て!」って見せてきたりとか。あとは受け答えでも、ホントに間が良かったり、返しが強い子ってのがいるんですよ。そこでなんか「あれ?」ってひっかかるんですよね。
千葉 そうですね。

――それは大人にも当てはまりますか?
山本 大人の方でもそうです。だから、けっこうイコールです。
千葉 ですね。例えば「ネコ科」で出た先生とかも。
山本 あー、そうそう!
千葉 あの方はもう、オーディションの時の様子が未だに印象に残っているというか。ずーっとニコニコしてしゃべっていて、「人が良さそうだなあ」という風に思っていて。
山本 ねえ(笑)。
千葉 で、「めちゃくちゃ明るい」とか「声が大きい」といういい印象が、やっぱセンターで……。
山本 うん。やっぱり出るんだよね。
千葉 オーディションで面白かった部分が全部出たんですよ。だから、オーディションでよかった人はスタジオでもやっぱそうなるな、っていう感じは大人の方にもありますね。

最難関はオーディション
勝ち抜くために必要なこととは?

――ちなみに、いま応募者のうちオーディションに呼ばれるのは何割ぐらいですか?
千葉 実は、倍率はめちゃめちゃ高いですね。オーディションに呼ばれるまでが割と難関な感じがします。
山本 かもしんないね、確かに。
千葉 まあ、重要なのはやっぱり「ジャンル」ってことで。「この人しか知らないかもしれない」っていうジャンルの応募が多いんですけど、それだとなかなか厳しくて。だから、ちょうどいいジャンルで応募してくれたら大体オーディションに呼ばれて、なおかつ詳しかったら本戦に出れる、みたいな感じですかね。

――その辺の加減みたいなものを教えていただけますか? おそらくこれを読んでる人たちにとって「どういうジャンルで応募したらいいのか?」という対策になると思うので。
山本 あっ、そうか!
千葉 確かに、それはデカいですね。そういう意味で言うと、「狭すぎない」というのが一番ですね。
山本 そこは重要。
千葉 ですよね。例えば「あるアニメのシーズン4に詳しい」って言われても、「それで99人が楽しく参加できるか?」っていう話になると「無理だろうな」って感じがするので。それだったら実際に出場した「果物」の子のように「果物って大人のほうが食べているだろうけど、この子のほうが詳しかったら盛り上がるな」みたいなのがいいですね。
山本 そうね。
千葉 あと、前にあった「山本」みたいなジャンルは、目にした瞬間に「なんだ、このジャンル?」って気になるというか。「たぶん山本っていう名前の人のクイズがたくさん出るんだろうけど、どういう問題になるんだろう?」みたいな引っ掛かりがあれば、スッと通ることが多いですね。
山本 実は、一次は千葉君だけが決めているんですよ。千葉君が見て一次を勝ち上がった人を、僕もオーディションで見せてもらう感じなんで。だから、最初はこの人だけなんですよ。

――「一次」というのは、エントリーする時に書き込むプロフィールのことですか?
千葉 そう。エントリーする時にブワーッと書き込むやつ。
山本 ほかのディレクターも誰も見てないので、演出家1人が自ら選んでいるという。
千葉 マウスをコロコロコロコロやりながら(笑)。
山本 で、さっき言ってた「山本」みたいな自分で作るようなジャンルがあるじゃないですか? そういうの好きなんで、一次を通りやすいと(笑)。
千葉 好きですね、確かに(笑)。

――ちょっとトリッキーな感じで、「どんな問題になるかわからないぞ」っていう……。
山本 そうそう。
千葉 だから「記憶力」とか「運」とかも、「すげえ、なんだこれ!」っていう感じでしたね。
山本 千葉君が「このクイズやってみたい」っていう新しいジャンルを勝手に作ると、すぐ「あっ!」って食いついてくると(笑)。で、そうすれば二次で僕のところに来るんで(笑)。

――そして、そこでトークが跳ねたら……。
山本 出場決定ですよね。
千葉 ですね。でも、これ難しいのが、いいジャンルを考えても、そこの知識がないとオーディションは勝ち上がれないという。
山本 だからまあ、自分が得意で、かつ「どんなクイズになるか」みたいなものを考えてもらうと通りやすいかもしれないですね。
千葉 あと、オーディションで知識をアピールできた人は大体通るという気はしてますね。
山本 うん、そうね。
千葉 「オーディションに向けてめっちゃ対策してきた」くらいの人は受かるだろうなって思います。
山本 その熱意もうれしいですしね。

――千葉さん的には、「一次選考は自分だけで決めたい」みたいな感じなのですか?
山本 いや。……これ、言って大丈夫なのかな?
千葉 全然大丈夫ですよ。
山本 じゃ、いいか(笑)。
千葉 僕が一人で決めているのは、実はコンプライアンス的な都合なんですよ。というのは、個人情報がバーッって載っているので。
山本 そう。あんまり広げられないから。
千葉 エントリーした人の情報を、メールなんかで共有するのはやっちゃいけないんですよね。

――なるほど! 現代的な理由ですね。
山本 だから、彼が夜中に1人でマウスをコロコロしてエクセルのシートとにらめっこしているのは何度も見たことあります。
千葉 あれをやっていると、よく「好きだねえ」って言われます(笑)。
山本 あはは(笑)。……でも、これは読者さんにとっていい情報になったんじゃないですか?

前編を読む)

Return Top