2018年2月12日、東京・渋谷のイベントハウス「東京カルチャーカルチャー」(以下「カルカル」)にて「伊沢拓司のクイズ&トーク!!」と題したイベントが開催された。
伊沢といえば、開成高校時代の『高校生クイズ』2連覇を皮切りに様々なクイズ番組で活躍、現在は日曜のゴールデンタイムに放送されている『東大王』に東大王チームの一員として出演するなど、現在の日本を代表するクイズ王だ。
……と、普通のクイズ王を紹介するなら、このようにクイズ番組での実績を挙げていくだけで事が足りるのだが、伊沢を語るにはこれだけでは十分とはいえない。というのは、伊沢には過去のクイズ王たちとは大きく異なる点が1つあるからだ。それは伊沢がウェブメディア『QuizKnock』の編集長として、そしてYouTuberとして、世間に対して発信をし続けているということ。伊沢はすでに誰もが認める「クイズ王」の地位にある。しかし、彼はその座に飽き足らず、「クイズ王であることを活かして自らメディアを立ち上げ、発信する」という、過去に例のないフィールドを切り開いているのだ。
前置きが長くなってしまったが、今回のイベントに話を戻そう。まず驚かされたのは、場内を埋め尽くした観客の数。昨年3月に同じくカルカルで開催された「水上颯クイズナイト」同様、チケットは早々とソールドアウトし、当日も場内は満席(250人以上?)だった。観客の大半は女性で、高校生以下もかなりの割合を占めているように感じた。
そしていよいよ開幕。伊沢と、相手役を務める『QuizKnock』の「ふくらP」こと福良拳が登場するやいなや、会場には悲鳴にも近い歓声が沸き上がった。特に、普段の動画では顔出ししていない福良が素顔で登場した瞬間の盛り上がりは物凄く、伊沢も思わず「俺が来た時よりもおっきい声出すのやめてよっ!」と動揺(?)するほどの人気ぶりだ。この瞬間に筆者が実感したのは「このイベントは“クイズ王・伊沢拓司のファンのためのイベント”である以上に、“『QuizKnock』で活躍するYouTuberのファンのためのイベント”なのだ」ということだった。
イベントの最初は、伊沢のヒストリーを写真と共に振り返るコーナーから。小学生時代から、クイズに目覚めた高校時代、さらには「髪型が定まっていない」(本人談)大学時代まで、22枚もの写真がエピソードと共に披露された。
続いては、会場に来たクイズキッズたちに向けて「伊沢流・クイズ番組攻略の三箇条」が披露された。気になるその三箇条の中身はというと……
① 間違えることを恥ずかしがらない
② 敵の武器を折り、己の武器を隠す
③ オンオフの切り替えを明確に
とのこと。①に関しては「間違えることを恥ずかしがると、本来のパフォーマンスが出せなくなる」という。②については『東大王』を例に挙げ、「テレビは1問勝負であることが多いので、相手を焦らせた方が勝つ。相手の得意問題を獲りに行き、苦手なジャンルを相手に悟らせないようにすると相手が勝手に“こいつは何でも知ってる”とビビッてくれる」と、具体的な戦略を解説してくれた。また③に関しては「テレビ番組はクイズをしている時間より、その後のトークの時間の方が長い。だから問題の時だけ(戦闘モードを)オンにして、トークの時はオフにしないと長時間の収録が持たない」とのこと。数々の修羅場を潜り抜けてきた伊沢の言葉だけに、観客にとっても説得力があったのではないだろうか。
続いては『QuizKnock』の特別公開収録のコーナー。ここでは伊沢の頼れる相棒・河村拓哉がスペシャルゲストとして登場し、人気企画「限界しりとり」をアレンジした「限界しりとりプラス」が行われた。「限界しりとり」は「制限時間内に、引いたトランプの数字と同じ文字数の言葉をしりとりしていく」という、伊沢が考案したゲーム。この日行われた「限界しりとりプラス」では、通常ルールで認められている『パス』をなくし、代わりに『文字数減らし』『「ん」廻し』『オーディエンス』という3つのコマンドが用意された。ゲームの展開はというと、前半はビールを飲んだり、トークを交えたりとリラックスムードで進んだのに対し、両者ともにコマンドを使い果たした後半からは、2人とも立ち上がって本気モードに。クイズと同様にしりとりでも全力で戦う2人の姿に、場内も大興奮となった(結果については、後日『QuizKnock』で配信される動画をお楽しみに)。
続いてのコーナーは伊沢と観客によるクイズ対決。事前に「クイズに参加したい」と申し込んだ観客15人のチームと伊沢による早押しクイズ対決で、5ポイントを先取した方が勝ちとなる。そして、ここで「クイズで正解した人には、伊沢が“クイズであなたに負けました”と土下座する姿が描かれた、この日限定の激レアな缶バッジが景品として贈られる」と発表されると、伊沢は「絶対に勝つ! バッジなんか配ってやらない!」と、忖度いっさいなしの真剣モードに。
実際、クイズに入ると第1問「体操競技の跳馬や跳び箱で使われる/…」「ロイター板!」、第2問「IHヒーター/…」「インダクション・ヒーティング!」と、伊沢は立て続けに貫録の正解。生で見る伊沢の鋭い早押しに、客席では驚きの声が飛び交う。
さらに観客を驚かせたのは3問目。「KENTA、KO-SHIN/…」で押した伊沢が「WANIMA」を正解したのだ。年齢層的には観客になじみ深い問題だが、これを実際に「ケンタ、コウシン」という音だけで正解を導ける伊沢のすごさを、改めて感じさせた一撃だった。
その後もクイズは続き、伊沢は計3組と対戦。いずれも伊沢の圧勝に終わったが、それでも2人がクイズに正解し、貴重な缶バッジをゲット。「実際は買い物をせずに/…」で押して「ウィンドーショッピング」と答え、見事に正解した女性は、感想を聞かれると震えながら「……家宝にしますっ」と答え、拍手喝采を浴びた。
最後はウェブで寄せられた質問に、伊沢が『タイムショック』式に矢継ぎ早に答えるというコーナー。ここでは、特に会場を沸かせた質問を紹介していこう。
「彼女さんに作ってもらって嬉しい手料理は?」「豚汁」
「好きな女性のタイプは?」「けっこうはっきりした人」
「出てみてかったクイズ番組は?」「児玉清さんの頃の『アタック25』」
「いま“最強だ!”と思うクイズプレイヤーは?」「徳久倫康さん」
「子供にさせたい習い事は?」「クイズ」
そんなこんなで楽しかった2時間のイベントも、あっという間にエンディングとなった。最後に客席に向け「僕がこの場に立っているのは、誰かに立たされているのではなくて、自分の意思で立っています。でも、それは僕1人の力ではなく、皆さんやカルカルさんのおかげでここに立てています。だから、次もやりたいです。ぜひ次も来てください!」と語り、大きな拍手に包まれた伊沢。カルカルの横山店長からは「今日、このイベントに来れなかった地方の人のために、地方でも伊沢イベントをやろうと思っている」という嬉しい言葉も飛び出した。
誰にやらされているわけでもなく、ソーシャルメディアを自ら駆使し、自らの意思と才能で、ファンとの絆を築き上げた若きクイズ王の一夜はこうして幕を閉じた。伊沢の挑戦は、まだまだ加速を緩めることはないだろう。その姿を、本誌も追い続けていきたい。