服部 洋之 Hiroyuki Hattori
1965年、愛知県生まれ。1988年に中部日本放送(CBC)に入社。1998年より東北新社で番組制作を担当。ファミリー劇場のジェネラルマネージャー(編成企画事業部長代理)を経て、2016年6月よりファミリー劇場の代表取締役社長に就任。
門外不出と思われていた『アメリカ横断ウルトラクイズ』の再放送に始まり、競技クイズの潮流をコンテンツ化した『Knock Out~競技クイズ日本一決定戦~』、そして学生クイズの祭典『abc』『EQIDEN』の番組化と、怒涛のラインナップでクイズファンの話題を集めているCSの有料チャンネル・ファミリー劇場。「クイズ見るならファミリー劇場!」というキャッチコピーは、クイズファンにとってはもうすっかりおなじみではないだろうか。今回はその仕掛け人でもあるファミ劇の服部洋之社長に、クイズに力を入れてきたこの3年間と、今後のビジョンについて話をうかがった。(2017年5月17日収録 取材:大門弘樹)
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大きな反響を呼んだ『第12回ウルトラクイズ』の再放送
——前回、服部さんにインタビューをさせていただいたのは『第12回ウルトラクイズ』の再放送が決定した直後(2014年6月)でした。あれから丸3年が過ぎましたが、今回はその間にファミリー劇場さんが放送されてきたクイズコンテンツについてお聞かせください。まずはCS初登場となった『ウルトラクイズ』の再放送からお願いします。
服部 最初は『第12回』でしたね。あの時の反響はすごかったですよ。「よくぞやってくれました」と。
——スカパーアワード(※1)も受賞されましたよね。
服部 そうなんですよ。今思えば、よく再放送できましたよね。
——門外不出の映像を引っ張り出した感が強かったです。
服部 四半世紀の間、表に出てこなかったコンテンツが出てきたことに対する世の中の反応はホントにすごかったし、おそらく視聴率がハネたのもそれが理由だと思います。
——やはり視聴率はすごかったのですか?
服部 あの時はすごかったですね。地上波のように、ビデオリサーチの視聴率は出てこないんですけど、いろいろなケーブル局の接触率とかを総合すると、「ここまで取るんだ」っていうような数字でした。
——それはファミ劇さんにとっても記録的な数字だったということですか?
服部 数字でいうなら、もっと最大値が高いものはあるんですよ。例えばAKB48みたいなアイドルモノとか。でも、こういう過去の番組を放送したもので、あれだけの数字を獲ったっていうのはすごい。瞬間的には、『矢追純一UFOスペシャル』と比べても高い数字を取っていた時もあるので。たぶん、『木スペ(木曜スペシャル)』の力もあったのかなとは思いますけど。でも、やっぱり一番の理由は「枯渇感」だと思いますね。
——なるほど。
服部 いわゆるコアな『ウルトラクイズ』ファンだけでなく、その周辺にいる「そういえば、昔『ウルトラクイズ』っていうのがあったよね」という人たちを引き込めたおかげで、『第12回』はすごい反響につながったんじゃないかなと思います。
——『第12回』と『第13回』の再放送では、番組関係者を招いての事後番組『今だから話せるウルトラクイズ丸秘証言集』も制作されました。
服部 あの頃からファミ劇は、様々な番組の打ち出し方、プロモーションの仕方が大胆になってきて、その勢いでやれたんでしょうね。実はこういう他局から買い付けたコンテンツをどういうふうに広く知ってもらうかっていう考え方が、今とはだいぶ違ってて……。第12回の時の『証言集』は、「『ウルトラ』をやる」ということをオンエア上で知っていただくことを目的に、番宣番組みたいなノリで始めたんですよ。あの時はあれで、すごく広い層に「『ウルトラクイズ』ってあったね、再放送するんだね」って思ってもらえた。
——『第12回』の時は10分番組だったのが、思った以上にボリューミーになって、『第13回』では30分に拡大しました。
服部 30分を5本ですよね。『第13回』は、まず僕の同級生(秋利美記雄)が出ているんですよ(笑)。しかも準決勝の4人がすごく強いコミュニティの核をなしてる。だから、その4人を招いて振り返るのはまずやろうと。
——日本テレビさん側もすごく協力的でしたね。
服部 そうですね。それはやっぱり加藤就一さん(『ウルトラクイズ』総合演出)の存在が非常に大きいと思います。地上波のテレビというのは、スポンサーがいる、いわば商業放送の中のコンテンツなので、「スタジオはアトリエじゃない」っていうふうに言われてた時代もあるんですよ。
——どういうことでしょうか?
服部 昔は舞台とか映画の人が来て寄り集まってテレビを作っていたので、どうしてもアーティスティックになりがちだったんです。でも「商業放送はそれに傾きすぎてはいけない」ということで、そう言われていたんですよ。
——なるほど。
服部 でも、そうは言っても、すごくたくさんの人の愛情が入ってるコンテンツは、25年経とうが30年経とうが、ほかの人が見てもわかる。『ウルトラクイズ』の場合は、加藤さんがその中心にいたんじゃないかなと思って。加藤さんは『ウルトラクイズ』をやりたくて、最初はアシスタントから番組に入って、最終的にはチーフディレクターにまでなったわけでしょ。だから『ウルトラクイズ』は、加藤さんの尽力の賜物だったと思いますし、再放送に関しても、加藤さんのバックアップによって、日本テレビさんに出してもらってたので。ご協力していただいて、本当に感謝しています。
——それにしても、あの『丸秘証言集』は、番組を販売する日本テレビと、当時のスタッフと、出場者の三者が再放送をお祝いしたような、実に幸せな形でしたね。
服部 そうですね。『第13回』は特に一体感があったかなと思います。そういう意味では、『ウルトラクイズ』再放送の集大成みたいな形が『第13回』だったと思います。
——あの時はボルチモアの準決勝戦を再現するために、日本テレビアートさんが、ウルトラハットと早押し機を持ってきてくださったんですよね。聞くところによると、4つだけ動く状態で残っていたとか。
服部 それも偶然ですよね。4人でやるっていうことで、僕らも白い書割のセットを作りましたね。でも、あの時のクイズは誰も答えなかった(笑)。あれはクイズの問題が難しかったんですよね。
——25年経って、みんな萩原(津年武)さんが本気で投げた球が打てなかった(笑)。
服部 だって0点でトップだったでしょ(※2)。それはそれで面白かったです。
——オチがつきましたね(笑)。
服部 そういう意味では、僕ら編成・制作側も、出場者側も、日テレさん側も「再放送をするのにここまでやれるんだね」ということを、みんなで認識できた回じゃなかったかなと思います。
——第13回が再放送されたあと、「次はどの『ウルトラ』を再放送しようか」というのは、どのように決められたのでしょう?
服部 次どういうふうに進めていこうかというのは、その頃は悩みましたよ。いろいろ模索していますが、やっぱり何かしら大人の事情で極めて権利処理が難しい回も、どうもあるみたいなので……。いきなり『第1回』にいくか、それとも『第16回』まで振り切るのかとか。
——そこで選択されたのは『第11回』でした。
服部 結局、決め手になったのは世代論なんですよ。あの当時からおよそ25年というところで『第12回』『第13回』を懐かしく観ていただいた世代の人たちから、いきなりかけ離れすぎると、そっぽ向かせてしまうことになるので。「じゃあ、なるべく近いところで固めよう」っていうことで『第11回』を選んだということはあります。
——なるほど。
服部 この時になぜ『証言集』をなくしたかというと、実はここにはメディアの変化があって。ウェブの領域でOTT(動画・音声などのコンテンツを提供するサービス)やSNSが急激に台頭してきたわけです。そうなってくると、テレビでは本編を楽しんでもらい、並行してSNSなどのウェブのメディアで、テレビのオンエアでは出せないような違うコンテンツを出していこうという戦略になりました。なぜそうなったかっていうと、『第12回』『第13回』を再放送した時に、視聴者の皆さんがリアルタイムで共感していく様子が見えたわけですよ。
——twitterでの実況が盛り上がりましたもんね。
服部 そうなんです。昔はテレビを見た翌日に学校で話題を共有して、「面白いから来週また見ようか」っていうふうに共感し合っていたんですよ。それが今の時代だと、SNSのおかげでリアルタイムに自分の感想を表現できるし、感動が共有することができるじゃないですか。『第12回』とか『第13回』の時、僕らはその反応を会議室で見ていたんです。で、「やっぱり、これってテレビの醍醐味だよね」と。
——そうですね。
服部 しかも、CSが見られない環境の人も、SNSを通して共感してくれた。それで、「ファミ劇を見られない人達も楽しめるような仕掛けをウェブの領域ですべきだよね」っていうことになって、そっちへとシフトしていったんです。例えば、番組で使用された問題がダウンロードできるとかいったものですね。『第11回』以降はそういったものにトライしていくことにして、オンエアのほうはあえて本編を流すだけにしたんです。
——『第7回』の再放送の際は、宣伝の動画をYouTube用に作られましたね。
服部 はい。あれは明らかに、そういう戦略ですね。テレビに宣伝番組を差し込んだところで、すでに知ってる人は知ってる。そうじゃない、まだ『ウルトラクイズ』を知らないお客さんをウェブの領域からお客さんを引っ張ってこようという。あるいは、ネットだけでも楽しめるようなコンテンツということで。あの時は大門さんと日髙(大介)さんと水上(颯)さんに出てもらったんですよね。
——そうですね。『ウルトラクイズ』世代の私と日髙君が、『ウルトラクイズ』を観たことがない水上君に解説するという番組でした。
服部 その時に、テレビで楽しめるコンテンツと、ウェブで楽しめるコンテンツをあえて切り分けていこうというふうにしたのが『第11回』以降。その方針は、現在まで続けていますね。
——ちなみに、『第11回』のあとは、『第7回』『第8回』と一桁回の再放送となりました。その理由は?
服部 『第7回』は、それこそ歴代の最高視聴率の回だったわけじゃないですか。そういう意味で、『第7回』はやってみたかったし、それに続く『第8回』も、『ウルトラクイズ』がテレビコンテンツとしてすごく習熟してきた時代なので。
——先頃(17年5月)再放送された『第8回』では、1週目が放送されている時のtwitterの反響がすごかったですね!
服部 すごかったね!
——一時はトレンドの7位にまでなったそうです。
服部 ただ、放送の視聴率では、『第12回』の時に比べるとそこまではいってないんですよ。それがなぜなのか、理由は今ちょっと考えてるんですけど……。ただ、ひとつ考えられるのは、『第12回』の時はやっぱり25年間の枯渇感があったということですよね。
——なるほど。
服部 『ウルトラクイズ』、あるいは最近僕らがトライしてる競技クイズも含めて、クイズというのは、極めて狭い領域の深い人たちがお客さんになってくださっているわけです。だから接触率とか視聴率という話で言うと反省しなければならない面もあります。ただ、それでもSNSは盛り上がることも間違いないわけで、「では、次はどこに向かっていくのか?」というのが、次の課題にはなってきています。
——『ウルトラクイズ』に関していうなら、ファンはやはり初期の回が再放送されることを心待ちにしていると思うんですよ。
服部 (再放送の可能性は)なくはないですよね。まだ何も動いていないので、実際にできるかどうかはわかりませんが、どうせならやりたいですよね。VTRがないので僕は見たことがないのですけど、おそらく最初の頃って、演出方法が後半の頃とは違ってたはずなんですよ。それは一度見てみたいですね。
——円谷プロに例えるなら、『ウルトラQ』とか、初代ウルトラマンみたいなものですからね。『第1回ウルトラクイズ』が原点なので。
服部 そうそう。ホントにそうですよね。それは一度は見ときたいなって思います。
——さらに『木スぺ』という枠でいえば、『ウルトラクイズ』以外には矢追さんのUFO特番、引田天功、Mr.マリックなどを放送されましたが、他にもまだまだコンテンツがありますよね。
服部 『木スペ』には、ほかにもやりたいものがありますね。『木スペ』はテレビの中でも極めて挑戦的だったし、企画力とリサーチと仕込みは相当大変だったはずです。でも、その労力をあの当時のテレビマンがいとわなかったので、それ相当のものがいっぱい残ってるじゃないですか。だから、『木スペ』を見てた世代の人たちには、今の地上波のコンテンツに対して満足度を感じてない人たちがいるはずなんです。なので、そうした番組を発掘していくことは、放送文化を担う者としては貴重な使命なのかなと思ってます。
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『ウルトラクイズ』ロス世代に向けた「競技クイズ」の番組化
——続いては『ウルトラクイズ』以外のクイズコンテンツに関してお伺いします。ファミ劇さんが「競技クイズ」を取り上げるきっかけとなったのは、2016年1月に放送された「ファミ劇20周年20時間生放送」ですよね。
服部 そうでしたね。その頃、ファミリー劇場が20周年を迎えるにあたって、「いろんなコミュニティが集まった総合編成のチャンネル」ということを掲げていたんですよ。例えば男性声優だったり、『牙狼<GARO>』みたいな特撮番組だったり……。こういうものが好きな人たちはものすごくマインドシェアが高い。『ウルトラクイズ』もある種そういったコミュニティですよね。『ウルトラクイズ』をこよなく愛している人がたくさんいらっしゃって。
——そうですね。
服部 で、そういうコミュニティをたくさん作っていこうという中で、「コミュニティに刺さるようなものはいったい何だろうか?」ということを探すため、20周年記念番組の中で公開オーディションみたいなことをやったわけです。1日目の深夜に編成会議をやり、2日目に「新しいコミュニティの番組づくりは何か?」っていうことをプレゼン番組にして。
——その中の一つが「競技クイズ」でした。
服部 『ウルトラクイズ』で『証言集』を担当していたプロデューサーの小柳(大侍)が、「クイズで何かできないか?」と大門さんに相談して、「競技クイズというのがありまして……」みたいなことでお話をいただいたんですよね。
——そうでしたね。
服部 以前に大門さんが「視聴者の参加するクイズ番組がほぼ壊滅しました。でも、視聴者が参加できるクイズ番組というものは何とか文化として残したい」とおっしゃっていて。今はレギュラーでは『パネルクイズアタック25』ぐらいしかないと。それ以外は、基本的にタレントが介在するので、純粋たるものはない。
——あとは東大生とか高校生に限定した番組しかない状況ですね。一般の大人が出られるものは本当になくなりました。
服部 ですよね。で、そこで「実はアンダーグラウンドなんですけど、競技クイズというものがあるんです」っていうことを、小柳経由で聞いて。
——最初の企画書ですね。その時のご感想は?
服部 それこそ「競技クイズとはなんぞや?」ですよね。書いてることはわかるんです。ただ、僕らは放送用の映像の上に成り立ってるので、競技クイズというものに対して「映像化するとどうなるのか?」「どういうクイズが出るのか?」「どういう人間がそれを解くのか?」というイメージがなかなかできないですよね。実際に競技クイズを見に行った小柳から「驚異的な早押しですよ」みたいなことは聞くわけですよ。もちろん『ウルトラクイズ』をやっていたので、ボルチモアの準決勝のような壮絶な早押しが繰り広げられるというのは想像できるんです。でも、形はわかるけど「何が面白く感じるのか?」というのがわかんなかった。とにかく、見てみないとわかんないって、みんな思ったと思います。
——完成形がわからないですよね。
服部 そうなんです。「どういう人間たちがどんな想いで参加して、どう勝ち抜いて、最終的には誰がどういう勝ち方をするのか」なんてことは、実際に見てみないとわからないじゃないですか。でも、逆にいうならそれがクイズの面白さですよね。『ウルトラクイズ』だって機内ペーパークイズでナンバーワンだった人が落ちていくこともあるし、敗者復活であがってきた人間が優勝することもある。
——そうですね。
服部 『ウルトラクイズ』はドキュメンタリーでドラマの要素をちゃんと入れた演出をしてますけど、ストレートなクイズの中にもドラマはあるんじゃないかと。でも、それはひとつの完成形を見ないと評価ができないよねっていうことで、実際に番組を作ってしまったんです。
——まずは『20時間生放送』の中で15分ほどのプレゼン企画を行いました。
服部 そうですね、番組になる前のトライアルをやったのがきっかけでしたね。それを観て、「じゃあ1回番組にしてみましょうか」ってことで『Knock Out~競技クイズ日本一決定戦~』につながったわけです。
——やらせていただき、ありがとうございます。
服部 「試しに作ってみましょう」っていう感じだったから、最初は「第1回」って言ってないですよね。あと、『Knock Out』というタイトル自体も結構ギリギリのタイミングで決まったと思います。
——そうでしたね。
服部 最初の企画書では「競技クイズ(仮)」でしたよね。で、「この競技をやるならばどこを舞台にしたらいいか」ってなったときに、おそらくは演出からの提案みたいなことでリングの上でやることになって。で、「リングの上で戦うならば、これは格闘技である」ということで『Knock Out』というタイトルになったと聞いております。……そういえば、「知の格闘技」というのは大門さんもずっとおっしゃってましたよね。
——おっしゃる通りです。服部さんには、予選会から見に来ていただいきましたね。
服部 それはもちろん。編成部長たるもの見に行かなければ(笑)。
——実際に競技クイズをご覧になって、いかがでしたか?
服部 予選のペーパーは、それこそ『ウルトラクイズ』の機内ペーパークイズのノリだったので「ああ、これだよね」と。でも、そのペーパーや早押しを通過して勝ち残った猛者たちは、さすがに皆、キャラが濃いなと思いました。よくぞこの8人が残ったなって。
——奇跡のような8人でしたよね。
服部 ただ、僕が初めて競技クイズを会場で観たときに一番面白いなと思ったのは、主催者側というか、クイズを出す側の人たちが会場の最前列に横一列で陣取っている様子なんです。進行がいて、審判員がいて、出題する女性の方(常世晶子アナウンサー)がいてという、あの光景がものすごく面白いと思ったんですよ。あれを見て「あぁ、これは公正な競技なんだ」と思って。
——なるほど。テレビだったら、普通は天の声ですもんね。
服部 そうなんですよ。最初は「あ、これはアンダーグラウンドでやってるが故なのかな」と思ったんですけど、結果的にはあれが『Knock Out』本戦の、撮影・演出そのものになるわけじゃないですか。
——そうですね。
服部 テレビって、スタジオで撮る場合は、基本的にハの字になるんですよ。右側に出題者がいるとしたら左側に解答者がいて、それがハの字のような形になると。そうするとテレビカメラが撮りやすいんですよ。ところが『Knock Out』の本番はそうしないで、予選会のスタイルのままだった。あれを見て「なるほど、これが競技クイズのスタイルだったんだな」ということに気づきました。予選の最前列、かっこよかったですよね。みんなスーツを着て。
——確かにスポーツの試合っぽいですね。
服部 サッカーでも、監督はブレザーを着てたりするじゃないですか。あのノリですよ。だから、競技クイズであってもショーアップはいくらでもできるのかなと思ったり。
——乾(雅人)さんが演出された本番のクオリティもすごかったですね。
服部 とんでもなかったですよ。あれは現場に行って「これはすごい番組になるよね」って話になりましたもの。どんな番組でも、現場に行けばだいたい出来上がりが想像はできるんです。
——しかも、実際にはその想像以上のものを作っていただいて。
服部 何より、あのままの対局構造を、ちゃんと取り入れてリングの上に構築しちゃった。それはやついさんの起用でもあったりするし、やついさんの衣装でもあったりするし。あとは照明やカメラの台数なんかもそう。とにかく「囲んだ空気感」みたいのを構築したのがすごいなと。地上波だったら「こんなもんじゃないよ」って言われる作りなのかもしれないですけど、クオリティのレベルとすると、これはすごく突き抜けたものだと思いました。
——もちろん地上波だと、例えばラウンドごとにルールもセットも変えて、みたいな豪華さが出せるんでしょうけど。でも、あの1対1のシチュエーションに限定したところでは、照明にしろカメラにろ、おそらくこれ以上ないぐらいの盛り付けですよね。ちなみに、ご予算的なところはどうだったんですか?
服部 ご予算はそこそこかけてたと思います(笑)。使うべきとこには使いましょうと。でも、すごい有名な人を何人も出したりとかしたわけではないし。そういう飾りをつける部分にお金をかけるのではなく、中身にお金をかけようと。中身にお金をかけるといっても、別にセットを豪華にするってことはなくて、「クイズがどう引き立つのか」とか「クイズを戦っていて相まみえてる2人の重さをどう見せるのか」っていうところ。それを引き出すのが照明やカメラワークの部分ですので、そこはお金をかけたと思います。
——おかげさまで、この春には第2回もやらせていただきました(初回放送は5月28日)。
服部 第2回は『ウルトラクイズ』の再放送にあわせる形で変則的な時期にやることにしましたが、今後は基本的に年1回ぐらいのペースで続けていきたいですね。
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デジタル時代だからこそリアルイベントが重要になる
——『ウルトラクイズ』というノスタルジックに楽しめる名作、そして『Knock Out』という誰も観たことがない未知のものと、ベクトルの違う2つのクイズの番組をやられているわけですが、そういう意味での難しさはありますか?
服部 それは難しいでしょうね。セグメントの考え方でいくと、今おっしゃったようにまったく相容れないはずですし、世代論からいっても、競技クイズは『ウルトラクイズ』ロス以下な世代たちが自主的に始めたものなわけで。
——おっしゃる通りです。
服部 ただ、セグメントや、見た目上の構造・演出は違うんですけど、そこに脈々と流れているクイズというものに対しての想いは、ひょっとしたら細い糸でつながってるんじゃないかってのが僕の持論なんです。「その細い糸とは何か?」というのが実はすごく悩みごとなんですけど……。でも、「どちらも同じクイズなんだから、見た目は違うけど、きっとこれは糸で結ばれているよね」っていうのが僕の考え方なので。だからあえて両極端なものを両方ともやってます。
——クイズファンとしては、本当にありがたい限りです。
服部 クイズという文化はたぶんずっと残っていくと思うんです。そのために「次に何をやればいいのか?」「どういう仕掛けをしていけば、メディアの中で永らえさせていけるのか?」というのが今の課題ですね。
——本気でクイズを映像メディアの中での残そうとしていただいていているんですね。
服部 超本気です。だからこそ、『abc』や『EQIDEN』まで放送しちゃうわけなんですよ。競技クイズとはいってもテレビのオンエアで流すためにはある程度の演出力が必要なわけで。で、実際にある程度はショーアップをしたものが『Knock Out』であれば、もっともっと振っていくのが『abc』や『EQIDEN』なんですよ。あれは皆さんが手作りでやってるのを撮影して、それをコンテンツ化させていただいたわけなので、たしかに背景なんかはシンプルなんです。そういう意味では、あれは実際に会場に行かないと本当のところはわからないんですよ。
——そうかもしれませんね。
服部 ただ、『abc』も『EQIDEN』もものすごい回数を重ねてるということは、文化として息づいてるわけじゃないですか。メディアの大きなマスに乗っかった文化ではないけれど。でも十何回も回数を重ねてるっていうことは、そこにはコミュニティがちゃんと存在しているし、それを受け継いでいるチームもいるわけだし。なので、「文化として続いているなら、極めつけのコンテンツとしてやっちゃってみるのもいいかな?」と思って放送しました。
——『abc』や『EQIDEN』を放送するのは、演劇にカメラを入れる感じに近いですよね。
服部 確かにそうなんですよ。番組をご覧になって、いかがでしたか?
——ブリッジパートでナレーターがルールの説明をしてくれたり、クイズが始まったら画面下に問題文と得点板が出ていたりとかと、非常にわかりやすかったですね。素材が素材ですから、いかにわかりやすく伝えるかが肝だと思ってましたが、十分に応えてもらえたと思います。
服部 たぶん、そこが僕らができることなんですよね。僕らはいわゆるテレビプログラムを作るプロなので。ただ、『Knock Out』もそうですけど、深いコミュニティの人たちにリアルに体感してもらうためには、単にテレビプログラムとして作ってたらダメで、その人たちが楽しいと思う空間と場を提供しなければならない。それこそが僕らの放送文化が担わなきゃいけないことなんです。
——なるほど。
服部 今、デジタルに触れれば触れるほど、対極にあるアナログのイベントだったりとか、そういうものを共感する場が伸びてるわけじゃないですか。「そういう時代なんだから、やっぱりリアルイベントをやらないといけないな」と思ったので、みなさんが共感できるようなクイズのイベントプログラムを組もうと。だから『Knock Out』は我々の最初のクイズイベントなんですよ。でも、イベントを組む以上はそれをテレビコンテンツ化したいし、僕らの編成に入れていきたい。そういう意味では、『Knock Out』は番組を作るために発足したんじゃなくて、「クイズのイベントをやって、それを撮ったらこうなるよね」っていう。だから予選会もイベントとしてやるしっていうことになって。そのヒントは、教えてもらった競技クイズをやってる皆さんたちのやり方であったりとか、『abc』とか『EQIDEN』のあのスタイルなんですけどね。
——まさしく『Knock Out』は、「クイズ大会をイベントとして成立させる」ということがテーマでしたからね。
服部 あと、『Knock Out』に関していうと、場所が場所だけに、会場に足を運んで生で見てもらえる人は百数十人が限度なんですよ。もっと観てもらえるんだったら、それこそ有明コロシアムとかでやりたいですけどね。……そこまでクイズ人口がいるかどうかもまだわからないですけど、でもリアルなイベントとしてやるなら、それくらいの規模にしたいですよね。
——まさに「観るクイズ」ですね。ゆくゆくはそうしていきたいですね。
服部 ただ、そうなってくると、「この先はハイレベルな競技クイズだけでいいのか?」という問題が出てくる。たぶん誰もが楽しめるレベルのクイズに引きずり下ろしていくこともしないといけない。それを昔のテレビマンがやったように、僕らもやるのかなって思ったりもしてます。ハードルが低いクイズ。クイズという文化を気軽に楽しめるようなコンテンツをどういうふうに考えていくのかが、僕らの次の課題なんじゃないか、なんて思ってます。
——最高峰と間口の広いクイズは、両輪で必要ですよね。先ほどデジタルが発展していくというお話がありましたが、時代的にネット配信が主流になりつつありますよね。その辺りはどのようにお考えでしょうか?
服部 それはありえると思います。「コミュニティにとって一番見やすい状況とは何か?」というのを考えた時に、テレビに乗せることだけが唯一の選択肢ではないわけで。
——なるほど、可能性はあると。
服部 一次的にはまずリアルのイベントが行われ、次にそれを映像コンテンツ化して放送し、さらに配信の領域でも見ていただく。で、配信の際には、ホントに好きな人がきっちり見られるように、例えばノーカットであるとか、あるいは対戦カードごとに格納するとかというOTTならではの仕掛けにして。で、テレビではそれを総合的に編集したものを流すという考えでいくと、作り方も変わります。実際にそうしていきたいコンテンツもあるんです。
——実際、ファミ劇さんで放送されているアイドルユニット「Drop」の番組は、放送ではカットされた未公開シーンを含む完全版をDMM.comで配信されたりしてますよね。
服部 はい、課金で置いてますね。クイズもどちらかというと、そういうタイプかもしれませんね。最終的には自局のOTTのサービスを立ち上げられると一番いいんでしょうけれど。そうするとテレビとの親和性……例えば「ファミ劇に加入してもらえれば、例えばクイズのSVOD(定額動画配信)の領域は見られます」とかもあるでしょうし、そうなるとすごくうれしいなと思います。ただ、やっぱりチャンネルに加入してもらうのは、ハードルが高いわけじゃないですか。有料多チャンネルという僕らの領域は、テレビをつけていけば無料で見られる地上波の領域とは違って、チューナーを買ってアンテナをつけてもらわなければならない。それって、今のメディアの状況からいうと、なかなか厳しいことなんです。特に若年層はスマートフォンやタブレットの時代になってきたので、本当はスマタブでも同じようなサービスが享受できるのが本当は望ましい。そうしなければ、たぶん僕らも生き残っていけないんじゃないかとは思っているので。今後はそういったところに向けて、配信コンテンツとして出しましょうということも出てくると思います。今は番販ですよね。テレビ用に作ったものを、配信サイトに販売していくことは、もちろん考えてはいます。そうなれば見やすくなりますよね。
——そうですよね。オンエアを録り逃したり、CSに加入した時にはすでに放送が終わっていたという人でも、いつでも見ることができるようになるわけですから。
服部 そうすることによって接触する機会も増えますからね。「見逃したけれど、ここに行くとある」となれば、それが本来あるべきユニバーサルサービスになってくのかなと思ってます。
——とすると、今後はますますコンテンツの数を増やしていく必要がありそうですね。
服部 「増やしていかないといけないなあ」とは思ってます。ただ、そのかわり完成度の高いもの……例えばテレビに通用するような演出とか、そういうものが必ずしも必要ではなくなってくるんですよ。むしろ「どうコストダウンして、数を用意できるか」ということになってくると思うんですね。それこそ『Knock Out』の例でいうなら、予選会を「QUIZ JAPAN」さんと共同でやる、みたいなことも考えられます。その入口がたくさんあれば、接触する人も増えるわけなので。そういう意味では、必ずしも2時間の番組にする必要もないんですよね。対戦カードごとにそれぞれ配信すればよいわけですから。究極的には「テレビではオンエアしてないけど配信では見られますよ」ということも考えられますよね。ダイジェストのおいしいところだけがテレビで観られるということもあるかもしれません。きっと、そんなふうになってきます。
——「クイズ大会の完全版が配信で観られるようになるかもしれない」というのは、クイズファンからすると夢のある話ですね。
服部 社内の人たちからは「夢を語りすぎです」なんて言われますけど(笑)。でもトップマネジメントが夢を語らなかったら、向かうべきところがわからないですから。……個人的には、クイズのトレンドはまた来るような気がしますけどね。だってうちが『abc』『EQIDEN』を放送した裏で『東大王』がぶつかっちゃいましたからね。
——出演者(伊沢拓司、水上颯)まで一緒ですから、ビックリしますよね。
服部 あの時間帯はテレビマンにとってみると、そこそこの枠ですよね。でも今まで地上波では、あそこにああいう視聴者が出るクイズは乗っけてこなかった。それぞれの演出の方法論はもちろん違うでしょうけど、地上波がそこに乗っけてきたということは、クイズがまた市民権を得るきっかけになるといいなって思ってます。
——今年は特にクイズブームの特異年になる予感がしています。90年代初頭のクイズ王ブームの頃は『ウルトラクイズ』があって、TBSとフジテレビでそれぞれクイズ王決定戦があって。さらには『カルトQ』というすごくコアな番組があったり、『当たってくだけろ!』という芸能人とクイズ王が混在する番組があったりと、コンテンツがひしめきあっていた。そして実は今は、その頃とよく似た構造なんです。TBSと日本テレビで『東大王』『頭脳王』という、よく似たコンセプトの番組が放送されていて、『高校生クイズ』ではかつての『ウルトラクイズ』と全く同じことをやってるんですよ。つまり『ウルトラ』とTBSのクイズ王の2つが復活したような状態になっていて、一番尖がったことをやる『カルトQ』にあたるのが『Knock Out』で。そこに『ナナマルサンバツ』のアニメも始まる。
服部 なるほど、世の中的にクイズが揺れ動いてるならば、僕らも作り続ける、イベントをやり続ける意義はあります。だって、その一翼を担っているわけですからね。
——そもそも、『Knock Out』はすでに新たな最強チャンピオンを地上波に送り出してるんですよ。奥畑(薫)さんが『Qさま!!』に出場したことがあるんですけど、「競技クイズ日本一決定戦の初代王者」と紹介されてましたから。あれは『Knock Out』に「競技クイズ日本一決定戦」という副題をつけたのが良かったですよね。あれで非常にわかりやすくなりましたから。
服部 そういう意味では、クイズの魅力が広くあまねく知られるようになって、これからはクイズを「やって楽しむ」「観て楽しむ」っていう時代が来てもいいよなって思ったりもしますね。
——『Knock Out』に関して言えば、実際に会場まで観に来てもらえるコンテンツですので、「クイズの試合を観る」という楽しさを浸透させていきたいですね。一方で、気軽に参加することが出来るクイズ、ハードルの低いクイズを作り上げていくことは、これからの課題ですね。ぜひまた、ファミリー劇場さんと何か新しく企画させていただきたいです。
服部 ぜひがんばりましょう!
※1 2014年12月に発表された「スカパー!アワード2014」にて『第12回アメリカ横断ウルトラクイズ』の再放送が「ココロ動いた番組賞」を受賞した。
※2 正しくは秋利が1ポイントで優勝。10問限定の早押しクイズで、長戸・永田がお手付きを繰り返し、最後の問題を答えた秋利がたった1問の正解で25年越しの雪辱を果たした。