伊沢 漫画になる以前の話として、我々は「あっ、聞いてくれる人がいるんだ」という肯定感を得たんですよ。さらに作品になった時に、非常にリアルで。リアルは描写だけではなくて、マインド面もです。クイズってどうしても「使えるよね」とか「それ、役に立つよね」って描かれがちになっちゃうけど、最初から最後まで「クイズは楽しいぞ」「クイズは最高の遊びだ」という姿勢で向き合っていただいたので、すごくありがたかった。文化としての空気感まで含めて理解してもらったんだ、という。クイズが世の中にオープンになっていく、メデイア進出の先駆けであり、その後いろいろなメディア進出がある中で我々が心構えを作るきっかけにもなった作品だと思いますね。切り込み隊長的な。
杉基 そう言ってもらえるとすごくうれしいです。
伊沢 クイズ界全体の安心感に繋がったところは間違いなくありますね。僕は勝手に「伴走してきたな」という感覚ですけど(笑)。
杉基 一緒に伴走してきたのに、(漫画を指さして)この子たちは、全然成長してないじゃないですか。月日が(笑)。
――春の入部から夏の全国大会までの半年の物語ですからね。
伊沢 そうなんですよね(笑)。
杉基 そこがなんかすごい置いてかれてる感じがして(笑)。「伊沢君がどんどん進んでいる!」と思って。
伊沢 最初に取材に来ていただいた段階で僕は高校1年生で、識君と同い年だったんですよね。
杉基 いつの間にかですよね(笑)。
――いまや社長になってますからね(笑)。
伊沢 (笑)。だから僕にとっては同世代の漫画なんですよ。だから僕の世代だけが感じている特殊な愛情が『ナナマルサンバツ』にはあると思いますね。同世代だからこそ、みたいな。
杉基 うれしいです!
――杉基先生から見て、当時の高校生のクイズプレイヤーたちはキャラぞろいだった感じですか?
杉基 もういろんな子たちがいましたね。私もあんまり遠慮がないんで、多分聞かれたくないんだろうなということも全然聞いちゃうんですよ。「クイズをやってて何が良かった?」とか「モテる?」とか、いろんなことを(笑)。
伊沢 はいはい(笑)。
杉基 「クイズのベタ問と難問とかに対してどうなふうに取り組んでいる」とかも、人それぞれいろいろ違うし。あと、いつも優勝する開成高校のようなところもあれば、3~4位のところで頑張っている高校もあって。だから、そういう子たちのモチベーションの違いとかをなんとなく感じ取ったりとか。
――なるほど。だから漫画の中のキャラクターの感情がめちゃくちゃリアルなんですね。
杉基 ははは(笑)。もちろん妄想も入ってますよ。全然違うことも描いちゃっているとは思うんですけど。あと、『ワールドクイズクラシック』(TBS・13年)とかああいうテレビのクイズの取材も何度か行っているんですよ。ああいう大きな舞台だと、関東では見れなかった全国の人たちが集まるので、「あっ、この子はちょっとけっこうプライドが高そうだな」とか観察していました(笑)。