2018年8月25日(日)、株式会社スマートニュースのイベントスペースにて、一般社団法人日本クイズ協会が主催するクイズ大会『第1回ニュース・博識甲子園(全国高等学校総合クイズ大会)』が開催された。クイズに青春を賭けた高校生たちの舞台として、新たに創設されたこの大会の模様を、将棋ライターの松本博文が取材。そのレポート記事を「QUIZ JAPAN」の短期連載にてお届けする。
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大将戦
大将戦に出場する選手と、予選の結果は以下の通り。(順位表示は30位以内まで)
栄東高校 1年 佐藤彰真(240点、1位)
開成高校 2年 後藤 弘(201点、11位)
旭丘高校 2年 糸山剛博(188点、15位)
松本深志 2年 富田玲史(188点、16位)
福岡高校 2年 中川隼太(179点、24位)
川越高校 3年 坂井 隼(173点)
慶應義塾 2年 高野 俊(167点)
仙台第二 2年 鄭 俊(140点)
旭丘は先鋒戦で木下君が3位通過で8点。中堅戦で岡田君が1位通過で11点を獲得。合計19点で、堂々の首位。アンカーは糸山君が務める。
栄東(12点、2位)は大将に佐藤君を据えていた。1年生ながら予選のペーパーテストにおいて、240点(300点満点)という驚異的な成績をあげ、全国トップに立っている。
10点で3位タイは、仙台第二と松本深志。仙台第二・鄭俊(ちょん・じゅん)君と、松本深志・富田君は、きわどい位置でバトンを託された格好となった。
ちなみに、本大会の全国大会出場者の中で、今年の『高校生クイズ』で地方予選を勝ち抜き、全国大会に出場できたのは、松本深志の富田君、ただ一人だけである。それだけ、両大会の性格が違うということであろうし、富田君の「地頭(じあたま)」が優れているということでもあろう。
優勝候補ながら開成は、当落線より下の5位(8点)。もし大将戦でポイントが加算されなければ、ここで敗退となってしまう。しかし最後に、頼れる後藤君を配置していた。
そして4点(6位タイ)で並ぶのが、慶應義塾と福岡。慶應義塾は高野君が、福岡は中川君が大将の座を務める。
8位の川越・尾崎君は、2点から、どう挽回できるか。川越のチームメイト2人は、青いはっぴを脱ぎ、えんじ色のTシャツ姿になっての応援。そこには「凌雲の志」と書かれていた。
さあ、いよいよ大将戦が始まる。
第1問:クレタ島で生まれたことから「ギリシャ/人」…
「エル・グレコ」
迷いなく押し、迷いなく答えた開成・後藤君がまずは1P。運営側からも歓声の声が上がった。定番の問題だけに、日頃の鍛錬度がうかがい知れるような取り方だった。後藤君の両肩にかかったプレッシャーは尋常ではないはずだ。しかし、クールな表情は変わらない。
第3問:2020年の東京オリンピックで新たに採用され、有明BMXコースを利用して、「パーク」と「ストリート」の/…
何人かがほぼ同時に動き、ボタンを押す音が、会場に響いた。ランプが光ったのは、またもや開成・後藤君。
「スケートボード」
確実なところまで聞いて、着実に正解。これで2P連取。仙台第二と松本深志の10Pに並んで、少し安堵しそうなところだ。しかし、依然として後藤君の表情は変わらない。
第4問:松尾芭蕉が越後の国の出雲崎で詠んだ句「荒海や佐渡によこたふ」/に…
ぎりぎりで確定ポイントを見極めた栄東・佐藤君にランプがつく。
「天河(あまのがわ)」
正解。この大会に登場している選手ならば、誰もが押さえているであろう知識だろうが、それを取るのは容易ではない。
第7問:マフィン、ドーナツ、たい焼きなどと組み合わせた商品も売られている、フランス語で「三日月」/…
ここで一斉にボタンが押される音。ランプがついて解答権を得たのは旭丘・糸山君。「クロワッサン」を取って少し微笑む。旭丘、首位を独走する。
第8問:今年7月におこなわれた大統領選挙で、AMLO(アムロ)の愛称で知られるアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドールが当選/…
慶應義塾・高野君に押し勝ったのは、開成・後藤君。
「メキシコ」
あっという間に3P目をあげた。開成3P、栄東1P、旭丘1Pを加えると、暫定順位は以下の通り。
旭丘高校 20
栄東高校 13
開成高校 11
松本深志 10
仙台第二 10
慶應義塾 4
福岡高校 4
川越高校 2
開成の合計得点は11点。当落線の上に躍り出た。大喜びしてもよさそうな場面だ。しかし、後藤君の表情はクールなまま変わらない。開成のチームメイトもまた、冷静に戦況を見守っている。
「タイムアウトお願いします」
女性の声が聞こえた。仙台第二のサポートメンバーが、ここでタイムアウトを申請した。タイミングとしても、いい頃合いだったか。
大将戦は、勝ち抜け1チームが出た時点で終わりとなる。開成・後藤君の勢いからして、すぐに終わってしまっても不思議ではない。現状、仙台第二は、4位タイの10点で松本深志と並んでいる。当落線上にどう競り勝つかの勝負だ。サポートメンバーが、詳細にメモしていた得点の推移を基にして、鄭君にアドバイスを送る。
「もうバツ関係なく押してください。どんどん攻めていく。松本に取られたら終わりなんで」
簡潔で的確なアドバイスであろう。そして短い30秒が終わった。
第9問:「新年」という意味の名を持ち、新しい時代のアイヌの女を自称する、漫画『ゴールデンカムイ』で主人公の杉元佐一と行動を/ともに…
松本深志・富田君のランプが光った。
「クラピカ」
これは不正解。思わず頭をかく、富田君。正解の「アシリパ」を聞いて、「あっ、それだ……!」と大きな声をあげた。痛恨のミス。仙台第二と松本深志の争いに、大きな影響を与える誤答となるだろうか。
第11問:セバスチャン・ブエミ、フェルナンド・アロンソ、中嶋一貴の3人のドライバーにより、今年のル・マン/24時間…
開成・後藤君らに競り勝ったのは、福岡・中川君。「トヨタ」と優勝チーム名を答えて正解。中川君、うれしそうな表情。まだ逆転ですべりこめる目はある。
第12問:正式名称を『全国花火競技大会』という、毎年8月の最終土曜日に秋田県で/開催…
ランプがついたのは慶應義塾・高野君。
「長岡花火大会」
これは不正解。正解は「大曲(おおまがり)の花火」。
第13問:日本コカ・コーラのピークシフト自販機の前面や側面に『こういう自販機が増えると/…
栄東・森田君らに押し勝ったのは福岡・中川君。
「シロクマ」
正解のチャイムを聞いて、満面の笑みで、自らも拍手をした。「こういう自販機が増えるといいなぁ」というセリフとともに描かれているキャラクターだ。
第14問:作家・佐藤友哉の妻で、芥川賞に4回、直木賞に2回ノミネートされ、今年/…
旭丘・糸山君が「島本理生」と答えて、これで2P。
第15問:香山美子作詞、湯山昭作曲の童謡『おはなしゆびさん』の歌詞に登場する5人の人物は、パパ、ママ、にいさん、ねえさんと誰でしょう?
これはわからないと、問題を読まれる途中でボタンから手を離す選手がいた中で、慶應義塾・高野君が果敢に押す。
「あかちゃん」
高野君、これは答えを知っていたわけではなかった。誤答すれば失格となるところ、見事に推測で正解。
「賭けようかなとは思っていたんですけれど、ここで攻めないと負けるのわかってるので、ここらへんで、ひとつ勝負に出ていこうかなと思いました」
第17問:藤井聡太七段も得意としている、飛車を最初の位置から動かさ/ず…
何人かが押す中で、川越・尾崎君のランプが光る。「居飛車」と答えて正解。
第18問:チンギス・ハンの血をひくともいわれる、1526年のパーニーパッドの戦いでロディー朝を破り/…
開成、松本深志に押し勝ち、栄東・佐藤君が解答権を得る。
「バーブル」
正解で小さくガッツポーズ。予選ではジャンル「歴史」で驚異の30点満点を叩き出した佐藤君。ムガール帝国の初代皇帝を答えて、実力を発揮した。やや出遅れたが、これで1P。
第19問:元スペイン代表のサッカー選手で、アンドレス・イニエスタ/が…
解答権を取ったのは、慶應義塾の高野君。
「サガン鳥栖」
冷静にパラレル問題を読み切って正解(問題は「第14問:スペイン代表のサッカー選手で、アンドレス・イニエスタ/が所属するクラブはヴィッセル神戸ですが、フェルナンド・トーレスが所属するクラブはどこでしょう?」と続く)
第20問:日本では仏像、中央、糸魚川静岡などに代表される/…
押し負けた、仙台第二・鄭君が後ろを向いてがっかりする。ランプがついたのは、隣りの川越・尾崎君。正解は「構造線」。これで尾崎君が2P目をあげた。
第21問:アメリカでは『フロヨ』と略されることも多い、ある乳製品をアイスクリーム状にした、冷菓といえば何でしょう?
珍しく問題が最後まで読み切られた。そして時間いっぱいで、川越・尾崎君が押す。
「フローズン・ヨーグルト」
正解のチャイムが鳴って、尾崎君がガッツポーズ。3Pとなり、トップの開成・後藤君に並んだ。あとは2Pで栄東、慶應義塾、旭丘、福岡が続く。当落線上の仙台第二と松本深志は0P。仙台第二にしてみれば、先ほどの「構造線」を鄭君が取れていれば、というところだろうか。
いよいよ最終盤の戦い。第17問は福岡・中川君が誤答して1×。
第25問:大相撲の大横綱で、本名『秋吉定次』といえば双葉山ですが、本名『秋元貢』といえば誰でしょう?
ここも誰もなかなか押さない。現在が平成30年ではなく、平成元年ならば、多くの人がすぐにわかったことだろう。スルーかと思われたところで、旭丘・糸山君が押す。
「千代の富士」
見事に正解。糸山君は、千代の富士関の次女で、最近俳優の松田翔太と結婚してニュースとなった、秋元梢の名を知っていて、そこから推定したようだ。これで旭丘も3P。
第26問:サンリオのリトルツインスターズをイメージキャラクターとしている、今年5月に東京都民銀行、八千代/銀行…
満を持して、という感じで開成・後藤君が押した。今年5月に誕生した「きらぼし銀行」を答え、ついに4P、リーチをかけた。後藤君はずっと、ワンテンポ遅く押すことを心がけていたという。そしてここまで確実に、正解を積み重ねてきた。
ここで川越がタイムアウトを申請した。
川越が次のラウンドに進むためには、現在3Pの大将・尾崎君が、開成・後藤君に逆転して勝ち抜けるより他に可能性はない。
(ここまで0バツなので)「1回だったら攻めても大丈夫だから」
「決まっちゃうんだったら、早めにバーンと押して、とりあえず見せ場を作れ」
そんな指示が出ていた。
第27問:調理道具や食器などに使われている、アルミニウムの表面を/酸化…
押したのは松本深志・富田君。
「アルマイト」
ついに1Pを取った。仙台第二を突き放す、大きな1点。富田君はチームメイトに向かって、小さくガッツポーズをした。
第29問:北は岩手県の角塚古墳から、南は鹿児島県の塚崎古墳群まで、日本各地に残されている、江戸時代の学者・蒲生君平が/…
栄東・佐藤君の手が大きく動いた。しかし、ランプが光ったのは、その隣り、開成・後藤君だった。後藤君の表情は、最後まで変わらなかった。
「前方後円墳」
正解を答えて、大きく一礼をした。ずっと冷静だった後藤君。最後にチームメイトの方を見て、サムズアップをしながら、少しだけ微笑んだ。
後藤「慎重に押して、わかるのだけ取っていくというのができたので、理想通りだったかな、と思います」
大将戦は、どのチームにも最後まで準決勝進出のチャンスがある中で、開成が勝ち抜けて終了した。
先鋒戦、中堅戦、大将戦の合計ポイントは、すぐに集計され、発表される。多くの選手には、おおよその結果はわかっていたはずである。しかしそれでも、何人かの選手は、祈るような仕草をしていた。
日高「残酷なようですが、この精鋭8チームの中から準決勝に進めるのは、わずかに4チームです。上位4チームの総合得点は、こちらです!」
旭丘高校 22
開成高校 20
栄東高校 14
松本深志 11
――
仙台第二 10
慶應義塾 6
福岡高校 6
川越高校 5
日高「1位、愛知県旭丘高校!」
旭丘の選手たちは、歓喜のポーズ。予選上位の栄東、開成の上を行く、堂々たる成績だった。
2位は大将戦でまくった開成。3位はコンスタントにポイントを重ねた栄東。そして第4位は――。
日高「僅差でした。点数差がつきました。第4位、松本深志高校!」
会場からの大拍手とともに、松本深志の選手たちの「やった!」という声が響く。
「1ポイントか……」
仙台第二の川嶋君は、思わず天を仰いだ。
川嶋「全員頑張ったのには変わりはないので、結果として受け止めます」
他の4チームも、最後までチャンスがあった。終了後、慶應義塾の先鋒・賀久君は、控え室で涙を流していたという。
(PART4へ)
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