3月27日、広辞苑を用いた知的ゲームイベント『たほいや甲子゙園(たほいやこうじえん)』が東京カルチャーカルチャーで開催された。
知的好奇心を刺激する体験型イベントが活況を呈している昨今、『たほいや甲子゙園』は、クラウドファンディングのCAMPFIREで資金を集め、当時のレギュラーである松尾貴史や大高洋夫、そしてQUIZ JAPANでもお馴染みの能町みね子を招いた1回目のイベントを成功させたことから、業界からも注目を集めた。
そもそも『たほいや甲子゙園』の『たほいや』とは、1993年から半年間、フジテレビの深夜枠でこっそりと放送されたTV番組を指す。
そのルールは非常にアナログで、大きくは次のステップに沿って進んでいく。
※「箸」や「橋」など同じ読み方の言葉や、複数の意味があるのものもは避ける。
2.子は親が選んだ言葉の、いかにも広辞苑に載っていそうな言葉の意味を書く
3.親は広辞苑から選んだ言葉の意味を書き、集めた解答用紙を任意の順番で読む
※意味は広辞苑に記載されている説明の一文目を抜粋し、ひらがなで記載する。
4.子は掛け金を決め、正解を選ぶ
5.親が正解を発表する
6.掛け金を生産する
誰がどの言葉の意味を書いたかがわからない状態で、親が広辞苑から選んだ言葉を選ぶというクイズゲームだ。
当時の熱狂を未だに忘れられないファンも多く、永らく復活が望まれていたという『たほいや』。イベントを主催した眞形隆之もその一人で、弊誌「QUIZ JAPAN vol.6」でも特集した『予言者育成学園 Fortune Tellers Academyフォーチュンテラーズアカデミー』(スクウェア・エニックス)の問題制作ディレクターや、人狼伝道師として『アルティメット人狼』の主宰を務めるかたわら、『たほいや甲子゙園』の企画を立ち上げ開催にこぎつけた。
今回開催されたのは、その2回目。会場には往年の『たほいや』ファンと、辞典好きが駆けつけた。
ステージに登場したのは1回目に引続き松尾貴史と大高洋夫、TVの放送当時からファンも多い作詞・作曲家の森雪之丞、『たほいや』の熱烈なファンだというお笑い芸人のぺよん潤、そしてイベントの主催者である眞形隆之の5人。松尾、大高、森の3人は『たほいや』でもレギュラーを務めた、いわば『たほいや』のレジェンドだ。
「『ノーライフ、ノーたほいや』。『たほいや』は人生にとって1つの大きな出来事でした。神様は僕らに言葉という道具を与えてくれました。トラブルが起きないように具体的に意味を伝える、日時や時間、そして気持ちを伝える。それらも大事だけど、言葉で遊ぶ、そんな素敵なおもちゃを与えてくれたとも思います」という森のウィットに富んだ挨拶で幕を開けた『たほいや甲子゙園』。会場をどよめかせることになる1つ目のお題は、親の松尾が選んだ「におべ」から始まる。
書き出された「におべ」の意味は以下の通り。
2–おもらしを した こども
3–くさいばしょ
4–けいじょうの てつだいをする げにんを いう
5–しこくまつやまで もものせっくに ななさいじが きる きもの
子である4人は以下を選択する。
森–4
大高–3
ぺよん–3
「『くさいばしょ』がストレートに『におうべ(臭う場)』という意味でスッと入ってきたので、それかなと。5番はひねり過ぎなんじゃないかという気がしたので」(ぺよん)、「僕は単に消去法で決めたんですよ。1番はぺよんちゃんだと思って、2番が眞形さんで、5番が森さんで、自ずとこれしか残らなかった(笑)」(大高)、と大高は自身が4番であることを証明したかたちになるが、ここで大高と同じ3を選んだぺよんは一気に落胆の表情に。
ちなみに、お題が出される前、松尾は「大阪でお酒を飲むというロケから日帰りで、朝の11時判からずっと飲むという仕事でして、まだお酒が残っていますので(笑)」などと言っていたが、なんと正解は1の「ぎりしゃしんわで たんたろすの むすめ(ギリシャ神話でタンタロスの娘)」!
その発言とは裏腹に、選んだ言葉、会場全員の心理の裏をかいた作戦が見事にハマった。登壇者を含め会場の誰もが、1つ目のお題から選択肢の先頭である1に広辞苑の言葉を持ってくると予想できなかったのだ。「1番、広辞苑」と松尾が読み上げた瞬間、会場がドッと沸き立ち、ゲームメイクの巧みさと度胸を讃える拍手が贈られた。
『たほいや』が面白い理由の1つに、選ぶ言葉にその人の美学が透けて見えることも挙げられる。例えば森が選んだ言葉「そでのうめ」。どことなく艶のある意味を想起させはしないだろうか。『たほいや』放送当時から作詞家として美しい表現を好むことを共演者に悟られていたのだが、森はこの裏を見事に突いて見せる。
書き出された「そでのうめ」の意味は以下の通り。
2–えどじだい よしわらめいぶつの よいざましの くすり
3–さいふの いんご
4–こういってん
5–じょうるりの えんもくの ひとつ
「意味も綺麗でしょうね、きっと」と森が翻弄するなか、子である4人は以下を選択する。
松尾–4
大高–5
ぺよん–3
「1か3で迷ったんですよ。『そで(袖)』の中に入っている『うめ』が、お金か痣を指しているのかなと」(ぺよん)、「『こういってん(紅一点)』って言い切ったほうがスッキリしててありそうかなと。3の『さいふ(財布)』は、袖ではなくて懐に入るものだから違うし、2は『よしわらめいぶつ(吉原名物)』という言葉が辞典に書かれるどうかが引っかかって、広辞苑なら『酔い覚ましの薬。吉原で用いられた』と書くんじゃないかと僕の中でしっくりくるものがありまして」(松尾)、「『じょうるり(浄瑠璃)の~』が森さんぽいかなと思って5にしました」(眞形)と、各々が解答理由を述べるが、正解は2の「えどじだい よしわら めいぶつの よいざましの くすり(江戸時代、吉原名物の酔いざましの薬)」!
「袖には涙を比喩したものがとても多いんですよね」と作詞家らしい博識ぶりを見せた森は、「ずっと嫌いだった親がこんなに楽しいなんて、『たほいや』で幸せを感じました」と、当時の共演者をも騙すことができた喜びを満足気に語った。
問題を解く楽しみもさることながら、便の立つ解答者たちがトークの中から正解を見出そうとする舌戦が非常に面白い『たほいや甲子゙園』。それが見る者の知的好奇心をくすぐりカルト的な支持を集める理由なのだろう。
次なる『たほいや甲子゙園』の早期開催が待たれる。