『ニュース・博識甲子園』と『JQSグランプリシリーズ』。今年からスタートしたこれらの大会を運営するのが、一般社団法人日本クイズ協会である。弊誌『QUIZ JAPAN』編集長の大門も理事を務める団体だが、いったい日本クイズ協会は何をめざしてこれらの大会を設立したのか。日本クイズ協会のこれまでとこれからの展望について、将棋ライターの松本博文が4人の理事(齊藤喜徳、大門弘樹、神尾友也、楠井朋子)に直撃取材を行った(2018年8月26日収録、取材:松本博文 写真:辺見真也)
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日本クイズ協会とは何か?
――私(松本)は将棋を専門としていまして、クイズ界の内情は、そんなに詳しくは知りません。逆にいうと、私と同様にクイズ界にそれほど詳しくはない方、あるいは今のクイズ界とはあまりしがらみのない人たちを代表して、お話をうかがえるのではないかと思います。また日本クイズ協会は、囲碁・将棋の世界を一つの参考にされているともうかがいましたので、それらとの比較といった点からもお話ができればと思います。早速ですが、日本クイズ協会は2016年12月15日に立ち上げられました。まず、そもそも、日本クイズ協会というのはどういう経緯で、なぜ誕生したのか? そうしたところから遡って、お話しいただけるでしょうか。
齊藤 私が現役時代、つまり90年代前半にはテレビのクイズ王決定戦がたくさんあったんですけど、当時の人も「テレビ番組はいつなくなるかわからないから、自分たちだけで公式な大会ができる仕組みみたいなものを作らなきゃいけないよね」と考えていたんですね。でも、実際にクイズ王番組がどんどんなくなっても、そういう仕組みはなかなかできず……。そのうち、私はしばらくクイズの世界から離れることになったんです。
――齊藤さんといえば、私にとっては『史上最強のクイズ王決定戦』(TBS)で西村顕治さんに、「アマゾン川で/」「ポロロッカ!」をされた人です(笑)。いわば、当時のクイズ界のトッププレイヤーでいらしたわけですが、「しばらく離れてた」というのはどれぐらいの期間ですか?
齊藤 15年ぐらいですかねえ。大学を出て、卒業して、社会人になって、結婚して……。そういった中で、クイズに時間を割くことができなくなってしまって。それが、私の場合は15~16年ぐらいの期間でしたね。
――クイズというのはあくまで趣味の一環、アマチュアとしてプレイされているわけですから、いろいろな事情で競技を離れることもあるわけですね。では、齊藤さんがクイズの世界に戻ってきたきっかけというのは?
齊藤 私は早稲田大学のクイズ研究会の出身なんですけど、その早稲田大学クイズ研究会の中でやっているサークル内のクイズ大会がありまして。ある時、それを「手伝ってくれないか」と声がかかったんです。その時、「じゃあ、今の子たちはどういうクイズをやっているのかということを知っておかないといけないな」と思って、当時やってた大会を観に行ったんですね。で、観てみると、大会はすごく完成度が高くて、形自体は出来上がっていた。でも、あくまで好きに作っている大会なので、それが公的な大会かというとそうではなかったんです。それで「もしこれだけの完成度がある大会を、公的で権威のあるものとして開催できれば、クイズというものが広く世間一般に認められるんじゃないか?」「大会を開くノウハウが蓄積している今なら、昔の人が言っていたような“公式な大会を、自分たちの手で作る仕組み”が実現できるんじゃないか?」と、改めて感じたことがあって。
大門 テレビのクイズ王番組がなくなってから、クイズマニアたちは自分たちの手で「オープン大会」と称し、思い思いの大会を手作りで作って楽しんでいたんですね。僕も大学時代(95~99年)は、大会をいくつも主催していました。でも、そういうのはあくまで私的なイベントなので、いくら勝とうと世間的に評価されることはない。もちろん、クイズ界の中では評価されますけどね。
――ここでいう「オープン大会」というのは、クイズ界以外の人間にとっては耳慣れない言葉かもしれません。正確な定義は何なんでしょうか。
齊藤 その言葉を作ったのは大門さんの世代ですよね? その辺、大門さんが詳しいんじゃないですか?
大門 いや、僕が大学に入った時(95年)には、既にオープン大会という言葉はありましたね。なので、先輩たちから聞いた話ですが……。まず独特のコミュニティの中の視点なんですけど、一番クローズドで行うのがサークルの例会なんですね。例えば、大学のクイズ研究会の例会は会員だけに参加資格があって、他大学の人間とかフリーの人は参加できない。
――そういう前段階があったんですね。
大門 それに対して、各大学のクイズ研究会やその会員が、部員以外の人にも開放してやる大会を「オープン」と呼んだんですよ。なので、初期のオープン大会には「早稲田オープン」とか「法政オープン」っていう風に、大学名に「オープン」という言葉をくっつけたものが多かった。これは多分、ゴルフでプロ・アマ問わず参加できる大会を「オープン」というのになぞらえてのことと思います。そのうちに、個人や団体が主催するクイズの大会なら、なんでも「オープン大会」というようになったと。こういう大会って、確かに「存在を知っていたら、分け隔てなく参加できる」という意味では「オープンな大会」なんですけど。
――なるほど。
大門 でも、ここで問題なのは「この大会はどういう大会で、誰が主催していて、過去にはこういう優勝者がいて」というような情報が、クイズ界の外にいる人にもわかるように発信されてないことなんですよ。潜在的にいる多くのクイズファンに届くべき情報が届いていない。僕はこれ、クイズ王番組がなくなって以降のクイズ文化が抱える大きな問題だと、大学時代からずっと思っていました。だって、僕が大学のクイズ研に入るまでは、そういう大会の存在すら知らなかったんですから。
――私は93年に東大に入学した時、クイズ研の新歓大会に参加して、そこで前年の『第16回ウルトラクイズ』に優勝された田中健一さんを拝見しました。当時のクイズ界の大スターですよ。「あっ、本当にテレビで見たままの人だ」と感激しましたね(笑)。結局、他にやることがいろいろあって、クイズ研には入りませんでしたが。余談ですが、能町みね子さんも東大のクイズ研には、新歓イベントに出たきりで、入らなかったとうかがいました。で、私のような「クイズ研も覗いてみようかな?」と思う程度にクイズに興味がある人間でも、在学中に「うちの大学のクイズ研が何をやっているのか」というのは、さっぱり知りませんでした。
大門 そうなんです。そういう情報が、僕のようなクイズファンにすら届いてなかったのに、世間一般に届くわけがない。まぁ、もちろん当時はSNSのない時代だったからという側面もありますけど。でも、今でも「どういう傾向の大会なのか?」とか「どういう人が主催なのか?」ということは、コミュニティの中に足を突っ込んでないとわからないですよ。主催者が「○○準備委員会」とか、ハンドルネームの名前を書かれてもわかるわけないですから。そういう意味では、今も本質的には変わってない。
――確かにクイズ界のコミュニティに所属していなければ、立派な大会があったとしても、参加しづらいように思われます。
大門 さらに言えば、「ちょっとクイズに興味を持ったんだけど……」程度の人に向けた、「クイズってどういうものなのか?」とか「どこに行けばクイズができるのか?」みたいな未経験者向けの情報に至っては、ほとんど存在していなかった。でも、僕には「そういった情報から発信していかないと、クイズがマニアだけのものになってしまう」という懸念がずっとありまして。
――なるほど。
大門 それで協会を設立するにあたり、齊藤さんとは「クイズの本来の魅力とか意義みたいなことを、世の中の人、特にこれからクイズを始める人に伝えていくことが一番大事だ」という話をしました。我々はそれを「普及」という二文字で言い表しているんですけど。
――普及というのは、どんな分野であっても、大きなテーマなのでしょうね。新たなプレイヤー、あるいは観客を獲得しない限りは、未来がない。
大門 では、これから新たにクイズと出会う人たちに、どのようにクイズの楽しさを知ってもらうのか? そのことを考えた時に、大人も大切ですが、何より大事にしたかったのが小中高生の人たちです。彼らがクイズと出会い、もっとやりたいと思った時に、どのように支援していくのか。それには、学校の部活動として認めてもらえるような仕組みを作っていくことに尽きるなと。
――普及のターゲットは、まず何よりも若い人たちである、と。
大門 はい。第一に「クイズを知ってもらう」という目的があって、次に具体的な方法として「クイズをやりたい」と思った子供たちへの支援があって。で、協会はそういった「部活としてクイズをやろうという小中高生の子たち」のために活動をしていく。こういったことをしていくための体制を整えようというのが、日本クイズ協会の立ち上げの骨子となりました。
――そうした志を持つ方々が集まって「協会を立ち上げよう」という話になったんですね。
大門 といいつつも、最初のうちは具体的に何ができるという段階にはなく。なので、まずやったのがクイズが置かれている現状の分析ですよね。誤解を恐れずに言うと、今のクイズ界というのは、クイズマニアが「ギブ・アンド・テイク」という形で自給自足で大会やサークルを運営している、まあ理想の共産農村社会みたいな世界なわけですよ。
――なるほど。
大門 で「そういうクイズの世界を、他のスポーツとか、囲碁や将棋のように世の中に普及をさせていくには、何が足りないのか?」「協会は何から手を付けていくべきなのか?」という話し合いにすごく時間を要したんです。
齊藤 私や大門さんには「クイズを普及させたい」という想いが第一にありましたね。ただ、「クイズプレイヤーだけで活動をしても、普及には限界がある」「いろんな人にクイズというものを知ってもらうためには、既存のクイズプレイヤー以外の人たちをクイズの世界に取り入れなければならない」という風にも見ていました。しかし、今も現役プレイヤーとしても活動している当時の理事の人たちの中には「普及よりも前に、今のプレーヤーのためになることが優先」という意見も非常に強かった。私からすれば普及こそが、今のプレイヤーのためになるという考えだったわけですが。
――それは既視感がありますね。どのような分野でも多かれ少なかれ、そうした話はあると思います。
齊藤 でも、それだと普及にならないんです。世間一般に普及させるには、それこそメディアだったり、行政関係だったり、いろんな人たちの力をお借りして、まずクイズというものを知ってもらわないと話にならないので。
大門 そこで相談したのが、実際に学校でクイズ研の顧問をされている神尾先生ですよね。
齊藤 はい。特に中高生の部活動の支援というところに関しては、学校関係者であったり、行政の方のお力を頂きたいと。で、神尾先生は8年ぐらい学校でクイズ研究会の顧問をされている。しかも、顧問になってからクイズの世界を知ったという方なんです。で、お話を伺ったところ、神尾先生がお気づきになられている点と、私が「今後こういう風に展開していきたい」と思うものが非常に合致した。それで理事として加わっていただいたんです。
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中学、高校の現場の声
大門 「今、部活動の現場で解決できていない問題は何でしょう?」ということを、まさに最前線で直面されている神尾先生にヒアリングさせていただいた時に、僕も「まさかそんな問題があるとは……」と衝撃を受けまして。その辺りを、ぜひ神尾先生に語っていただければ。
神尾 はい。先ほど齊藤さんがおっしゃった通り、僕はもともとクイズという世界をまったく知らなかったんです。高校生の時に一度だけ『高校生クイズ』に対策もしないで出て、○×で負けておしまいというぐらいで。「競技クイズ」という言葉自体も知らなかったですし。
――では、クイズ研究会の顧問になったきっかけというのは?
神尾 8年前の2011年、つまり『高校生クイズ』の「知力の甲子園」のラストの年の1年前に、教えていた生徒が「『高校生クイズ』にどうしても出たいから、クイズ研究部を作りたい」と言ってきたからですね。それで顧問になったんです。「クイズって何だい?」というところから始まったんですけど、まあ見ていて、とにかく「早押しクイズっていうのは凄まじいなあ」と思って。
――2011年というと、開成が2連覇を達成した年ですね。そのあたりは『東大生クイズ王・伊沢拓司の軌跡』で読みました(笑)。
神尾 同じ県には浦和高校という、とても強い高校があったんですけど、彼らは「どうしてもそれを倒したい」と言って、狭い部屋でずっと頑張ってた。それで1年経って、浦和を倒して全国に行くことができたわけです。ところが、その翌年に「知力の甲子園」が終わって、丸っきり違う番組になってしまいまして。
大門 2013年の『第33回』から、ガラッと路線が変更されました。
神尾 その時に「早押しクイズが好きで、一生懸命やってた子たちの世界が、テレビ局の事情でこうも簡単に奪われちゃうのは悲しいなあ」と思いましたね。
――『高校生クイズ』の形式については、毎年、特に番組放映後に、賛否両論を目にします。「難度の高い問題を、高校生たちがスイスイ答える場面を観たい」という人もいれば、「自分たちでもわかるような問題にしてほしい」という人もいる。「知識重視の方がいい」「謎解きやパズルなど、地頭のよさで勝負できる方がいい」などなど、いろんな意見があって、番組スタッフの皆さんは時代に合った最適解を求めようと試行錯誤しているように見受けられます。ただ、あくまで競技クイズをやっている高校生だけに限定すると、「ちょっとどうかな」と感じている子は多いのかもしれません。
神尾 あと、現場で見ていて「これだけ頑張ってるのに、世間的にはまったく評価されない」というのがかわいそうで。「早押しクイズを頑張っているんです」「じゃあ『高校生クイズ』だね」という風に言われるのに、その『高校生クイズ』っていうものすら、いつまで続くかわからない。
――たとえば将棋界で一番歴史の古い高校選手権は1965年に始まりまして、それ以降、日本将棋連盟が主催する公的な大会としてずっと続いています。ところがクイズ界ですと、私から見れば大変な勲章のように思われる『高校生クイズ』すら、来年はどうなるか……。
神尾 そう、子供たちが青春を懸けた部活動として頑張っているのにもかかわらず、テレビ局の事情によって無くなってしまったら悲しいじゃないですか。……あと、今のクイズ界では、大会に参加する生徒たちの安全が担保されないというのが一番の問題だと思います。
――「安全の担保」と言われますと、どういうことでしょうか?
神尾 クイズの世界は「別に自分たちが楽しめればいいじゃん」という風潮がかなり強いんですけど、中高生の場合、それだけじゃ済まないんですよ。というのは、学校に在籍している以上、「○○高校○年生の○○○○君」というような形で、在籍校の名前はその生徒へついてまわるんです。それでいざ何か……、例えば事件だとか事故だとかがクイズの場で発生したとなると、「じゃあクイズはダメだね」ということで取り上げられてしまう。それなのに、責任の所在というようなものがまったくなかったわけです。
――なるほど……。それは教育現場では切実な話ですね。
神尾 例えば、私が部活の顧問として「子供たちが参加するオープン大会に付き添いで行く」と言っても出張扱いにならないんですよ。あと、顧問になって最初の頃、出張書類に『高校生クイズ』のサイトのトップページを印刷したものを添付したら「何だこれ? ふざけるな」って上司に言われたり(苦笑)。
――えええ。
神尾 部活の顧問として出張する時、提出する書類には大会要綱を絶対つけなきゃいけないんで、普通だったら高文連(全国高等学校文化連盟)とか高体連(全国高等学校体育連盟)から来る書類をつけるんですけど。でも、『高校生クイズ』にはそういうものがないので、公式サイトをプリントしてつけたら「何だ、これは?」みたいなことを言われたと。他の大会も同じような感じですね。で、顧問が出張扱いで付き添いできないということは、結局、子供たちだけでやっているのと同じなんです。そこでもし事件が起こったら、「好きでやってるからいいじゃないか」の、好きなものの根本が取り上げられてしまう。それは見るに耐えないというか、かわいそうすぎるということで「顧問が出張扱いで付き添いができるようになって、子供だけのものではなくなれば、クイズ大会というものの公的な地位が上がる。なんとかそのようにできないか?」、それこそ「最終的に高文連に加盟できるくらいに、クイズの公的な地位を上げられたらな」なんてずっと思ってたんです。そうしたら、それとほぼ同じことを齊藤さんがおっしゃっていたので、共鳴したという次第です。
――なるほど。でも、たしかに高文連に加盟できれば、それは当然学校側も、クイズ研の活動をある程度安心して認められることになるのでしょうね。
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高文連への加盟を目指す
大門 例えばほかの競技だったら、実際に大会の途中で事故なんかが起こってますもんね。
神尾 はい。そして、クイズでも同じことが起こりかねない。もしかしたら「早押しクイズで事故なんて起こりえないでしょ?」って思う方も多いかもしれないですけど、学校の外でやることだから、何が起こるかわからないんですよ。それこそ「早押しコードにつまずいて転倒して怪我」とか、「会場の何かが落下してきて怪我」とか。そういう不慮の事故もあれば、喧嘩だとかお金のトラブルといった、生徒の責任問題に発展しかねない事件だって起こりうるので。それなのに、もしそういうことが起きた場合、責任の所在がはっきりしないというのが、僕がクイズ研の顧問をしてきた中での一番の懸念事項としてあって。「”何かあったら、こっそり処理すればいい”ではまかり通らないだろう」とは、ずっと思っていたんです。
大門 ネットがここまで発達してない時代だったら、もし何かあったとしても噂話程度で済んだかもしれません。でも、今は何かが起きたら一気にネットで拡散されて、学校にマスコミが押し寄せるみたいなことが起こりかねない。
神尾 はい。「事件・事故が起こったら、自分たちで責任取ればいいじゃないですか」って言う人もいるかもしれないですけど、それが通用するのは大人の世界だけだと思うんです。「事件・事故が発生した」といったら本人だけではなくて、学校の責任というのも問われますし、その学校のイメージだとかそういったところにもすべて関わってくる。なので、中高生に関しては「自分たちで責任を取ればいいでしょ」って論理は、僕はまかり通らないと思っていますね。
――私がもし現役の高校生だったら、そこまで思い至らないと思います(笑)。もともと適当な人間ということもあって、「あまりうるさいことは言われたくない」「自由にやらせてくれよ」と思ったかもしれない。しかし大人になった今なら、それが親御さんや学校の先生からしてみれば切実なことだというのはわかります。
神尾 部活として学校名を背負って行くのであれば、当然「それは学校も知ってるんですよね?」となりますよね。でも、今の中学・高校のクイズ研というのは、学校が知らないところで、生徒が勝手に学校名を背負って活動している。この現状は「由々しき問題だな」と思ってたんですね。あと、僕も生徒が参加する大会をいろいろと見に行きましたけれど、一番衝撃を受けたのは「中高生用の大会なのに、引率者用の席がない」ってことなんです。
楠井 ええ?
神尾 いや、本当に中高生の大会なのに引率者席がないんですよ。で、受付で「あっ、観覧ですか? じゃあ、観覧料を払って下さい」「いやっ、引率で来てるんですけど……」「いやいや、関係ないです」って(笑)。「部活の付き添いで来てるのに、なんだこれは」って思ったこともありますね。
――将棋界では、引率の顧問の先生を一般観戦者扱いにして、お金をいただくということはないと思います。
大門 おそらく、将棋の公的な大会の場合は主催団体などから費用が出ている上で運営されており、顧問の引率が義務付けられているんだと思います。日本クイズ協会としても、お手本にしたい理想形だと思います。
――例えば、今は学生が将棋部の活動として高校生の大会に出場する時、「公休扱いされない」みたいなことはないと思います。その辺、クイズは現状、いかがでしょうか?
神尾 実はここ1~2年ですけど、クイズ研に限らず、部活動の公欠・公休といったものに対する風当たりが全国的にかなり強くなっているんです。
――そうでしたか。逆にゆるくなっているのかと思っていました。認識が甘かったか。
神尾 実際、今年の3月にスポーツ庁からガイドラインが出まして、そこには「部活の回数を減らすように」だとか「大会を主催する側は、なるべく小さな大会は統合して回数を減らすように」だとか、そういったことが書かれている。しかも「文化部もこれに準じる」という風に書かれているので、あらゆる部活がそれに準じる形になってきているんですよ。なので、公欠・公休の基準はかなり厳しくなっています。もう、高文連・高体連の大会ぐらいしか、大手を振って公欠を取れないと思いますね。
――状況はむしろ、厳しくなっていると。
大門 逆に言うと、だからこそ協会が創設時から謳っていたように、「高文連の加入を実現させよう」というのが、普及をしていく上での協会の大きな目標となってくるわけですね。
――高文連の加盟、ぜひ実現していただきたいですが、見通しはいかがでしょうか?
齊藤 ……非常に厳しい戦いを強いられると予想してますね。というのは、これだけ世の中の文化が多様化しているにも関わらず、平成に入ってからの30年間で全国高文連に新たな専門部ができたジャンルは「小倉百人一首かるた」など5つしかない。しかも、最後に専門部ができたのは9年前のことなんですよ。
――ひえっ、そうなんだ。それは厳しいですね……。
齊藤 はい。このような状況下で、そこにクイズを加えようというのは、かなり厳しい戦いとなると予想されるのですが、なんとかして実現していきたいなというところですね。やっぱり、高文連から正式に派遣依頼書が来ると公欠が取りやすくなったりするので、その体制には持っていきたいんですよねえ。
――ここまでお話をうかがって、皆さんが目指しているところが、だいたいわかったような気がします。
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日本クイズ協会の存在意義
大門 ということで、神尾先生に理事に加わっていただき、「日本クイズ協会として、高文連の加盟を目標として活動しよう」ということになったのですけど……。当時の協会のメンバーの中には、その方向性をよしとしない人もいて。
――協会の内部でも、人によって目指すところに違いがあったと。
大門 そこが日本クイズ協会という船の舵取りがすごく難しかったところだったんですね。具体的な理由としては、クイズ界には既に「オープン大会」と呼ばれるクイズ大会が一定の数あって。で、さっきも言ったように、このオープン大会は大会をやりたいという個人だったり有志が開く、ルールも問題もすべて自由に決められる大会なので、そもそも組織を必要としていない。
――そこはクイズ界の素晴らしいところでもあると思いますが……。
大門 協会の中でも「既存の文化が大事なんだから、余計なことをするな」ということを非常に強く主張する人もいて。そこが、僕らが思っていた「高文連に加盟をすることを目標に、高校生の部活支援のための大きな公的大会を作らないといけない」というのと、なかなか相容れないわけです。
――これまでの環境でオープン大会などはうまくいっているのに、余計なことはしないでくれと。
大門 そういったオープン大会って、僕はほかの世界でいうと「コミケ」に近いのかな、と思っているんですね。
――コミケは行ったことがないんですが、おおよそ、言わんとされていることは伝わります。
大門 はい。何かを好きなグループが、思い思いに気持ちを表現する場。コミケに自由に出展するのと同じで、大会を自由に開催して、そこに自由意志で人が集まってくる。そういう自治的な世界を愛する人たちの思想と、クイズの世界に公的なものを取り入れようという我々のビジョンのズレが、相当大きかったんですよね。
――齋藤さんや大門さんは「クイズ協会は“高文連にクイズの専門部を作ること”“公的な大会を新たに創設すること”」といった、公的な仕組みを作ることが目的だった。でも、協会の他の理事で、これまでオープン大会の開催に尽力されてきたような方たちが、クイズの世界に公的なものを持ち込むことに対してセンシティブになってしまうのは、わかる気もします。「クイズ協会主催ではない大会は、必然的にアンオフィシャル扱いなのか」と。しかし、そうしたことを意図していたわけではないんですね。このあたり、多分に誤解を招いているのかもしれません。
大門 あと、オフィシャルな団体ができた時に、例えば「問題内容を検閲されるんじゃないか」みたいな恐怖を感じるという声も耳にしましたね。
――もし本当にそんなことされたら、それは大きなお世話ですよね(笑)。そんなことをされる筋合いはないし、現実的にできないんじゃないのかな。私はアンダーグラウンドな分野のクイズ、いわゆる「地下クイズ」が好きですが、日本クイズ協会から差し止められるという未来は、予想できない。
齊藤 クイズの内容についてもそうですし、さっきの参加のルールの基準みたいなところもですよね。「今までは社会人がボランティアで土日に開いている大会に、学校の先生の許可なんかもらわずに自由に参加してクイズができた。でも、これから学校の先生の許可を取らなければそうした大会に出れなくなるのか?」みたいな。あらゆる大会に協会が中高生の参加に対して学校の許可を義務付けるのではないかと誤解する生徒さんもいました。
――もしそういう状況になるとすれば、私もクイズ協会の存在に関しては否定的になります(笑)。しかし、当然ながら、そうではないと。将棋も部活の一環である大会以外、例えば大人も参加する大会でも自由に出ることはできます。それは学校や、公的な何かとは関係ありません。
齊藤 クイズも同じように、自主的に運営されている大会には自由に参加してもらって、学校の許可が必要な正式なものは学校の許可を取って出てもらえばいいという形でいいんです。……もちろん先ほど神尾先生が言われたように、オープン大会にも、学校や保護者が安心して子供たちを参加させられる場にはなってほしいと思っています。でも、『ニュース・博識甲子園』のように保護者了解の上での学校監督下で開かれることを目指している部活として参加できる大会と、自主的に運営されている大会は全く別ですから。ただ一方で、現役プレイヤーの間からは「日本クイズ協会には、プレイヤーたちが主催するオープン大会を、オフィシャルなものとして認定するような団体であってほしい」という意見も聞きました。要は「自分たちが活躍している大会を、公的に権威づけてほしい」みたいな。
――将棋のプロ棋士の世界であれば、公式戦、非公式戦は厳密に規定されています。またタイトル戦や各種棋戦の序列なども詳細に決められている。八大タイトルがあって、その中でも竜王戦や名人戦はGI的な扱いです。アマチュア棋界ならば、歴史あるアマ名人戦やアマ竜王戦、学生名人戦などは格が高い。でも、言われてみると、クイズ界ではそういう格付けのようなものはないんですね。
大門 もちろん長く続いている大会やクオリティが高い大会には参加者が多く集まったりして、プレイヤーの間にも「この大会はビッグタイトルだ」なんていう雰囲気があったりはしますけど。
――なるほど。
大門 ……ともあれ、そういったズレは相当大きかったですね。発足当初から「日本クイズ協会はオープン大会という文化を統制しようとしている」とか、「日本クイズ協会はオープン大会の認定組織になるべき」という風に決めつけられて、未だにそれが尾を引いているというか。我々はコミケ的に自由意志で自治的に運営されている、20年以上に渡る大会文化は尊重しているし、それはそれで益々繁栄していって欲しいけれど、それを協会として管理したり、「この問題は出してはいけない」っていう風に横槍を入れたり、あるいはそれらの大会を公的に格付けするつもりは一切ないんです。
――これはクイズ界のいい点だと思うのですが、やっぱり頭脳競技だからか、皆さん、議論がお好きですよね(笑)。ワンマンな実力者が好き勝手に引き回している業界に比べれば、よほどいいと思います。逆に言うと、日本クイズ協会の中でもいろいろな議論があったというのは、部外者の立場からすれば大いに結構なことだと思います。……まあ、現実的にはいろいろと大変だったと思いますが。
大門 そこのハンドリングは想定以上に大変でしたよね。
齊藤 そうですね。本当は『ニュース・博識甲子園』も、協会が発足してすぐにやりたかったんですけど、内部にも「協会がオフィシャルな大会をやってはダメだ」って意見を強く主張する人もいて。「協会が大会を開くなら、我々がやってきたのと同じようにオープン大会という形にしてくれ」なんて言われて……。
大門 「協会が公的な大会を開くのはダメ」「でも、協会がオープン大会としてやるなら許す」って、すごく矛盾しているじゃないですか。だって、個人個人が好きに大会を開くから、オープン大会という自由な文化が生まれるんであって、協会という公的な組織が開くなら、それはオープン大会ではなくなるわけですよ。
――そりゃそうですよね。
マニアの世界と初心者
齊藤 それから、クイズそのものを広く世の中に知ってもらうためには、メディアの方たちにご協力いただくことが必要だと思ったんです。なので、協会の中で「メディアの人たちとの関係性を築いていこう」という話をしたんですが、中には「それは必要ない」と言う人もいましたね。
――ほお。メディア関係者でクイズが好きな方も多いですけれど……。それはなぜでしょう?
齊藤 要は「新しい人たちがたくさん来るような拡がり方・増え方は、自分たちは望んでないんだ」ということなんです。
――それはまたなぜでしょうね? ……いや、マニアの心理を理解しようと思えば、できるとは思うんですよ。将棋界だって、そういう古参はいますし。
大門 これは多分、クイズに限らず、マニアの世界には共通する感覚ですよね。話がわかっている、濃いメンバー同士で共有している価値観が崩れることが一番嫌というか。「ニワカが語るな」とか「メジャーになったら変わってしまうかもしれないから、推してるアイドルには売れてほしくない」とか。
――どんな業界にもある、古参・ニワカ論争なんですかね。いま将棋界だと、「観る将棋ファン」という方がずいぶんと増えました。大変にありがたいことです。私自身は、自分で将棋を指さなくたって、「棋士がどんなネクタイをしてる」とか「何を食べた」とか、そういうことに注目して楽しめればいいと思います。しかし、そういうミーハーなファンの存在に対し「何だか面白くない」という感情を隠さない古参もいる。
大門 そういう抵抗感とかなり近いんじゃないかと思うんです。「俺たちが思ってるクイズの世界はこういう世界で、何も知らないミーハーな連中が入ってきたら、これまでのクイズの色が変わるから入れるな!」みたいな。
楠井 ちょっと血が濃くなりすぎちゃったんですかね。
大門 そうなんです。
――新しい人がたくさん入ってくるのと、既存のマニアックで濃い世界が併存することはまったく可能だと思うんです。 将棋はいろんなフェーズがあって、いろんな層がいる。これまで通り、アマチュアの中にも、家族や周囲があきれるぐらいに打ち込んでいる人もいる一方で、ライトな層もたくさん入ってきた。併存して、活性化している。
大門 はい。そして今、日本クイズ協会にいるメンバーも「クイズ界でも、それと同じようにマニアとライト層が共存できる」と思っているんですけど、残念ながら、そうは思ってもらえないことが多かったですね。
――うーん。どうしてそう行き違ってしまうのかな。
楠井 それはホントに不思議でしょうがないですね。それこそ私も学生時代にクラシックバレエに打ち込んでましたけど、初心者が入ってきたら、すごくうれしかったですよ。「自分の好きなバレエを、やりたいと言ってくれる人がいるなんて」って。クイズにもいろいろな大会とか路線があると思うんですけど、同じようにバレエにも様々な流派があるんですよ。世界大会も何個もあるし。でも、それぞれの流派は対立することなく、共存してます。
大門 多様性ですよね。本来、ひとつのジャンルに複数の価値観が共存しても何も問題ないはずなんです。ところが趣味の世界の場合、「自分たちが楽しい空間」が最優先になって、それ以外を認めないような風潮が出てきたりして……。僕、神尾先生に聞いたゲートボールの話がすごく胸に刺さっているんですけど。
神尾 僕は中高生時代、老人のスポーツで有名だったゲートボールをやっていて……。
――それは意外です! でもゲートボール、私も小学生の頃にやっていました。あれは本当に面白かった。お年寄りだけじゃなくて、誰がやっても面白いと思います。
神尾 ですよね(笑)。ただ、ゲートボールはどうしても「老人向け」というイメージがあったので、それを若い世代に拡めたいということで、兄が「日本ゲートボール連合」という組織の中に「ユースゲートボール連盟」という団体を立ち上げて。で、私も大学生の時に2年間、代表をやったんですよ。その頃は兄と一緒に、とにかく「イメージを変えよう」ということで、それこそメディアとかもたくさん呼んだり、「大きい大会をやろう」っていうことを、全国各地の有名プレイヤーを集めた会議で提案したりしたんです。……そうしたら、もう全部却下されたんですよ。「そんなのは要らない。今、自分たちだけで楽しめてるのに、その世界観を新しい人が入って来て崩すのは嫌だ」と。
大門 この話を聞いた時に僕、えぐられたんですよね。これって、まさに僕らもぶち当たった「既存のマニアがたくさんいる中で、新しいことをやろうとする時の抵抗感」じゃないですか。だから、本当は「日本クイズ協会を創設して1年後ぐらいには大会を開く」ぐらいのスケジュール感で動いたんですけど、実際には最初の1年はそこの方向性の違いの調整、調整でした。
楠井 バンドの音楽性の違いみたいですね。
大門 そう。結局、方向性に納得できなくて離れていく理事もいたりして……。そのたびに「日本クイズ協会は何をやっているんだ?」みたいな揶揄をされる期間。
楠井 うーん。外から見たら確かにそうなっちゃう、みたいな(苦笑)。
大門 そういう風に言われる間が長かったというか、助走期間が想定以上に長くかかったという感じですね。
クイズで大学に入れるか
――クイズをやってて、大学の進学で有利になったりすることとかってあります? 将棋だとあるんですよ。全国大会で優勝したり、高段の免状を取得したら、推薦の際のポイントになると。
楠井 へえー、将棋推薦みたいな。
――まさに将棋推薦ですね。で、立命館なんていうのは将棋推薦で高校の優秀な生徒がたくさん入っています。立命館はクイズの名門として有名ですが、将棋の名門でもあるんですよ。クイズでも、もしそういうのがあれば。
大門 クイズの場合だと、『高校生クイズ』の優勝者が、立命館に一芸入試で入ったケースはありますね。
――なるほど、一芸入試なんですね。
大門 あとクイズ王としてテレビでも活躍する古川洋平君。彼も高校時代に『アタック25』と『タイムショック』で優勝した実績で、一芸入試で立命館に入りましたね。
――なるほど。クイズ界的には、いいことですね。
大門 ただ、逆に言うと大学側が認めるクイズの実績っていうのは現状、テレビしかないんですね。
神尾 そうですね。「ああ、クイズで大学に入るといっても、一芸入試なんだ」と思いました。……ホントに公的な話で言うと、高校生の時にいくらテレビ局のクイズで活躍したとしても調査書には記載できないんですよ。もしかしたら、担任所見の欄とかには書けるかもしれませんが。同じように、オープン大会で賞状が発行されたりだとかしても、公的な団体が出したものではないので調査書に記載できない。簡単に言ってしまえば、現状では、「クイズ研究部に所属する人間がどれだけテレビで活躍しても、公的書類では“実績はなし”という形で処理されるんですね。まぁ、うちのクイズ研究部の部員が、『高校生クイズ』でアメリカまで行って東大の推薦入試の一期生になったことはありますけど、この子の場合は理科学研究も兼ねてましたし……。いくらクイズで活躍しても、それを調査書には書けないっていのが現状ですね。
――(ネットで検索して)中央大学の数学科は囲碁・将棋の有段者、五段以上だと自己推薦できるそうです。当然、将棋連盟が公式に発行している免状の段位ですが、グレードの高い大会で優勝したりすればもらえます。近年の将棋界では当然のように思われてきましたが、クイズ界と比べれば、ずいぶんと恵まれてるんですね。
プレイヤーファーストとは
大門 クイズ協会の今の理事の顔ぶれについて、プレイヤーとしては現役から一歩退いた、齊藤さんのようなOB・OGとか、プレイヤーとしては実績がないけど裏方をずっとやってた僕みたいなタイプがいることに対して、「クイズの現場にいる人がいない」という言い方をされることがあって。
――それ、Twitterでよく見ますね(笑)。その場合の「現場」の定義というのは、「現役のプレイヤー」ということなのかな。
大門 そうですね。クイズをプレイヤーとして第一線でやってる人、もっと言うとプレイヤーとして強い人ほど、より強い権威だったり発言力が認められるという風潮が、コミュニティの中でとても強いんです。
――わかりみが深い(笑)。それもきっと「せまい業界あるある」ですね。
大門 あと、「協会はプレイヤーファーストであるべし」ともよく言われるんですけど、僕はこの「プレイヤーファースト」という考えにも違和感があって……。例えば、僕なんかもそうなんですけど、自分ではさほどクイズはやらないけど、クイズ番組やプレイヤーが好きで、大きい大会は観に行くみたいな層。例えば最近だと、『Knock Out』のチケットを買って、観に来てくれた水上(颯)君のファンとか……。
――あの『Knock Out』の決勝会場はすごかった! 私も今回、チケットを買って観戦に行きました。そしたら場内、多くの女性ファンであふれていて。将棋界だと今は藤井聡太七段ですが、クイズ界でも水上さんみたいなスターが現れると、ここまで新規ファンが増えるんですね。
大門 ホントに実証されましたよね! で、僕が思うのは、「既存のプレイヤーも大事だけど、それと同じかそれ以上に、こういったクイズの世界を知ったばかりの人のことも考える必要があるんじゃないか?」ということなんです。「プレイヤーファースト」と唱えている人たちは、「これからクイズの世界に入ってくる人たちのことを考える必要はない」と思っているのかという、そういう違和感をすごく覚えるんですよね。
楠井 「現役プレイヤーが大事なのはわかるけど、じゃあそれ以外は大事じゃないの?」ということですよね。
――当然な話をすれば、プレイヤーはもちろん大事です。でも、その上でファンや運営などを含めて、初めて世界が成立すると。
大門 はい。ちなみに僕、この間、ある人と話をしていて、すごくわかりやすく例えられたんですよ。「クイズの世界は剣豪じゃないとお互いを認めない世界で、まだ剣道になってないんですよ」って。要は、剣豪というのは「お前は強いから認めてやる、こいつは素人だから耳を傾ける必要はない」と剣の腕で優劣をつける世界。だから、初心者とか実力が衰えた人は低く見られる。これって「公的団体の理事をやるならクイズの現役じゃないとダメだ」という考えとそっくりだと。
――なるほど。将棋界っぽい(笑)。
楠井 でも、それこそ会社だって、営業マンとして優れてた人がマネージャーになっても上手くいくかというと、また話が別なのと一緒で。クイズが強い人とクイズ大会を運営するのが上手い人、もしくはプレイヤーを束ねる能力がある人は全然別でしょうし。
大門 僕は公的な大会というのはオープン大会とは逆で、「運営はプレイヤー以外の人間が行い、プレイヤーは全員参加するのが理想」だと思ってるんです。
齊藤 確かにスポーツの団体なんかだと、運営はプレイヤーではなくて、それを一歩引いた人がやっていますよね。
――確かにそうですね。日本相撲協会は引退した力士、つまり年寄株を持つ親方が、運営に携わっている。現役の横綱、大関であっても、理事にはなりませんね。一方で将棋界はやや特殊で、佐藤康光九段が会長を務めています。佐藤さんは将棋界がピンチに陥った際に、あえて会長に立った立派な方です。しかし、プレイヤーとしては、いまだにトップ10のA級に在籍する現役の一流棋士なんですね。クイズと将棋は競技の性格は違いますが、運営側にいればそれだけ競技に打ち込むことができなくなるのは似ているでしょうか。
神尾 あとクイズって、指導者とか応援する人も認められない世界ですよね。私はクイズ研の顧問という立場ですけど、何か意見をしようとすると「先生はクイズやったことないでしょ?」と言われるんですよ。これって甲子園で例えれば、「じゃあ大阪桐蔭の監督は草野球をやってなきゃいけないんですか?」という話ですよね。「俺は毎週日曜日に野球やってて、この前にライト前ヒット打ったんだ」みたいな話をしなきゃいけないのかって。
楠井 そうそう(笑)。
神尾 僕はそれこそ8年間、この世界に部活の顧問として携わってきましたし、子供たちと一緒にボタンを押したりするのは好きです。でも、大会とかにはエントリーしたことはありません。ですけど、とにかく子供たちを『高校生クイズ』なりいろんな大会なりで優勝させたい。そのために、その大会がどういう大会なのかを調べて、対策を立てて、子供たちと一緒にやる。で、子供たちが活躍する姿を一生懸命応援して、喜びを共有する、とにかく、かけがえのない経験をさせるというところが一番なので……。それなのに、なんでそこで「でも、先生はクイズやったことないでしょ?」と言われなきゃならないのか。僕からすると、「じゃあ、“クイズをやる”って何?」という風に思いますね。
――でも、神尾先生は名コーチそのものだと思います。将棋界でも、自身はそれほど棋力が高くなくとも、優れた後進を育て上げた人はたくさんいます。自分としても、その競技の経験がない人が、もし指導者として優れた実績をあげているとするならば、むしろそういう方の話を聞いてみたい。
大門 「クイズをやる」って何なのか? 例えば、僕は仕事でクイズゲームやクイズ番組の制作をしたりということを、何年もしているわけですよ。でも、「オープン大会に参加してないですよね?」っていう一点でもって、「現場にいない」という烙印を押される。うーん、そもそも僕も齊藤さんも、何度もオープン大会のスタッフをやったこともあるんですけどね。
楠井 まあ「オープン大会の現場の人がいない」って言いたい人がいるのもわかるけど、「そういう人たちが協会にいることの何が悪いの?」っていう話でもあるんですよね。
クイズ問題の提供者
――詰将棋の世界ですと、速く解く人、これは現在では藤井聡太七段がダントツなんですが、もちろんそういう人は尊敬されます。一方で、優れた問題を作る人も「詰将棋作家」として、それはもう大変に尊敬されます。詰将棋作家の橋本孝治さんは1525手詰という世界最長の詰将棋を作りました。「ミクロコスモス」と言います。これ、クイズ界では有名らしいですね。で、プロ棋士が求められて詰将棋を作るとするならば、当然それなりの料金は発生します。
齊藤 今回の『博識甲子園』は田中健一さんが問題を制作・監修されてるわけですけど、僕はその田中さんの地位を脅かすような人たちが現れて、作家同士で競争できるような社会にならないと、クイズが公的に広まったっていう状態ではないと思っているんですね。
――田中さんのような立派なクイズ作家が正当に評価され、さらに田中さんに続く人がたくさん現れるような環境になるといいですね。
齊藤 クイズって「知ってるか、知らないか」を競う競技だからという側面は大きいところではあるのですけど、どうもいつの頃からか「競技クイズ=“知っていることを答える速さ”を競うもの」みたいな思想が強まりすぎて、「業界のお約束を理解していない人が入ってくる=クイズの問題が出し合えない」みたいな、そういう話になってしまっている気がします。
大門 暗黙の了解というか、「競技クイズというのはかくあるべき」みたいなイデオロギーを共有できないとダメという考え方は強いですよね。
――現在の早押しクイズは、百人一首にたとえられたりもしますよね。
楠井 クイズって、本当は範囲はないはずなのに。
齊藤 そうなんです。なのに競技クイズの場では、「これは知ってる範囲内で速さを競い合う問題じゃないからダメだ」みたいな話になるんですよ。
大門 そもそも競技クイズは、テレビのような世間一般の目に触れることのない場で、ガラパゴス的に進化してきたものですからね。だから「これはこのフリじゃないと出しちゃいけない」とか「これは過去に出たことがあるからベタだ」とか。コンテクストの共有ありきになってしまう。
――高度なところで話が通じあえるコミュニティの心地よさというのはあると思います。しかしそれは同時に、ガラパゴス化の危険もはらんでいる。
クイズとメディアリテラシー
大門 問題の話でいうと、今回の『ニュース・博識甲子園』は、「時事とか社会といった、世の中で必要とされる情報を、どれだけ高校生たちに持ち帰ってもらうか?」ということを念頭に置いて問題を作ってもらっているんです。
――私も「ニュース・博識甲子園」の予選問題、300円払ってダウンロードして解きました。私は本来、クイズの問題というのは楽しさが感じられれば、それだけでいいと思うんです。別に他の何かの役に立たなくたっていい。しかし、この問題群は本当に、勉強になりました(笑)。私が高校の教師だったら、生徒に解いてもらいたいと思いますね。
大門 言葉を選ばず言ってしまうと、「コミュニティの中の人たちにとって楽しい問題」でやる「自分たちのためのオープン大会」と、「高校生に伝えたい問題」で「それを答える高校生を世の中の人に見てほしい」という想いでやる「協会の大会」は全然別ですからね。全然別だからこそ「共存しうる」わけですけど。
――うんうん。
楠井 今回、田中健一さんに問題作成をお願いすることになった経緯というのは……。
大門 今回の大会には、「メディアリテラシー」、つまり「ニュースの正しい読み方」を身につける上でクイズが役に立つというテーマがあります。で、実は田中さんはずっと新聞をベースに問題作成をされていると。そこでお話をさせていただいたところ「今回の大会のコンセプトには僕は100%賛成で、それだったら是非協力したい」と言っていただけたわけです。
楠井 問題を作成する上で、具体的にどのようなオーダーをされたのですか?
大門 クイズの問題作成って、裏取りをする調査力だったり、検索をするスキルだったり、問題文に落とし込んでいく上で情報を取捨選択して文章を練り込んでいく編集力だったり、そういう様々な能力が必要とされるじゃないですか。
――クイズの1問1問には、実にいろいろなものが凝縮されていますしね。
大門 なので、「高校生が答えた1問1問には、実はそういうバックボーンがあったんだよっていうことが伝わるような問題が理想です」という感じでお願いしましたね。
――田中さんが問題を作成するということに対し、「クイズ協会、やるじゃん」なんて称賛している方が多かったですね。
大門 まだ協会が立ち上がったばかりで、田中さんとしてもホントに雲を掴むような話だったと思うんです。それなのに快く引き受けていただけたのは、大会を進める勇気をもらったというか、非常にありがたかったですね。
齊藤 あと、今回のテーマの「メディアリテラシー」というところで言うと、スマートニュースの松浦(茂樹)さんと僕は、「クイズというのは“情報を世の中に発信したり、表現する能力”がとても重要だ。それは学校の勉強でも、社会に出てからプレゼンする時にも役立つ。そういう、いろんな能力につながるという部分をアピールしたい」ということを話していて。
大門 クイズって、絶対そういうプラスの面がある遊びなんですけどね。なのに、プレイヤーたちは「人に褒めてもらうためにやってんじゃないから」みたいな物言いをしがちなんですよね。でも、そんなことを言ってる人も、誰かと会話する上でクイズの恩恵にあずかっているはずなんです。例えば、「女の子としゃべる時に、クイズで覚えた知識を言って褒められたことあるでしょ?」って(笑)。そういうところってクイズの原点だと思うんですよね。
――もちろん、そうですね。
大門 それが高校生の場合だと、ダイレクトに学業に対する好奇心に繋がったり、人生を左右するようなカルチャーとの出会いになったりとかするんです。クイズはそのゲートウェイになりうるのに、大人は斜に構えて「クイズはそんなもんじゃないから」なんて言って、その可能性を否定してしまうという……。そういうのって、僕はいかがなものかと思うんですよね。
――将棋界では「将棋をやってるとお得です。頭良くなるし、人間関係も拡がるし、いいことだらけです」って宣伝をしたりします。これはセールストークで、実際にはどうだかわりませんが(笑)。でも、そんなにウソを言っている感じもしません。特に「頭良くなる」という点は強調されます。クイズ協会として「そうしたイメージで普及しよう」みたいな考えはありますか?
齊藤 私個人としてはぜひアピールしたいです。……でも、今思えばそこの部分も、最初に協会の内部で方向性の違いがあったというか。今、協会の公式サイトに“「知る」「競う」「楽しむ」”というキャッチフレーズを掲げてますけど、それに落ち着く前にいくつか案があって。で、実は私としては、本当は「教養」という言葉を使いたかったんですよ。「でも、クイズって教養じゃないですよね」「教養という言葉を使うと危険だ」なんて言われて。「何が危険なのか?」は、私にはよくわからなかったんですけど。でも、当時の協会内には「オフィシャルな団体が“クイズは教養だ”と掲げるのは危険だ」という抵抗があったんですよね。
――なるほど。将棋界では、各人の本音はどうであれ、「将棋は教養だ」というのは建前としては否定しませんけどね。
齊藤 私は正直、「教養」という言葉をすごく使いたかったし、それこそ日本経団連がリベラル・アーツを推奨しているから「経団連にクイズをアピールしていこう!」ぐらいのつもりだったんです。でも、なぜか「嫌だ」と言われて……。
楠井 不思議ですね。
――潔癖な感覚なんですかね? そんなに堅いことを言わずに、気楽に「教養がつく」ということをPRしてもいいような気もしますが。
齊藤 おそらく「教養だと謳ってしまうと、趣味としてやっているクイズの自由度が狭まるんじゃないか」みたいな感覚なんだと思います。
――正直な話、私はクイズで効率的に教養はつく気がします。それを絶対的な目的としてしまえば、息苦しくなるでしょう。しかし、「楽しめて、ためになる」と主張すること自体は、マイナスにはならないと思います。
大門 はい、マイナスじゃないですね。
神尾 実際、教育現場で見ていて、「クイズをやっている子たちは知的好奇心が上がっていく」というのはありますね。
楠井 「ああ、もっと知りたい!」という。
神尾 そう。だって、いろんなことを知らなきゃ、クイズに答えられないから。だから、例えばマンガ・アニメが好きで、最初の頃はそういう問題の時だけ生き生きしていたような子が、クイズに夢中になるにつれて授業を真剣に聞いたり、教科書から問題を作ったりするようになったりとか。
――クイズがきっかけであっても、授業を真剣に聞けるようになるのはいいことですね。
神尾 実際、私が見てた子たちで「ああ、この子、クイズ強くなってったな」って思う子に共通しているのは知的好奇心の高さですね。……あと、今のクイズ界には、齊藤さんがさっきおっしゃったような「既存の問題だけをとにかく極めよう」っていう考え方があるじゃないですか。
楠井 ああ、大会で出やすいクイズ。
神尾 クイズに強くなるため「問題集を何周も読み込んで覚えました」っていう「読み込み」だったり。「読み込み」も、クイズに強くなったり、大会で勝ったりする上では必要だとは思うんです。でも、既に固定化されてる文章・定型文みたいなのを覚えるだけなんで、いかにそれを派生させて、調べて、もっと自分の知力になっていくような形でやっていくか。そうやって「興味・関心を持ったことについて、多面的な視野で見ていく」のが僕はいいと思っています。そういうところなんかも打ち出していければいいんじゃないかなと。
ニュース・博識甲子園のコンセプト
楠井 実際、『ニュース・博識甲子園』でもいましたよね? 鉄道がすごい好きな子が、知らない問題を自分で考えて「こうじゃないかな」って書いたら、みんな間違えていた中で、その子だけ正解していたみたいなことが。
大門 松本深志の富取新太君ですね! あれは名シーンでしたねえ。『今年4月、政府の国家戦略特区の制度を活用して、岡山理科大学獣医学部が開設された都市はどこでしょう?』というボードクイズの問題で。
――4人中3人が「倉敷市」と答えていた。私はたまたま解答を知っていましたので、「誤答だけど、いい線いってるな」と思いました。でもその上をいく名推理があったんですよね。
齊藤 あれはもう名推理ですね。こちらのコンセプトが非常に伝わっていたというか……。おそらく、日頃から新聞などをよく読んでいて、加計学園のこともちゃんとチェックしていて。で、それに絡んでくるけど「うーん、でも、岡山まんまじゃないよね」というところから「今治市」を導き出してきた。あれは大会を象徴する、とても良い場面でした。
――その『ニュース・博識甲子園』ですけど、具体的にどのように実現したんですか?
大門 協会のコンセプトワークの具現化した形として「高校生の公的な大会をやらなきゃいけない」というところにたどり着けたのは、やっぱり神尾先生の熱意が肝だったと思います。
神尾 先ほども言いましたけど、クイズの現況を考えた時、子供たちの思いというものが、来年あるかどうかわからない、あったとしても同じルールであるかどうかもわからないものに左右されるのはかわいそうじゃないかというのがありまして。なので、それを目指してやってきた子たちで戦えるような場ができて、大会運営の実績を重ねて行って……。その積み重ねが「将来的にクイズが公的な地位に昇華していくための、ひとつの根拠になればいいな」とは思っていました。
――なるほど。
神尾 当然、初心者の方向けの体験会とかも大切だと思うんです。でも、僕はそれ以上に、大会というものの必要性っていうものを絶対視していて。やっぱり「この世界には、公的に認められる立派な大会があるんだ」「この大会があるから、みんなが頑張れるんだ」「この大会で結果を出すと、世の人たちから“すごいね!”って言ってもらえるんだ」となるような、そういう公的な大会は絶対に必要だなと思っていて。
大門 例えば『高校生クイズ』という番組は、30年以上に渡って、地上波で一般の高校生に夢や冒険を提供してきた、唯一無二の番組です。ただ、時代ごとに描くテーマや高校生像というものは変わっていくので、そこがクイズに青春を賭けている高校生にとって違和感を覚えることもある。それは僕も元クイズ研究会の人間として、痛いほどわかります。
――『高校生クイズ』の基本的なコンセプトの変化については、毎年のようにネット上でいろいろな声があがりますね。放送が終わった後に、そちらの議論を見るまでもセットのように感じます(笑)。
大門 ただ、テレビ番組はあくまで何百万人という一般視聴者を第一に製作されているので、その時々の事情やスタッフの考えで変わるものなんです。『ウルトラクイズ』がクイズマニアのものではなかったように、『高校生クイズ』もクイズ研究会の子たちだけのものではないので。そういう意味では、神尾先生がおっしゃったように、部活としてクイズに賭けている子にとっては、不変の目標となるような大会がひとつ、『高校生クイズ』とは別にあった方がいい。例えば他のスポーツでは、そのスポーツの定義そのものが変わったりすることはないでしょう。
――それはそうですね。「定義」というか形式ということであれば、私は高校時、大学受験はある程度形式の定まったゲームと捉えるようになってから、ずいぶんと楽しくなりました。たとえばセンター試験・国立の二次試験・私立の各校の試験と、それぞれ独自の形式がある。それを承知のうえで、攻略する楽しさですね。それがもし受験してみて、突然前年までと違う形式の出題がされたら、それはガッカリしたと思います。
大門 『高校生クイズ』には、クイズの楽しさを世間一般に伝える番組として続いていってほしい。一方で、協会としてはそれとはまったく別の、何かの都合で定義やコンセプトが変わらない公的な大会を設立したい。『高校生クイズ』のターゲットが高校生全体とすれば、我々の大会のターゲットはクイズに取り組む高校生たちになるわけで、そこは明確に違います。
齊藤 その通りですね。
団体戦の意義・戦略・ドラマ
大門 で、「新しい大会は、どういったものにするべきなのか?」という話になるわけですけど……。まず神尾先生と『博識甲子園』の骨子を決める打ち合わせをさせていただいた時に、神尾先生からいただいたアイデアとして僕がすごく印象的だったのが「顧問が参加できる」というシステムなんですよ。これは僕、今までテレビでも見たことなかったし、オープン大会でも当然見たことないアイデアだったんで。それが具現化したのが、1回戦のタイムアウトの仕組み(※1回戦では、各チーム1回だけ監督がタイムアウトをとって選手と30秒間だけ作戦会議をすることができるというルールが作られた)なんですけど。
――あそこは神尾先生のアイデアだったのですか?
大門 はい。そこが僕は「神尾先生はアイデアマンとしてもすごいな」と思ったところなんですけど。僕はもともとがクイズマニアなんですけど、そういったマニアが大会を企画すると「個人戦で、最強を決める」という形になりがちなんです。ところが神尾先生は、まず部活であるということを第一に考えた時に「学校単位で参加する」「チーム戦であるべき」で、「それを送り出している顧問がいる」と。で、例えば野球だったら監督もベンチにいて、時には伝令を走らせたりするじゃないですか。「もしこれがクイズで形になったら、観たこともないものができるんじゃないか」と。
神尾 あそこは結構こだわったところで。実は僕、団体戦が大好きなんです。というのは個人戦だと、強くなることによって自惚れてしまう子がでたり、逆に弱さを自覚してクイズから去ってしまう子がでたりするじゃないですか。だけど、団体戦だと「自分はこういう役割でチームの勝利に貢献する」みたいなところが出てくるので。
――将棋の団体戦は、高校では3人制、大学では基本は7人制で、最近では5人制もありますが、大変に盛り上がります。個人戦では見られないような微妙な駆け引き、戦略があって、思わぬドラマも生まれますからね。
神尾 それと僕は個人的にスポーツ観戦が大好きなんですけど、特に高校野球とかだと、指導者の存在が大きいんですよ。で、その競技を通しての人間形成ということを考えた時に、指導者は別にその競技に長けている必要はなくて。むしろ、生徒たちが混乱状態に陥っちゃってどうしようもなくなった時に、タイミングよく声を掛けてあげられるかとか……。
大門 それがまさに1回戦のタイムアウトですよね。
――正直なところ、あのルールをどんな場面に使うのか、見てみるまでよくわからなかったのですが、実に効果的に使っているチームがありました。最後の大将戦、わずか1点、1問の差で次に進めるかどうかが決まりそうな状況で……。
神尾 はい。あの大将戦に入った時には、各チームがソロバンを弾いていたと思うんですよ。「追いつくにはあと○点必要」ってことで、絶対に攻めなきゃいけないチームとか、「あと○点取れば安全圏だから、ある程度は攻めるけどそこから先は落ち着いて」っていう風になるチームとか……。
――まさに団体戦の醍醐味ですね。
神尾 で、1回戦が終わって、控室に戻ってきた子の何人かに話を聞いたら「何点までは取ろうと思ってました」とか「こういうプランでやっていたけど、そうならなかった時にタイムアウトを取ろうと思ってた」とか。そういう作戦みたいのは各チーム、かなり考えてたみたいなので。そういったあたりは「ホントにチーム戦をやってくれたんだなあ」と。……実際、どの高校も結構タイムアウトを効果的に取ってくれましたよね?
齊藤 正直ね、大将戦でタイムアウトを使っているのを見て「あっ、ちゃんとルールを把握してたんだな」と思ってホッとしたんですよ(笑)。高校生たちは前の日、ホテルに泊まっていた時に「1チーム3人いるのに、団体で戦うルールがない」なんて言っていたんで。
――今までそういう経験がないので、イメージが湧かなかったんでしょうね。
齊藤 だから「いやいや、そんなことないだろう。だって、1回戦も2回戦も監督がサポートできるじゃないか」「もしかして、高校生たちは理解してないのか」と心配してたんです。でも、1回戦の大将戦になって、次々とタイムアウトを取り出したんで「あー、ちゃんとわかっていたんだな」と。
大門 実は4人目の、監督とかマネージャーがメチャクチャ重要なルールだったんですよね。
楠井 確かに、ボードクイズで「誰を代表に出すか?」を決める時、1人パッと出るチームもあれば、「どうする?」みたいにマネージャーと相談するチームもあって。
大門 そうなんですよ。女子マネージャーだったり、顧問だったりといった「プレイヤーじゃないサポーターがいかに重要なアドバイスをするか?」みたいなことが勝負を分けることもあり得たわけです。
神尾 特に印象的だったのが、仙台第二の監督をしていた女子生徒ですね。その子が、もう試合前からずーっとルールについて細かく質問してくれて。で、それで競技中もずーっとメモを取ってたんですよ。
楠井 取ってましたねえ。
神尾 で、そのメモを待機席にいる子たちに回して、「このタイミングかな」っていう時に「タイムアウトです!」ってパッと手を挙げて……。
――あの時って、仙台第二と松本深志が同点でボーダーライン上にいたんですよね。
神尾 あれは「いやあ、いいタイミングだなあ」と思って見てました。あとは「クイズの世界でも女子マネージャーが見られるんだなぁ」なんて思ったり(笑)。あそこは、すごく爽やかなシーンでしたね。
大門 神尾先生が言っていた「団体戦で、顧問やサポーターまで含めて参加できる大会」というのが、まさに具現化した瞬間ですね。
齊藤 ただ、顧問の先生というのは学校で部活動としてやる上で非常に重要なんですけど、一方で労働時間の問題とかもあるので、将来的には外部指導員制度とかも活用していかないといけないですね。例えば「部活のOB・OGが外部指導員として、メンバーと一緒に来られる」みたいな仕組みはあったほうがいいのではと思いました。
――実際、今回は慶應がそうでしたね。
齊藤 慶應の監督はOBでしたね。慶応はルールを見てすぐに「うちの顧問はクイズに詳しくないので、OBがやっていいですか?」って聞いてきましたね。
全国各地での予選の開催
大門 神尾先生とお話をさせていただき「団体戦であること」「顧問やOBや女子マネージャーが参加できること」という、本大会の骨子が見えて……。で、その次に今度は僕がこだわったのが全国予選なんですよ。
楠井 全国7ヵ所でやりましたねー。
大門 はい。高校生の目標となっている既存のオープン大会で有名なのは、『abc』という中学1年から大学4年生まで出られる大会と、夏にある『高校生オープン』という大会なんですけど、これに参加しようと思ったら、自費で東京までいかないといけないんですよ。
楠井 それ、つらいですよねえ……。
大門 北海道や九州の子だったりすると、経済的に裕福な家の子じゃないと東京までの交通費を出してもらえないですよね。しかも子供たちだけで遠征する場合も多いので、事件・事故も心配だし。僕には娘がいますが、もし娘に「自分たちだけで行きたい」と言われても、なかなか許可しづらい。
――地方在住の高校生にとっては、これも切実な問題。
大門 こういう現状を考えると、「予選会を東京だけでなく、全国各地で実施する」というのが一番やりたいことだったんです。残念ながら北陸とか四国のようにカバーできなかったエリアもありましたけど……。でも、協会のスタッフが各地に散ってできる最大の数として、7つのエリアで予選会をやろうと。で、そこを勝ち抜けた高校生には『高校生クイズ』のように、運営側が交通費と前泊の宿泊費を負担してあげる大会にするというのが、実は『ニュース・博識甲子園』がクリアしないといけないミッションだったんです。ちなみに、ほかの競技ってどうなんですか?
楠井 私は囲碁で全国大会に行ったことがあるんですけど、その時は交通費が出た気がしますねえ。学校からも、県からもお金が出ました。
――そう、高校生にはいろいろ補助が出るんですよね。もちろん将棋も出ます。
楠井 学校からも部費も当然出ますし。
神尾 あと、高校生だけで旅をさせるということは、基本的にないですね。
大門 ないですよね。
齊藤 『abc』や『高校生オープン』の場合は、予選と本戦を丸一日かけての1DAYマッチでやるので、東京まで来て予選を受けても、落ちたらあとは観戦だけになる。もちろん「観戦が楽しみ」という子もいると思いますけど、お金とかを考えると非常にもったいないですよね。そういう意味では「近くで予選が受けられて、通過したら全国大会に金銭的な負担なしで参加できる」、「大会の模様はテレビやインターネットで誰でも視ることができる」というのはぜひやりたいところでしたよね。
大門 で、さっきの話にリンクしますけど、日本クイズ協会という公的な団体がやる大会だから学校の先生は引率してくれるし、保護者も「行っておいで」と許可をしてくれる。公的な大会だから、正式に学校の許可を受けて参加できるというのは間違いないんですよね。
神尾 学校と保護者の同意、僕が今回の大会で一番こだわったのがまさにそこの部分で。まず学校側は、生徒が予選に参加するという段階から把握していると。肖像権についても、許可を受けた上で利用させてもらうので、学校名や顔写真が勝手に使われたりというのはない。やはり時代が時代なので、そういうリスクをなるべく減らすということが大事なんです。なのでこの点については、「同意書の提出を義務付ける」という形で行いました。この部分は、私が理事として協会に加入した直後から、ことあるごとに提案してきたものです。今、徐々にではありますけど、オープン大会等にもこの風潮が認められつつあるのは良い流れだと思います。あとは特に全国大会においての、保険への加入。いざということが起こった場合は、その保険で対応しますと。参加された顧問の先生から話を伺ったところ、「そういった書類や制度が整っていたので、学校側からほぼ二つ返事でGOが出た」、そういう風に言っていたところもありましたね。
大門 本当に良かったです。
神尾 さらには校長先生から餞別をもらったり、同窓会から支援金が出たりした学校もあったそうです。そういう話を聞くと、「目立つ部分ではないけど、根幹として絶対的に必要な、大切な部分をきちんと整備したから、第1回大会にもかかわらず認めてもらえたんだな」と、感慨もひとしおでしたね。
齊藤 生徒の皆さんには、同意書を提出することに関して「面倒臭い」って思って欲しくないんですよね。だって、そこでわずかな手間をかけることによって、あとから生まれる価値のほうが絶対に大きいので。難しい単語を覚えるよりも簡単にクリアできることなので、そこはぜひ協力して欲しいです。
神尾 確かにワンステップ、ツーステップは面倒くさいかもしんないですけど、それがあることによって、それ以外の部分が一切面倒臭くなくなる。それどころか、それをやらないことによって、いざということが起きた時に自分が好きなものがなくなっちゃう可能性、クイズというものの地位を危うくしてしまう危険性があるんですから。
楠井 「クイズって、実は危ない競技だ」って思われたら、もう終わりですからね。
齊藤 そうなんですよ。ただ、今後大会の規模が拡大していき、その人数分の保険料を協会が負担するとなると、やはりそれなりの金額になってしまうので……。その部分をクリアするため、そして大会そのものを維持していくためにも、我々の趣旨に賛同いただけた方にはぜひ会員になって支えていただけるとありがたいですね。
――高体連とかは基本的に、競技団体に加盟してもらって、その登録費の中で賄っていくという形ですものね。クイズ協会も、それと同じような手続きを踏んでいくのがスタンダードなのかなとは思いますね。
齊藤 そうですね。
大門 でも、今回はひとまず、高校生たちが自分のポケットから参加費とか交通費を出さずに成立させられた、というのは達成感がありますよね。これは今回のコンセプトに共感していただき、「ぜひ支援したい」と言ってくださったスマートニュースさんとZ会さんのご支援も大きかったです。本当に感謝しています。
クイズをスポンサードするメリット
大門 実はクイズって、森羅万象の物事を問うから、スポンサーしづらいんですよね。
――それは、どういうことでしょう?
大門 例えば「エコノミクス甲子園」という大会があるんですけど、この大会は金融に関する問題しか出題されないんです。そうすると「あっ、この大会に出る子は金融に興味ある子なんだな」ということが一目瞭然だから、金融業界にとってはスポンサーになるメリットがあるわけですけど。あるいは「埼玉クイズ王決定戦」だったら、埼玉県の地元の企業さんがスポンサーしたり。
――なるほど。
大門 ところが、まったくジャンルを絞らないクイズ大会の場合は、企業さんとかに話を持っていっても「うーんと、うちはどこに協賛すればいいんですか?」って。スポンサーのメリットを提示しにくいというのが、僕がクイズ大会をプロデュースをする上でずっとネックに感じていたことで。例えば、「うちの商品の問題を出してもらえるんですか?」って聞かれたりするんですけど、なかなかそういうわけにもいかないじゃないですか。
楠井 そうなんですよね。
大門 なので「“クイズ大会のスポンサーになるメリット”というものを、どうやって作るんだろう?」とずーっと考えていて……。ある時、ふと辿り着いたのがニュースなんですね。で、これが大発見だったんですよね! というのは、オープン大会以降の世代って、時事問題というものを結構軽く扱っていて。
――なぜなんでしょう。
大門 理由のひとつとして、「時事問題は旬が過ぎたら使えない」というのがあって。
楠井 去年の時事問題は、今年は出ないですからね。
大門 はい。なので「覚えても意味がない」とか「問題集になった時に邪魔になる」とかいうことで、嫌われがちなんですよ。
楠井 覚えても意味がないはひどい(笑)。
大門 でも、実際にそんなことを言われるんです。あと、テレビの場合は当然、時事問題も普通に出題されるんですけど、出る側にもかかわらず「それを対策するのが重荷になる」なんて反応もあったりとか。時事問題がマニアに嫌われてきたという歴史があるんですね。なので、オープン大会には「時事問題は少なくしよう」という風潮が長らくあって、その呪縛が今でも残っていて。「時事問題より定番問題とかアカデミックな問題の方が大事だ」みたいな。……で、ちょっと話は変わるんですけど、「そろそろ大会名を決めないといけない」という局面があって。
齊藤 ありましたね。「クイズ甲子園」という名称は諸事情があって使えなくて……。
大門 はい。でも「甲子園」という言葉は使いたいので、クイズという言葉をうまく言い換えて「○○甲子園」いう名称にしたい。そこで「クイズって何だろう?」ということを考えた時に、「あっ、クイズって時事問題と、時事じゃないエターナルな問題の2種類あるよね」ということをふと思って。それで「時事問題」は「ニュース」と言い換えられるんじゃないかと。そのあとで協会のメンバーで「“エターナルな問題”の言いかえになる、何かいい言葉がないか?」と相談したところ、「“博識”はどうだ」と。それで流行のポップスとか、これから上映する映画とか、ベストセラーになった本とかは「ニュース」、学校で習う科目は「博識」で『ニュース・博識甲子園』でいこうと。
――なるほど。
大門 で、その名前が決まった時に「あっ、もしかすると“ニュース”っていう部分に共感してもらえるスポンサーさんがいるんじゃないか?」っていうことに気づいて、スマートニュースさんに辿り着いたんですよね。
家族も応援できるクイズ大会
大門 それで松浦さんに相談したら、実はスマートニュースさんは会社のプログラムとして、すでに高校生のメディアリテラシーを手掛けていらっしゃったんですよ。それで、もう即決ですよね。「会社としてはメディアリテラシーを推進したい。それを高校生たちに知ってもらう機会があるんだったら、うちがやらなくてどこがやるんですか?」と言ってくださって。で、さらにその後、高校生の学習を応援されているZ会さんがバックアップしてくださることになった。そのおかげで、全国7か所にスタッフを派遣して予選会をやり、地方から勝ち上がった学校の生徒3名プラス引率の先生、計4名分の交通費・宿泊費を出せる体制まで持っていくことができたんです。
神尾 「引率の交通費も出す」っていう部分が素晴らしいですよね。普通の競技だと当たり前なんですけど。以前に地方のクイズ研の顧問の先生とお話させていただいた時に「交通費が出ないので、生徒たちだけで旅をさせざるを得ない。でも、それだと学校として認められない。だからオープン大会は、部活動として認められません。全部そこになるんです」「もし主催者からお金出していただいて、顧問が一緒に行けるような状態になれば、学校としても部活扱いでバックアップできるのに」と言われていて。今回、スポンサーさんのおかげで、この引率者分の交通費も出せたというのは相当大きいことだと思いますね。
――保護者の反応はいかがでした?
楠井 仙台第二のお母さんは、もう超喜んでましたよ!
神尾 全国大会では、大会期間中に何かあった場合に対応するために、参加校一人ひとりに保険調査票というのを出してもらったんですよ。なるべく送り出す保護者様に安心して送り出して頂きたくて。で、その時に「観覧・応援したい方は、ぜひお越しください」と案内したら、たくさん応援に来て下さって。特に仙台は、応援のうちわを作ってこられるくらい力を入れて。
楠井 うちわ、すごかった!
神尾 「どう使うんだろう?」と思ったら、もうバンバン振られてて(笑)。
楠井 で、ボタンを押したら「ワーッ!」って(笑)。
神尾 仙台はお母さんがお二人来られてて、二人でもう半泣き状態で大喜びで。
大門 そういえば、一家総出で来られてるところもありましたよね?
楠井 それは慶應の応援ですね。お父さん・お母さん・お婆ちゃんとか、5人で応援に来られてました。でも、その子がお手つきで飛んじゃって、すごい泣いてしまって……。
神尾 そしたらご家族が「とても声を掛けられないので、このまま帰ります」って言われて。
大門 高校野球みたいですねえ、ホントに。
神尾 よく「高校生だから、もう親なんて関係ないじゃん」とか言うんですけど、親からすると応援したいものなんですよね。特にクイズの場合、自分の子の活躍を現場で観るのは難しいじゃないですか。テレビのクイズ番組は後から放送されるけど収録の場には行けないし……。でも、今回は応援席を用意したので、リアルタイムに応援してもらうことができた。テレビの前の応援じゃないですから、声援も送れるし、終わったあとに声がけもできる。そこから僕らが思ってた以上のドラマが生まれましたね。
楠井 でも、それってほかの競技だと普通じゃないですか? サッカーだと練習試合を観に行くのは普通だし、私だってバレエのレッスンをいつも観てもらってましたし。
神尾 そうですね。普通の中高生の部活動だと「保護者ありき」までが普通なんですけどね。……あと、最後に仙台第二を東京駅までお送りした時、「こんなによくしていただいたクイズの大会なんて初めてです。こんなのがあるんですね」っていう風に、目をウルウルされながらおっしゃっていただいて。
齋藤 実際、これが初めての大会なんですけど(笑)。
神尾 だから、ホントに「そこまでやって良かったなあ」って思いますよね。……親からすると、子どもたちにとっての晴れ舞台、それこそインターハイ全国とかだったら応援に行きたいじゃないですか。「甲子園球場に応援行かないんですか?」って言われたら、行きますよね?
楠井 はい、行きます!
神尾 まぁ、「どんな小さな大会でも親が来ます」とてなってしまうと、それはそれでとは思うので、親御さんが見に来ることを想定しないような、小規模な大会があってもいいと思うんですけど。
齊藤 友達同士でやっているようなところに親や先生が来たら、「それは嫌だろう」と思いますしね。
神尾 でも公的な、ましてや全国大会という場で、先生なり、保護者様なりが大手を振って応援できるという環境があるということは素晴らしいと思いますね。
齊藤 そうやって公的な大会に応援に来てもらうのは、選手だってモチベーションが上がるでしょう。
神尾 学校名を背負ってるやる大会な訳ですから、もしこの大会が野球の甲子園みたいに大規模になれば、その県の出身者とかから震えるぐらい応援してもらえるかもしれないじゃないですか。それこそ、今年の金足農業じゃないですけど。
楠井 そうそう、みんなが地元を応援してね(笑)。
神尾 それこそ「寄付金が集まってくる」みたいなことになるかもしれないし。僕は「各都道府県の代表として戦う」とか「学校名を背負って戦う」ということは、世の中を動かせるぐらいの価値があると思っているので。将来的にはそこまで昇華すると素敵だなと思いますね。
大門 今回はその部分を感じてくれた地方の新聞社さんが反応してくださいましたね。
楠井 そうですね。長野の信濃毎日新聞が取材に来て下さいました。
大門 これは地元の松本深志が全国大会に進出したからですよね。
楠井 そうです。松本深志は準決勝まで行ったんですけど、女性の記者の方が休憩時間とかに熱心にコメントを取っていました。
齊藤 先生にも取材されてましたね。
――翌日の紙面には、「県内からは松本深志高校(松本市)が進出し、社会・科学・芸能などさまざまな知識や記憶力を競い合った」という記事が掲載されていました。
楠井 あとは読売中高生新聞ですね。紙面で記事にしてくださったのはもちろんですけど、インスタグラムにもリアルタイムで投稿してくださったんですよ。読売新聞の『「文化部魂」プロジェクト』のインスタ公式アカウントに、5回くらい投稿ぐらいしてくださいました。
齊藤 そうそう。で、それを見た高校生が「ネタバレしてますけど、大丈夫ですか?」って心配するツイートをしたり(笑)。
大門 ネタバレについては、今回は、大会の全試合を収録して、後日、動画配信サービスの「Paravi」で配信されることもあったので、どうしようか悩んだんです。最終的に「新聞やウェブですぐに記事してもらい、大会の認知度を上げてもらう方を優先しよう」ということで、情報規制をしないようにしました。
楠井 応援席にもリアルタイムで「誰が勝った」とか言ってくれてもOKですよ、と。あれは良かったんじゃないかと思いますね。
――そうなんですね。だったら、私も最初からもっとつぶやけばよかった(笑)。
大門 とにかく、広めてもらったほうがいいという判断で。やっぱり速報が出せると、記者の方のテンションも上がりますからね。読売の記者さんなんか、うちの公式カメラマンよりもあちこち動いて、いろいろと写真を撮ってて。
楠井 そうそう(笑)。さっき話題になったタイムアウトのシーンとか、すごく熱心に撮っていただいて。
大門 あの時はすごかったですね。一眼を持ったカメラマンさんが、5人ぐらい一斉にタイムアウト席に移動して撮るという。
今後の課題
――『ニュース・博識甲子園』第1回、おおむね好評で、成功のうちに終わったと思いますが、逆に何か反省点とかあります?
神尾 書類関係はもうちょっと準備時間を掛けて、体制を整えてやりたかったなってのはありますね。あと、全国大会進出が決まった学校に向けて、すぐに何かしら文書を出すべきだったかなとは思います。
楠井 大会の告知も、ちょっとギリギリにはなっちゃった形でしたね。発表が4月末でしたから。
大門 規模的にはこれが限界でしたね。少ない人数で回しているので、もし今後、全国予選を7会場以上にしようと思ったら、マンパワーは絶対足りなくなってしまいます。だから、もし今回の大会に共感してくださった方……例えば今回の第1回大会に参加して「良かった!」と思ってくれた高校生が卒業したあとで「後輩たちに同じ思いをさせてあげたい」と、作り手側として参加してくれるようになったりすると、もっともっと拡大できるかなという気はしますね。
――なるほど。齋藤さんはいかがですか?
齊藤 高校生たちや学校の先生と書類のやり取りをしたんですけど、それのやり方はもうちょっと考えないといけないなとは思いましたね。例えば、メールってものが、今の高校生たちには馴染みがないらしく……。
大門 高校生から来るメールが、LINEの文章なんですよね。名乗らず、要件だけピョッと返ってくるという。「○○様」という宛名も、自分の名前もなく、「送りまーす」みたいな。で、「君は誰?」って(笑)。
一同 (爆笑)
大門 添付書類のあるメールだったら、その中を見れば誰から来たかわかるんですけど。でも質問メールだと、質問だけしか書かれてなかったりして、謎すぎることがあるんですよね。なので「この人は出場者なのか、出場者じゃないのか?」ということすらわからず……。
――あははは(笑)。なるほど。
大門 あと多分、郵便にも慣れてないんですよね。もしかしたら年賀状すら出したことがないかもしれない。
楠井 書類の返送も、なかなか来なかったですもんね。
齊藤 郵便が返って来ないのはもちろんそうなんですけど、「封筒に中身が入っていない」とか「封筒の封をしてない」なんてのも2~3通あった(笑)。
――えーっ!
大門 個人情報の塊なのに!
楠井 怖い、怖い(笑)。でも普通の部活だと、そういう作業は学校側がやってくれるんですよね。
神尾 基本はそうなんですよね。まぁ、それをやらせることによって、子供たちがそういうことを覚えていくというメリットはあるかもしれないですけど……。でも、少なくとも全国大会あたりからは、窓口を学校の先生にするというのがベターかなとは思いますね。
齊藤 あと、来年は予選問題をマークシートでやりたいですね。今回は受験番号のマークミスなんかが心配だったので、ペーパーに書かせる形式にしましたから。
――あっ、そういうことですか! 今回、予選の問題形式を見て「解答する側・採点する側、いずれも大変だろうな」と思ってたんですよ。
楠井 いやあ、採点大変でしたね。……とか言って、私はちょっとしか手伝ってないですけど(笑)。
齊藤 採点は本当に大変なので、来年はぜひマークシートにしたいんですけど。
大門 その話もしたいですね。今回、『博識甲子園』に参加した316人の高校生と、『JQSグランプリシリーズ』に参加した142人の大人、合わせて460人ぐらいを採点したんですけど……。
齊藤 それが全部で3~4日は掛かったんです。ところが、そういう話を神尾先生にしたところ……。
神尾 僕らは「6000人の問題の採点を、6時間で終わらせなさい」という世界でやってるので。
一同 うわー(苦笑)。
神尾 しかもミスがあったら、新聞に出て公式謝罪をするんですよ(笑)。
――きついなあ、それ。学校の先生ほど大変な職業は、そうそうない。
大門 来年以降、間違いなく参加者は増えるはずなので、今から戦々恐々なんですけど(苦笑)。なので、もし今回「良かったな」と思ってくれた3年生の子たちが「採点手伝います」とか、そういう形で運営側に協力してくれるとありがたいですね。
番組コンテンツとしてのクイズ
大門 あと、触れておきたいのは乾(雅人)さんの存在ですね。乾さんはTBSの『SASUKE』を演出されているテレビマンの方なんですけど、2011年に『ワールド・クイズ・クラシック』という特番でクイズの世界に携われるようになって、「クイズのアスリートたちがあまりに面白い」と。
――私、『ワールド・クイズ・クラシック』は現地で観戦しました。乾さんが熱い方で、素晴らしい番組だと思いました。しかし、残念ながら視聴率が振るわなかったんですよね。あれだけのクオリティで視聴率が取れないとは……。一クイズファンとして、ガッカリした覚えがあります。
大門 それで、「この世界をもう一回番組にしたい」と言って作っていただいたのが、ファミリー劇場の『Knock Out~競技クイズ日本一決定戦~』なんですけど、それを作っている時に「クイズ協会も大会を準備しているんです」なんて話をしたら、「日本クイズ協会というのがやる大会は、絶対面白いよ! それもコンテンツにしよう!」とおっしゃっていただいて。それで、できたばかりのParaviに「独占配信するオリジナルコンテンツにしませんか?」と話を持っていってくださったんですね。
――なるほど。Paraviというサービスは今まで存じ上げませんでしたが、加入してみます!
大門 それで一番すごいのは、会場になるスマートニュースさんのスペースを下見していただいたのが、大会の1週間前なんですよ。この時、僕は内心焦ってたんですけど、美術さんと技術さんと照明さんに会場を下見してもらったら、現場で「こうしよう、ああしよう」というのが全部決まって。それから1週間で照明とか小道具を全部用意してくださったんです。さすがは『SASUKE』『Knock Out』のスペシャルチームですよね。……それにしても、『Knock Out』でもそうなんですけど、乾さんの機動力と人柄には本当に頭が上がらないです。
楠井 開会式とかプラカードのアイデアも乾さんなんですよね。
大門 そうなんです。下見の前に、一度TBSで会議をしたんですけど、その時に「『甲子園』というなら、やっぱり高校野球をイメージしたいよね」と。テレビというのは、元々あるもののオマージュというのはすごく伝わりやすいんですね。で、『Knock Out』の場合は格闘技をオマージュしているんですけど、「今回は野球をオマージュしよう」という話になって、「大門さん、プラカード持って入場式って良くない?」「それ、最高ですね!」と。
楠井 あれ良かったですよね! あと、タイムアウトを取る時の見せ方なんかも……。
大門 それも乾さんですね。「タイムアウトの場所は、ここにしましょう!」とか。そもそも今回の会場というのは、会社の食堂を兼ねたフリースペースだったんですよ。イベントホールですらないという。それなのに、乾さんたちの手にかかると、あっという間にスタジオに早変わりしたという。
楠井 あと、収録当日の「今から、はい、拍手!」みたいな仕切りもすごかったですよね(笑)。
齊藤 あー、確かに!
大門 それも伝えたいですね! ずっと素人参加番組を仕切ってこられたプロフェッショナルの乾さんが「じゃあ5秒前から拍手お願いしまーす!本番5秒前!」と言って始めると、場の雰囲気がガラッと変わる。それは『Knock Out』の決勝大会でも、今回の『博識甲子園』の全国大会でも同じなんですけど……。
齊藤 すごいピリッとしたね。
大門 そう。あとは出場者に対して注文をつける時の説得力も、やっぱりすごいんですよね。例えばボードクイズの時、ホワイトボードに答えを書いて出してから、答えが発表される前に、「自分は正解だ」と確信して消しちゃう子がいたんですよ。これ、悪気はなかったんです。ただ単に、普段の例会とかオープン大会と同じ感覚でボードを下げちゃった。でも、そこは消しちゃダメなんですよね。
楠井 そうですね、テレビ的には。
大門 それはショーとしての段取りですから、出しておかないといけない。そしたら、フロアディレクターがそこをピリッと「あっ、これテレビの収録なんで、出しておいてもらえますか?」ってパッと言って、それで「あっ、すいません」ってなった。これはおそらく、クイズ畑出身の僕が言うのと、テレビのディレクターが言うのとでは説得力がまるで違うんですよ。
楠井 あと、Paraviのカメラが入ったことで公式感が出ましたね。
大門 ステージが一個上がったんですよね。もう感謝しかないですね。で、これから行われる『JQSグランプリシリーズ』のトップリーグも、同じく乾さんのチームが番組としてきちんと成立する形で入ってくださいます。
齊藤 それによって、会場も変わることになったんですよね。
大門 はい。当初は代々木のオリンピックセンターというところで、普通の大会としてやる予定だったんですけど、トップリーグに関しては番組を作るという前提で、スタジオを使ってやるということになりました。参加する人も、一層テンションがあがると思いますね。
今どきの少年、少女たち
齊藤 『甲子園』に話を戻しますけど、仙台第二や福岡高校の生徒たちは、テレビはおろか、クイズの大会に出ることも初めてだったんです。ということは、彼らは配信番組ではあるけれど、テレビの番組制作スタッフが作っているピリッとした空間でやるというのがデビュー戦になったわけで、そこは大きいと思いますよ。
大門 やっぱり、「友達同士の空間」と、「テレビや配信のカメラも入っていて、ご家族が応援してる空間」というのは絶対違うんですよね。で、そういう場で、他人の目を意識した発言ができるようになると、場の空気や流れも作れるようになる。そうすると勝負の上でも勝てる確率が上がっていくんです。こういうハレの舞台で、競技をやることの意味とか大事さみたいなのを学んで欲しいですよね。
神尾 人から観られるということは、特に中高生にとっては大切ですよね。「世間からの目」とかいろんなことを覚えて、社会に出ていくっていう風になるわけですから。そういう機会が高校生のうちに与えられるというのは、本当に貴重なことだと思いますし、そういう機会の場を作るうえでParaviさんが入ってくださったというのは本当に大きいなあと思いますね。
齊藤 まさに公共性ですよね。
――それにしても、大会に参加していた選手は、みんないい子に見えましたね。最初の選手紹介の際のしゃべりも上手いし、性格もいい。
神尾 私、宿泊スタッフやりましたけど、最後に「忘れ物がないか?」と部屋をチェックして回った時、みんな部屋の使い方が本当に綺麗で驚いたんです。「うちの生徒に見習わせたいよ」とか思いましたね(笑)。しかも、布団とかも整えてあるし、流し回りまで綺麗になってるし……。「ほんとに泊まったんですか?」みたいな。
大門 そうだ、前泊の話もしましょうよ。今回、地方から遠征してきてくれる高校には『高校生クイズ』と同じように、移動日として前日に上京してもらったんですよね。まず、羽田空港や東京駅まで迎えに行って……。
――あー、そこまでやってらしたんですね。まさにおもてなしだ。
齊藤 はい。迎えに行って、宿泊先の五反田のホテルまで連れて行くというところまでやりました。で、女子生徒もいるので、宿泊先には男子担当のスタッフと女子担当のスタッフに一名ずつ泊まってもらって。
大門 その送迎をするというアイデアも神尾先生だったと思うんですけど。
神尾 はい。客観的に考えて、こんなゴミゴミした東京の交通網に、地方にいらっしゃる先生とそのお子さんたちだけで「新宿で降りて五反田まで来て下さい」とか「羽田空港で降りて五反田まで来て下さい」というのは、ちょっと酷でしょと。それに、お出迎えをして「ちゃんと一選手・一代表校として敬意を表してます」というのを見せたほうが、それこそ大会の格が上がると思ったので。
齊藤 その辺の細かいところは、私と神尾先生は意見が一致するんですよ。新幹線も改札ではなくてホームでお出迎えするようにしました(笑)。電車は全部こちら側で用意して切符を郵送しているから、到着時間も車両の番号も分かったんです。なので「その車両のところに行って迎えてね」って言って。
神尾 「代表校御一行様」っていう紙を持って(笑)。だから、電車から降りてきてそれを見た時は「えっ、ここまで来て下さるのですか?」ってすごく驚かれてましたね。でも、参加される地方の学校からすれば、「ここからご案内します」ってなると、安心できるじゃないですか。
楠井 それはうれしいですよね。
神尾 あと、地方の子たちは感動の仕方が素直ですよね。「NHKがこんなに近いところでクイズできるんですねえ」とか言って、目を爛々と輝かせたりとか。そういうのを見てて、「ああ、こういう子たちがスムーズに参加できる大会で良かったなあ」と本当に思いましたね。
大門 これは別に今回の参加校云々の話じゃなく、あくまで一般論ですけど、首都圏にいてクイズが当たり前にできる環境がある子っていうのは、実はすごく恵まれているんですよね。
楠井 うんうん。
大門 今回、地方の子たちを見て、改めてそういう子たちにチャンスをあげなければいけないと感じました。
楠井 そういえば今回、控室で高校生たちが地方・首都圏関係なく仲良くなって、待ち時間の間、みんなでクイズをしてたんですよ!
神尾 そうですね。あと、仙台の子と松本深志の子は、事前に色紙を作ってきてたり。
齊藤 あっ、書いてた、書いてた!
神尾 仙台の子たちは真ん中に「仙台第二クイズ研究会さんへ」って自分たちで書いて。で、それを他の高校のところに持って「一言書いて下さい」って言ってて。それを見て、「この子たちはすごいな!」と思ったんです。というのは、僕が関わっている「ディベート甲子園」では、それを公式にやってるんですよ。試合の時に各チームに色紙を渡しておいて、「対戦校に渡して下さい」というのを義務付けている。
――なるほど。
神尾 それを彼らは自分たちでやってたんですよね。で、大会が終わって仙台第二を東京駅まで送っていく時に、川嶋(大斗)君に「色紙を書いてもらってたよね」って話を振ったら、「せっかくこういう場に参加させていただいたんで、いろんな人と交流広げたいし、想い出を形にしたいと思ってやったんです」って。
――さわやかな少年・少女たちだなあ……。その仙台の川嶋君が早押しで1抜けして、「スタープレイヤーたちと一緒にやって、一番で抜けられて最高です」って言ってた時は「いやあ、いいシーンだなあ」と思いましたね。まぁ、実は彼だって、1年生で予選全国4位の強豪なんですけど。
楠井 すごくさわやかでしたよね、彼。
女性とクイズ
――ちなみに今回女子で選手として出場していたのは、仙台の一人だけでした。これはもう将棋界もそうなんですが、女性の競技人口がまだまだ少ないのは、クイズ界にとって課題のひとつなのでしょうね。
大門 それなんですけど……。実はクイズ協会が小中高生のクイズ体験会を開催したら、参加者の8~9割が女子の生徒だったんですよ。
――えっ、そうなんですか?
大門 これにはいくつか理由があると思うんですけど、ひとつは元からクイズに興味がある男の子は、学校のクイズ研などでクイズをすでにやっているので、わざわざクイズ協会が初心者向けに開いているクイズ体験会に来る必要はないということですね。実際、強いクイズ研究会っていうのは男子校が多いじゃないですか。とすると、体験会に集まってる子というのは、女子校だったり、共学でもクイズ研がない環境の子がほとんどいうことになる。逆に言うと、女子のほうがクイズをする環境に恵まれてないんだろうなということが推測できるんですね。
――なるほど。
大門 あと今は『東大王』とか『QuizKnock』とかを見てクイズに憧れてクイズに興味を持つ子が多いんですけど、これは圧倒的に女子が多いと思います。なので、僕はおそらく近い将来、クイズ研の男女比が大きく変わるというパラダイムシフトもありうると思っているんですよ。
――いい傾向ですね。明るい未来が開けそう。
大門 だた、女子の比率が今以上に大きくなった時に、セクハラみたいなことが起きないよう、受け入れ体制を健全な形にしておかねばいけないと思います。いつクイズの世界がワイドショーや週刊誌で報道されるかわかりませんから。
――クイズ界に限らない課題ですね。
神尾 いま大門さんがおっしゃった通り、確かに現場で見てると、『東大王』の影響もあってかキラキラした中1・高1女子がそれなりに入ってきてますね。ただ過去にも「クイズの世界がカッコいい」という風に思って入ってきた女子がいたにはいたんですけど、相当ディープにならないと生き残れないみたいな環境だったので……。だから、もっとライトな子でも残っていける環境もあっていいのかなと思いますね。それこそ自分の知っている知識、例えば今のトレンドのファッションの問題なんかを気軽に押せる楽しい環境とかあれば、そういう子たちも生き残っていけるのになあ、と。
楠井 この流れで、「クイズ女子会」の話もしていいですか? 実は今、まさにそういう、私みたいな初心者でも楽しめるクイズの場を作ろうと思っているんですよ。トレンドとかグルメとか芸能とか……。「クイズのために知識を仕入れよう」というコンセプトではなくて、「クイズはあくまで手段として楽しもう」というコンセプトで。知らなくても「あっ、今、表参道にそういう新しい店できたんだ。今度行ってみよう」みたいな(笑)。そういう、「気分が上がるクイズ」を目指して「クイズ女子会」というのを始めてみようかなと。
――なるほど。
楠井 まぁ女子会に限らず、「頂点を目指さずともクイズを楽しめる環境」というのも、いろいろとやってきたいですよね。「クイズというものの種類を増やしてきたい」みたいな感じというか……。競技クイズはもちろんクイズだと思うし、『ニュース・博識甲子園』のようにニュースを意識したのももちろんクイズですけど、「女子が知ると気分が上がる」みたいなやつも一種のクイズだし。実はこの前、20人ぐらいの知り合いの女子を集めて女子会やったんですけど、その時にクイズを出したんですよ。みんなが所属している会社に関するクイズなんですけど。証券会社の広報の方が来てたので、「○○証券の手数料はいくらである。○か×かみたいな」(笑)。そしたらすごい盛り上がって! だから、クイズにはいろんなあり方があっていいと思いましたね。
大門 誤解されがちなんですけど、日本クイズ協会は「競技クイズの団体」ではないので、競技クイズだけを推し出していくわけではないんです。クイズを始めたい人に向けたクイズもそうだし、それ未満の「クイズの世界に足を踏み入れようとしてない人たち」ですら対象だと思っているので、そういう試みはいろいろやっていきたいですね。
齊藤 全くですね。例えば、乃木坂46の高山一実さんもそうですよね。彼女は別に競技クイズのプレイヤーではない。でも、『ニュース・博識甲子園』について「これ、見たさしかない」と言ってくれる。
――ネットでつぶやいてましたね。
大門 高山さんは、まさに観るのが楽しいという層ですよね。僕と同じで。
齊藤 そういう風に、いろんなコミュニティがあって全然いいんですよ。だから、プレイヤーとしてやる人ももちろん大事ですけど、クイズを観るのが好きという人たちだって大事。そういう人達が『博識甲子園』に出る高校生だったりとか『グランプリシリーズ』で活躍する大人たちのサポーターになっていってくれるかもしれないし。
大門 あと、やりたいのは小学生・中学生。
楠井 ぜひやりたいですね!
大門 それと、上はシニアもですね。もう、あらゆる世代・あらゆるセグメントでやっていきたい。
神尾 そういう部分の多様性は示していきたいですよね。僕が協会と関わり始めた時とか「協会はクイズの形を決めようとしている」みたいなことを言われたんです。でも、協会の一員として活動をしている僕からすると「そういう声を寄せてくる人こそ、クイズの形を決めてるんじゃないですか?」という気がしますね。それこそ「早押しクイズ至上主義」「競技クイズ至上主義」みたいな……。
――なるほど。
神尾 それこそ大門さんが言った通り、「中学生もガチになれる場もあります」「高校生もガチになれる場もあります」「大人に至ってはガチでやれる場もあればライトにできる場もあって、さらに女子でもシニアでも楽しめます」って。そういう様々な機会提供の発信源として、協会をやっていくのが一番いいことですよね。
大門 そうなんですよ。……それにしても、クイズ協会というのはクイズの形を規定するための組織ではないのに、未だにそういう批判をされがちですよね。もしかすると、協会にご自分の思想や願望を投影してしまっているのではないか、とも思うんですけど。といいつつも、ご意見やリクエストはどんどん言っていただきたいんですよ。
楠井 ご意見やリクエストは欲しいですよね。多少面倒臭いことでも、できることだったら我々がお手伝いしますので(笑)。
大門 協会も方向性の舵取りで苦心していた頃は、例えば公式サイトやTwitterがなかなか更新されないことに対し「発信力がない」とか、さんざん言われたりしてたんです。でも、今は楠井さん・木村めぐみさんといった、メディアに長けた方、国際感覚に優れた女性の方が理事に加わっていただいて、積極的に情報を発信できるようになって。いろんな面でクイズ協会も変わっています。
神尾 でも、ホントにいろいろな意見をいただきたいですよね。で、批判されるんだったら、ひとまず「ぜひ顔をつき合わせてお話ししましょう」っていう。我々もまだ、始まりたてに近い団体なわけですから、いろんな意見を聞きつつ、いいものについては「あっ、それはいいですね。取り入れましょう!」っていう感じでやっていきたいと思っているので。
大門 実際、ちゃんと会って意見を伝えてくれる協力者の方もたくさんいらっしゃいますものね。……ともあれ、まずは2年間かけてコンセプトが固まり、それに共鳴していただける協力者の方が集まり、ようやくそれを具現化した大会を2つ立ち上げることができて。特に高校生には、スポンサーさんのおかげで、無料で参加していただける大会が実現して。で、社会人の方は、ようやくサービスとして実施する大会が準備できたので、これによって正式に会員を有料化するところまで漕ぎ着けられました。でも、これでやっと入口に立った段階なので。来年度以降は、今回のインタビュー記事を読んで「そういうことだったら協会のやりたいことに協力するわ」と思ってくださるいろんな方の力をもって、僕らの頭の中にあるアイデアをどんどん実現させて、会員向けのサービスを増やしていきたいな、というところですね。
齊藤 『ニュース・博識甲子園』に出た高校生とか、『グランプリシリーズ』に参加する人が、我々以上に協会のことを発信してくれる人になってくれるというのが理想ですね。そのためにも、真の意味でのホスピタリティはちゃんとしておかないといけないなと。その部分はちゃんと整備していきたいですね。
大門 あとはバリバリやるプレイヤーの人だけでなく、クイズを見るのが好きな人たちにも満足してもらえるような協会の行事を増やしていきたいですね。そして、我々の理念に賛同いただける方には、ぜひサポーターになっていただいて、一緒に盛り上げていってもらえるとうれしいです。
――本日はいろいろ興味深い話をうかがえました。ありがとうございました。齊藤喜徳 パズル作家。1991年に『第6回史上最強のクイズ王決定戦』で準優勝。2016年に一般社団法人日本クイズ協会を設立。
大門弘樹 (株)セブンデイズウォー代表取締役。2014年に『QUIZ JAPAN』を創刊。日本クイズ協会設立時に理事として参加。
神尾友也 栄東中学・高等学校教諭。2017年に理事に就任。
楠井朋子 ウェブメディア編集長。2018年に理事に就任。
「第1回 ニュース・博識甲子園」全国大会の模様をネット配信サービス「Paravi(パラビ)」にて一斉配信中!登録月は無料でこ視聴いただけます。熱い闘いにぜひご注目ください!
https://www.paravi.jp/title/30740
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