久々にすごい番組を観た。6月28日(水)に3時間特番として放送された『くりぃむ VS 林修!超クイズサバイバー』(テレビ朝日)は、競技クイズの実力者たちがカジュアルなテレビクイズに挑むという、実に興味深い挑戦的な内容だった。
この番組の前身となった『クイズサバイバー』は、同局の『Qさま!!』や『ミラクル9』を牽引するスターが一堂に会し、「芸能人チーム」と「知識人チーム」に分かれてクイズを競うハンディキャップマッチの面白さをウリにした番組。
その雛壇に座ることは、芸能人だけの特権……のはずなのだが、実はたった1人、素人ながらレギュラー出演を続けた男がいた。ご存じ、東大生クイズ王の伊沢拓司である。「林修先生の元教え子」として番組に召喚された伊沢は、毎回、くりぃむしちゅーにおいしくいじられながら、クライマックスで見事なセーブを見せ続けた。
この伊沢の活躍が、番組側に「素人のクイズ王をもっと混ぜても面白いかもしれない」と思わせたか、「芸能人チーム」と「知識人チーム」を一つのチーム(芸能人チーム)に再編し、新たに結成された「最強クイズ王10人によるチーム」と対決するというリニューアルが行われた。
特殊な場合を除き、地上波ゴールデンのクイズ番組の門戸が芸能人のみに限られるようになって、10年以上が過ぎた。そのような状況の中で、予想だにしなかった地殻変動が突如起きたのだ。
3時間特番の命運を10人のクイズ王に賭ける局の決断にも驚かされたが、それ以上にクイズファンを驚かせたのはその人選だ。
一言で言えば、若いのだ。
四半世紀前のクイズ王バブルを支えたレジェンドは長戸勇人たったの1人。40代も奥畑薫と山内奈緒子のみで、その奥畑も過去の実績ではなく、あくまで昨年CSで放送された『Knock Out~競技クイズ日本一決定戦~』(ファミリー劇場)優勝という直近の実績が評価されてのことだろう。
ちなみに『Knock Out』の本戦出場者は10人中5人。「QUIZ JAPAN」が企画したガチンコの日本一決定戦のファイナリストたちが、いわば「クイズのオールスターゲーム」ともいえる当番組に選出される図式は実に感慨深い。
かくして若返りを図ったクイズ王オールスターズであるが、彼らが日ごろ嗜んでいるのは、もはやテレビクイズとは別世界のものとなっている競技クイズである。そんな面々が、どのようにテレビクイズと組み合うのか? 視聴前の筆者の興味はその点にあった。
実は『Qさま!!』には、何度かこうしたクイズ王やクイズ研究会の猛者が挑んでいるのだが、意外なことに、クイズ王が苦戦をすることが多いのだ。
クイズ王たちは、早押しクイズを主体とした競技クイズに特化するあまり、映像クイズ・音楽クイズ・漢字パズルとった、知識だけでなく、視覚や聴覚、右脳のひらめきまで幅広い能力が要求される現代のテレビクイズに翻弄され敗退を余儀なくされた。バラエティ経験が豊富な伊沢も、また今回選抜された廣海・奥畑・鈴木も、この洗礼を受けている。
断っておくが、これをもって「クイズ王はふがいない」と言いたいわけではなない。普段からこうしたビジュアルクイズに慣れ親しんだ芸能人たちの経験というものは、いかにすごいのかということが言いたいのだ。『Qさま!!』のレギュラー出演者として、何十回と螺旋階段を経験しているやくみつるやカズレーザーを相手に、テレビ出演自体の経験が乏しい一般人にたった1回の挑戦で勝て、と言う方が無茶な話なのである。
そういう意味では、今回の『超クイズサバイバー』は、「競技クイズのスペシャリストたちが、カジュアル路線に進化した現代テレビクイズにガチで挑んだとき、どのような結果になるのか?」ということを可視化させた番組だったといえるだろう。
冒頭の「ですが…クイズ」で10問中9問正解と圧勝したクイズ王チームが、一転して第2コーナーの「漢字パズル」で10問中わずか2問と沈黙したシーンは象徴的だったのではないだろうか。
その後も、クイズ王チームと芸能人チームの一進一退が続き、最後の最後までどちらが勝つかわからないという、絶妙のバランスで3時間を走り切った。このような均衡を生み出した制作陣の匠の業に拍手を送りたい。
かつてTBSで放送された『オールスター激突クイズ!当たってくだけろ!』では、読み上げの早押しクイズ問題を前に、芸能人はどうあがいてもクイズ王には歯が立たなかった。ヒールとしてのクイズ王の存在感は、畏怖すら感じさせる凄みがあった。
あれから25年を経て、クイズ王たちが絶対的な壁ではなくなったことに関しては、マニアとしては一抹の寂しさも感じないわけでもない。ただ、その一方で、クイズ王たちがバラエティ場組の一員としてこんなにも重宝される日が訪れたことに、新鮮な感動を覚えてもいる。地上波で居場所を失っていたクイズ王たちに、まさに一周回って脚光が当たったというわけだ。
願わくば、ストイックな競技クイズに注目が集まる昨今だからこそ、一方のカジュアルなテレビクイズの面白さも評価されるきっかけになればと思う次第である。(QUIZ JAPAN編集長・大門弘樹)