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『99人の壁』はフジテレビ復活の嚆矢となるか?

フジテレビらしい番組。『超逆境クイズバトル!!99人の壁』をあえてそう評したい。

実はフジテレビはテレビクイズ史において、エポックメイキングな番組を生み出し続けてきたテレビ局であった。古くは『クイズグランプリ』『クイズ・ドレミファドン!』、そして80年代には『なるほど!ザ・ワールド』。そして、その代表例として、真っ先に名前が挙がるのは『カルトQ』(1991~93)だろう。フジの深夜番組黄金時代に放送されたこの番組は「クイズ番組はあらゆるジャンルから出題されるもの」という暗黙の了解をぶち壊し、「広く浅く」知っているクイズ王ではなく、「コアに深く」知っているマニアに光を当てた、画期的なクイズ番組だった。

2000年には世界的な人気番組である『クイズ$ミリオネア』の日本版の放送を開始。日本クイズ番組史上最高額(当時)となる1000万円の賞金として大きな話題を呼んだ。

しかし、現在のフジテレビには、レギュラー放送されている視聴者参加型のクイズ番組はひとつもない。いや、フジテレビ以外に目を転じても、一般の視聴者が解答席に座れるクイズ番組は『アタック25』を残すのみ。テレビでは毎日、多数のクイズ番組が放送されているものの、その大半はタレント、もしくは一般人の中でも「東大生」のようなブランドをもつ者しか出ることができないのだ。

なぜ、視聴者参加型のクイズ番組が姿を消したのか? 様々な要因が考えられるが、そのひとつとして「一般人をテレビに出す時、その人となりを理解させるのに時間がかかる」ということが挙げられる。「この出場者は年齢がいくつぐらいで、どういう職業の人で、なぜテレビに出ているのか」ということを説明しないと番組を観てもらえない。しかし、視聴者にとってはそれを把握するのがめんどうくさい。であれば、説明せずともキャラがわかり、リアクションも期待できる芸能人で固めた方がいい。これが、抗うことのできないテレビクイズの潮流……のはずだった。

ところが、昨年末に放送された『99人の壁』は、そんなハードルを軽々と飛び越えた。第1回の出場者は100人の一般参加者。それぞれが得意ジャンルを持ち寄り、一点突破で100万円を目指す。つまり、挑戦者の得意ジャンルが明かされた段階で、「この人がどういう人物か」ということが一目瞭然となり、視聴者は一瞬にしてキャラ把握ができるのだ。これは視聴者参加型のクイズ番組にとって、30年来ネックとなっていた課題への見事な解答だった。

また、視聴者参加型に限らず、クイズ番組の多くは、わずか数名の出場者が長時間テレビ画面を占拠してきた。もちろんクイズ番組としては当たり前の作りなのだが、今の時代、求められるキャラクターの要求は上がる一方だ。しかし、『99人の壁』は1人あたり最大でも5問しか挑戦できない短期戦。しかも、阻止されたら即攻守が入れ替わる。このめまぐるしいスピード感は、従来のクイズ番組にはなかったものだ。これもまた、大きな「発明」といえよう。

「自分だけが知るカルトなテーマ」で「一般視聴者が一攫千金をつかむことができる」。『99人の壁』は、今はなき『カルトQ』と『クイズ$ミリオネア』のいいところを掛け合わせているように、筆者には感慨深く映った。ただ、それは偶然の産物なのかもしれない。この番組の企画・演出を手がけている千葉悠矢氏はまだフジテレビ入社3年目(企画当時は入社2年目)。わずか5分で考えた企画が、フジテレビ社内の企画プレゼン大会で優勝して番組化されることになったという。千葉氏にとって、『ミリオネア』はともかく、『カルトQ』に至っては本放送時に生まれてすらいない番組だ。観たこともない番組を作り出そうとするコンセプトワークが、結果的にクイズ番組の課題解決につながったのではないだろうか。

企画者は入社2年目! 話題のクイズ番組『99人の壁』奇跡連発の裏側
https://news.mynavi.jp/article/20180404-99wall/

第1回の好評を受けた『99人の壁』はプライムタイムに舞台を移し、さっそく第2回で大きくハネた。小学生の挑戦を別の小学生が阻止に回り、第1回で惜しくも100万円を逃した切手マニアの青年は番組史上初の5問制覇でリベンジ達成。さらには、X JAPANのToshIがまさかのジャンル(ガトーショコラ)で100万円を獲得……と、奇跡のようなシーンが続出したのだ。優れたクイズ番組はドキュメンタリー番組でもあるのだが、まさに『99人の壁』は紛うこと無きドキュメントだった。わずかな準備期間で100人分・100ジャンルの問題を用意し、メイクドラマに貢献した問題作成スタッフにも拍手を贈りたい。

先月放送された『とんねるずのみなさんのおかげでした』の最終回では、とんねるずが「フジテレビをおちょくるな」と歌い話題となったが、これだけ斬新なクイズ番組を生み出せるのだから、フジテレビはまだまだ捨てたものじゃない。フジテレビの逆襲にこれからも期待したい。(QUIZ JAPAN編集長・大門弘樹)

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