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INTERVIEW

乾 雅人インタビュー 『QUIZ JAPAN vol.1』より抜粋

乾 雅人インタビュー 『QUIZ JAPAN vol.1』より抜粋
演出家
乾 雅人 Masato Inui1964年生まれ。テレビ朝日でアルバイト後、1990年にライターズオフィスに入社。2004年に有限会社フォルコムを設立。代表作に『クイズ100人に聞きました』『スポーツマンNo.1決定戦』『筋肉番付』『SASUKE』『DOORS』『Dynamite!!』『K-1 WORLD MAX』『世界卓球』など。2012年より『リアル脱出ゲームTV』を立ち上げた。2011年、突如として生まれた『ワールド・クイズ・クラシック』。
『SASUKE』を生んだ稀代の演出家はなぜクイズに着目したのか。
夢を追うひたむきな人間を追い続けてきた男気のテレビマンが見た、クイズの世界とは?

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『早押王』をみて、これは『クイズ道』という武道だと思った

——乾さんが『WQC』を立ち上げられた時にクイズファンが注目したのはツイッターだったんです。番組が形作られていく過程がツイッターで可視化されるという経験はとても興奮しました。
乾 クイズファンの方々ってたくさんいらっしゃるじゃないですか。『リアル脱出ゲームTV』の今のやり方もそうなんですけど、まずはその謎解きマニアとかクイズマニアの人を味方にしないと、ダメだなって思ってるんですよ。解答者、出場者に対してどれぐらいきちっと向き合っているかっていうのをダイレクトに伝えられる手段としてSNSは非常に良いツールなので、『WQC』に関しては特にそれを意識したんですよね。

——ツイッターからもう番組が始まってるというワクワク感は昔のクイズ王番組では考えられなかった興奮でしたね。そもそもどのようにして企画がスタートしたのですか?
乾 もともと矢野(了平)君と僕が『QUIZ! 50/50』というTBSの二択クイズの特番を一緒にやったことがありまして。矢野君はそのクイズのチーフで。構成のチーフは別にまたいたんですよ。僕はそのクイズの中身に関して直接のサジェスチョンをしたわけじゃなかったんで、矢野君とはそんなにたくさんしゃべってたわけじゃなかったんですけど。それが終わって何年もツイッターではちょくちょくやり取りはしていて。ある日、ツイッターでちらっとしゃべったことが炎上しまして。その炎上を沈静化させてたのが矢野君だったんですよ。

——すごいきっかけですね。
乾 僕はその間ツイッターを見てなかったんで、その経緯を後で知って、矢野君に申し訳なかったなっていうのがそもそもの発端だったんです。で、企画を作りましょうよってツイッター上で喋って、改めて矢野君と藤原(裕)くんという作家と3人でここ(フォルコム)で会って。

——まさかのツイッターきっかけなんですね。
乾 そうです。ツイッター炎上きっかけなんです。で、ここで何をやろうかって話になり、その時に『WQC』の最初の「ア・ラ・カルト」の仕組みはできたんですよ。「こういうのはどうなの?」って矢野君に聞いたら「面白いですね〜」ってなって。じゃあそれを企画書に書いてみよう、っていうところから始まったんですよ。で、イラスト描いて、編成の奴とその後に飯を食ったんですよ。

——畠山(渉)さんですか?
乾 そうです。「乾さん何か企画書を下さいよ」って話になって、「そういえば一個あるわ、見る?」って。で、畠山君もここに来て「これはすごく面白いじゃないですか。やりましょう!」って話になったんです。で、改めて企画をちゃんとした体裁にしようと、「ア・ラ・カルト」だけじゃなくて、いろんな仕組みを矢野君と考えて、また企画書を作り直して提出したっていうのがそもそもの原案ですよね。矢野君も「『ウルトラクイズ』や昔TBSがやってた『クイズ王決定戦』みたいなのをちゃんとやりたいっていうのをずっと思ってるんです」っていう話をしていて。その時に雑談で、『早押王』とか『abc』みたいな話も聞いて。

——クイズ界というコミュニティがあるんだという話を。
乾 そうそう。それを聞いて面白いなあって思ったんですよね。「今、クイズ界ってこういうことなんですよ」っていうを、矢野君がずっと熱く喋って。「テレビのクイズとは違う町場のクイズの人たち、市井のクイズマニアたちが目指すものが欲しいです」って。そういうのがあるんだったらそれをぜひ見たいなあって思ったので、それで多分『abc』か何かのDVDを借りて見たんですよ。そしたら何かすごいじゃないですか。体育館みたいなところでワーワーやって。イベントとしてみんなで盛り上がってる感は出てたので、面白いなあって思って。

——『早押王』にも取材でいらっしゃってましたよね。
乾 『早押王』はぜひ見たかったんですよ。いろいろ参考にさせていただいたところもいっぱいありましたね。「クイズ道」ってあるじゃないですか。まず驚いたのは早押しの前のボタンチェック。

——『WQC』の準決勝でもボタンチェックをする様子がオンエアされてましたよね。あれには驚きました。
乾 ボタンチェックって、もはや儀式じゃないですか。この道を極めていくっていうのは非常に面白いなあ、これをテレビにしたいなあって思ったんですよね。いやらしいテレビ屋の感覚で見ても、これは面白いなあって『早押王』を見て思ったのが最初なんですよね。それとイベントとしてきちんと成立してたっていうのがショックだったんですよね。多分、市川(尚志)さんとか運営サイドですごく苦心なさって、言ってもガチの人たちが集まってくるわけですから、その人たちが揉めないようにシステムをちゃんとしましょうっていうのができてないと、ああいうイベントって揉めるじゃないですか。僕、『SASUKE』とかイベントっぽい番組が多いじゃないですか。ああいうものって大体こうクレームの対象となり得ることがいっぱいあるので、そこの落ち度をどう対処してシステムとしてきちっとしていくかっていうのは、「テレビの収録だからしょうがねえだろ」っていうので大分押さえつけてる部分もあるので。それが全然そうじゃなくて、趣味の集まりの方々が集まって、運営している側もプレイヤーだったりするわけじゃないですか。そういう方々の集まりの中で、ああいうシステムっていうのが一つ出来上がっているっていうのはものすごくびっくりして、刺さったんですよね。プロデューサーの菊野(浩樹)っていうのも『早押王』に行って。あまりの衝撃で、「いやあ、こういうのをぜひちょっと放送としてやりたいね」って。すごくモチベーションが上がったのが『早押王』だったんですよね。

——ツイッターでアスリートって書かれてましたもんね、その日の夜に。
乾 はい。アスリートでしたね。やっぱりマニアックな方々のマニアックなイベントだと思ってたんですよ。そうじゃなくて試合だったので。これ試合だなって思ったのがすごいショックだったんですよね。拍手がちゃんと起こる。で、「問題!」って言った後のきちっとした静かな感じ。問題の途中でボタンが押された後の「おお?っ」っていう歓声。矢野君曰く「あそこで押すんだ」っていう感じの。僕らは単純に「早い!」と思って歓声が起こってるのかと思ってたんですけど、それもあるけど多分「この問題をここで押すんだ」っていうのをみんな驚いている瞬間なんですよっていうのを聞いて、深いなあって思って。そういうのがもし放送で出るようなことができるんだったらやりたいなっていうのもあって、どんどんそうなっていったんだと思うんですけど。作る途中の経緯としては、矢野君から聞いた話と『早押王』というのはすごく参考にさせていただいてたんですよ。

関連記事:乾 雅人×斉藤 哲夫インタビュー(PART 1) 「QUIZ JAPAN vol.7」より先行掲載

テレビは夢のある場所じゃないとダメ

——まさに編成の方も一緒になって体験したことで一気に実現したと。
乾 元々はもっと小さい特番だったんですよ。ゴールデンの2時間か、土日の夕方みたいな枠があるじゃないですか。ああいうのでちょっと試させてくれっていう特番の企画書として最初は作ったんですよ。だから「ア・ラ・カルト」のステージはあんなにでかくなかったんです。もっとミニマムな形で実験としてやらせてもらえないかっていう企画書だったんですよ。でも畠山はちょっと頭がおかしい子なんで(笑)、畠山が企画書を見てこれはでかくやらないと!って。「乾さんがやるクイズ番組でミニマムっていうのは多分通らないです。でかい特番で張ります。1億、2億の特番にしてやりますっていう打ち出しがないと多分通りませんよ」ってなって。だから企画書もでかいものにどんどんしていって。MCの話もそうですけど、畠山がMC候補を何人か挙げて、それをダメ元で当たったのがあのMC(唐沢寿明)だったんですけど。

——ツイッターで「バカなふりして聞いてみたら決まってしまった」と書かれてましたね。
乾 ちょうど夏休みだったんですよね。8月の頭だったと思うんですけど。神津島に魚釣りに行ってて、畠山から電話が来て「やりましたよ乾さん!入りましたよ」「マジか!?」って言って(笑)。「時間も曜日もいろいろ面倒くさいことが起きるかもしれないですけど、それはしょうがないので全部まるっと引き受けて下さい」って。最初のクイズの特番で素人ものだし、失敗すると危ないので、初手はスモールスタートでやっぱり行きたいんですよ、テレビ屋って。大風呂敷広げて失敗するとダメージがでかいので、しかも初手で新しいものと古いものをごっちゃにして、こういうシステムを作って始めるのはいかがでしょうかっていうプレゼンをしたかったんですけど、なかなかそういうふうにならなかった。1月の矢野君との壮大な夢があって、『ワールド・クイズ・クラシック』というタイトルを含めて、壮大な先があるんだけど、それまでにミニマムなものをスモールスタートでやりましょうって最初に言ってたのが大分でかい話にどんどんなっていって、収拾がつかなくなったなあっていうのはありますね。

——4〜5月の段階で、これは背負わないといけないみたいな、そういう決意的なつぶやきをされていましたね。昨今のテレビにはない冒険が伝わってきて伝説になってますよね。
乾 伝説になってますか(笑)。

——なってますね。『ウルトラクイズ』の1回目もある意味博打じゃないですか。同じ匂いがするんですよね。一発目でやってしまえっていう。ひょっとしたらミニマム枠で、土曜日の昼間の1時間とかでやってたら、そうしたら小さくまとまってたかもしれないわけじゃないですか。
乾 一つあるのは、夢のある場所じゃないとテレビはやっちゃダメだって思ってるんですよ。出る人がとても楽しいって思ってないとダメだから。それはなぜかというと見てる人が楽しくないからじゃないですか。見てる人があそこに行くと楽しいんだっていうのがないと、その画面の中に憧れを持って入れないから、そういう場所を作るっていうことをやろうと決めちゃったのが途中なんでしょうね、きっとね。

vol01_int_photo01——その精神は『SASUKE』をはじめ、乾さんの番組の根底に流れていますよね。
乾 ありますね。元々は『クイズ100人に聞きました』のADから演出になったんですけど、『クイズ100人に聞きました』って地方で予選会が行われて、家族5人でオーディションに来るわけですよ。例えば青森県のどこどこ公民館みたいなところでやるんですけど、控室があって何十組か5人一組のご家族が並ぶじゃないですか。そこでADはずっと過去問題をやらせるわけですよ。家族5人に対して座って「それでは何とかさんチームに問題です。銀座のOL・100人に聞きました」っていうのをずっとやって、延々自分たちがオーディション始まるまでやらされるんですよ。で、何度も何度もやらされて、じゃあ何とかさんチームと何とかさんチームで予選会やりましょうって言って、全く同じことをテレビと同じことをやって、一回控室に戻って、今度は面接みたいなことをやるんですけど。ADが芸人レベルのことをやって盛り上げて、もう家族皆さんが大爆笑しながら異常な熱気の中で行われる予選会だったんですよ。で、スタジオでやる時も、家族5人に対して上手と下手のADがずっと前説し続けるみたいなことをやってた番組だったんですよ。出場者に対してはまずそれ。で、司会が関口さんだったんですけど、関口さんが上手の階段から登場されて、下手の家族と握手をして、上手に行って、センターに一旦付いて「今日はこんなことを皆さんにお試しいただきたいと思います」みたいなパネルのオープニングコーナーがあるんですよ。そこまでがワンセットで、気持よく登場して気持よくパネルのコーナーに行けるかっていうことに、一つものすごい集約された美学があるんですよ。そのパネルの出が10分の1秒遅いと、関口さんがご機嫌斜めなんですよ。全くノー編集で音楽も全部びっちり、生ナレーションの提供読みで全部始まってくるので、そこがぴったり来てないと。これがパネルがあとからゴロゴロ出てくるとか、自分がまだそこに行ってないのにパネルが前にあるとかというほんのちょっとのズレでも嫌がる方で。そのパネルを出すのが着ぐるみを着たおばちゃんだったんで、きっかけがちょっとでも狂うとおばちゃんもグダグダになってひどいんですよ。

——なるほど(笑)。
乾 「お前は今の演出で俺が格好良く見えてんのか、見えてると思うのか」ってよく怒られてたんですよ。「俺が司会者だ。そして、この番組に出演する人がいかに格好良く登場できるかということに対して細心の注意を払いなさい」って叱られてたのがすごく刺さって。で、ある日、『SASUKE』や『筋肉番付』みたいなのをやった時に、素人さんでも関口さんになるよ、してやろうって思ったのが、そもそも僕の演出論の始まりなんですよ。無職の筋肉ムキムキが一番格好良い、ガソリンスタンドの店員が今一番格好良い、っていう仕組みを作ってやろうと決めたのは『クイズ100人に聞きました』がきっかけだったんですね。それは素人でも大物司会者でも一緒で、その瞬間その瞬間スポットがドンって当たった人が「うわー、格好良いじゃん」ってなるような演出方法を作ろう。だから素人がやるんだったらでかいセット、すごい照明。格闘技もそうですけど、そういうのをやろうっていうのがそもそもだったので、『WQC』も同じような流れです。その代わり、そのスタート地点に立った人は、口から胃が出るぐらいに緊張しないとダメじゃないですか。

——確かにそうですね。
乾 「やべえ俺!」っていう非日常がそこになきゃダメだから。そこに対してのプレッシャーをかけるのはやらないとダメなんで。それはずっと変わらない。

——「ア・ラ・カルト」は究極の非日常空間でしたからね。「ア・ラ・カルト」だけでも続けてほしいという声もあります。
乾 俺もそう思うんです。誰かやってくれないかなあ。別に僕、「ア・ラ・カルト」をそのまま使ってもらって構わないので、あの仕組みをぜひどこかの番組でやっていただけるとありがたいんですけど。

関連記事:乾 雅人×斉藤 哲夫インタビュー(PART 4) 「QUIZ JAPAN vol.7」より先行掲載

ツイッターも含めて、作り手の顔が見えるっていうことが一番大事

乾 予選会をやった時も前説は僕がやったんですよね、確か。ツイッターの話でもそうだったんですけど、力を貸してくださいっていうお願いをしたんですよ、予選会で。そういうのも、この番組をやるにあたって、ディレクターの顔が見える番組にしたいって、僕と一緒に頑張ってもらえないだろうかってお願いをするっていうスタンスはすごく大事にしてたんですよね。収録の時も僕が前説をしてたじゃないですか。総合演出が前説をする番組ってそんなにないけど、総合演出が前説をするっていうので、出場者の人、それから応援に来てくれたお客さんたちに一緒に頑張ってもらえませんでしょうかってお願いするっていうスタイルは、非常に僕は重要視してましたね。素人さんの番組だから余計にそうなんですけど。プレイヤーの方々とクイズを好きな人たちに対するリスペクトがないとやっちゃいけないなって思ってるんで、そこは梯子を外さないうようにしてやると。例えば前説をチンピラADが「すみません。皆さんこれからやっていただくんですけどぉ」みたいなことをやると、「そういうもんですか」ってなっちゃうんで。そこをドンってやらないといけないなと。唐沢さんが前説するわけにはいかないじゃないですか。

——そうですね。
乾 局のプロデューサーがしゃべるんじゃなくて、下請けの総合演出が「助けてください皆さん」ってお願いする方が一番刺さるかなって思ったので、予選も本戦も。予選会で前説して一回会っておけば、誰が来ても「ああ、あの人だ」ってわかるから。ツイッターも含めて、顔が見えるっていうことが 一番大事。この人と戦って、この人に対して文句が言えて、この人が言ったことをやればいいんだ、っていうことが多分素人のテレビ番組としては重要な事かなって思ってるんですよね。

——お笑いコンビのツィンテルの倉沢さんが芸人さんの枠として予選に参加してたんですけど、ツイッターで「前説の熱さに感動した。テレビはまだ死んでいない」って書いていましたね。
乾 3回に分けて午前、午後1、午後2の部でクイズの予選をやるじゃないですか。で、書き問題なんで、1組目と2組目は同じ問題、3つ目の組だけ違う問題みたいなやり方。ツイッターとかで流れた時に1組目が終わる頃には2組目の受付が済んじゃってるんで問題がわからないでしょっていう、そういう予選会のやり方だったんですけど。お願いとして「解禁まで待ってくれ。全部終わるのが何時なんでそれまでクイズの問題に関しては一切しゃべってくれるな」っていうのを信じてるからお願いしますって言ったんですよ。で、誰もそれに対してつぶやかなかったんで(笑)。僕はそれで、クイズの人たちってすげえじゃんって思って。それは一個乗っかったんですよね。

——本選もそうでしたね。結果をつぶやく人は23日の放送まで一人もいなかった。
乾 そうですね。あれは感動したなあ。そんなにずっとクイズ番組のディレクターでやってたわけでもないので、教えていただかなきゃいけないところがいっぱいあるじゃないですか。ずっと素人クイズの番組なんてやってないのに、皆さんの方が大会にいろいろ出てて、運営側の不備、良い所みたいなのをいっぱい知ってる中、我々こういうことでこういうふうにしたいんです、いろいろ不備があるかもしれないけど皆さんのお力をお借りするしかないじゃないですかっていうのをちゃんと話す方がいいだろうなって思ってたのは事実なんですよね。ツイッター、予選会、本戦の前説、収録、収録後までの一貫したリスペクトっていうのは大事にしないといけないなって思ってて。ツイッターを見てた放送作家の伊藤正宏が、番組が終わって僕が数字が悪くて申し訳なかったって謝った後だと思うんですけど、「一貫して、クイズが好きな人たちに対してはものすごく好感度があったんだと思う。こういうディレクターのやり方もあるんだな。すごく勉強になったぜ」っていう感想をもらったんですけど。視聴率は残念な結果になったけど、こういうやり方をした方が僕もいいかなって、今後誰かおやりになるような機会があるんだったらそれはやった方がいいかな、こういう時代だし、とは思いましたね。

関連記事:乾 雅人×斉藤 哲夫インタビュー(PART 3) 「QUIZ JAPAN vol.7」より先行掲載

クイズに身を捧げる人達の波瀾万丈な人生模様

——オーディション、招待選手も含めてなんですけど、1回目の人選はどのように行われたんですか? これは僕の推測なんですけど、2回目、3回目を見越した上で、1回目はこうだっていうメッセージがあったのかなと思ってるんですけど。
乾 1回目は特に過去のクイズ王の人たちを出したいっていうのがすごく強かったですね。例えば2回目、3回目の時に招待選手で『ウルトラクイズ』の初代チャンピオンみたいな人はいなくなっていくものじゃないですか。1回目は記念大会で、2回目からはそういう招待枠じゃなくて、物語が出来ていくようなやり方をしたかったんで。『SASUKE』と一緒ですよね。前回を踏まえた出場者たちっていうのと、新参の人たちっていうのをやっていけば良かったんで。2回目のためにキャラ付けをするっていう意味であの人選になったというのがまず一個。

——年代別に分けてバランスよく取るようにしたみたいなことは矢野さんに聞きました。
乾 それはありますね。あと、会議で日高君の奥さんとか、出場者の人に関するエピソードの話になるんですよ。そういうエピソードは矢野君しか知らないことがいっぱいあるんで、矢野君がこの人はこういう人でってことをワーワーしゃべって、面白いなあって思う人たちが基本的には招待選手でしたよね。

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——「クイズに身を捧げる人達の人生のなんと波瀾万丈なことよ。これだけでご飯三杯はイケる」ってツイートされてましたよね。
乾 うそう。そういうのがね。安藤さんもそうですし、永田さんの話だけで終わっちゃった会議もあったぐらいなんで。だから、そういうのがちょっと楽しかったっていうのが一個ありますね。ラーメンのある特番をやった時に、グルメ番組を別に得意としていたわけでもないので、ラーメン屋さんの人生模様みたいなこと、ラーメン屋になる人ってどういう人なのよっていうのを作りたいと思って作ったんですよ。グルメ番組は田中経一さんが作ればいいので、彼が作らないような良い番組を作りたいなと思って。なぜそもそもこの人はラーメン屋になって、なぜこの丼の中のラーメンを作ろうとしたのかっていう方が面白いなと思って、作った特番だったんですけど爆死して。これも、なぜクイズなの?っていう人たちが見たかったんですよ。趣味っていろんなジャンルがあるじゃないですか。で、『早押王』に行った時に、武道として見ちゃったので、なぜこれを、このジャンルを選んで、なぜこれに対してものすごく努力して、ギリギリまで切磋琢磨するのかなあっていうのを描きたかったんですよね。もっとその、クイズのステージ数を含めて、どうだったんだろうなあって思い返すと、本当にやりたかったのはもっと人生模様に偏らせるものが#3、4、5ぐらいでできたらいいかなっていうので、そういう人選だったのかもしれないですね。

——僕は放送の時に、『WQC』っていうハッシュタグでツイッターで実況している人たちを全部追ってたんですけど、やっぱり「はぐれ賞金王」のところはみんな刺さってましたね。「クイズ版山田勝己じゃん!」っていう。ちなみにこれは僕の推測なんですが、トップバッターが小林さんというのは、TBSのかつてのクイズ王が小林さんなんで、10何年間の空白をつなげるという意味が込められているんじゃないかと。
乾 それはそうですね。『SASUKE』もそうなんですけど、アンケート資料も全部ひっくるめて、それぞれ実況資料みたいなカードを作るんですけど、そのカードをずっと並べ直してるっていうので一回会議をやりましたね。延々ずっと。結局並べ終わった瞬間に、矢野君が「よく出来てます」って(笑)。奴もその順番を見て「うわー!」ってなりたかったと思うので、そこはすごく楽しそうにしてました。

——並び順へのこだわりですね。
乾 放送の順番を変えないっていうのが基本ベースにあるんですよね。『SASUKE』もそうなんですけど、ゼッケン1番から順番に放送するっていうのが一日の流れじゃないですか。『WQC』を例えば2日、3日に分けるっていう話もあったんですよ。余談ですけど、「ア・ラ・カルト」か何かをやって初日を終わって、一回ホテルに行かせて、そこで『ウルトラクイズ』みたいにホテルで一回クイズをやらせて、その結果で2日目の朝が決まるみたいな。

——それは壮大な計画ですね。
乾 はい。そういう企画も考えてたんですよ。お金のことも諸々あったり、収録日の問題もいろいろあったりしたんで実現しなかったですけど、そういうのも引っくるめて、収録の流れというのは全部ドキュメンタリーだと思ってるので。『SASUKE』も同じ、この番組も我々が作った順番がきっと魔法になっていて、その時の対戦相手だったりその前にやった人の何かを引きずったりっていうことでいろいろ生まれてくるものがあるので、それは大事にしたいなあっていう。テレビってよく順番をぐちゃぐちゃにして、CMタイミングがどうしたこうしたとか、流れがこうだからとかっていうので、じゃあこれとこれを入れ替えちゃおうみたいな。そうするとリアクションも違うし、使えないものがいっぱい出てきちゃうので。

——チグハグになりますよね。
乾 司会者も「あれ、いま何人目って言っていいんだっけ?」みたいな「それは内緒で」みたいなことをよくやるじゃないですか。僕、それは嫌で。『WQC』もその日に見に来てた人たちも「そうそう、こうだったよ」っていうのがわかるようなものにしたいなっていうので、順番に関しては会議でぎっちぎちにやりましたね。

——図らずも「ドキュメンタリー」という言葉と「人間を出したい」というのは、まさしく『ウルトラクイズ』の精神なんですよ。
乾 ああー、そうかー。なるほどね。素人番組ってどこかにそれがないと、憧れのものにならないのかもしれないですね。

『ア・ラ・カルト』は1人1人をスターにしてあげたかった

——「ア・ラ・カルト」ってオンエア上では1時間20分ぐらいやってましたよね。初めてクイズを見る方はやっぱりあれが長いそうなんです。そういう意見は当然届いたかと思うんですが、それに関してはどのように思われますか?
乾 冒頭で出場者全員で雛壇になって早押しをやらせるっていう話もあったんですよ。過去にそういう奴いっぱいやってるじゃないですか。

——考えがちではありますよね。クイズ王決定戦だと。
乾 素人さんだから、グループで、団体でキャラ付けをする。団体でこいつら全員この番組の参加者で、ほらこういう人たちが徐々に目立ってきたでしょっていうグラデーションのやり方もあるじゃんみたいな話は当然あったんですよ。でも、それはやりたくない、一人ずつの顔でやりたいって完全に僕のわがままで。なぜ最初に雛壇を作って「あ、こいつすごい。確かに見たことあるな、こいつ」っていう尺が長くて、そういう時間をしばらく作ってアイドリングやった方が、視聴率も良かったんじゃないかっていうことも結構言われたんですよ。でもね、それをやって視聴率取ってもやりたかったことと違うかなって思ったので、潔くしょうがない失敗だったなって思っているのは、「ア・ラ・カルト」を最初にやらせてもらったからかな。スターにしてあげたかった。

——なるほど。
乾 昔『SASUKE』が始まって何年かした後に、100人が一斉に脱出する綱を登って助かった者順みたいな、『風雲!たけし城』パターンのコーナーをやったことあるんですよ、レギュラーで。で、大失敗して。やっぱり顔が見えないとつまんないなって思ったので、せっかくそのクイズ王の方々を出てきた時に雛壇に座らせるのは嫌だなって。「ああ、この人いたんだ」って思うのって、雛壇じゃ嫌だなって。もしそれが失敗だったとしてもそこは割と「いいよ失敗で」ってどこか思ってるので、ディレクターとしてはダメなんだろうなって思うんですけどね。結構言われましたね。

——次の『クイズ神』では雛壇のセットを作ってましたよね。
乾 『クイズ神』になった時に僕は外れたじゃないですか。もし『クイズ神』で変わらずに僕が演出をやるってなったとしたら、同じように雛壇を作ってたかもしれないから、そこはどっちがっていうのは言えないと思いますけど。ただ『WQC』をやる時に、そもそも論でなぜこの企画書を作ったかっていう。スターを作ってやりたいって、あそこに行きたいんだって思う場所を作ってやろうって思ったのに、一人一人のスポットライトがきちっとないと、そもそも何をやりたかったのよっていうところが瓦解するので、そこは貫きたいなってのいうのがちょっとありましたね。

——性別も年齢も関係なく、みんな同じ土俵で戦わせる。勝ち負けっていうのは、ひょっとしたら関係ないんじゃないかと。一人一人が輝けば。
乾 そうそう。そこですよ。

——雛壇だと負けた人は誰も覚えてないですもんね。
乾 そうなんですよ。ダメだったことに美学がないと、またあそこに行きたいってならないんだと思うんですよ。多分またあそこに行きたいっていう人たちって、『SASUKE』もそうですけど、カットされちゃった人も当然なんだけど、なぜ泥水に落っこちたのにもう一回あそこに行きたいって思うんだって、そこには多分「落ち方」に何かがあるんですよ、きっと。僕は落ちたことがないのでわからないけど、やってる人たちにとって、もう一度やったらあそこよりもっと行けたんじゃないかって思い始めるものがないといけないから。確かにこの人たちのオンエアしかないよなって思ってもらえるようなやり方、俺オンエアでカットされてハイライトで当然だわっていうような、内容を重要視してあげたいなっていうのは一個ありましたね。

——ハイライトがなかったのはなぜだったんですか? 『SASUKE』では落ちたシーンだけとかのダイジェストとかあるじゃないですか。
乾 クイズのハイライトはあんまり意味がないかなって思ったんですよ。クイズを作っている人たちに失礼だし、答えている人たちにも失礼だから。その一連の流れがとても大事だって思うので、いろいろ大事にし過ぎるといろんなことが破綻するから、まあ破綻したんでしょうね。

——「泣いて馬謖を切る… じゃなくて、泣きながらバッサバッサ切る」というツイートがあって。やっぱり尺が大変だったのかなと。
乾 尺は大変だったですね。実験なので、どういう風になっていくのがわからない。「ア・ラ・カルト」で何人次のステージに来るのかわからないよって、そんな危ない番組ないじゃないですか。

——正解音も『クイズ100人に聞きました』『史上最強のクイズ王決定戦』等で使われてきたTBSの伝統の音ですね。
乾 あれは探しましたね〜。それの方が楽しいじゃんって思うんだったら、それをやり切った方がいいので。本当はステージのやり方とか順番とかも全部含めて、ちょっと大きな実験をやらせていただいてそれを刈り取ろうと思ってたんですけど、なかなかね。スタッフも矢野君みたいなずっとクイズをやってきてる人たちと、ディレクターもADも全くクイズ番組をやったことがない人たちがスタッフでやってたので、修正点をいっぱい出して#2ができると本当は良かったんですけどね。まあしょうがないですね。

——3回目ぐらいですごいドラマになっていったかもしれないですからね。
乾 そうそう。もう本当に、最初に申し上げた、できればもうちょっとスモールスタート。あの枠で、しかも3時間とか2時間半とか微妙な時間でやるのは得策じゃなかったですね。でも、いろいろ環境はしょうがないので。なぜダメだったのかのは、多分あまりにも僕がやりたいことをやらせていただき過ぎちゃったというのがちょっと問題かなと思いましたけどね。

実はアクリルプレート一つに十数万円かかってるんですよ

——あとアクリルプレートのことを聞きたいんですけど。あれはどういう発想で?
乾 あれはですね、ウルトラハットが欲しかったんですよ。ウルトラハットを持ち帰ることができた時期があるっていうのを聞いて。

——松尾さんのエピソードですね。
乾 出場者の人たちが持って帰ることができて、出た記念になるものをあげたいなっていうのが一個あったんですよ。映画『2001年宇宙の旅』のコンピュータのサーバールームみたいな部屋で、透明なアクリル板(ディスク)を入れ替えるっていうシーンがあるんですけど、透明なアクリルの板っていうものに対して僕はすごい何かがあるんですよ。『2001年宇宙の旅』もそうなんですけど、みんなが持ってて、それを挿すと、何かがロードされる。番号と情報が入ったものを挿すと、その人に対する問題はこれですっていうのがロードされるっていうのから始めたいなって思って。そのロードっていうのを絶対やってあげたいなっていうのと、情報が入ってないといけないので名前は入れてあげたいなと。さらに家に持って帰ることができるものじゃないといけないので、トロフィーを最終的に作りたいなって想ったんですけど、そのトロフィーにそれが入る。アクリル板は出場者の誰しもが持ってるけど、アクリル板を入れるトロフィーは優勝者しか貰えないっていう。「お前らはトロフィー持ってねえだろ、俺はこれが置物としてあるぜ」っていうのを作ってあげたいなっていうのがまず最初の捉え方でした。それをレーザーで彫ってやりたいっていう。実はあのプレート一つに十数万円かかるんですよ。そもそもそれがおかしいっていう(笑)。

——そんなにかかってるんですか(驚)。
乾 ただ、もらって嬉しいものじゃないといけなくて。たとえこれが一回だけで終わったとしても、それを持ってた時に「あの番組に出たの!?」っていうのがないと嫌だなって思って。で、僕が15年前ぐらいから存じ上げてる秋山具義さんというアートディレクターに、今回これをやるんでご一緒していただけないでしょうかって言って番組のロゴを作ってもらったんですよ。ケルト文字みたいなやつをアイコンとして作りたいなっていうのが一個あったんで、秋山さんに「格闘技の対戦CGみたいなやつを作りたい」という話を雑談でしたんですよ。そしたら「じゃあみんな盾を持ちましょうか」と。「戦うんだから、盾と剣を持ちましょう」。で、「その盾には紋章がないといけないから、じゃあ33人分の紋章を作りましょうか」ってご提案頂いて、33人分の写真と情報とか全部入れた資料を秋山さんに渡して、それぞれのイメージで作ってもらったんですよ。どういうイメージコンセプトで彼がどう思ったかはわからないですけど、この人はこれですっていうのがデザインが上がってきたんですよ。あの人はなかなかに有名な方なのに33人分の素人の紋章を作るって、キチガイだなと思って(笑)、「こんなに大丈夫ですか」って言ったら、「だって貰ったら嬉しいんでしょ」って。

——男気ですねえ。
乾さんがもらって嬉しいものを作りたいんだったら、もらって嬉しいものをあげた方がいいじゃないですか」っておっしゃったので、ありがたかったですね。出場者が#2、#3と出続けた時にずっと自分の紋章があり続ける。で、俺の紋章も貰えるのかなって新しい出場者が来て自分の紋章が決まる。それをずっと紋章として使えるっていうのは、非常に良いもんじゃないですか。自分のマークですよ。

——「視聴率にはきっと何も反映されないが、WQCとはそういう番組である」とツイートされていましたね。
乾 いいこと言うなあ俺(笑)。一個いくらかっていうのは別に説明しなくてもいいことなんで、そこにお金をかけてあなたに対するギャランティはないけど、あなたが頑張ってくれた証に番組がありがとうっていう気持ちですっていうものをきちっと渡すのはとても重要なことなんじゃないかなって僕は思ってるんですよ。素人番組に関してですよ。もらって嬉しいものじゃなきゃダメだし、そこに意味があるものじゃなきゃダメだし、ワンオフじゃなきゃダメだし。そういうものっていうのはテレビ番組は持ってなきゃいけないものじゃないかなって僕は思ってるんですよね。

——『ウルトラクイズ』に出ると、名前と番号が書かれたネームプレートがもらえるんですけど、それを出場者は後生大事に、宝物にするんですよね。
乾 『SASUKE』もゼッケンを全員が貼って持ってるんですよ。水に落っこちるじゃないですか。落ちてベロンって剥がれたのを、もう一回落ちた池に入り直してゼッケンを拾って、それを洗って貼るんですよ。自宅に。そこには別に名前は書いてないんですよ。僕は「2002 SASUKE 27番」っていうのでしたっていう、それが大事なんだと思いますね。でも『SASUKE』はシールだから。「毎回毎回アクリル板を作るのかよ」ってプロデューサーは言ってたけど(笑)。

——まあプロデューサーの立場だとそうでしょうね(笑)。前回出た人は同じものを持ってきて下さいって(笑)。
乾 それがだんだん傷ついててもいいかなって思って、大分味出てきましたねえっていうアクリル板になっててもいいかなってちょっと思ってたんですよね。

——普通は徐々に回を重ねていくごとにつれて、そういうものが用意されたりするわけじゃないですか。でも1回目から無くてもいいアクリル板があるっていうことが尋常ではないですよね。
乾 ありがとうございます。確かにそれはそうですね。僕の場合、わりと無くてもいいものがいっぱいなんですよね。

——でも子供は特にそこを見るじゃないですか。
乾 子供が見て憧れるもの。『SASUKE』もそうですけど、言葉がわからなくても見て楽しいこと、あそこに行ってみたいなと思うこと、体験してみたいなと思う場所がテレビだと思ってるんですよ。だからそこが一番刺さってほしい部分なので、そういうのが刺さったんじゃないかなっておっしゃって頂けるとすごくありがたい。

——小林聖司さんの娘さんが当日、応援に来てたじゃないですか。当時は全然クイズの内容もよくわからない年齢だったんですけど、あの場にいたことでクイズが好きになってるんですよ。
乾 そうなんだ(笑)。

——で、お父さんのためにクイズを作ってプレゼントしたり。『WQC』には、子供がクイズの虜になる要素がいっぱい詰まってたんですよ。
乾 それはありがたいですね。重要なプライズみたいなことがきちっとあるものって、そこに対する付加価値がいくつかプラスされていくと、やった奴にしかわからないエクスタシーがあって、そのエクスタシーが波紋として広がっていくじゃないですか。そういうのがたくさん広がっていくと、ジャンルとして楽しくなっていくものだなあと思うので。『筋肉番付』って、もともと一番最初にできたポスターのキャッチコピーが「日本を筋肉質にする」だったんですよ。確かに今思うと、日本中に突起にぶら下がってる子供たちってわんさかいるじゃないですか。確かにそうなったなあって思って。クイズがこれからどうなっていくのかわからないですけど、波紋を広げるために何か一つアイコンとして重要なものが出来上がった方がいいなあと思うんですよね。テレビだからしょうがないんですけど、僕のやり方って実はすぐに結果が出ないんですよね。だから爆死をよくするんですけど。10回、20回やっていった時に、その波紋みたいなものがバーって広がっていって噂になっていくっていうやり方が好きなんですよ。

クイズにおける様式美っていうのをいつか必ず具現化したい

——クイズ王を目指す人へのリスペクトから生まれた『WQC』ですが、クイズマニアが興じてるクイズ、特に早押しクイズはテレビとして伝わりづらいところまでいってるという危機感がありまして。『WQC』では副音声で長戸さんの解説がありましたけど、クイズ王番組は一般視聴者に出場者のすごさを伝える難しさがすごくネックになってる気がしますね。
乾 全然通らないですけど『クイズ道』って企画書を何回か作ってて。クイズ道というのは武道なので、例えば矢野、日高というプレイヤーが来たとすると、ボックスの位置もタッパも椅子もボタンも全て選べる。道具は全部ある。俺はこれを使いたいっていうのをちゃんとやって、なぜこれなのかっていうところから全部始めて。まず道具が大事でしょ。『WQC』の決勝の時に、石野さんが早押しのボタンの位置が押しづらいっておっしゃって。リフターの構造上そこにしか置けなかったんで、申し訳なかったんですけど、ほんの何センチで変わるじゃないですか。で、押し込みも何ミリとかっていうのも全部引っくるめて。この人たちは戦争をするわけだから、斬り合いをするので、斬り合いって道具でしょっていうところから番組を始めましょうっていう企画書なんですよ。で、解説もそうだけど、1問やる度に全部、今はこういうことです、こういう流れですっていうのを全部解説をするっていう番組。それは試合だから解説をしないとダメでしょっていう番組の企画書なんですけど。

——ボタンから選べるっていうのは面白いですね!
乾 楽しいと思うけどなあ。『早押王』のボタンチェックの話も然りですけど、武道としての段取りが僕はすごく楽しいなって思って、『WQC』でアクリルを入れるのも様式美なんですよ。クイズにおける様式美、形式美っていうのを『早押王』で見せてもらったので、これは面白いなって思ったことはいつか必ず具現化したいなと思うので、できるまでやりたいんですけど…なかなか通らないんですよね。伝わらないんだな、きっとこれ。深夜の30分とかだったら全然面白いと思うんだけど。例えば押し込みもゲージがあって「うわすげえ!何ミリいってますよ!」みたいな。「なんだこれ!」ってなるじゃないですか。

——早押しクイズはもう旧態依然としててこれ以上テレビで見せられない、『アタック25』に至ってはプロを排除するところまでいっちゃったんですけど、まさに逆転の発想で、じゃあプロはこう見せれば見せられるというのは、まだ誰もやってない余地ですよね。
乾 やりたいんですよね、すごく。「バカじゃねーか、こいつら!」っていうのを画として見せられたら面白いなあって思いますね。クイズにも派閥があるじゃないですか。誰からの弟子筋みたいな。それの対決だけで『クイズ道』ってやれるなあって思って。「古川一派」とか「ホノルルクラブ」とか、看板がいっぱいあるから。「弟子のあいつだったら絶対大丈夫だ」っていうのって、何かキッチュな世界じゃないですか。そういうのがあるんだなっていうことだけでも面白いので、そういう看板背負った奴ら同士が戦ってると地下格闘技っぽいなって。

——昔の『史上最強のクイズ王決定戦』でも、同門対決とか東と西のライバル関係とか、やっぱり子供心にそこが興奮しましたね。
乾 ねー。そういうのやった方がいいと思うんだけどね、TBSの編成がごろっと変わる度に企画書を出してるんだけど、なかなか伝わらないんだよなあ。セットのイメージとかも全部できてるのに。

——それはぜひ見てみたいですね。

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